本当にお久しぶりですね、投稿まですごく長かった気がします。
ついにALO編。
まだまだキリト君視点でお楽しみください。
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ここまでくると、自分の身体に刃物が突き立てられた時、紫色の障壁が出現してしまうのではないかと錯覚してしまう。
――三度の死を経て、俺は生きていた。
あれから二ヶ月。
これが茅場によるゲームクリアの報酬だと言うなら、本当によくやってくれたなと感心する。
しかし、仮想世界から生還した俺たち約六千人のプレイヤーたちにまだ平穏は訪れてはいなかった。
滑らかに扉を開く音。
その横のプレートには《結城 明日奈 様》と表示されている。
まだ、目覚めていないのだ。
アスナを含む三百人のプレイヤーは尚も仮想世界を彷徨っている。
原因は不明。
何も出来ず、その知らせを聞き、しばらくは眠る彼女の姿を見る度に涙を流していた。
今日もここにきて、ただただ彼女の隣で時間を費やす。
扉を開けると白衣を着た若い青年の姿が。
俺を見て軽く会釈をすると、計器を見ながらサラサラとペンを動かし、終わるとすぐに立ち上がって俺とすれ違う時にもう一度会釈をした。
もはやここに来るのも常連だ。
それも親族でも無い人間が来るのだ、顔も覚えられてるだろう。
ゆっくり彼女に近づき、椅子に腰を下ろす。
流れるように彼女の手を握る。
涙が出そうになるのを堪え、いつの間にか正午になっていることに気付くと、「また来る」と眠ったままの彼女に伝え、席を立った。
「おお、来ていたのか桐ヶ谷君。たびたび済まんね」
背後で声が聞こえ、振り返ると二人の男。
前に立つ恰幅のいい初老の男性が、アスナの父親、《結城彰三》だ。
俺はひょいと頭を下げ、挨拶をする。
彼はアスナの枕元に近寄ると、そっと髪を撫でた。
やがて顔を上げると、背後に立つもう一人の男を俺に示す。
《須郷 伸之》と紹介された長身の男性。
軽く挨拶を交わすと、結城彰三は俺達を残して部屋から出て行った。
残った俺は須郷から聞いた言葉にひどく驚愕することになる。
――明日奈が眠っている間に結婚をするということだ。
もちろん俺は大声を上げた。
そんなことが許されるはずがない。
しかし、須郷は解散したSAOの製造会社《アーガス》の後を引き継いだのは結城章三の《レクト》という会社。
そこに勤めるこの男がSAOサーバーを委託された部署にいると言うことだ。
つまり、今明日奈の命は彼が維持していると言うのだ。
またしても、何もすることが出来なかった。
哄笑を堪えるように片頬を震わせながら彼は俺を嘲笑い、病室から出て行った。
俺はただ、拳を握りしめ、涙を流して立ち尽くしていた。
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翌日、俺はリハビリ開けの身体を酷使してある店に飛び込んだ。
喫茶店兼バーのマスターはあの《エギル》だった。
彼の空白の二年間は奥さんが全て切り盛りしていたらしい。
いつか愛する夫が帰ってくるその時までこの店を守り続けていたというのだから本当にいい奥さんを持ったなと常々思う。
《Dicey Cafe》と書かれたドアを押し開けると、カウンターの向こうの巨漢にいきり立ちながら近付いた。
その訳と言うのも、先程この男が送ってきたメールに添付された一枚の写真。
ぼやけた金色の格子が一面に並び、その向こうにある椅子に腰かける白いドレスの女性。
その横顔は、見間違えるわけがない。
――アスナだった。
「で、あれはどういうことなんだ」
エギル、もとい本名《アンドリュー・ギルバート・ミルズ》はカウンターの下に手をやると長方形のパッケージを取りだした。
「《AmuSphere》。聞いたこと無いハードだな」
「《アミュスフィア》。俺達が向こう側にいる間に発売されたんだ」
ナーブギアの後継機であるアミュスフィアだが、大手メーカーからの「今度こそ安全」と銘打たれ大ヒットしたのだ。
