始まりました、《殺人鬼究明編》。
ここからがこの物語の『第一話』となります。
ALO終了まで進んだ物語の全ては逆行し、SAO開始前の彼の物語が幕を上げます。
文体などオリジナル部分が強くなるのでいろいろ不安はありますが、精一杯頑張っていきますので、これからも宜しくお願いします!!
第一話 殺人鬼と異常
Side =?=
目を、覚ました。
誰に起こされる訳でもなく、デジタル時計にアラームは設定されていない。
そんなモノ無くたって、ボクの身体は自然に活動を開始していた。
布団を畳みながら体を起こして軽く伸びをする。
これだけで朝の目覚めは完了だ。
時刻は午前六時五分。
ベッドの上手にあるカーテンに掛ったハンガーを取り出し着替えるとパジャマをハンガーに通して扉の開いているクローゼットへと投げる。
ハンガーのフックは見事、中にある洋服掛けの棒に引っ掛かった。
何も驚くことは無い。
――ただの、日課なのだから。
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季節も十月と言うことで朝も冷えて来た。
床も日に日に冷たくなるが、素足でベッドから降りると、今日の荷物を持って部屋から出た。
階段下で耳に入ってきたのは軽快なアラーム音。
時刻は七時ちょうど。
そろそろあの人も起きてくる時刻だ。
洗顔と歯磨きを済ませて台所に立つ。
適度に栄養バランスを考えながら弁当を作り、同時に朝食にも手を掛ける。
「おはよう」
「うん、おはよう」
会話はいつもこれだけ。
実の父だと言うのになんとも質素な会話であろうか。
けれど、ボクらにはコレだけで十分。
ボクは父さんと仲が良い訳ではない。
少しの愛情で繋がれた他人同士が一番しっくりくるだろう。
なぜなら、ここには『母』と呼べる人物はいないのだから。
黙々と朝食を取ると、時刻は七時五十分。
インターホンが鳴り、彼女が来たのだと気付く。
鞄を持ち、新聞に目を向ける父親に目も暮れずに歩きだした。
踵を踏まないように上手く足を靴に入れると、返事が返ってこないをことを知っているのに、ボクは「いってきます」と口にした。
「おはよー」
玄関で待っていた彼女にそう言われ、小さく頷いて鞄から眼鏡を取りだした。
どうにも、この目は色んなものを映してしまうようで…。
視界が『常人』程度になると、灰色の彼女の髪が眼に入った。
鎖骨辺りまで伸びたすらっとしたセミロング。
鮮やかな蒼色をした眼は今日も彼女がいつも通りだと知らせてくれた。
《
もう七年来の親友である少女だ。
所謂幼馴染と言う奴だが、彼女に対して特に恋慕の感情を抱いている訳ではない。
高校生になってから違う学校に通っているのだが、白の通学ルートにボクの家があるため、こうして朝は一緒に登校していると言うことだ。
だが、その登校風景は互いに他愛のない会話をするのではなく、無言で歩き続けるだけだ。
寧ろ、これがいつも通りで、ボクも白にとってもこれだけで十分だった。
言葉を交わさなくても表情の変化で感情くらいは容易に読み取れるし、互いに逆の位置にある耳にイヤホンを付け音楽を聞くだけでも良いのだ。
――そう、ボク達は紛れもなくズレている人間だった。
それが、この《
Side =玲=
午後、学校が終わると同時に携帯に着信が入る。
白からだ。
今日は子供達に劇をするのだが、何か聞き忘れたことでもあったのか。
歩きながらではあるが、素早く携帯をスライドし画面を一瞬だけ覗きこんですぐにポケットにそれを戻した。
思わず顰めそうになった顔はマスクの下で誰にも見られてはいない。
瞬間でも内容を記憶は出来るのだが、その内容があまり宜しいものではなかった。
【《ナーヴギア》、わたしのところに届いたんだって。わたしはもうお父さんから貰ったんだけど玲のは《
そう、これだ。
最近世間で話題沸騰のゲームである《ソードアート・オンライン》。
なんでも五感と意識をそのまま仮想世界の中へと持っていくフルダイブ技術を搭載した新感覚ゲームらしい。
その楽しみの一部である《ソード・スキル》と呼ばれる技の研究と制作。
及びキャラクターの動作の監修を行ったのは父さんが院長をする都内の総合病院だった。
優秀な父さんは研究を完成させ、現在行われているベータテストでもその成果が発揮されていると話を聞く。
その報酬として、製品版のSAOとナーブギアを入手することが出来たのだ。
