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二年の時を経て、妹と真剣勝負を繰り広げる。
最後は、互いの気持ちを知り、長く閉ざされていた歯車が動き出した。
戦いの中で飛んで行った剣を回収し、ジャックの待つゲート守護像前の広場に着陸した。
クラインの姿もあり、俺達の姿を見ると両手を広げて俺達のことを呼んだ。
「もう大丈夫だ」と言うと、クラインが口元に手を当てて目配せをする。
「実はよ、さっきから誰かにちらちらとこっちを見られてんだよな」
視線だけを向けると黄緑色のおかっぱ頭がちらちらとこちらを窺うようにそわそわとしていた。
リーファは大きくため息をつくと苦笑いを浮かべてその方に向かって歩き出す。
「すいません、あの人私の知り合いなんです。連れてきますね」
すたすたと近寄り、背中を強く叩いて一人のプレイヤーが姿を見せる。
前にもシルフ領で見たことがある。
確か……《レコン》と言うプレイヤーだ。
その視線は明らかにジャックの方を向き、一応知り合いであるとジャックに伝えるのだが、依然として彼は良い笑顔を浮かべている。
(ホントいい性格してるな……)
「な、なななな……何でジャック・ザ・リッパーがこんなところに」
「うるさいレコン!いい?世界樹を攻略するのよ。私達五人でね」
「そ、そう……って……ええ!?」
顔面蒼白になって後退るレコンの肩をポンと叩き、頑張ってね、と言って置いてリーファは眼前の巨大な石扉を見上げた。
「良い性格してんなお前の妹」
そう耳打ちしてくるジャックに「お前ほどじゃない」と苦笑いし、俺はユイを呼び出す。
その光景にレコンは驚いているようだが、お構いなしに前回の戦闘から手に入れたガーディアンの情報を聞きだす。
扉を開き、戦闘態勢に入る。
兎に角、数が増える前にどれだけ進めるかだ。
リーファとレコンは三人の回復に徹し、俺達は上手く連携しながら順番にHPを回復していく。
だが、ジャックも居ると言うのに全くもってキリが無い。
誰もその事に苦痛の表情を見せていないが、ジャックもクラインも何か考えがあるのだろうか。
その時だった。
俺達の横をすり抜け、風属性の範囲攻撃魔法をガーディアン達に当てながら突進する一つの影が。
黄緑色の少年、レコンはガーディアン達のヘイトをその小さな身体に受けながら上昇を止めない。
やがて二分したガーディアンが左右から彼に襲いかかる。
リーファの叫びに、レコンは少しだけ振り返り、小さく笑みを浮かべてスペルの詠唱を始めた。
「あいつ……」
クラインがその様子をじっと見る。
剣を受けながらも口を動かし続ける。
徐々に体を深い紫のエフェクト光が包む。
ジャックも使っていた闇属性魔法。
彼の身体から立体魔法陣が展開する。
魔法陣はいくつかの軸を作って巨大化し、全方位から押し寄せる騎士を包むと、一瞬のうちに凝縮し、次いで恐ろしい程の閃光を放った。
その空間には、何も残っていなかった。
――勇敢に散った少年の残り火以外は何も……。
「自爆魔法か」
ジャックがそう呟くのと同時に俺達は一気に開いた穴に向けて上昇する。
だが、まだドームのてっぺんまでは距離がある。
加えて、天井部はガーディアンの出現場所が最も多く、一面にびっしりと白いモノに隙間なく埋め尽くされていた。
つまり、上に上がれば上がるほど膠着時間も多くなる。
三人で非常に効率よく連携が行われているが、上昇することが出来ない。
少しずつ白いモノの塊に押し返され始める。
ヒールを受けようと二人と立ち位置を変わり、リーファの方を見るとその表情には諦めの色が広がっていた。
確かに、このクエストはゲームバランスがかなり偏っている。
例えジャックがいようとも、後退を強いられるばかりだ。
でも、それでもだ。
――前に、進むんだ。
不意に、呪詛のような歪んだ低音がドーム内に響いた。
リーファは振り返り、俺も音の方へと視線を向ける。
その眼に入ったのは、開け放たれた大扉から、密集隊形を取って突入してくるシルフ精鋭部隊の姿。
