UA数23000、お気に入り件数380突破致しました。
本当に感謝感激雨霰です。
ついに原作一巻まで戻ってきました。
ちょっとだけ変わったキリト君をどうぞお楽しみください。
==========
リアルラックが肝心なところで欠如している俺にとって、今日は本当に幸運だった。
最前線である第七十四層の迷宮区での攻略帰りに《ラグー・ラビット》と遭遇し、S級レア食材の《ラグー・ラビットの肉》を手に入れられるとは思わなかった。
この世界において娯楽といえば食事である。
しかし、残念ながら俺にこれを調理できる程の《料理》スキルは持ち合わせていない。
仕方なく金に換えると決めた俺は強盗される可能性を用心して転移結晶を使った。
「転移!アルゲード!」
視界は変わり、猥雑な《アルゲード》の街へ到着した。
人混みを縫いながら数分歩くと一軒の店が。
店主は、相変わらず阿漕な商売をしていた。
気の弱そうなプレイヤーの肩を叩いて有無を言わさず商談を成立させると豪快に笑っている。
商人でありながら斧戦士である男、エギルに俺は軽く挨拶をした。
「よお、キリトか。安く仕入れて安く提供するのがうちのモットーなんでね」
ニンマリ笑って悪びれる様子もなく嘯く。
そんなエギルに、今日取得したレアアイテムを見せると両眼が丸くなっていた。
本当に売ってくれるのかというようにエギルが言うが……。
(俺も食べれるモノなら食べてみたいがこんなの料理出来るプレイヤーなんて……)
「キリト君」
その言葉を聞いた瞬間に俺は振り返って声の主の手を素早く掴んだ。
「シェフ捕獲」
「な……なによ」
そのプレイヤーは栗色の長いストレートヘアの華麗な容姿を持つ女性。
「珍しいな、アスナ。こんなゴミ溜めに顔を出すなんて」
俺の言葉に店主とアスナの護衛として付いてきた男の一人の顔が引き攣る。
『《笑う棺桶》討伐作戦』で見せた数々の殺戮とその手数から現在。
その名前一つで一人一人が大きな反応を見せるプレイヤーがいる。
そんなプレイヤーですら勝負を拒んだアインクラッド最強剣士が率いるのが彼女が副団長を務める《Knights of the Blood》通称《KoB》。
だが、俺もさすがに護衛はどうかと思った。
まあそれもあの男の指示ではないだろう。
攻略とジャックとの戦い以外にはほとんど興味が無く、基本的に《KoB》を仕切っているのはアスナだ。
しかも彼女はこのアインクラッドで五本の指に入る程の美少女。
間違いなく親しげに話しかける俺に護衛の男は嫉妬しているのだろう。
「お前今、《料理》スキルの熟練度どのへん?」
視線を気にせずに俺はアスナに語りかけた。
「聞いて驚きなさい、先週に《完全習得》したわ」
「なぬっ!」
アホか、と一瞬思ったが、もちろん口には出さない。
俺ですら三つしか《完全習得》してはいない。
その一つを《料理》スキルに回せるほど努力をしたというわけだ。
俺が《ラグー・ラビットの肉》を見せ、料理することを引き換えに一口食わせてやるというと、彼女は俺の胸倉を掴んで「は・ん・ぶ・ん!!」と言った。
顔を近付けられドギマギした俺は思わず頷いてしまった。
エギルに交渉決裂とともに感想文を後で送ってやるというとこの世の終わりというような声で項垂れた。
しかし、アスナに設備はどこにあるのかと聞かれ、俺は言葉に詰まる。
彼女は呆れたように視線を投げると仕方ないから自分の家で料理をすると言った。
突然のことに頭がラグを起こしているとアスナは護衛の二人の方を向き「お疲れ様」と声を掛けた。
その途端、我慢の限界に達したという様に長髪の男が叫んだ。
「ア……アスナ様!こんなスラム街に足をお運びになるだけに留まらず、素性も知れぬ奴をご自宅に伴うなどと、と、とんでもないことです!」
内心予想はしていたが《様》と来たか。
当人もうんざりとした表情である。
「このヒトは、素性はともかく腕だけは確かだわ」
「な、何を馬鹿な!私がこんな奴に劣るなどと……」
「邪魔だな」
瞬間、男のこめかみに厚底のブーツが直撃する。
溜まらず男は体勢を崩すが地面に手を着くと俺への怒りも混ぜた強い怒りの形相を浮かべて攻撃をした主の方を睨みつけた。
