原作沿いですのでジャックはあまり介入しません。
ま、この回にはあの方たちが登場しますしこう言った回では様々な人物の一挙一動に注目してもらいたいですね。
もしかしたら各キャラ達の関係性が見えてくるかもしれませんよ。
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翌日、アスナと合流した俺はシュミットのことを話した。
「DDAが?」
「ああ、彼が犯人の可能性はほとんどないけど、何かを恐れていたってことは……」
「そうか……、そうだね。あの殺し方に加えて、武器の名前が《罪の荊》……」
無差別PKではなく、カインズというプレイヤー個人を狙った処刑。
そして、過去にカインズ、グリムロック、シュミットの間で起きたと思われる何らかの出来事。
「つまり、動機は《復讐》、いや《制裁》ってことだよな」
「そう考えると、シュミットはむしろ犯人じゃなくて狙われる側、だったって感じね」
「兎に角、何が起きたのか知る必要があるな」
「そうね。特に、ヨルコさんに話を聞くときはね」
同時に頷くと、待ち合わせていたジャックが現れた。
「時間ピッタリだなジャック」
「おう」、と軽く返事をしてジャックは椅子にどかっと座った。
その行動にアスナがびくっとする。
ジャックが口の端を釣り上げていることからワザということに気付き思わず苦笑いをしたところでちょうど時刻は十時になった。
宿から出て来たヨルコは、あまり眠れなかったらしく、何度も瞬きを繰り返しながら俺とアスナにぺこっと一礼し、ジャックにもゆっくりと礼をした。
「悪いな、友達が亡くなったばかりなのに……」
「いえ……」
ジャックはそんなヨルコの姿を頬杖をつきながら見ていた。
「いいんです。私も、早く犯人を見付けて欲しいですし……」
そんな俺達は昨夜夕食を食べ損ねたレストランのドアを潜った。
四人分のお茶をオーダーして本題に入る。
まず、カインズさんはあの時刻に確実に亡くなっていたこと。
次に《シュミット》と《グリムロック》について聞いた。
すると彼女は俯きながらかつて自分とカインズが所属していたギルドのメンバーだと答えた。
つまり、そのギルドで起こった《何か》が今回の事件の引き金ということだ。
そして俺達はそれを知らなければならない。
意を決してヨルコさんに《復讐》あるいは《制裁》の可能性が無いか聞いた。
すぐに返答は返って来ず、答えに迷っているように俯いている。
ついに出てきた言葉は――是。
彼女がかつて加入していた《黄金林檎》というギルドである日起こった事件。
偶然ドロップした装備アイテムが当時の彼女らにはとてもレアなものだった。
故に、メンバー八人で会議をし、誰かが持つか、売却するか。
結果は三対五で売却だった。
しかし、そのアイテムを持ったリーダーは帰って来なかった。
その死因は、貫通属性ダメージ。
俺達はそれをとても偶然とは思えなかった。
沈痛な表情で俯く年上の女性に、俺はあえて乾いた口調で尋ねた。
「そのレア指輪の売却分配に反対した三人の、名前は……?」
「カインズ、シュミット……そして私です」
「そんなとこだろ」
ジャックが口を開く。
その顔には表情はなく、ただただ頬杖をついてヨルコの方を見ていた。
「それで……グリムロックですけど……」
突然その名前を斬りだされ、俺は真っ直ぐに座り直した。
「彼は《黄金林檎》のサブリーダーでした。そして同時に、ギルドリーダーの《旦那さん》でもありました。もちろんSAOでの、ですけど」
「へぇ」
ジャックが興味を示したように目を見開いた。
ヨルコとアスナはその姿に恐怖を覚えるがヨルコは震える口を開いた。
「それで、リーダーが死んじゃった後はいつもニコニコとしていたグリムロックさんもとっても荒んじゃって。ギルド解散後は誰とも連絡を取らなくなって、今はもうどこにいるのかも判らないです」
「そうか……。最後にもう一つだけ教えて欲しい」
一息ついて言葉を発しようとしたときに、ニヤッと笑うジャックの顔が目に付いた。
「カインズさんを殺したのがグリムロックさんだ、という可能性は、あると思うか?」
「……はい……その可能性はあると思います」
長い逡巡を見せた後、ごく小さな動きで、首を縦に振った。
「でも、三人ともリーダーを殺して指輪を奪ったりなんかしてません。もし昨日の事件の犯人がグリムロックさんなら私も、シュミットも殺すつもりなのかもしれません」
俺達三人はヨルコを下の宿屋に送り届けたあと、数日分の食料とアイテムを渡して絶対に部屋から出ないよう言い含めた。