彼らの中で最も目立つのはおよそ十体の――
「飛竜……!」
リーファの叫びもかき消すように
ジャックの口元が、釣り上がるのが見えた。
見れば、シルフとケットシーの両種族の領主の姿もある。
「ドラグーン隊!ブレス攻撃用ーーーーー意!」
「シルフ隊、エクストラアタック用意!」
アリシャ・ルーは限界まで迫りくるガーディアンを引きつけると大きく右手を振り、声を張り上げた。
「ファイアブレス、撃てーーーーーッ!」
直後、僅かに後退した俺達の前にいる白い壁が紅色に染まった。
凄まじい轟音の後、サクヤが鋭く扇子を振り下ろし、叫んだ。
「フェンリルストーム、放てッ!!」
シルフ部隊総勢五十の剣士の持つ長剣から雷光が迸り、宙をジグザグに切り裂いて守護騎士軍を深く貫通した。
二度に渡る大集団の粉砕により、ガーディアンの壁の中央部分は流石に落ち窪んでいた。
――今しかない。
誰もがそう思った。
真剣な面持ちになるクラインも、前だけを見て嗤うジャックも。
リーファがこっちに向かって飛んでくるのを一瞥し、剣を握り直す。
「全員、突撃!!」
サクヤの鋭い声が響き渡り、俺達は弾丸のように先陣を切って飛び出した。
俺達の後ろは常に二つの大部隊が見張っている。
一瞬、ドームの最上部が顔を出した。
「キリト君!!」リーファは自分の剣を振り被り、俺の開いた左手に向けて思い切り投げられた。
吸い寄せられるように剣は俺の手に収まる。
「う……おおおおおおーーーーー!!」
咆哮とともに、大剣と長剣が凄まじい速度を生んでガーディアンを斬り飛ばす。
吹き荒れるエンドフレイムの向こうに、今度こそははっきりと見えた。
十字に分割されたゲートの中に俺は飛翔した。
――だが。
「キリト!」
待ち構えていたかのように強烈な速度でガーディアン数体が突進してきた。
クラインが援護をするが、三匹がその刃を逃れ、構え遅れた俺に剣を突きだした。
しかし、それは俺の眼前でピタリと止まる。
指の部分にピックが的確に刺さり、俺は即座に剣を落としたガーディアン達を薙ぐ。
「サンキュー、ジャック!」
もう少し上昇すれば、ゲートのある空間へと入る。
隣でクラインがガッツポーズをした。
彼も、この世界でさらに強くなっていたのだ。
恐らく、ジャックとともに冒険し、ジャックによって鍛えられたのではないだろうか。
俺は、そんな金髪の彼に目を向けようとして、僅かに生まれた笑みが固まった。
ガーディアンたちは俺とクラインを防ぐことには諦めた。
そして、数メートル距離の開いたジャックに全力で襲いかかったのだ。
体当たりで無理矢理に彼を押し返そうとする。
ジャックも、白い塊を避ける様に距離を取ったが、また距離が空いてしまった。
「まーた遅れるか……先に行ってろ」
そう言うジャックの顔は無表情だった。
俺は何も答えられずに「ジャック!」と叫ぶクラインとともに俺達はドームのあるエリアへと吸い寄せられた。
円形のゲートに着地し、彼がいるはずの方を向く。
そこに彼の姿はなく、俺の葛藤を吹き飛ばしたのは守護騎士共の怨嗟の声。
周囲の天蓋発光部分からも際限なく騎士が産み落とされていた。
クラインに肩を叩かれ、急いで扉の方に目を向ける。
しかし――しかし。
「……開かない……!?」
「何い!?」
クラインが扉を足でガシガシと踏みつけるが扉はびくともしない。
ユイを呼び出すと、この扉はシステム管理者権限により閉ざされている――つまり。
「この扉は、プレイヤーには絶対開けられないと言うことです!」
その言葉に刀使いの動きが止まった。
こんなことがありあるのか……。
身体から力が抜ける、ここまで、ここまできたのに……。
「諦めんじゃねえ!」
崩れ落ちる俺の腕を掴んだのはクラインだった。
「まだ、俺達は死んでねえんだぞキリトお!!」
身体を揺さぶられて、彼の真剣な瞳が映った。
瞬間、脳内に衝撃。
腰のポケットを探り、取り出した小さなカード。
ユイにそれを手渡すと彼女は数秒の内にコードを読み取り、青い光が走る。