ここは《圏内》ということで《犯罪禁止コード》がはたらいてHPも減らないのでそれが男の怒りをさらに買っていたのだろう。
しかし、男の表情が固まった。
左の手首のガントレットを握って俯く。
もう一人の護衛の男も今にも逃げ出しそうだった。
ハイキックの体制を戻すとライダースーツのような黒を基調とした皮の防具と太陽の光を反射する黄金の短髪。
狂気的な笑顔を浮かべるのは《殺人鬼》と呼ばれるアインクラッド最高最悪のプレイヤー。
「おいエギル。さっさと勘定しろよ、ちょうどそこで面白い事が起こってたんだからな」
――『ジャック』。
正体不明の名を冠し、最もふさわしいとされる男。
――《Jack=Gundora》。
偽りの名はこの世界で何よりも恐れられていた。
==========
一分も経たずにジャックは戻ってきた。
護衛の二人は身体を震わせ、ジャックの姿すら見ることが出来ていない。
アスナはまだ心の奥ではジャックを怖がっているが表に出すことはない。
「さっきと状況が変わってねぇが、もう終わりか?」
二人が自分に怯えているのを判っているジャックは口元を釣り上げながら言う。
「そうだな」と返すとアスナの肩を叩く。
取りあえず怯えてるこいつらを何とかしないと。
「あっ……あなたたち今日はここで帰りなさい」
言葉を投げかけるとジャックを追いかけるように俺達は振り返って歩き始めた。
最後にちらりと振り返ると、俯いた顔を少しだけ上げてこちらを睨む男の険悪な表情が、俺を捉えていた。
「随分と盛り上がってたな」
ある程度歩いたところでジャックが振り返る。
その顔は完全なる嘲笑。
「ジャック君だってギルドに入れば解るんじゃないの?特に、ウチとかに来ればね」
「《神聖剣》さまがオレに速さで肩を並べられりゃわからねぇな」
アスナの冗談にジャックは特徴的な笑い声を上げ、答えた。
「《ラグー・ラビットの肉》か、キリトにしちゃマジで珍しいな」
「残念だったなジャック、この肉は二人用なんだ」
某おぼっちゃまのセリフを言うとジャックはとんでもない事を口にした。
「それなら食ったことがあるぜ、二回くらい」
「「ハア!?」」
これに叫んだのは俺だけではくアスナもだ。
「お前が手に入れられんならオレが手に入れたと事で何もおかしくねぇだろ」
「で、でもどこで調理を……?」
(《鍛冶》スキルはかなり高いとは聞いていたがまさか《料理》スキルまで上げているのか?)
「《JtR》の連中だな、なかなかのモンだったぜ」
あっ、と思わず言葉が出そうになる。
『《笑う棺桶》討伐作戦』でジャックに続いてグロリアの名がアインクラッドに知れ渡り、ほんの一ヶ月前に彼らの素性を知るために情報屋を使った大規模な捜査が行われた。
一応、グロリアのほかに謎となっていたプレイヤーの一人が分かった。
名を《オーカス》。
《JtR》の情報収集を担っており《隠蔽》のパラメーターの上がる防具のみを装備し、話では《隠蔽》、《索敵》、《忍び足》、《聞き耳》を完全習得し、恐らく数十人で《索敵》しても見つけられないのではないのかというようなプレイヤーだ。
実際に誰かが捕獲した訳でも出会った訳でもない。
断片的に手に入った情報を繋ぎ合わせ、少ない目撃情報で特定をすることが出来た。
《生命の碑》でも名前は確認済みで、注意が呼びかけられていた。
残り三人と存在しているのに誰も見たことが無い《JtR》のリーダーの情報は全くなかった。
閑話休題――。
とにかく、彼らのメンバーの中に《ラグー・ラビットの肉》を調理できる程の兵がいたということだ。
「それにしても二回も食べるなんて贅沢だな」
「お前らはそれを食うんだろ?二人きりで」
何故だろう、二人きりの部分だけ強調された気がする。
「じゃあ、お前も来るか?」
イラついたのでそう言ってやる。
「さっき二人用とか言ってただろうが」
痛いところを突かれ、黙り込む。
隣にいるアスナはまた、何故か顔を赤らめていた。
「生憎オレはこれから《風林火山》と食事会だ」
「え?」
ジャックの意外な言葉にそんな声を上げてしまった。
そのまま俺達から離れるとジャックは転移門を操作した。
《風林火山》ってクラインやシンディアも居るのにジャックが呼ばれたのか!?
