仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
言い忘れてましたが、《殺人鬼究明編》はあらかじめ流れの確認をしているので一話をちょうど良く切って行く都合から、五千文字を目安に書いております。
第二話になります。
こうやってサブタイにちゃんと話数を振るのもずっと待ってたことなんですよね。


第二話 殺人鬼と罪なる宝石

Side =玲=

 

四肢に感覚が伝わり、視界が広がる。

自動的に開いた瞼。

軽く指で擦ると眩しい日差しが眼に入った。

石造りの建物が並ぶ、ここがSAOの世界なのか。

その中心市街であると思われる場所に一人投げ込まれたボクは足を動かした。

自身の姿は基本的に現実と髪型を少しいじった程度。

身長を少しだけ高くしているため、歩幅が違うのだがすぐに慣れた。

何をしようかと考えながら市街地を練り歩く。

恐らく店を営んでいる者以外はほとんどがプレイヤーだろう。

《はじまりの街》と呼ばれるエリアは、そんな彼らの歓喜の声に溢れていた。

初期設定として与えられた武器の中から短剣だけを残して他のカテゴリの武器はショップで売り捌いて空いた金で防具と道具を整える。

確かこうするのがいいと白に教えられていた。

他のプレイヤーも居たので多少時間がかかってしまったが、街の外観も見ることが出来たし自分自身で楽しんでいると言うことも自覚した。

けれど、いくつか気に障ることがあった。

足音を聞きわけ、誰も探索を開始していない路地裏へと移動する。

今度は視覚と聴覚で周りを確認すると、膝を曲げて足に力を込めた。

 

――現実世界の運動能力はそのままこの世界に受け継がれるのか。

 

多少は影響があるだろう。

しかし、説明書を見る限り《(S)(T)(R)》や《(A)(G)(I)》というパラメーターに運動能力は大きく左右される。

なら、ボクの力は……。

腕を大きく振って勢いを付けると膝のバネを使って空に向かって跳躍する。

 

――そして、文字通りボクの身体は『飛』んだ。

 

路地裏で跳んだ為、浮き上がったボクは反射的に屋根の淵を左手で掴んでいた。

宙づりになったまま指を外し、中指だけになったところで懸垂を開始する。

十回程で止めて降りると、約三メートルの高さから難なく着地した。

(これか……)

何も変わっていなかった。

恐らく脳を覆っているから脳を再現しているせいでこのような事になっているのだ。

ボクは身体能力も一言で『異常』と解るモノだ。

今、ここでそれについてとやかく言ってもしょうがない。

結局、現実と同じならばまた隠せばいい。

その才能もボクは持っているのだから。

路地裏から出ると、ちらほらとボクではないこの世界の『異常』に民衆が気付き始めた。

曰く「ログアウトボタンが無く、現実へと戻ることが出来ない」とのこと。

ボクとしては、まだ現実に戻ることもないので気にすることではない。

もしこれが長時間続くと言うなら、一万人のプレイヤーの自由を阻害する会社側の大きな失態となるだろう。

とボクは、一時も考えなかった。

ログアウトの出来ない状況下なのはこの目でウィンドウを開いて容易に理解できる。

そう思い、説明書に書いてあった《黒鉄宮の牢獄》エリアにある《生命の碑》を目指した。

既に何人かのプレイヤーがいるが、誰もログアウトが出来ないと言うことには気付いていない。

彼らの話に耳を立てると全員がここで復活するプレイヤーの帰りを待っているらしい。

だが、復活ポイントにベータテスト時代には無かった石碑が設置されているというのだ。

ボクも気になってそれを覗くと、そこにはここにいる全プレイヤーのアバターネームと思われる名前がびっしりと書かれていた。

それは今も数を増やしていく。

(《Jack=Gundora》があるからやっぱりこれは全員のアバターネームだ……が)

ボクが見つけたのは途切れた一つの名前。

(これって、このまま決定されたのか?明らかに中途半端なところで終わっている。入力するのはSAOを起動したときだから邪魔する奴はいない……)

考えるように手を顎に付け、周りを一瞥する。

(聞く限り、ここで仲間の帰りを待っているのは最長で二時間。ログアウトはまだしもプレイヤーが還って来ないとなると……)

刹那。

恐ろしく冷静なボクの頭が弾き出した解。

それに従ってボクは視線を《生命の碑》に限定した。

名前は頭文字のアルファベット順に並べられている。

プレイヤーの大半はそこに四、五文字加えた程度。

時刻は五時三十分、白と連絡をとる手段もないから、既に彼女はこの世界に降り立っている頃だろう。

現実でどう騒がれようが白は来る。

揺らぎない確信とともに、瞬時に名前の数と、記憶を開始する。

 

