仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
話を端折って行くと、どうしても自分流の書き方になるので文があああ…。
比例するように添削時間が長くなってしまうのが最近の悩みです。



ニューゲーム

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その後、《アルン》へと向かう平原にある村に到着した俺達。

リーファが言うにはモンスターは出て来ないようだが、何か違和感を感じた。

そう思ったのも束の間、突然地面が大きく揺れ出した。

巨大なミミズ型のモンスターが飛び出す。

そのまま重力に従い、俺達は地下に向かって自由落下を開始する。

急いで肩甲骨辺りの仮想筋肉に力を込めるのだが、何故だか羽根が開かないのだ。

深い雪に埋まり、彼女に話を聞くと羽根が開かないのはここが《ヨツンヘイム》と呼ばれる邪神達が蠢く所謂地下世界だと言うことだ。

ここまで来てしまったら仕方ない。

気を取り直して脱出のために邪神の潜むと言うダンジョンを目指して俺達は歩き始めた。

道中、三面巨人と象水母とも言った方がいいのか……。

邪神達が互いを攻撃し合っている光景を俺達は目にした。

だが、三面巨人の方が明らかに優勢だ。

するとリーファは可哀想に思ったのか、象水母の邪神を助けたいと言い出したのだ。

何とか知恵を絞って三面巨人を誘い込み、象水母を助け出すことに成功した。

それを見届けた俺達は、ゆっくりとその場を去ろうとしたのだが、あろうことに象水母は俺達の方に向かってきたのだ。

まさか交戦になるのかと思ったが、意外な事に象水母は俺達を背中の短毛の生えた場所に下ろし、移動を開始したのだ。

飼いならし(テイム)に成功した訳でもないのに、こんなことが起こりうるのだろうかと疑問に思ったが、敵意がある訳でもなさそうだしここから羽根も広げずに飛び下りれば一発で即死だ。

呑気にも、この象水母の名前を俺とリーファで考えていた。

しばらくすると十数人の別のパーティと遭遇し、《トンキー》と名付けたこの邪神を狩るから譲ってくれと言い出した。

戦うのは不利だと考え、最初こそ承諾したがトンキーが攻撃されるのを見て、俺もリーファの居ても経っても居られなくなり、ついには攻撃を開始した。

もちろん状況は最悪。

こんな場所に来るプレイヤーたちなのだ。

当然装備もいいモノを揃えている。

やばいと思い始めたその時、トンキーの身体から分厚い殻のようなモノが弾けた。

広げられる四対八枚の大きな翼。

チェス盤をひっくり返したようにトンキーによる蹂躙が始まった。

十数人のパーティは忽ちのうちに逃げだし、俺達は変わらないトンキーのふさふさな短毛の生える背中に乗せられ、象水母でなくなった邪神は飛びあがった。

その最中、流れていく景色の中で黄金の光を目にした。

 

――《聖剣エクスキャリバー》。

 

ユージーンが使っていた《魔剣》を超える最強の剣。

しかし、今の俺達では到底取りにはいけない。

景色が変わるまでその輝きを見つめると、地上が見えて来た。

トンキーに別れを告げると、「ふるるる」と喉声で答え、翼を順に折りたたむとすごい勢いで落下していった。

――着いたのだ。

がばっと上げた顔の前に広がっていたのは、空をも覆い尽くす新緑の葉を広げた世界樹。

ジャックたちはもう辿り着いたのだろうか。

周りを見渡しても目立つ金髪や悪趣味なバンダナは見つけられず、ALOのメンテナンスもあると言うことで俺達は一度解散となった。

 

――もうすぐだからな、明日奈。

 

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メンテナンスが終わるまで時間もあるので、俺は妹の《直葉》の強い希望もあり、明日奈の眠る病院に行くことにした。

大きな病院を目にして、直葉は感嘆の声を上げる。

俺もこの病院には随分とお世話になった。

あの世界から帰って来て一カ月はずっとこの病院のリハビリ施設に通っていたのだ。

元々筋肉もなかった俺にとって人生初のリハビリは、あの世界でボス級モンスターに一人で立ち向かった時よりも過酷だった。

その中で、衝撃的な光景も目にしていた。

俺より年下の子供達の数が本当に多かった。

いつか見た教会で暮らしていた子、どこか感情の籠っていない子や、か細い腕で懸命に頑張る少女。

そんな彼らにとっての悪夢は、まだ終わっていない。

それに、この中にもいるかもしてないんだ。

 

