仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
まず一言。
えー、本当に有難う御座います!!!
10/14に平均評価がついに出たのですが、その日のUA数やお気に入り登録数がホントに今までをぶっちぎりで。
興味本位で日刊ランキングを見れば31位でもう、何を言っていいか分からないくらい嬉しいです!!
教室でそれを見て思わずニヤけてしまい、ちょっと恥ずかしかったですね。
これからも、『仮想世界に棚引く霧』をよろしくお願いします!!

よく考えたら一言じゃ収めきれなかった。


唯二人

==========

 

記憶が無い事に気がついたのは戦闘が終わって第五十二層の会議場で集会が行われた時だった。

《GULA》という少年がグロリアと対峙したときからの記憶が曖昧になり、鮮明に思い出せたのは俺がジョニー・ブラックの両腕を切断した瞬間だった。

所々記憶が曖昧になり、拙い記憶を繋いでいたのだ。

その後、何も不自然に思うことなく重々しく俺達は帰路に就いた。

記憶が欠落していたことに何の疑問も覚えていなかったのか?

周りにいるプレイヤーも俺と同じことに気付いたのか隣にいる者たちと思い出したくない記憶を振り返る。

戦闘には、俺達が勝利した。

《笑う棺桶》から出た死者は三十五人。

その半数以上の死因がジャックによる殺害だった。

俺もそのうち二人のプレイヤーを戦闘の中で殺してしまった。

捕縛者は十一人、取り逃がしたのは二人。

その取り逃がした《笑う棺桶》のメンバーはリーダーのPoHと未だ謎の多いグーラという少年。

今も指名手配されているが、見つかることはあるのかと不安に駆られる。

俺達討伐隊から出た死者は十一人。

人を殺すことは生半可な覚悟では決して出来ないのだと思い知らされたのだ。

それでも、幹部格であるザザやジョニー・ブラックを捕えられたことは非常に大きな戦果だった。

そして、今から行われようとしているのはジャックとグロリアに対する尋問だった。

戦闘が終了したのに装備を外さず分厚い装甲を纏って二人の周りを何人ものプレイヤーが取り囲んだ。

二人は臆することもせずやがて今回の討伐隊のリーダーを務めていたプレイヤーが二人の前にある椅子に腰掛けた。

「それじゃあ、こちらからの質問に答えてもらおうか」

「拒否しても聞くんだろうが、早くしろよ」

男は片眉をピクリとさせたが明らかな挑発に乗ることなく言った。

「まず、何故貴様らは途中から来た」

「そうしなきゃならない理由があったからだな」

「その理由を聞いている」

ジャックはワザとらしく視線を斜め上に向けて「あー」と考える仕草をした後。

「あいつらの動向を探るためだな、戦力も解らねぇうちには飛び出さねぇし」

こんなときにも嘘のように見えて本当のことを言い放つのがジャックだ。

彼自身は嘘は吐かないと言っているがどこまで信用していいものか。

「……次に移ろう。あの鎖と煙は何だ」

鎖についてはジャックがあの時ジャックが説明した通りだろう。

煙も、俺の予想が正しければ――。

「鎖に関してはあの時も言っただろ、第二十五層ボスドロップ《補助武器》だ」

「その効果は」

ジャックはウィンドウを操作して四本の鎖を出現させた。

戦闘の時のように先端部に短剣は付いておらず、左手首に付けられた鎖を部屋の上に向けて投げた。

すると鎖は天井から垂れ下がり、灯りの部分に引っかかるのが判る。