白も親がお菓子会社を営んでおり、SAOにおける味覚の完成に助力したことで、父親から白へとナーブギアが送られたのだ。
けれど、ボクはそれを父さんの下へ赴かなければならない。
ボク自身父さんを嫌っている訳ではない。
互いに噛み合っていないだけなんだ。
(どうしようもなくずれてしまったボクでは……)
目の前に見えて来た景色に、そんな思考を吐き捨てる。
中学に上がってから、ボクは父との約束通り病院でお手伝いをしていた。
自分の意思で医者を志しているのだし、将来のことを考えれば良い経験だと判断してとのことだ。
この事を父さんに話すだけでもギクシャクしたのに、娯楽のための機械を取りに行くとなればさらに厄介な事になるだろう。
「あっ、玲!」
病院の入り口で待っていた白がボクを呼ぶ。
その傍らには数人の子供がボクを待ち構えるように立っていた。
「今日は外で遊ぶんだっけ。じゃあ、行こうか」
部屋の窓から荷物を入れると子供達が扉を開けて白と共に出て来た。
数年ここにいる子たちは外に怯えながらもスムーズに外へと出るが、まだ慣れていない子供にはボクと白が手を差し伸べた。
迷い、視線を部屋に向けたまま、その子は手を取って靴を履いた。
「大丈夫」
声をかけ、手に力を込めると少女の身体を引き寄せて一気に抱き抱えた。
「相変わらずのお手際で」
「まあな」
そう言ってくる彼女の声に答えながら少女の顔を覗く。
やはり怖いのか眼を瞑っているが、仕方がない。
頭を軽く撫で、目尻に浮かぶ涙を指で掬うと身体をピクリと動かしたのでもう一度「大丈夫」と言った。
「それじゃあ、今日も始めよう!」
白の声に先に外へ出た子供達が元気良く返事をする。
これだけ回復すれば、順調に『普通』の子供に戻るだろう。
眼鏡を外すと、少女を抱えながら子供達の下へと向かった。
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これである程度解ったと思うが、ボクがここでしているのは心に障害を負った子供のケアだ。
彼らにとって、他人と僅かにズレているボクの存在はまさに適任だった。
子供達は本能的にボクのことを敵でないと認識する。
だから、ボクも子供たちと仲良く接することも出来る。
その子の心の奥、深層心理を理解して心の傷の改善と共に正しい方向へと導くのだ。
この病院は孤児院のような役割も担っているので父さんに頼んでここの手伝いをすることは簡単だった。
看護師さんも快く受け入れてくれたし、ボクの行った成果を見て彼女らから、ここにいることを頼まれたこともある。
途中から白も加わり、みんなすぐに彼女のことを受け入れた。
それは、良い意味でも悪い意味でもボクと似た性質を彼女は持っているから。
今日の手伝いの時間が終わり、子供達の見送る中、ボクと白は部屋を後にした。
「それでさ、玲。今からナーヴギア取りに行くんだろうけど……その格好で?」
「ああ、近いから他の職員に見られることもないしな」
時刻は午後七時を回った。
ボクが今している格好と言えば、金色の短髪に顔を細くするマスクを付け、顔にメイクを施し眼にはカラーコンタクトを入れている。
正直、傍から見ても危険な犯罪者顔だ。
それも、今回の劇で使った衣装なんだが、白監修の下、中々のクオリティだったのでメイクを落とさずそのままにしていた。
これほどの変化では父さんも驚くことはないだろうと部屋をノックして、「玲だけど」と伝えるとすかさず「いいぞ」と聞こえたので、扉を開けた。
ボクの姿を見て、片眉だけを上げて小さく反応するかと思えば、珍しく眼を一瞬だけだが見開いてボクの姿を見ていたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「ナーヴギアを取りに来たんだけど」
ボクもそれを気に留めることをせず、さっさと用事を済ませようとそう言った。
「ああ、そうだな」
父さんはデスクの横に置かれた段ボールを取り出すと中から発泡スチロールに覆われたヘルメットのような機械を取り出した。
――《ナーヴギア》だ。
「確か、初期設定を済ませるんだろう?一室はすぐ向かいの部屋を使っていい」
「……え?」
ここで、予想だにしない父さんの言葉に思わず声が出た。
「白からも聞いた、彼女も時間が無いらしいからな」