――《ジャック=ガンドーラ》という《殺人鬼》が。

 

同時に、こんな思考をしてしまう自分を強く恥じた。

俺も、まだ《勇者》などと呼ばれた栄光をだらしなく引きずっている。

明日奈の病室を後にした俺は気が付くと両手を強く握っていた。

視線を外して、前を向く。

それも、もう終わらせる。

世界樹まで来たんだ、後は、アスナを助けるだけだ。

直葉が心配げに見つめるのにも気づかず、メンテナンスの時間が終わるとすぐさまナーヴギアを手にとって「リンク・スタート」と呟いた。

 

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リーファと合流するとアスナの反応を見付けたユイの言葉に世界中の天辺に向けて一気に羽根をはためかせた。

だが、俺の身体の中心に虹色の光が広がり、それを中心に大きな衝撃音が世界樹上空に響いた。

「キリト君!」

リーファが悲鳴を上げる、意識を取り戻した俺は力なく空を漂った。

ユイは俺の身体から少しだけ飛ぶと、警告モードを使用してアスナに向けて強い叫び声を上げた。

やがてその声が途切れると俺は障壁を殴りつけ、リーファの制止を無視して、しまいには剣を引き抜こうとした。

その時だった。

視界の彼方に映る小さな白い光。

両手でそれを掴むとユイとリーファが何事かと左右から俺の手を覗きこんだ。

「……カード?」

リーファがぽつりと呟いた。

小さな長方形のオブジェクトだが、これが上から落ちて来たということは、アスナが俺達の存在に気付いたということだ。

胸の中で希望が湧いてくる。

俺はリーファに世界樹の中に通じてるゲートの場所を聞き出すと、彼女に感謝の言葉を告げ、「俺だけで行く」と伝えてユイのナビゲートの下、走り出した。

なんて自分勝手な奴だと自分でもそう思う。

それに、ジャックたちの到着も待たずしてたった一人で挑むと言うのだ。

ユイに現在位置を聞いてもはっきりとした位置までは解らない。

確実にこっちには向かっていると言うのだが、まだ時間がかかるのは確かだ。

彼らは俺を待っていてくれたと言うのに……。

時間が無いからと理由をつけてしまう卑怯な自分に溜息が零れる。

いや、ジャックも言っていた。

 

――アスナを、悪夢の呪縛を俺が解くんだ。

 

一秒でも早く……。

大扉の隣の石像からクエストの表示。

迷うことなくイエスのボタンに触れ、轟音とともに大扉が左右に開いた。

まるでボス攻略戦のような光景に背中に冷たい戦慄が走る。

違う、ここで倒れても現実で死ぬわけではないんだ。

それでも、アスナの開放を賭けたこの戦いは、今まで体験したどんな戦闘よりも重く圧し掛かった。

「行くぞ、ユイ。しっかり頭を引っ込めてろよ」

「パパ……、がんばって」

背中の剣を抜き放ち、暗闇の中に足を踏み入れる。

直後、眩い光が頭上から降り注いだ。

 

==========

 