ジャックは垂れ下がった部分の鎖を目の前の男に差し出すと「引けよ」と言った。

男は言われるがまま鎖を思い切り引っ張った。

鎖は灯りに引っかかった地点から微動だにせず、ただただ鎖は男の手に引かれるように伸びている。

「こいつの特性は《固定》と《伸縮》だ」

ジャックはそう言うと両手を前に出した。

「《固定》に関しては見ての通り、どこかに引っかかったときに人差し指の関節を押せばその場での固定と解除が自由に出来る」

出した左手の第一関節を押すと灯りに引っかかる鎖は緩み、地面に落ちた。

「第一関節は手首、第二関節を押せば足首の鎖を自由に操れる、んで」

ジャックはそう言うと人差し指の付け根あたりを押した。

男の手に握られた鎖はジャックの下へと戻り元の長さに戻った。

「付け根の部分を押せば元の長さにまで自由に戻せる、これで十分だな」

「それに、武器を取りつけられるということだな」

「戦闘で見た通りだ、《死刀》にはもってこいだなぁ」

含み笑いをするジャック、《エリュシデータ》の化け物性能も確かだが、ジャックが《投短剣》を極めたのはこのためだったのか。

「それじゃあ、煙について聞こう」

「ここにいる奴らは大体の見当がついてんだろ?」

「一応、貴様の口から聞いておいた方がいいのでな」

男はジャックを睨んで冷たく言った。

ジャックは面倒臭そうに椅子に凭れかかり短く一つの単語を口にした。

 

「――《濃霧》」

 

《笑う棺桶》とは違い、装備の隙間からではなくブーツの隙間から緩やかに白い煙が噴出する。

驚いて煙から飛び退くプレイヤーもいるが煙はあっという間に足元を覆い隠した。

「《ユニークスキル》、貴様も持っていたのか!!」

恨めしそうな声を上げて男は歯を食いしばった。

「おやおや?オレに角を立てんだったら《神聖剣》の野郎は一体どうなんだよ。あいつの方がオレよりもよっぽど強い能力なのになぁ」

「……この煙は、視界を遮るだけのモノなのか」

ジャックは「いや」と答えながら足を組む。

依然としてブーツからは煙が出ている。

 

「こいつに触れている間は一切の非戦闘系スキルとアイテムの使用禁止と効果の完全無効だ」

 

「それは、お前もなのか」

恐る恐る男はジャックに尋ねた。

「例外はねぇな、モンスターだろうが効果を発揮する。因みに煙じゃなくて霧だ」

 

――戦慄。

 

ジャックの言葉の裏に隠された真実に気付けた者は何人いるだろうか。

きっと、それに気付けない者はジャックがさらに厄介になった程度にしか思わないだろう。

しかし俺は記憶の中にある一つの光景を思い出した。

あの霧の後に立っていたのはジャックとグロリアだけ。

非戦闘系スキルが使えないということは相手の位置も把握することが出来ないはずだ。

故に本来の使用方法は今ジャックがやっているように足元だけ霧を発生させるやり方だ。

だが、あの時ジャックは二メートル近くの高さを持つ霧を作り出した。

(ジャックは、霧が棚引く前に全てのプレイヤーの位置を記憶したのか?)

いや、それだけで全員を殺すことは不可能だ。

いきなり霧に体全体を包まれれば誰だって動揺する、その場に留まる者も居れば動き回る者だっているはずだ。

じゃあジャックは一体どうやって……。

彼の方を向くと、ジャックは俺の方に視線だけ向けた。

狂気的な笑みを浮かべながら片目だけ俺の方を向けている。

電流が奔るように俺の頭に一つの可能性が浮かんだ。

 

――足音を聞き分けてどこに移動したのか把握したのか!?

 

