今回は所謂ターニングポイントと言うやつです。
細かい話はあとがきでしますので物語をお楽しみください。
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最前線の会議場には未だに緊張が張りつめていた。
それは、これから始まる戦いもあるのだが、皆が考えているのはたった一つだ。
――《笑う棺桶》の所在が判明してからジャック及び《JtR》が三日間姿を見せていないからだ。
一日目までは誰もがイライラを募らせた。
二日目には怒りが頂点に達して情報屋たちを起用したが失敗に終わり。
三日目には拭いきれない違和感として現れた。
(このままで本当に勝てるのか?)
俺も少なからず動揺はしている。
だが、ジャックが見つけられない以上彼抜きで作戦を開始するしかない。
加えて《DDA》の幹部で討伐隊のリーダを務めているプレイヤーもジャックには期待していたらしく統率を取れるか心配だ。
ヒースクリフも攻略以外はアスナにほとんどを任せているので彼の姿はない。
『死』の恐怖を誰よりも知るシンディアもクラインたちが来るのを止め攻略組で強大な発言力を持つプレイヤーは誰もこの場に居なかった。
そんな時だった。
突然俺の耳に入ってきた軽い一つの音。
コンマ数秒で目の前に出たウィンドウの文字に俺の視線は必然的に吸い込まれた。
「ジャック……ジャックからのメッセージだ」
さまざまな感情を表にしたプレイヤーたちが一斉に詰め寄ってくる。
内容に目を向けることも出来ないままに俺はメッセージを開いて可視化した後、大衆の方にそれを向けた。
それを凝視したプレイヤーたちは落胆の表情を浮かべた。
何があったのかそれだけで察することは容易だ。
俺の方に向けると一行の文字列。
【なにがあったか知らねぇが、一緒に行くことはできねぇな】
小さくため息をついてからウィンドウを閉じた。
兎に角、これで割り切ってくれると良いのだが……。
「皆、聞いてくれ」
リーダーの男が口を開いた。
「俺達は、今こそあの《殺人鬼》を超えるときじゃないのか」
一人、また一人とその言葉に闘志を燃やしているのが判った。
「ヤツがいなくても俺達だけでクソッたれな《笑う棺桶》を壊滅させるんだ!」
高らかに武器を掲げるとそれに賛同するように次々と武器が掲げられる。
しかし、俺はその中で気付いていた。
――この状況を作り出したのが他ならぬジャックだと言うことに。
結局はジャックを出し抜こうとして走りだしたのはジャックの掌の上。
それに気付かない彼らはどこまで言ってもジャックに敵うはずはないんじゃないのか。
だが、それを口にすることはない。
今俺達がやることはただ一つだ。
余計な事は何も考えず、我武者羅に。
男の大きな号令とともに回廊結晶が開く。
俺達は飛びこむと視界が変わったのにも気を止めず走り始めた。
下手に感づかれれば逃げられる可能性があった。
バレない限界と予測される地点で回廊結晶の出口を作り六十人を超えたプレイヤー軍は一気に洞窟の前までたどり着いた。
情報なら《笑う棺桶》の規模は四十強。
戦力差はこちらが圧倒的だ。
レベルも技術も死線を幾つも乗り越えてきた俺達の方が上だ。
それでも、俺の心の中にはジャックの時とはまた違う拭いきれない不快感が残っていた。
洞窟の中に人影はなく、周りに常に気を配りながら進んでいく。
やがて中腹に辿り着いたのか、四角形の浮遊する地面が無数に存在するエリアに到達する。
ここでリーダーの男が振り返って作戦の再確認をした。
情報通りアジトの最深部に奴らは潜伏し、この時間帯は見周りも居ない。
最後に男は口にする。
「もちろん奴らは最後まで抵抗してくるはずだ。殺したとしてもやむを得ないだろう」
ここにきて、それが現実味を帯びてくる。
いや、ここは現実ではない。
ゲーム的という言葉がいちばん様になる。
浮遊する床に乗って部屋の中央部に来たその時だった。
――視界の《索敵》範囲に複数のプレイヤーカーソルが現れた。
まだ、俺も甘かったと自覚する。
ジャックの思惑に気付いた時点でこれにも気付くべきだった。
《笑う棺桶》のメンバーが俺達の中に紛れ込んでいる可能性を!!