――その時、視界の中に《Sindia》という文字列を目にした。

 

Side =白=

 

 

『――緊急速報です。現在《ソードアート・オンライン》と呼ばれる次世代ゲームで相次いで死亡事故が起こっています。まだ詳しい数は解りませんが、くれぐれもSAOプレイ中の方からナーヴギアを外さないでください。もう一度繰り返します――

 

 

大型のテレビはそのニュースをやけに大々的にわたしに向かって映していた。

先程からやけにケータイが鳴り響くと思ったら、そういうことだったのか。

その全てを無視して玲に電話をかけても彼が出ないのは、彼がもうあの世界にいるからだ。

コンセントに差し込まれたナーヴギアを見て溜息を吐く。

恐らく、まだこれを被っていないのはわたしだけ。

これを被って一度現実から切り離されれば、もう戻ってはこれないかもしれない。

ニュースを見る限りでは、この周辺ではまだ死亡事故は起こっていない。

もし玲の身に何か起こっているのなら、今すぐ彼の下に向かいたい。

 

――それは、彼が自分にとってただ一人の親友なのだから。

 

それに、この時間帯なら刃さんが帰ってきてるということもない。

玲はまだあの世界にいるはずだ。

子供達のことと、親のことに対する葛藤は無かった。

 

――だって、わたしと同じ人間はこの世でたった一人。

 

恋人のように言ってるのかもしれないがそんな事を考えたことは無い。

似ている人間程、行き過ぎた関係は忌避するモノだ。

わたしはナーヴギアを被ると躊躇いもなくスイッチを入れた。

 

「リンク・スタート!」

 

意識が遠のき、次に目を覚ました時に目の前にあったのは大きなコンソール。

表示された画面を見て名前などの設定画面であると気付く。

(《Sindia》。玲ならこの名前の意味に気付いたよね)

 

 

――(Sin)強固(dia)(m)意志(ond)を持って行うこと。

 

 

故に《Sindia》。

その名前を小さく口にして、わたしは【決定】のボタンを強く推した。

 

==========

 

初めて降り立ったその世界を堪能する暇なく、わたしのいる広場には次々とプレイヤーが転送されてきた。

やはり、この世界には通常有り得なかった変化がある。

目を瞑ると、後方に普通の人間の違和感とは違うわたしの波長にピッタリ合った人の気配を感じた。

振り向き、やけに色づいて見えたその人の下へ近づいていく。

わたしはアバターの姿を現実と余り変えず、髪の色を水色に変えたくらいだ。

彼も、少し身長を高くして髪の毛を落ち着いた形から適度にいじったくらいで、名前が《Jack=Gundora》と表示されると確信した。

「ガンドーラ」

わたしはあえて彼をこの名で呼んだ。

小さな呟き程度だったが、気付かない彼ではない。

「こっちだシンディア」

予想通り、腕を組みながら壁に凭れかかっている玲がいた。

「で、どうだった」

「大変な騒ぎになってたよ。既に何人かは……」

人の数が多くなってきて直接的な事は言えないがこれでも玲は解った様に頷いた。

「ボクも色々調べてみたけど、まず現実世界での身体能力はそっくりそのままこの身体に受け継がれていた。それに、この世界に降臨するであろう奴が……」

「聞かせてよ」

続々と集結するプレイヤーたちが疑問の声を上げ、ざわつきが大きくなる中で、わたしたちは二人冷静に話を進めていた。

「さっきまで《生命の碑》を見てたんだが、そこにかかれていた名前から「あっ……上を見ろ!!」」

玲の言葉が誰かの叫び声に掻き消され、わたしは反射的に真っ赤に染まった空を見上げた。

それに、その言葉だけで言いたい事は全部伝わった。

突如として空に表れた身長二メートルはあろうかという、深紅のフード付きローブを纏った巨大な人型の何かを一瞥し、わたしの好奇心は絶頂に達した。

 

――きっと、これがズレにズレたわたしたちが定められた運命。

 

『普通』じゃない人間にとって実にふさわしいこの世界で生きることが出来るということにわたしは歓喜していた。

玲がどう思っているかは大体想像がついた。

彼も少なからずこの状況を楽しんでいる。

『普通』のゲームではなく『異常』なこの世界を。

わたしの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。

 

Side =玲=

 