「転移されます!!パパ、掴まって!!」
「待てユイ!まだ、ジャックが!!」
俺の言葉にユイははっとするが、一度始まった発光は止まらない。
「あいつは必ず来る!」
クラインの言葉に、俺はユイの小さな手を握り、彼もその上に手を乗せる。
「パパ、もう間に合いません!!」
光が強くなってきた。
歯を食いしばり、上を向くとその景色は白に染まっていた。
(待て、あの白は、ガーディアンのモノじゃ……)
そう思った刹那、天井から白い煙を纏った物体が落ちて来た。
「悪ぃ、遅れた」
顔を出した彼の手を握る。
「ホント、その遅刻癖もどうにかならないのか」
「転移します!!」
不意に、前方に引っ張られた。
意識の空白は一瞬だった。
先程とは打って変わった景色。
ゆっくりと立ち上がると二人も視線を巡らせ、周りを見ていた。
「大丈夫ですか、パパ、お兄ちゃん、クラインさん」
俺は頷き、クラインも頭を掻きながら頷いた。
「どうやら、外見以外はまだ作られてねぇ見てぇだな」
ジャックがそう言う。
彼の言う通り、ここはなんとも奇妙な場所だった。
視界に入るのはのっぺりとした白い板で出来た通路のような道。
ユイにアスナの反応を探してもらいながら上へと上る。
シンディアもアスナの居た場所の上部に付けられた籠の中にいたので、俺達はひたすら上を目指した。
数十秒後、ユイがピタリと立ち止まり、外周の壁を撫でると内側の壁が消え、奥に通路が真っすぐ伸びている。
「お前の方はここで当たり見てぇだな」
間違いない、この先にアスナが。
「シンディアは、まだ上なんだよな」
「はい、お兄ちゃんはどこへ?」
ジャックはニヤッと笑いを浮かべながら言った。
「アスナとシンディアは良いとして……残りの奴らを探す」
「気を付けろよ」
「おう!こっちは任せとけ」
俺が言うとクラインは己の拳を差しだした。
「柄じゃねぇなぁ」
ジャックは短剣を握りながら、その手で拳を突き出す。
「行くぞ」
俺が拳をぶつけると二人は通路を再び走り出した。
ユイとともに姿が見えなくなるまで見守ると振り向く。
否応なく、俺はあの瞬間を想起していた。
『私達は、いつまでも一緒』
「ああ――そうだ。俺は、戻ってきたよ」
太い木の枝を渡り、ALO全プレイヤーが夢見た世界中の上に立つ。
不思議な形の樹の葉の群れをくぐり、行く手で煌めく金色の光の正体が、やがて明らかになってきた。
格子、いや、鳥籠だ。
――あの中に、アスナがいる。
最後の階段を超え、一人の少女の姿を見た。
その瞬間、少女が顔を上げた。
彼女の顔に驚きが走り、次いで両手で口元を覆った。
大きな瞳に、溢れるような輝きが満ち、涙に変えて睫毛に溜まった。
「アスナ」
「ママ……ママ!!」
元の少女の姿に戻ったユイが片手間に格子のドアを吹き飛ばすと、開け放たれた入口から鳥籠に駆け込んだ。
「ユイちゃん!!」
直後、ユイの小さな身体が、アスナの胸に真っ直ぐ飛び込んだ。
二人は固く抱き合い、確かめるようにもう一度名前を呼んだ。
「キリトくん」
「……アスナ」
俺の名を呼んだ彼女を両手を広げてユイの身体ごと包みこみ、強く力を込めた。
「……ごめん、遅くなった」
「ううん、信じてた。きっと、助けに来てくれるって……」
「さあ、帰ろう。現実世界へ」
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抱擁を解いたあと、俺とアスナはしっかりと手を握り合い、ユイはアスナのもう片方の腕に抱かれていた。
「あっ、待ってキリト君。ここにはまだシンディアが」
「それなら今、クラインの方が向かっている」
「ええ!?クラインさんが」
「お兄ちゃんも居ますよママ!」
にこやかに答えるユイにアスナは嬉しそうにシンディアのいると思われる籠の方に目を向けた。
「そう。ジャック君もこの世界に……」
「でも、クラインさん……私みたいにパスも持ってないのにどうやって扉を開けるつもりなんでしょう?」
「「あっ……」」
脳裏に悪趣味なバンダナをした彼の笑顔が浮かび、アスナと同時に声を上げてしまう。