つまり、作戦は奴らに完全に知られているだろう。
複数のプレイヤーが四方から飛び降りてくる。
即座に思考を吐き捨てて《エリュシデータ》を引き抜いた。
こちらに向かってきたプレイヤーが繰り出した剣を《エリュシデータ》で受け止める。
狂った声と金属音が耳に響く。
――戦争が、始まった。
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さすがに《笑う棺桶》が待ち構えていたことには動揺したが、ジャックの存在と今まで繰り広げた戦いにより順応能力の高かった俺達はあっという間に戦況をひっくり返した。
数の暴力と経験の差。
戦局が変わったのは戦闘が始まってから数分のことだった。
体力ゲージを危険域まで落とされた《笑う棺桶》の一人が討伐隊の三人に囲まれて投降を要求された。
しかし、その男はそれを聞き入れもせずに瀕死のまま三人に切りかかる。
(これ以上攻撃すれば自分も人を殺してしまう)
三人はきっとこんなことを思っていたのだろう。
無抵抗のまま一人の首が飛んだ。
それに慄いたもう一人も胸を貫かれて爆散する。
そして、これが俺達と《笑う棺桶》の決定的な差だった。
モンスターとは違う。
如何に、人を殺すことを躊躇わずに行えるか。
ジャックのせいで『死』に俺達が慣れたと勘違いしていたんだ。
実際、自分がその立場に立ってようやく気付くんだ。
本当に『死』に慣れる――。
いや、『死』の感覚に慣れなど無い。
それを知ったのはシンディアだけだ。
二人のプレイヤーが一気に殺されたことに最後の一人は腰を抜かして「来るな……」と掠れた声を出している。
男の方を向いた《笑う棺桶》のプレイヤーは嗤う。
そして手に握られた剣を振り下ろそうとした。
――その腕を、俺は首ごとふっ飛ばした。
何が起きたか解らないという顔をしながら《笑う棺桶》のプレイヤーは硝子片となって消えていった。
最初に対峙したプレイヤーを捕縛して何とか間に合うことが出来た。
手に握った剣が身体に一体化しているようだった。
立ち眩みがしているような不思議な感覚。
足取りはしっかりとしていて視界も良好だ。
だが、心の中は燃え滾っていた。
再び戦局は変わる。
「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!!!」
違う、時が止まったのだ。
突如聞こえた声には聞き覚えしかない。
こんな特徴的な笑い方をするのはこの世界でたった一人。
「何故ここに」とは聞く必要もなかった。
が、それ以上に百人近くのプレイヤーは驚愕することになる。
――音の爆発に似た笑い声が頭上から聞こえたことに。
上に広がる洞窟の暗闇からジャックは姿を現した。
その両手両足首には銀色に輝く鎖が。
四本が天井に向かって伸びており、鎖は徐々に伸びていきジャックが上から下りてくる。
すると、上にはもう一つの影があった。
背中まで伸びた黒髪は首元で一括りにされ顔の上半分を覆う仮面には大きな目が一つ描かれている。
ここにいる誰よりも小柄なその少女は鎖から手を話すと十メートルは上から降りて来たのにも拘らず無傷で着地に成功した。
そして茶色を基調とした格好に違和感がある肩の黒い金属に自然と目が行く。
左腕を横に出し指を下に向けその腕とクロスするように右腕が立てられ中指が一直線に立っているモノ。
間違いない。
「どうも、《イナニス=グロリア》です」
そう言う彼女が前回会った時と特に違っていたのはその武器だ。
青白く輝くトンファー。
《
やがてジャックも飛び降りると天井から鎖が外れて彼の足元に四本の鎖が音を立てて落ちる。
その鎖の先には《リッパー・ホッパー》が取り付けられていてまるでその姿は――。
「《タナトス》……?」
「ビンゴだ、キリト」
笑みを浮かべながらジャックは鎖を掴んで後ろに放り投げる。
「こいつが、第二十五層の《LAボーナス》《補助武器》カテゴリに位置する《鎖》だ」
《補助武器》の名の通り《投短剣》の《死刀》を補助しているのが解る。
鎖の先に取り付けた短剣なら地面に落ちても破壊されずあれでは無限に弾丸があるのと同じことだ。
四つの鎖の内一つを手元に手繰り寄せるとジャックは「あげゃ」と嗤う。
「これでオレがテメェらを殺す理由が出来たって訳だなぁ」
すると、ジャック達がいる俺達とは離れた床に複数のプレイヤーたちが飛んだ。
(まだ、部隊が構えていたのか!?)