白が来たことでボクの準備はすべて整った。

この状況の予測を立てていたボクは茅場晶彦の説明を仮説と照らし合わせながら聞いていた。

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

その言葉に、白はちらりとこちらを向いた。

ボクは瞬きをして目配せすると短剣と《鏡》を同時に取りだし、鏡は素早く短剣で切り裂いた。

耐久値は一瞬で無くなり、鏡はあっという間に無数の硝子片へと姿を変え、四散した。

ボクが鏡を割っても白が持っているから問題なし。

次の瞬間、視界がホワイトアウトした。

ほんの二、三秒という短い時間だったが、元の風景が現れると、目に映し出された景色には先程の様な美男美女の集団ではなく男女比8:2位のむさ苦しい集団に変わっていた。

次いで白の姿を確認すると、アバターの姿はそのまま、髪の毛が灰色になった彼女がいた。

白は鏡で自分の姿を見て髪の毛をいじって苦笑いをしているが、ボクの姿を見ると、何故か……笑った。

「えー……ちょっとそれは、ねえ……」

流石にその反応が来るとは予想出来ていなかったので白の下へ歩み寄ろうと足を動かした。

だが、何か違う。

その正体はすぐに解った。

 

――歩幅だ。

 

疑問に思って下を向く。

自分でも理解できないことが起こるのは久しぶりの感覚で、ボクとしては好奇心よりも恐怖の方が大きかった。

もちろん最初に視界に映ったのは自分の腕だ。

しかし、その輪郭は小さなポリゴンが構成に手間取ってでもいるのかという程忙しなく動いていた。

そこでボクは目線の高さからその正体に気がついた。

変わっていない。

ボクの姿が殆ど変わっていないんだ。

「いや、それはちょっと違うかな」

ボクの考えていることが分かったのか白は鏡をボクの方へと向けた。

そこに映っていた顔は……。

 

――金色の短髪に同じくらい金色の瞳。

 

――顔の形こそ変化はないが目は鋭く、一件犯罪者とも見えるモノだ。

 

それはまさに初めてナーヴギアを手に入れたときのあの姿にそっくりだ。

ただ、顔はナーヴギアに覆われているので、あの時はマスクを被っていたのだが形は現実のものと変わってはいない。

身長が変わっていないのもあの時厚底のブーツをはいていたからだ。

(けど、何故こんなことに?)

動揺と恐怖で正確な判断が出来ずにボクはただ首を傾けるだけだった。

白は気付いているのか解らないが、その光景を面白そうに見ていた。

その間、茅場晶彦の説明があったのだが、廻りゆく思考の中ではそのほとんどを聞き逃していた。

『――健闘を祈る』

そう言って、ローブが消えた瞬間に、ボクは意識を切り替えた。

今はそんな事を考えている暇はない。

幸運な事に静寂が広場を包んでいた。

ボクを見ていた白に手招きすると小声で素早く言葉を紡いだ。

 

「これから、ボクは真っ先に飛び出したプレイヤーを追って先に行く」

 

「じゃあ、わたしは後から追いかけるよ。まだこの世界のことは解ってないし」

 

――そう、危機的状況でもボクらは互いの位置を近くへは置かない。

 

ボクらは他人とは違う。

ボクらが近くにいればいる程、違和感は大きくなるだけだ。

それも面白いと白は嗤うかもしれないが、ボクとしてはどっちでもよかったので成り行きで一緒になればそのときは、ということでボクと白は互いに頷いた。

徐々に《はじまりの街》のBGMが流れ始め、約一万のプレイヤーたちが絵に描いたようなパニック状態に陥った。

その中で、ボクは真っ先に動き出す人影を見付けた。

長身の赤バンダナの男の手を引くのは中学生くらいの中性的な顔をした少年だった。

あれなら、上手く付いていくことができそうだ。

「ジャック、ものすこく悪い顔してる。その顔で笑うのは止めた方がいいんじゃない?」

「いや、悪い悪い。じゃあ、オレは行くぜ」

これはボクの悪い癖の一つだ。

声帯模写の出来るボクは無意識的に現在の姿に声を変えてしまうのだ。

先程の鏡で自分の姿を確認したせいで、一人称も自然に『オレ』に変わってしまっている。

(ま、そもそも今の姿は現実のボクと違うのだし良いか)

それに、『異常』なボクが更に『異常』に昇華したのだ。

これほどのことをしたってお釣りがくるはずだろう。

 

「いってらっしゃい、ガンドーラ」

 

「またな、シンディア」

 

短剣を握り、オレは広場を後にした。

 

==========




シンディアと言う名前を考えるのにもかなりの時間を要しましたね。
僕がキャラクターを考えるにあたって一番時間をかけるのは名前だったりします。
ジャックも最初はガンドーラなんて名前はなかったし下手すると名前つけに三時間くらいかかったことも。
ゲームだけでなく現実でも玲君のチートさの露呈が…。
究明編と言っても少しは謎が残るかも知れませんね。
あくまでも過去編ではなく究明編ですから。

次回をお楽しみに!それでは。
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