この世界最大級のグランドクエストの内容は単純明快。

次々と出てくるガーディアンを切りながら頂点を目指すだけ。

だが、その道は遠く険しい。

ガーディアン達はある程度鍛えられているプレイヤーなら一対一で倒せないことはない。

それでも一年間攻略されていないのはガーディアン達の《数》が一番の要因だ。

徐々に増えていくガーディアン達は気付けば自分を囲んで多方面から攻撃を仕掛けてくる。

持つ武器も剣と弓、魔法もふんだんに使用する。

斬っても斬っても湧いてくる巨躯の騎士に、俺のHPは減少がとどまることはなかった。

最後の力を振り絞って視界に映った石扉に手を伸ばす。

しかし、背中に剣を突き立てられ俺の動きが止まる。

そこへ十数匹の守護騎士が、俺の身体を次々に貫いた。

小さく浮かび上がる紫の文字【You are dead】。

過去に体験した死の感覚が頭から身体へ浸透してゆく。

自分の身体が小さな炎になっていくのを感じ、惨めな姿に自己嫌悪した。

その瞬間。

扉を開け、凄まじい速度で上昇する影があった。

ガーディアンの斬撃を受けながら上昇を止めないプレイヤーはおいてきたはずのリーファだった。

彼女は俺の《リメインライト》を包むと上空からの白い矢を避けながら出口へと飛び込んだ。

リーファはアイテムウィンドウを開くと小瓶を取り出し、輝く液体をリメインライトに注ぎかけた。

道具屋にはない、間違いなくレアな《蘇生アイテム》だ。

身体が徐々に実体化して、完全に戻り切ったところで俺は再び立ち上がった。

「悪ぃな、遅れた遅れた」

「おーい、キリト~」

背後からの声に振り向くとタイミングのいいことにジャックとクラインが到着した。

「ちょうど良かった、これからまた世界樹の中に行くんだ」

それを聞いて、クラインの顔が強張った。

「『また』ってことは、お前……」

 

「死んだのか」

 

ジャックがその言葉を口にする。

両手を腰に付き、上体を逸らしてから大きな溜息をついた。

「ま、しゃーねぇか」

勢いよく体勢を戻して髪の毛を右手で整えるとジャックはクラインの方を見た。

「……けどよキリト。いくらジャックとお前がいたとしても三人でここを突破できんのか?」

「やるしかないだろ、最悪誰か一人だけでも辿り着ければ十分だ」

ジャックなら、彼ならなんとか出来るのではないかと言う自分勝手な人任せだ。

彼はそれを感じ取ったのか、無表情に何かを考えているようだが……果たして。

「もう……もうやめて……」

そんな俺の思考の波から連れ出そうとしたのはリーファだった。

背後から俺の身体を包み、嗚咽交じりの声が耳に届いた。

「いつものキリト君に戻ってよ……。あたし……あたし、キリト君のこと……」

俺は右手でその手に軽く触れ、静かな声で言った。

「あそこに行かないと、何も終わらないし、何も始まらないんだ。もう一度……」

 

「もう一度……アスナに」

 

「……いま……いま、何て……言ったの……?」

先程の声とは違う、掠れた声をリーファが出した。

口元に手を当てて、彼女は半歩後退り言った。

 

「……お兄ちゃん……なの……?」

 

「え……?」

視界の端で驚愕する俺を余所に《殺人鬼》の顔が歪む。

面白いモノを見たように口元を大きく裂くような笑みを浮かべて彼はこの状況を愉しんでいた。

「酷いよ……。あんまりだよ、こんなの……」

だが、俺がそれを今気にする余裕はない。

リーファは左手を振り、即座にログアウトのボタンを押すと、アバターから力が抜けていく。

魂の無くなった彼女の身体を受け止め、ジャックとクラインの方を見た。

クラインはまだ何が起こったのか解らない様子で、ジャックは変わらない笑みを浮かべて短剣をくるくると回していた。

「すまない、俺がいない間を頼む!」

俺が叫ぶとクラインが肩を小さく振るわせ、駆け寄ってきた。

「何だか分からねえが、早く言って来い!」

そういう彼に小さく礼を言うとウィンドウを操作してログアウトボタンを押し、意識が遠ざかる。

これは俺が招いたことだ。

 

――万が一の偶然。

 

アスナに「少し遅れる」と謝罪の言葉を思いながら、俺は目を覚ました。

 