そして、背後からの鋭い殺気に気付く。
再び、戦闘が始まった。
「ジャック様あ!!」「本物のジャック様だなあ!!」
この声で、ジャックへと向かって行った連中がジャックに感化されて《笑う棺桶》に加入したのだと解る。
今《鎖》という新たな力を見せたジャックはどう立ち回っているのか。
目の前の相手を対処しながら思考の隅でそんな事を考えてしまった。
(なら、コイツをすぐに倒すだけだ)
何度か繰り返した剣と剣のぶつかる瞬間。
俺は剣を引いて懐に一気に入り込んで両腕を斬り飛ばした。
HPはまだ残っており完全に無力化したプレイヤーを俺は《DDA》が特に密集している地帯に「あとは任せた」と言って投げ飛ばす。
その場から飛び退いて周りを気にしながらジャックのいる足場へと目を向ける。
すでに、そこでは殺人が行われていた。
ジャックの前に立つグロリア。
《叉刃拐》には赤いポリゴンが付着しており、それを振るう。
彼女の前には二人のプレイヤーが切り刻まれHPは危険域だ。
「何故だ、貴様もジャック様に惹かれた者なら解るだろう、この方の偉大さが!!」
「ジャック様には神が宿っているんだ、それを我々は解放するために存在している!」
二人の男はグロリアに向かって叫んだ。
賛同するように周りにいる十数人のプレイヤーが叫ぶ。
ジャックは無表情だが鬱陶しそうにしていた。
まさか、こんな考えを持っていたなんて俺も予想外だった。
「「偉大なる神よ、今こそ我らが解放して差し上げますジャック様」」
二人のプレイヤーは同時に跳び出した。
「小娘、貴様はジャック様への生贄とする!」
「心置きなくあの世でジャック様の降臨を見るがいい!」
左右に散開して全く同じタイミングで一人が跳びかかる様に剣を振り下ろし、もう一人は姿勢を低くして剣を突きあげた。
それを身体を捻りながら背面に跳躍、右手を地面について身体を浮かせた。
二つの剣が彼女の居た場所を通り過ぎ、二人は彼女の方を向く。
並んだ二人のプレイヤーは空中から落ちるグロリアの叉刃拐に貫かれた。
躊躇いなど見えない殺人を知る者同士の戦い。
「じゃ、テメェらは纏めてオレが相手をするか」
グロリアの肩に手を置いてジャックが前にで出る。
周りを取り囲む《笑う棺桶》達の目がギラついた。
小さな声で「ジャック様……」と言い、各々手に握られた武器を強く握る。
ジャックは四本の鎖を戻すと先に取り付けられた四本の短剣を二つ握る。
鎖の長さも調節できるようでどの鎖も三十センチにも満たない長さだ。
「みんな、行くぞ。ジャック様が直々に相手を相手をしてくれると言ったんだ」
フードを被ったプレイヤーが腕を上げる。
そして、その腕が振り下ろされる刹那。
「――」
ジャックが何かを口にした。
そして、視線は再びジャックに集まる。
――彼の防具の隙間の至る所から白い煙が噴き出していた。
数秒も経たないうちに煙はジャックたちがいる足場を包み込む。
違う、ジャックがいる場所だけに煙は広がった。
それはその場にいるプレイヤーの体全体を覆い隠し、外から見ると何が起こっているのか全く理解できなかった。
何故か寒気がした。
恐怖ではない、物理的な寒さを感じたのだ。
今それが起こったということはジャックの体から噴出したあの煙が原因のハズだ。
そして、俺は気付く。
「霧……」
そう、第五十三層で発生した謎の霧。
結局あの主街区で霧が発生したのは俺が見た一回きりでフロアボスも霧を使うようなモノではなかった。
なら、やっぱり第五十一層と第五十二層を突破したのはジャックで、これは間違いなく……そうだ。
――《ユニークスキル》。
ジャックも、持っていたんだ。
このゲームバランスを崩壊させてしまう程の絶対的な力を。
一分も経たずに霧は晴れた。
目に映った光景に驚愕したのは俺だけではない。
だが、予想は出来ていた。
それでも、驚くことしか出来なかった。
足場に立っていたのはジャックとグロリアだけ。
幾つもの武器は無造作に地面に置かれ、先程まで誰かが持っていたと物語る。
そしてグロリアの立ち位置が先程から変わっていない。
ジャックがたった一人で十数人のプレイヤーを殺害したんだ。
あの視界の中でどうやってジャックは敵の位置が把握できた?
それも《ユニークスキル》の特性のひとつだと言うのか?