父さんがこんな冗談を言ったのは、長らく記憶になかった。
「じゃ、そういうことで玲連れてきますね」
扉が開き、白がボクの腕を掴んだ。
院長室の扉が閉まるその隙間に、父さんの微笑む顔を見た。
その家族愛の心を、ボクはだれよりも知っていた。
父さんも、ボクが気付いたことに気付いている。
だから、ボクらは家族でいられるんだ。
「で、どういうこと?」
向かいの病室に入ると白は恐らく白の父親である《
ボクの言葉も聞かずにナーヴギアを頭に被せようとしたその両手を掴むと彼女は首を傾げた。
「今日はそんなに時間が無くってね、キャリブレーションだけでも済ませちゃおうかなって」
「なら先に言っておけば……ああ……そういうことか」
「うん」
ニカッと笑う彼女のサプライズに納得したようにナーヴギアを受け取った。
電源を入れると、頭に不思議な感覚が走った。
続くように白も隣でナーヴギアを操作し始めた。
無機質な声を聞き、ユーザー情報や生年月日の設定をし、キャリブレーションを行った。
「そういえば、その格好でやるの?」
「時間が無いんだろ」
「そうだね」
劇のため少し厚底のブーツも履いているのだが、態々脱ぐ必要もないだろう。
パパっと初期設定を終わらせてナーヴギアをもとの箱に戻した。
これを使うのにはまだ一カ月はかかるのだ。
「いくら初起動だからってな……」
ここまで用意周到な白に溜息が出た。
父さんのことも意外だったし、今日は彼女に一本取られたと言うことだ。
「気にしない気にしない。じゃ、わたしはもう行くね。メイク落としとかは置いといたから」
鞄を手に取ると制服をもう一度整えて白は病室から出ていった。
沈黙の流れた病室で一人、メイクを落とす前にもう一度自分の姿を確認しようと鏡に全身を写した。
――何か、懐かしさのようなものを感じた。
ボクは黒髪に白のメッシュの入った落ち着いた髪型で、髪の毛を金色にしたことなど一度もない。
眼の色だって藍色で顔つきも目つきも身長も違っている。
なのに、何故かその姿に、動悸は速くなっていた。
胸を抑えて、呼吸を整える。
これも、『あれ』の所為だろうか。
それも何れ解ることだろう。
メイクを全て落とすと荷物を持って病院を出た。
まだ父さんには仕事が残っている。
(今日の晩御飯は何にしようか)
そんな事を考えられるほど、今日という日はいつも通りの一日だったのだ。
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十一月六日。
今日、午後一時からSAOの正式サービスが開始される。
ボクとしては待ちに待った、という訳ではないが、ネット上では初回生産限定一万ロットを手に入れることが出来た人に対するインタビューなどで大いに盛り上がっていた。
白にどうするか連絡を入れたが、用事があるとのことで、ログインが出来るのは早くても五時。
彼女からは「先に楽しんでて」と伝えられた。
それに了承して、通話の最後にお互いのアバターネームについて話し合った。
――白の仮想の名は《シンディア》。
――ボクは《ジャック=ガンドーラ》。
『《ガンドーラ》かあ。やっぱり忘れられないよね』。
「そうだな」
『うん。《Jack=Gundora》だね。覚えておくよジャック』
「待ってるからな《Sindia》」
通話が切れ、時刻も午後一時二分を回った。
ナーヴギアを装着して、父さんは病院に行っているから戸締りはもう済ませてあるし晩御飯もラップに包んである。
ベッドに寝転がると眼を閉じ、呟いた。
「Link Start」
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どう…でしたかね。
《捜索編》にて、さまざまな展開の予想は出来たと思います。
さて、今回その予想は幾つ当たっていたでしょうか。
今まで感想などでジャック、もとい《霧崎 玲》くんの殺人理由について指摘されましたが。
それも、徐々に明かされていきます。
もしかしたら玲君と白さんがツーカーすぎて理解できない部分もあるかもしれません。
僕も、上手く描写が出来ればいいのですが…。
そういった質問点がありましたら感想などでお知らせください。
ネタばれにならない範囲内で答えていきたいと思いますので。
それでは、次回をお楽しみに!
次回予告は、書き溜めのペースが上手く整えばやりたいと思います。