そしてパッケージに書かれたタイトルロゴは《ALfheim Online》。
レベルの概念は存在せず、スキル制。
おまけにPK推奨と、なかなかにハードなゲームだ。
ただ、このゲームの話題は《魔法》と《飛行》が存在すると言うことだ。
エギルの話で、この《アルヴヘイム・オンライン》については解ったがあの写真と何かつながりがあるのか。
「その中で撮られた一枚なんだ」
パッケージを裏返すと、中央には巨大な樹が伸びているのがよく分かる。
「世界樹。プレイヤーの当面の目的はこの樹の上にある城に他の種族に先駆けて到着することだ」
滞空制限のせいで一人では飛んで行けないが、体格順に五人が肩車して多段ロケット式で樹の枝を目指しその証拠として無数の写真を撮った。
その中の一枚が、これと言うことだ。
俺はエギルに頼み、このソフトを受け取った。
彼も、SAOの悪夢がまだ終わっていないことに違和感を感じているのだ。
ソフトを手に入れたのはいいが、アミュスフィアを手に入れないとと思っていると、ナーブギアでも起動できると聞いた。
またあれを被るのかと恐怖心が頭の中を過ぎったが、何とか振り払う。
「それに、まだ伝えたいことが二つある」
そういうともう一つの写真とゲーム雑誌を取りだした。
「え……?」
「ここにいる人影、見覚えがあるだろ」
アスナの写真とは違い、目を凝らさないと判らないが、彼女がいる籠のようなモノの上に小さな籠が一つ取り付けられている。
後ろ姿だからその特徴的な髪の毛が目に映る。
最後に見たあの灰色のセミロング。
「シンディア……?」
「やっぱりそうだったか、確かまだ目覚めていないんだろ」
「あ、ああ」
写真をまじまじと見るが、後姿だけでも十分に彼女を……シンディアを思わせた。
「次はこの雑誌の……ここだ」
パラパラと雑誌をめくり、指を差したのはALOのコーナー。
「一ヶ月前から、二人のフードのプレイヤーが頻繁にPK行為をはたらいてるんだとよ」
ページの半分でこの一ヶ月での犠牲者やそのインタビューが綿密に描かれている。
それを読んでいくうちに、犯人は短剣使いであることが見て取れた。
――まさか。
「これ、ジャックじゃねえかって思ってたところだ」
長く、忘れていた戦慄が蘇る。
犯人は二人組だが、戦ったのは一人だけ。
真っ黒なフードで顔は見えないが、死に際に一人のプレイヤーがフードの中を覗くと、金色の煌めく髪が見えていたと言う。
被害者は強者弱者に問わず出会った者全員。
最初の内はどこかの種族が雇った現実で身体能力の高いプレイヤーだと疑い合いがあったようだが、PKは留まることなく幾つもの部隊が一人のプレイヤーによって潰された。
そして、ついに誰かが言った。
『《ジャック=ガンドーラ》の復活である』と。
《殺人鬼》の現実での正体は、誰も解っていない。
あの世界から生還したその日に、一人のスーツ姿の男が俺の下に現れた。
彼は《総務省SAO事件対策本部》の人間だと名乗った。
そこでは、ごく僅かなプレイヤーデータをモニターでき、俺のレベルと存在座標から《攻略組》であると推測し、俺を問い詰めに来たのだ。
俺は眼鏡の役人に聞きたい事は全て話すと言い、代わりに今まで共に闘ってきたプレイヤーたちの居場所を聞いた。
そこでアスナがまだ眠っていることを知った。
――そして、シンディア。
暁白もまた目を覚まさないことを。
だが、《ジャック=ガンドーラ》はまだ見つかっていない。
総務省にはプレイヤーネームと現実の人間を照合することが可能で、《イナニス=グロリア》や《笑う棺桶》のメンバーの素性も割れたらしい。
グロリアの証言をもとに《JtR》の全てのメンバー、誰もその姿を見たことが無いリーダーまで明かされたが、その全ての人間ですらジャックの正体を何一つ知らなかった。
ジャックの名前から捜査すればいいのではないかと聞いたが、そんなモノはとっくにやっていたらしい。
その結果、表示されたのはエラーメッセージ。
まるで《ジャック=ガンドーラ》が存在していなかったかのようだったと男は語る。