俺の疑問は口にすることは無く、ジャックの体は目の前から消えた。
==========
その後俺はアスナの家で《ラグー・ラビットの肉》をご馳走になった訳だが。
半ば強制的にアスナとしばらくの間パーティーを組むことになってしまった。
嫌、というワケではないが何か悪い予感がした。
翌日、最前線第七十四層の転移門の前で彼女を待っていた。
そこへ、空中から彼女が登場。
そのまま俺に体当たりをかまして縺れ合いながら数メートル転がった。
そのとき手に柔らかい感触が伝わってきたのだが、今そんなことは話す必要はない。
次に転移門から昨日の長髪の男が現れ、事情を聞くとストーカーさながらの行為をしていたそうだ。
《クラディール》と呼ばれた男との口論の後、俺は奴と《初撃決着モード》でのデュエルをすることになった。
それをシステム外スキル《
黙り込んだ彼を置いて俺とアスナは迷宮区へと向かった。
道中、《軍》のプレイヤー集団を見かけ、彼らが攻略を再開したという噂が本当なのだと知る。
順調にマッピングを進めていくと俺達は大広間、所謂ボス部屋にたどり着いてしまった。
一応ボスがどんな姿なの確認しようと大型の扉を開けて中に入った。
暗闇の中で光る二つの青い炎。
山羊のような頭に筋肉質のごつごつとした巨体。
簡単に言えば悪魔のような姿をしていた。
――《The Gleameyes》。
青い悪魔は俺達に向かって猛烈なスピードで走ってくる。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
俺達は同時に悲鳴を上げ、くるりと向き直ると全力でダッシュした。
そのまま敏捷値を全開にして安全エリアまで駆け抜けた。
壁際にへたり込むと大きく一息ついてお互い顔を見合わせるとどちらともなく笑い声がこみ上げて来た。
「あはは、や、逃げた逃げた!」
「こんなに一生懸命に走ったのすっごい久しぶりだよ。まあ、私よりキリト君の方が凄かったけどね!」
「どっちもどっちだろ」
壁の上に目を向けるとこちらを覗きこんでいたのはジャックだった。
同時に俺達に恥ずかしさが募る。
「いや~、素晴らしかったぜ?キリトなんか《閃光》よりも速く走ってたじゃん、自慢してもいいんじゃねぇの?」
壁から飛び降りるとジャックはニヤけながら俺達の方を見る。
「『うわあああああ!』って……あーおもしれぇ」
今更だがコイツは声帯模写が出来たんだ。
俺の声が完全再現され俺の羞恥はさらに増していく。
「やめろおおおおお!!」
「キリト君……」
アスナも同情するように俺を見たが。
「『きゃあああああ!!』って……」
「やめてえええええええ!!」
《殺人鬼》に死角なし。
アスナも顔を真っ赤にして今にも細剣を抜いて切りかかりそうだった。
「あー、笑った笑った。それで《グリームアイズ》はどうだったか?」
少しだけ、ジャックの雰囲気が変わった。
彼の攻略に対する心はいつだって真剣だ、だから、彼は《殺人鬼》でもこの場所に立っているのだ。
「あれは苦労しそうだね……」
「そうだな、パッと見、武器は大型剣一つだけど特殊攻撃アリだろうな」
「オレとしても盾装備のヤツがもう数人は欲しい所だな」
「盾装備、ねえ」
ジャックの言葉にアスナが意味ありげな視線でこちらを見た。
金髪の男は知っているのか解らないが口元を釣り上げていた。
「君、なんか隠してるでしょ」
「いきなり何を」
「そりゃ片手が空いてるのに何で盾を持たねぇのかってとこだろ」
図星だった。
だが、彼らになら知られても構わないだろうか。
「まあ、いいわ。スキルの詮索はマナー違反だもんね」
つまんねーの、とジャックは口を零すが大して気に留めなかった。
「わ、もう三時だ。遅くなっちゃったけど、お昼にしましょうか」
「て、手作りですか」
アスナは無言で済ました笑みを浮かべると、小ぶりなバスケットを出現させた。
「一応ジャック君の分もあるけど食べる?」
「じゃあ貰うわ」
ジャックの後に俺も一つ包みを手にした。
中身はとてもよく出来たサンドイッチだった。
大口で齧り付いたが、純粋に上手いと感想が出た。
「ま、伊達に完全習得してねぇな」
ジャックはもう食べ切ったようで素早くウィンドウを操作するとアスナの物とは違う一つの包みが。
「それ、ジャック君のお昼なの?」
包みを開けるとそこには巨大な肉を挟んだハンバーガーが姿を現した。
「でかいな……」
「元々こっちを食うつもりだったけどな」
オバケハンバーガーにジャックは俺と同じようにかぶりついた。
しかし、何の素材を使っているのだろう。
肉がパンの圧力で肉汁が染み込んでいる。
「なあ、ジャック。その肉ってなんの食材だ?」