ジャックは狂気を纏いながら笑う。
残った霧は足場の隅から下に落ちていく。
ジャックのしたことを目の当たりにして恐怖を増幅させた者たちはいる。
が、彼が来たことに俺達は少なからず安堵していた。
しかも、これで《笑う棺桶》の戦力は大分削ることが出来た。
戦力も二倍の差がある。
しかし、三度戦況は変化する。
「It's Show time」
アジトの奥から出て来たのは三人のプレイヤー。
三人は《圏内事件》の時に見た《笑う棺桶》の幹部とリーダー。
「皆さん遅いですよ!」「やっとヘッドが来たぜ!」
彼らを見て雄叫びを上げるプレイヤーたち。
(PoHが出て来ただけでここまで士気が上がるモノなのか)
思わず舌打ちが出る。
「お前ら、行くぞ」
「分かってますぜヘッド、好きにやっちゃっていいんですよね」
「……了解」
PoHの一声で嬉しそうな顔をするのはジョニー・ブラック。
ザザは仮面の奥で呟くと飛び出した。
「お前には前に恥をかかされたからな、俺が相手してやるよ《黒の剣士》ィ!!」
黒い覆面の男は毒の付いたダガーを俺に構えて立つ。
ジャックの方に向かったのは仮面の目の部分の赤い光を目一杯に光らせたザザだ。
PoHの野郎は高みの見物ということか……。
だが、それだけでは終わらなかった。
「すいません
もう一人のプレイヤーが奥から出て来る。
真っ黒の帽子を被り、目元には大きな茶色のゴーグルをつけている。
赤いスカーフのような布で口元を隠しスカーフに大きく描かれた《笑う棺桶》のギルドマークの口の部分が見える。
「気にするな、こっから戦局をひっくり返す。なんて愉快なshowだと思わねえか?」
「じゃあ俺は、そうですね」
PoHの隣に立つプレイヤーは周りを見渡すと視線が止まる。
「《JtR》か……」
グロリアは自分が標的にされたと気付いたようだ。
「ジャック様、ちょっとここを離れます」
「ザザならオレで十分だ」
ジャックはそう言って鎖から四本の剣を掴むと鎖をしまった。
「テメェもオレと戦いたかったんだろ?」
突如、四本の短剣の二本が消える。
両手に残ったのは二本だけなのだが、残りは一体どこに?
「ああ、お前は、俺が殺す」
ザザも了承して《刺剣》を取りだす。
グロリアは別の足場に跳び、ゴーグルの人物もPoHの隣から同じように足場を跳んでいく。
やがて二人は俺達からかなり遠くに離れた決闘場のような正方形の足場に着地した。
グロリアも俺の目から見れば小柄で年下だとすぐ判ったが、こちらは決定的だ。
PoHと並んでいても身長差がはっきりと判りグロリアより少し大きい背丈。
――そう、彼は少年だ。
「ザザ、ジョニー、《グーラ》。好きに暴れろ、It's show time!!」
決め台詞のようにPoHはそう言い放った。
《グーラ》と呼ばれたのがグロリアと対峙するあの少年のアバターネームか。
ただ、やはり目に付くのはその身長の所為だからなのか……。
彼の背中に背負うような形で縛り付けられた巨大な鎌。
刃を蝕むように漆黒が広がり、唯一の刃の部分もほとんどが黒で埋め尽くされている。
少年はその身長を超える長さを持った鎌を取りだし、握る。
グロリアもそれを見て叉刃拐を構えた。
「何ぼおっとしてるんですか《黒の剣士》さん、俺と遊ぶのは楽しみじゃないの?」
挑発的な声でジョニー・ブラックは乾いた笑い声を上げる。
ジャックとザザも戦闘が始まろうとしていた。
そんな俺が一つ危惧したことは、誰も止める者がいないPoHが何をするのか。
俺はジョニーにバレない範囲でそっと視線を向けた。
「さて、じゃあ俺も参戦させてもらおう」
PoHは《友切包丁》を取りだして未だに混戦する場に降り立とうとしていた。
「そうだ、PoH」
ジャックが口を開いた。
「お前にはオレが特別に対戦相手を選んでやった、感謝しろよ」
「何?」
ジャックはそう言うと短剣を握ったまま左手の親指と中指を合わせて高く掲げた。
「来い、《―――》」
彼は、その時何と言ったのか。
ジャックが最初に下りて来た暗闇から何か物体が落ちてくる。
――それを思い出すことは、誰も出来なかったのだ。
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さまざまなオリキャラの登場とこの結末。
ラフコフ討伐戦はジャック以外の全てのプレイヤーに大きく関わってきます。
それゆえにキリト君視点では此処までが限界なんです。
グロリアの武器やグーラの武器も僕の好きなゲームからネタを持ってきております。
さて、今回はどうでしたでしょうか。
ジャックの新武器やスキルの登場。
何故ジャック達は最初から現れなかったのか。
グーラと呼ばれた少年とは。
ジャックが最後に放った言葉は。
ほんと、こんな書き方ですがお楽しみください。
【次回予告】
「例外はねぇな、モンスターだろうが効果を発揮する。因みに煙じゃなくて霧だ」
「誰が好き好んでオレの短剣を整備すんのか、考えりゃすぐ解るだろ」
「これでオレの隠し玉は打ち止めだ」
「どうして、お前は《殺人鬼》なんだ」
次回をお楽しみに!それでは。