一度は捜索を諦めたが、SAOの生還者の話を聞くたびにジャックと言う男が《殺人鬼》として何人ものプレイヤーたちに恐れられていたことを知る。
総務省は躍起なって捜索を再開した。
一万人のプレイヤー全員の名前を見て探したが、どこにもジャックの名前は無く、諦めかけたその時。
ふと、ある男が《ヒースクリフ》と書かれた名前を調べた。
すると、彼のアカウントのサブとして付けられていたのは《ジャック=ガンドーラ》だったのだ。
それを聞いた俺は茅場とジャックが同一人物のハズが無いと進言する。
総務省もどういうことだと混乱し、一つの仮説が立てられた。
【《ジャック=ガンドーラ》のアカウントを《ヒースクリフ》のアカウントが吸収し、《ジャック=ガンドーラ》の正体に当たる人物に別のアカウント情報を塗り替えた】
確かに、無くはない発想だとは思う。
しかし何時でもモニターをしていた連中が見逃すことがあるのだろうか。
それが男の話を聞く限りでは何かがおかしいのだ。
表面上は《ジャック=ガンドーラ》とされていたプレイヤーデータが書き換えられたとすれば、その時に明確な変化があったはず。
《攻略組》として参加したプレイヤーは全て彼らによって監視されている。
あの攻略一筋の男がボス攻略戦に出なかったことなってあったのか?
――いや、一回だけあった。
彼は第二層ボス攻略だけ現れなかった。
そのときに情報が書き換えられたのか?
第三層で彼の姿を見たときもレベルはさほど高くなかった。
それで総務省からの監視を一時回避した……。
全てのカギは、俺の知らない第二層にあるのだ。
それでも腑に落ちないのは、なぜジャックのアカウントがヒースクリフに吸収されていたと言うことだ。
そう言うと、男はジャックのアカウントを調べようとしたときのエラー表示を撮った動画を俺に見せて来た。
モニターの左上に《ヒースクリフ》を書かれ、連なる様に《ジャック=ガンドーラ》の名前があるが、そこをクリックした突如、画面は真っ白な煙に包まれた。
次には前の画面へと戻されてしまう。
酷く、見覚えのある光景だった。
それはSAOでジャックだけが持っていた力。
ユニークスキル《濃霧》。
これ以上彼の捜索をすることは出来なかった。
調べれば調べる程、ジャックの『正体不明』を助長させてしまうのだ。
ならば、彼に会える可能性があるのなら面と向かって聞くしかないだろう。
あの雑誌に書かれていた記事が、ガセと言うことも否めなかった。
――ジャックは、現実でさえも蝕んでいたのだ。
SAOプレイヤーの大半は重度のゲーマーであり、現実に戻った彼らの中にはSAOに入る以前からインターネット上で活動する者も少なくはなかった。
そんな彼らは、《殺人鬼》の恐怖を明確に記憶していた。
次々と《ジャック=ガンドーラ》という名前が電波に乗って日本中へと広まった。
【仮想世界のジャック・ザ・リッパー】
密かにそう呼ばれ始めた頃、PKを推奨しているとあるVRゲーム上に《ジャック=ガンドーラ》を名乗るPKプレイヤーが現れた。
それも、三種類の別々のゲームに一人づつ。
次々と現れたのは紛れもなくジャックの模倣犯だった。
なにせ容姿も声も性別も年齢も謎なプレイヤーの真似をしたところで本者が誰かなんてわかる訳がない。
ただ一つ、彼と証明できるのはあの短剣術と奇抜な発想とそれを成し遂げる身体能力。
情報によれば、ジャックの模倣犯はすぐに別のプレイヤーによって狩られたらしい。
もはや【《殺人鬼》殺し】と娯楽のように《ジャック=ガンドーラ》を名乗るプレイヤーが登場するようになったくらいだ。
総務省はジャックの名を語ったプレイヤーの素性も調べてみたが、そこに元SAOプレイヤーは一人も居なかった。
そう、俺達は知っているんだ。
《ジャック=ガンドーラ》の、《殺人鬼》の恐ろしさを。
もしかしたら今回も模倣犯かもしれない。
今までも数回だけ大量PKを成功した《ジャック=ガンドーラ》も居たらしいが、結局は数の暴力の下に捩じ伏せられてしまった。
そんなこと、本物のジャックならありえないことだ。