なんて突飛なことを想像しているのだと思う。

もしかしたら、ジャックだけには霧の中でも視界に何の影響もないという可能性もあった。

だが、俺の頭はジャックがそうしたとしか思えなかった。

だとしても、とても人間に出来る技ではない。

椅子に深々と座って退屈そうにしているジャックを見る。

そして記憶の中から俺はもう一つの疑問が浮かんだ。

男はその事に気付いていなかったのだろうか。

それを聞くなら、今しかない。

「そういえば、あの時なんで短剣が二本消えたんだ?」

人混みの後ろでそう言った俺に視線が集まる。

「何かあったのか《黒の剣士》」

男が俺を呼ぶように声を出し、俺は人を掻き分けてジャックとグロリアがいる場所へと向かう。

「ザザがジャックのところに来た時だ。鎖をしまったジャックの手には四本の短剣が残ったのに一瞬で二本が消えた。《死刀》はそんな事は出来ないはずだ」

「確かに、地面に落ちない限り短剣は消えることはないな。それを見た者はいるか?」

男が呼びかけるとちらほらと「そんなことがあったような」という声が上がる。

「どうなんだ、《殺人鬼》」

そう言われたジャックの方を見ると、彼は笑っていた。

「よく気付けたな、普通気のせいと思いこむのにな」

満足そうに笑うジャックはブーツの裏を高く上げた。

そこにはくっきりと短剣の形をした窪みがあった。

「オレが制作した《死刀》専用防具だ」

「制作した……?」

それはつまり、ジャックは《鍛冶》スキルを取得しているということだ。

「誰が好き好んでオレの短剣を整備すんのか、考えりゃすぐ解るだろ」

その一言で納得するとジャックは《リッパー・ホッパー》を取り出して右足の窪みにはめ込んだ。

ブーツの大きさはかなり大きいため短剣の切っ先が僅かに出ているが短剣はほとんど隠れていた。

「あとは、こうやるだけだ」

ジャックは立ち上がると短剣をはめ込んだ右足の爪先で軽く地面を叩いた。

するとシャキッと音を立てて《リッパー・ホッパー》の刀身だけが爪先から飛び出した。

ブーツの底は厚くなっており、本当に短剣を仕込むための物ということだ。

ジャックは切っ先を地面に押し込むと刀身は再び足の下へ。

足を上げて短剣を引き抜くとジャックはそれを俺に突き付けた。

 

「これでオレの隠し玉は打ち止めだ」

 

ニヤリと笑いを浮かべ言った。

「まだ聞くことがあんのか?」

「ああ」

男はすぐにジャックに応える。

恐らく、一番本題に近い部分の話だ。

「《笑う棺桶》との戦闘中に我々の記憶の一部が欠落しているのだ、貴様は何か知っているのか」

「なんでオレに聞くんだよ」

「質問を質問で返すな、私が先に聞いているんだ」

ジャックは「やれやれ」と言ってから男を見る。

「さっきも言った通りオレにもう隠し玉はねぇんだぜ?」

「なら、《JtR》だったらどうだ」

男は今度は座っているグロリアに視線を向けた。

「知りませんよそんな事、私達だって記憶が無いんですから」

仮面で顔の上半分が隠れているので彼女が今どんな表情をしているのかは解らない。

彼女の言っていることが嘘か真かの判断は《DDA》の男に委ねられる。

少しの沈黙の後重たい口を開いた。

「分かった、この件はリーダーと《神聖剣》で話し合ってもらうこととする」

先送り、ということか。

何か……違う気がするんだ。

男が手を上げると周りを取り囲んでいたプレイヤー達が一斉に退いた。

今回のことで俺達のジャックに対する恐怖はさらに膨れ上がった。

邪魔さえしなければ狙われないということの裏にはジャックの恐怖を近くで感じるのは俺達だと言うことだ。

身内の死は怒りを生むが、他人の死は恐怖しか生まれない。

ジャックとグロリアは道を開くプレイヤーたちの間を歩き抜けるとジャックはで口で立ち止まって振り返る。

 

「じゃあな」

 

そう言った言葉がやけに頭の中で残っていて……。

ジャックの装備の隙間から霧が噴出する。

霧が晴れたときに二人の姿は無く、なし崩しに解散となった。

 

==========

 