「……ほんとは、KoBの本部に移ってもらえればもっと安心なんだけどね……」
アスナの言葉に頷きながら「まあな」と相槌を打つ。
「ジャックはどう思う?」
さっきからあまり言葉を発していないジャックに声を掛ける。
「オレよりも適任なヤツがいるだろ、この世界じゃあな」
ジャックがそう言うと俺は考え事をしながら首を縦に振る。
「今は、カインズさんの殺人の手口の詳しい検討をするってことね」
ジャックの言葉にアスナは笑って答える。
「でもジャック君より適任な人っていたかしら」
「……あ」
俺はふと、一人のプレイヤーの名前を思い付き、指をパチンと鳴らした。
「いるじゃん。あいつ呼び出そうぜ」
「誰?」
俺が名前を告げた途端、アスナは目を剥いてのけぞり、ジャックは笑った。
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アルゲードの街は途轍もない喧騒に包まれていた。
野次馬どもからは「なんだデュエルか!?」「あんなことが有り得るのかよ」「きっと何かとんでもない事が起こったんだ!」と各々勝手な事を言って騒いでいる。
ギルド《血盟騎士団》リーダーにしてジャックですら戦いを拒んだアインクラッド最強の剣士。
――《神聖剣》ヒースクリフ。
アスナがびしいっと音がしそうな動作で敬礼し、急ぎ込むように弁解した。
「何、ちょうど昼食にしようと思っていたところだ。かの《黒の剣士》キリト君にご馳走してもらえる機会などそうそうあろうとも思えないしな」
「それに」と言いながら俺の隣に視線を向ける。
「ジャック君と話すのも久しぶりだったからね」
「会うたびに勝負仕掛けるヤツに話すことがあると思ってんのか」
少しイラついた口調でジャックが言う。
《殺人鬼》、《神聖剣》、《閃光》、《黒の剣士》。
攻略組の二つ名持ちのほとんどがこの場所に集結したのだ。
《黄金》でもいればもう『二つ名持ち全員集合!』といった感じなのだが。
「あれ、《黒ずくめ》に、アスナに、《神聖剣》に、ガンドーラじゃない。勢揃いで何をしているの?」
――これがフラグの力というやつなのか。
転移門から出て来たのは全身に黄金の鎧を纏うプレイヤーが。
いっそうざわめきが強くなる。
「ナイスタイミング」などと隣でジャックが笑うが、正直俺とアスナはもう一杯一杯だ。
件の《黄金》、シンディアは兜を外して髪の毛を纏めると微笑みを浮かべて近付いてきた。
「これからオレらで飯行くんだが、テメェも来るか?」
俺とアスナはその言葉にこれ以上やめてくれと言いそうになった。
しかし、それは同時にシンディアに対して「お前は来るな」ということとなり、恐らくこのアインクラッド中にいると思われる彼女のファンのプレイヤーに粛清されかねない。
よってシンディア自身が断ってくれるのを願ったが……。
彼女はこちらを見ると悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「いいよ、こんなメンバーで昼食なんて二度と取れないんじゃない?」
不覚にもその表情にドキッとしてしまうのは男の性だからなのだろうか。
そんな俺はいつもの数十倍は強い殺気をどこからともなく当てられ、冷や汗をだらだらと流す羽目になった。
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そんな四人を引き連れて俺が入ったのは俺の知る限りアルゲードで最も胡散臭い、謎のNPCメシ屋だった。
「帰りもちゃんと案内してよね」
「ホント好きだなお前」
「もう路地裏の脳内マッピングも終わってるんじゃない?」
「道端のNPCに頼めば十コルで広場まで案内してくれるぞアスナ君」
四者四様の反応をしながらすたすたと店に入って行く。
狭い店の中は予想通り無人で、五人でテーブルに座り、陰気な店主に《アルゲードそば》五人前を注文する。
「なんだか……残念会みたくなって来たんだけど」
「気のせい気のせい。それより忙しい団長殿のために早速本題に入ろうぜ」
向かいで涼しい顔をしているヒースクリフを、ちらっと見上げて俺は言った。
ジャックはペン回しのようにナイフをくるくる回し、シンディアは興味津津と言ったところだ。
昨夜の事件のあらましを、アスナが正確かつ簡潔に説明していく。
《神聖剣》も《黄金》も表情を変えずに聞いていたが、カインズの死の場面で、ヒースクリフの片眉が動き、シンディアは大きく息を吐いた。
シンディアだが、第五十層ボス攻略戦以来プレイヤーの死に関して敏感になった。