「《ベークド・ボア》、昨日お前らが食った《ラグー・ラビット》と同じS級食材だな」
――もう、何も言うまい。
アスナも心の中で「ジャック君だし」とか思っているはずだ。
「それも《JtR》の奴らのか」
「いや、こいつはシンディアが作ったヤツだ」
「へ?」
ついにアスナが素っ頓狂な声を出した。
「昨日《風林火山》のとこに行っただろ、その時にオレが《ベークド・ボア》をくれてやったらお礼にってコレだけもらったんだよ」
ハンバーガーを平らげるとジャックは立ち上がって伸びをする。
「噂をすれば、だな」
不意に下層側の入り口からプレイヤーの一団が鎧をガチャガチャと言わせながら入ってきた。
六人パーティーが一つと金色の鎧を纏うプレイヤー一人のリーダーを見て俺は肩の力を抜いた。
「おお、キリト!しばらくだな。ジャックは昨日ぶり」
「まだ生きてたか、クライン」
「相変わらず愛想のねえ野郎だ。珍しく連れがいるの……か……」
アスナを見て固まるクラインを余所にシンディアは固まったクラインを突き飛ばした。
「やあ《黒ずくめ》、アスナも」
「まだその名前で呼ぶのか……」
「シンディアも久しぶりね」
「ひでえぜシンディアさんよ……」
「じゃあその癖を直してよね」
クラインは頭を掻きながら言う。
彼らもあのころを考えれば随分変わったと思う。
変わらざるを得なかったのかもしてないが、シンディアが《風林火山》にこんなにも馴染むことは予想できなかった。
「けど、なんでアスナさんがお前なんかと一緒に居るんだ、それにジャックも」
「こいつら、しばらくパーティーを組むらしいぜ」
ジャックが俺がはぐらかそうとしたところに答える。
瞬間クラインの顔が見えないほど真っ黒に染まる。
「キリト、てんめえ……」
お前だってシンディアさんがいるだろと言いたかったが、そこに新たな一団の訪れを告げる足音と金属音が響いてきた。
「《軍》の連中か」
すると十二人のうち一人が「休め」と言い、後ろの十一人は倒れ込むようにその場に座った。
恐らく、あれから休憩もせずに永遠と狩りをしていたのだろう。
「私はアインクラッド開放軍所属、コーバッツ中佐だ」
男の声にジャックは聞こえるように小さな声で「中佐……」と含み笑いをしている。
コーバッツは気に留めることも無く言う。
「君らはこの先も攻略しているのか?」
「ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」
「うむ。ではそのマッピングデータを提供してもらいたい」
その言葉にクラインは異を立てたが、俺は《軍》とあまり関わりたくないので、さっとマップデータを提供した。
背中を向けたコーバッツに俺は声を掛ける。
「ボスにちょっかい出す気なら止めといたほうがいいぜ」
「それは私が判断する」
とても疲弊しているプレイヤーたちではどうこうできる相手だとは思わなかった。
コーバッツの声に十一人はのろのろと立ち上がると二列縦隊に整列しコーバッツの指示のもと歩き始めた。
彼らの姿が見えなくなった頃、シンディアが口を開く。
「ガンドーラ。ものすごく悪い顔してる」
振り返ると、狂気的な笑みと浮かべてジャックは嗤っていた。
「お前らも十分わかってるだろうが」
「コーバッツのことか」
ああ、とジャックは肯定する。
「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりしないと思うけど」
「命は惜しいからね」
シンディアがそう言うと説得力が半端じゃなかった。
「一応様子だけでも見に行くか……?」
嫌な予感がした俺が言うとクラインの仲間たちも相次いで肯定した。
ジャックも笑った顔を崩すことなく後ろをついてきた。
やはりコーバッツ達はあのボスに挑むのか?
運悪く《リザードマン》の集団に遭遇してしまい少し時間を食ってしまった。
最上階に辿り着き、半ば進んだところで彼らの姿が見えないことから安堵ではなく不安が膨らんできた。
そんな時だ。
「あぁぁぁぁぁ……」
かすかに聞こえたそれは、間違いなく悲鳴だった。
==========
何とかまとめきったと思います。
ここにきて要約の難しさを存分に思い知ってます。
しかも上手くオリキャラを原作に盛り込ませるのも非常に面倒。
でもそうしないとシンディアさんが徐々に空気になってしまうのでなんとかやっております。
今回で《JtR》のメンバーがもう一人明かされましたね。
登場…すんのかなぁ?
【次回予告】
「『有り得ない』だってよ、どんなギャグだ」
「でも、これ以上死者が出なくて良かったなんて思っちゃうんだよね私は」
「自分で考えるんだな。オレの思うことが真実と限らねぇ」
「な……なんじゃこりゃあ!?」
次回をお楽しみに!それでは。