それが懐かしくて、面白くて、顔を見合わせて笑いあった。
「それじゃ、迎えに行かないとな」
「ママをログアウトさせるにも、システム・コンソールが必要ですし」
ユイの言葉に、アスナは何か気がかりそうに顔をしかめた。
「キリト君、ここに来る途中で何か……変なモノ、いなかった?」
「いや、誰にも会わなかったけど」
「……ひょっとしたら、須郷の手下がうろついているかもしれないの」
「えっ……須郷!?」
アスナの出した名前に、驚愕と得心、最後に奴が見せた顔が思い浮かぶ。
あの男、須郷の仕業なのか……。
アスナは憤りを滲ませながら何かを言いかけたが、首を横に振り、「先に現実に戻ろう」と歩きだした。
――だが、風景は一転。ユイが身体をのけぞらせ、悲鳴を上げた。
一瞬の紫色のフラッシュの後、アスナの腕の中は空っぽになった。
俺はアスナに危機を感じて手を伸ばした。
しかし、二人の指先が触れあう直前、凄まじい重力が俺達を襲った。
「やあ、どうかな。この魔法は?次のアップデートで導入される予定なんだけどね、ちょっと効果が強過ぎるかねえ?」
「須郷!!」
どれだけ憎んでも憎み切れない男が、そこに姿を現した。
《妖精王》、《オベイロン》の名の下に。
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奴の、この世界を統べる王の力は絶対的だった。
須郷は動けなくなった俺の背中に剣を突き立て、その姿を滑稽だと嘲笑った。
視線の先で鎖に繋がれたアスナを弄んでいる。
俺が出来ることは、ただ騒ぐだけ。
システムの前には、俺はただの少年だ。
ジャックの言うような《勇者》にはなれないのだ。
「殺す」と強く絶叫し、我武者羅に四肢を動かしても俺を貫いた剣は揺らぎもしない。
――今、俺に力を貸してくれるなら。
己の思考が白く焼き切れていくのを感じていた。
剣一本あれば、なんでも出来ると思っていた。
それは、誰かに与えられた力に過ぎなかった。
我が物顔で振り回し、無邪気にはしゃいでいた子供は俺だったんだ。
『逃げ出すのか?』
誰かもしれぬ言葉が響いた。
『屈服するのか?かつて否定したシステムの力に?』
……。
『それは、あの戦いを汚すと言うことか。私に、システムを上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた、我々の戦いを』
『君は知っているはずだ。さあ、立ちたまえ。立って剣を取れ』
『立ちたまえ、キリト君!!』
その声は、雷鳴の様に轟き、稲妻のように俺の意識を切り裂いた。
何度過ちを繰り返せば気が済むのだろう。
怒りに身を任せるだけでは……《殺意》を《怒り》の糧としては相手を殺すことは出来ない。
幾度となく見て来た。
『人間が本当に『死』を目の当たりにしたときに見せる顔を!』
『オレの邪魔をした奴がどうなるのか!』
『殺すってことがどういう行為かをなぁ!!』
あの時も――。
『テメェは五人を自分で殺したと思ってるらしいが。殺すことがどういうことか』
『贖罪のつもりだろうが、無駄だったなぁ!!』
『あいつらを殺したのはやっぱり《殺人鬼》のオレって訳だなぁ!』
あの時も――。
彼は純粋に人を『殺す』ことしか考えていなかった。
それが、《
気付けば、今まで見えていた世界が変わっていた。
――《怒り》も。
――《哀しみ》も。
――《恐怖》も。
全てを相手を『殺す』ことだけに向ける。
「それでこそ《
彼の言葉は……もう、届いてはいなかった。
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またしても前書きで書く言葉無くなりました、どーも竜尾です。
もうクライマックスですね、最終決戦ですよ。
過去のシーンをとってきたのですが、ものすごい懐かしさがありました。
このセリフはこんな感じで考えたんだとか、ジャックかっけェなとか。
次回でALO編も最終回です。
ぜひぜひ、お楽しみください。
それでは。