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そこで俺はリーファの、《直葉》の本当の気持ちを知った。

二年間閉じ込められていた所為で今まで彼女の中にあった気持ちを俺は見過ごしていた。

義理であっても、兄だと言うのに本当に情けないことこの上ない。

直葉の嗚咽が聞こえなくなると、意を決した俺は彼女の部屋の扉をノックし、短く言った。

「スグ……、アルンの北側のテラスで待ってる」

小さく告げると自室に戻りナーブギアを起動させた。

目を開けると数分前見ていた景色と何も変わらないものがそこにあった。

「起きたか」

俺に背を向け、石段の上に座るジャックはぽつりとそう言った。

「クラインは?」

視界にあの悪趣味なバンダナが見えないことから大体察しはつくが、一応聞いておく。

「ちょっとだけリアルの方に行ってくるだとよ」

「そうか」

彼の横に座ってどこかも解らない場所に視線を移す。

ジャックの顔は見えていない。

こうして戻ってきた訳だが、ジャックの現実でのことをいろいろ知り過ぎている俺に、この場は途轍もなく気まずかったのだ。

前のめりになってジャックの顔を見ないようにしていると彼は俺の隣で立ち上がった。

「色々聞きたい事があるんじゃねぇのか、今はオレとテメェしかいねぇからある程度のことなら答えてやるよ」

その言葉に俺は俯いたまま上体だけ起こして口を開く。

「お前のことを調べようとしたら《濃霧》が発生したんだ」

「んで?予想は付いてんだろうが」

「じゃあ……」

石段に座る俺の手に冷たいモノが触れた。

それは石段を登り足元をゆっくりと降りていく。

 

――霧だ。

 

「まず一つ目の答えだ。オレを探せなかったのはそれが《濃霧》の本来の仕様だからだ」

 

「本来の……仕様だと?」

振り向かずに声を上げる。

「茅場がテメェに使った《オーバーアシスト》。それが使えるようになるとオレ達のユニークスキルは昇華する予定だった訳だ」

「……どうして、それを知ってるんだ」

「あの後、ちょろっと茅場のヤツに聞かされたことだ。《殺人鬼》の原点だけが持つことの出来る最高の特典、それが《正体不明》の称号なんだとよ」

あの後、と言うのは世界の崩壊を見たあとの三人だけどこかへ行った後の話だろう。

「その一環としてオレのアカウントは《ヒースクリフ》の傘下に入る訳だが。それが未だに《濃霧》の使える二つ目の答えだ」

視界の中で霧が空気に溶けていく。

ジャックも《濃霧》を切ったようで冷たくなった地面に熱が戻る。

「オレのアカウントはSAOで少しだけ特別になった訳だが、元の短剣と《鎖》の復元は出来なかった。《濃霧》だけはこの世界で使うことが出来るようになったけどな」

「じゃあ、始めて会った時のあの鎖みたいなモノは一体……」

俺の言葉にジャックは「ああ」と答えると謎の単語のようなモノを詠唱し始めた。

「この世界に存在する闇妖精《インプ》の高等魔法の一つだ」

俺の顔の横を紫色の四本の鎖が一直線に飛んでいく。

「当然《鎖》とは劣化だな。武器は付けられねぇし持続時間と二十一個のスペルの詠唱。仕方ねぇとは思うがな」

紫の鎖は空中で闇に溶けた。

ここで俺は始めて振り返り、ジャックの顔を見た。

もう一つ、聞きたい事があったのだ。

胸の中で膨らんでいた違和感が。

虚空を見つめ、だが顔だけは狂気に染まるジャックに俺は言った。

「なあ、ジャック」

「まだ聞きてぇことがあんのか」

「お前は、俺が――」

 

「……お待たせ」

 

そう言って俺の言葉を遮ったのはリーファだった。

「何か、話をしてたの?」

「気にするな、キリト。行って来い」

俺も、彼女のいる場でこの事を聞くのはあまり良くはない。

ジャックはその場からバックステップで距離を取り、俺は直葉と向き合った。

「スグ……」

「お兄ちゃん、試合、しよ。あの日の続き」

腰の長剣を引き抜き、俺も背中の剣を引き抜いた。

「いいよ。今度はハンデ無しだな」

「寸止めじゃなくて良いからね。――行くよ!」

お互いに距離を詰め、仮想世界での兄妹喧嘩が始まった。

《殺人鬼》は顔を下に向けて小さく笑うと、ポケットに手を突っ込んだまま壁に凭れ、静かに短剣を回し始めた。

 

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ホントにALOのマップがよく分からないっす。
ルグルー回廊ってただの中間地点のようなものだったんですかね?
ジャックさん達遅刻ですけど。
こう……トレインされたモンスターたちを倒した後でルグルー回廊まで戻ってアルンへ行った。ってことで。

もうちょっとでALO編も終わりますね、どうぞお楽しみに!

それでは。
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