攻略をする気分にはとてもなれずに俺は宿のベットに飛び込んだ。

天井で揺らめく火に目を向けてぼんやりと今日のことを振り返ってみる。

ジャックは俺の想像を遥かに超えていた。

最初に彼を見たときに感じていたモノより高い場所からジャックは俺達を見下ろし操っている。

《鎖》も《濃霧》もジャックのためだけに作られたのではないかと錯覚してしまう程に。

なのに、彼はまだ《神聖剣》と戦うことを拒んでいる。

俺にはそれが不思議に思えて仕方が無かった。

確かに《神聖剣》は強い、それは近くで見て来た攻略組だからこそ解る。

言葉では語れないとはこういうモノだと言うスキル。

それでも、俺は《神聖剣》ヒースクリフがジャックの上に立つ人間だとは考えられなかった。

それは贔屓目で見ている訳ではない。

あの戦いでもジャックではなくヒースクリフがいたらどうなっただろうか。

不謹慎にも、俺は負けていたのではないかという想像をしてしまう。

いろいろなモノを見てしまった。

始めて人を斬った。

それも首を、この手で撥ねたんだ。

現実ではどうしようもない一ゲーマーの少年だと言うのに。

対してアスナは誰も殺めない、いや出来なかった。

元々彼女には縁の無い話だったのだ、人を殺すことは。

始めてアスナに会った時もゲームを好んでいるとは思えず、攻略の鬼と呼ばれたのも彼女には現実でやるべきことがあったはずだ。

それなのに《笑う棺桶》と対峙して、人を傷つけて。

剣先が震えているのを見て俺は哀しみを覚えた。

クラインは、必死に戦っていた。

彼も、俺と同じようにプレイヤーを殺害した。

仲間を守るために戦いに必死になるのはシンディアの時と変わらない彼の長所だった。

結局《風林火山》は参加したメンバーは誰一人欠けることは無かった。

表面上は彼らも喜びを露わにしていたが、それは殺しをした結果に手にしたモノ。

そんな彼らを支えたのはクラインだった。

彼はとても強くなっていた。

きっと、シンディアのことで自分の中の何かが変わったのだ。

彼らを待ち続けるシンディアも『死』と戦っていたはずだ。

正面を向いていた身体を横に向ける。

壁の木目を何となく指でなぞっていた。

 

『世――……人だ―…人殺しが――る―……人…』

 

(……!?)

思わずベットから跳び起きた。

今のは、俺の記憶だ。

それにさっきの声はジャック?

いったい、あのとき何があったんだ。

ジャックとグロリアが現れ、霧が棚引き、PoH達が姿を現した。

それぞれ一騎打ちをする様に浮遊する足場を動き、その後は……。

その後は一体どうなったと言うんだ!!

頭をがしがしと掻くが答えが出てくることは一向に無かった。

眠る気になれずに俺は宿を飛び出した。

 

==========

 

「よう、キリト」

最前線へと転移してきたところで転移門付近、出会ったのは今俺を一番苦しめている存在。

「今からダンジョンに行くのか、精々死ぬなよ」

「ジャック、話がある」

俺がそう言うとジャックは立ち止まる。

「手短にしろよ」

ゆっくりと、俺は言葉を紡いだ。

 

「どうして、お前は《殺人鬼》なんだ」

 

ジャックから表情が消える。

ほんの少しの沈黙の後、ジャックは嗤った。

「特別に答えてやるよ」

その言葉に、俺は強烈な既視感を覚えた。

徐々に、欠落していた記憶の一部が蘇る。

あの時、戦闘が終わって俺達は心身ともに疲弊し座り込んでジャックの方を見ていたんだ。

 

――彼の近くにはグロリアと、もう一つの影があったはずだ。

 

どうしてもそれを思い出すことが出来ない。

「キリト、お前は知ってるか?」

同じだ。

その顔も、声色も。

(お前は一体何を知っているんだ)

「もしも世界が百人しかいなかったら今生まれようとしているのは何人だ?」

「えっ?」

「答えはたった一人」

ジャックは嗤う。

「それじゃあ……」

 

「『世界が一万人だったら人殺しが出来るのは何人だ』」

 

思い出した言葉は、まさしくそれだった。

「だからオレは《殺人鬼》なんだよ、オレとヤツでこの世界に存在するのはたった二人だ」

ヤツというのは……恐らくPoHのことだろう。

「けどな」とジャックは言う。

 

「《殺人鬼》が二人存在するように《勇者》と《英雄》は一人ずつ存在してんだぜ」

 

==========




今回懐かしいネタを出したと思います。
『もしも世界が100人の村だったら』というのを知ったのは随分昔の事です。
ジャックについての説明回でしたが前回の謎が少し明かされました。
しかし、また謎が増えましたね。
記憶の断片とサブタイにしたのはこれの為ですね。
意外とサブタイも重要だったりします。

【次回予告】

「シェフ捕獲」

「そりゃ片手が空いてるのに何で盾を持たねぇのかってとこだろ」

「いや、こいつはシンディアが作ったヤツだ」

「私はアインクラッド開放軍所属、コーバッツ中佐だ」

次回をお楽しみに!それでは。
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