彼は攻略組を掌の上で転がしていたのだ。
そんな男が危険を察知できないはずがない。
相手だけを殺すから、ジャックは《殺人鬼》だったんだ。
それに、アスナやシンディアもこの世界にいると言うのなら、向かわない理由は無いだろう。
部屋に戻ってきた俺はもう一度あの機械を被った。
――もう一度、俺に力を貸してくれ。
「リンク・スタート!」
幾つもの決意を胸に、俺は再び仮想世界へと降り立った。
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再び《kirito》と名前を打ち込み、九つある種族から黒い装備を基調とした《スプリガン》を選んだ俺は猛烈に落下状態に陥り、暗闇の中を落ち続けた。
長い落下を悲鳴を発しながら俺はどこ知れぬ場所に墜落した。
恐る恐るウィンドウを開くとしっかりと《Log Out》の文字が刻まれているのを確認した俺はステータスを確認しようとウィンドウに目を落とし、驚愕する。
このゲームは完全スキル制だと言うことは把握していたが、SAOの時と俺のスキルは何も変わっていなかった。
まるで、あの世界の続きをしているような感覚。
幾つかの表示は文字化けしているが、スキルはしっかり起動できるみたいだ。
疑問は絶えないが、アイテム欄を開いた俺は文字化けしたら列の中に、一つの表示を見付けた。
《MHC001》と書かれたそれを指で触れると白い結晶体が手に落ち、破裂すると渦を巻く結晶の中から影が生まれ始めた。
「また、会えましたね、パパ」
懐かしい鈴の音のような声が響いた。
再会の喜びを分かち合い、ユイは言った。
ここは、SAOのサーバーをコピーして動いているのだと。
確か、このゲームを運営してるのはアーガスを吸収したレクトだったはずだ。
それをそのまま流用していることは十分考えられる。
スキル熟練度はもうどうにもならないが、アイテム欄に入っていたアイテム達はもう使うことは出来ない。
思い出を消すように消去し、残ったのは初期装備スキルチートの俺。
ユイはこの世界における《ナビゲーション・ピクシー》へと姿を変え、この世界の醍醐味である羽根を出した俺は近くで戦闘していると言うプレイヤーたちに飛行練習も兼ねて向かって行った。
そこでは三人のプレイヤーが一人の女性プレイヤーを襲っているのを発見した。
緑色の少女と言うことは《シルフ》、赤い鎧をした三人が《サラマンダー》という種族らしい。
これでは女の子の方があっという間にPKされてしまうだろう。
そう思った俺は女の子側に着くことを決め、ついでに二ヶ月振りで鈍った剣の腕も確認しようと剣を取りだした。
相手は俺のことを息がった初心者だと思っているだろう。
目の前の男には悪いが、速さ全開に男を両断した。
残りのプレイヤーも一人を切り、もう一人を追い払うと、助けた女の子《リーファ》に世界樹に向かうと言うと、彼女は知り合ったばかりの俺に世界中へと連れて行ってくれると言ったのだ。
近くの町で金にモノを言わせて装備を揃えるとリーファのパーティーメンバーである《シグルド》と一悶着あったが、無事に俺達は世界樹に向かって飛び立った。
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――《殺人鬼》の足音が、聞こえる。
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このシーンもすごく書きたかったんですよ。
その、ジャックの《正体不明》をより強調する《濃霧》。
サブタイ回収です、ハイ。
今回のジャックの情報に関して、やっぱりSAOの事については絶対に情報管理がされてると思うんですよ。
じゃないとキリト君とか大変そうですし…。
ですが、ジャックだけは完全に情報を止めきることが出来なかったということとして書いてみました。
すいません、ALO編はサクサク行く上でキリト君視点しかないので会話文が極端に少なくなりましたので次回予告は無しとします。
次回をお楽しみに!それでは。