それは、彼女自身に対してもだが、やはり死が迫るのを一番知っているシンディアだからこそだからだろう。
そのせいなのかジャックに対しても最初の内は見えていた敵対心が薄れていった。
「……そんなわけで、ご面倒おかけしますが団長のお知恵を拝借出来ればと……」
ヒースクリフは一度氷水を含み、ふむ、と呟いた。
そこからは《殺人鬼》と《黄金》を除いた検証合戦だ。
意図的にそうしたのではなくジャックはただただ暇を潰すように短剣を弄くり、シンディアは俺達の話を聞いているだけ。
ヒースクリフとカインズの殺人の方法について話をしていたが、《ユニークスキル》の話が出たときにヒースクリフに無言で微笑を浮かべられ少しばかりギクッとした。
動揺は見せず、表情も変えない。
いくらKoBの団長でも《殺人鬼》でも《あれ》のことまでは知らないはずだ。
そしてウィナー表示が出なかったことからデュエルの線はまず無くなる。
そこで《圏外》でカインズを一撃死させて回廊結晶で移動させるのはどうかという案を思い付いた。
しかしあの短槍でそれをするには現時点でレベル百はなければ不可能だとヒースクリフは言った。
アスナが素っ頓狂な声を出し、俺は思わずジャックを見た。
「ジャック君、失礼だが今のレベルを聞いてもいいかな?」
ジャックは短剣を回しながら答えた。
「八十五」
「彼でさえまだ八十五なのだ、そんなプレイヤーがいるとは考えられないね」
最強ギルドKoBのナンバー一と二に揃って否定されてしまえば理論的反駁などもう不可能だ。
それにしてもジャックと俺のレベル差が五もあったことに驚いた。
無言で短剣を回しているがどう転んでもジャックの強さは変わりなく絶対的なモノだと言うことだ。
「……おまち」
やる気皆無な声とともに、NPC店主は四角い本から白いどんぶりを五つテーブルに移した。
「ラーメンかな?」
「に、似た何か」
シンディアが低い声で言った後にそう補足する。
「ま、食ってみりゃわかるだろ」
ジャックの声の後にしばしズルズルと言う音が五つ、侘しく響いた。
またジャックの食事事情をヒースクリフとシンディアに説明しながら数分後。
空になったどんぶりを端に押しやってから、俺は向かいの男を見やった。
「……で、団長どのは、何か閃いたことはあるかい?」
「……これはラーメンではない。断じて違う」
「うん、俺もそう思う」
「何でここを勧めたのかしら」
「コイツなりのジョークだろ」
「まあ、わたし達が普通の食事をしたところで面白味もないしね」
「では、この偽ラーメンの味の分だけ答えよう」
顔を上げてぱちんとワリバシを置く。
「アインクラッドにおいて直接見聞きするものは全て、コードに置換可能なデジタルデータである、ということだよ。逆に言えば、デジタルデータで無いあらゆる情報には、常に幻や欺瞞である可能性が内包される」
「大した論文だな」
ジャックは冷やかすように言うが無表情だ。
彼にも何か思うことがあるのだ。
「この殺人《圏内事件》を追いかけるならば、眼と耳、己の脳がダイレクトに受け取ったデータだけ信じることだ」
ごちそうさまキリト君、と最後に言い添え、ヒースクリフは立ち上がった。
前に立つヒースクリフの、「何故こんな店が存在するのだ……」という呟きが、かすかに耳に届いた。
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「お前、さっきの、意味わかった?」
「……うん」
頷くので、おおさすが副長、と思う。
「お前は判んなかったのかよ」
「《黒ずくめ》は頭より剣を振る方が得意なの?」
後ろからいちいち刺さる言葉を言う連中がいるが反応するとコイツらは面白がるので無視。
案外いいコンビだなと思うが……。
「アレだわ、つまり《醤油抜きの東京風醤油ラーメン》」
「へ?」
「決めた。私いつか必ず醤油を作ってみせるわ」
「……そう、頑張って……そうじゃなくて!」
「え?何、キリト君?」
何か食い違っているアスナに俺がつっこみを入れたところだった。
「キリト、今回の事件オレは降りるぜ」
突然ジャックからの辞退の通告。
「……どうしてだ?」
この事件をジャックが邪魔ではないモノとして認識したからか?
「オレがいなくてもこの事件はテメェらだけで十分に解決できる」
それに、と言葉を区切ってジャックが言った。
「オレ達にはやることがあるんでな」
『オレ』ではなく『オレ達』ということは《JtR》が絡んでいるということ。
結局引きとめることもジャックの見解も聞くことが出来ずに金髪の短剣使いは去って行った。
「じゃあ、わたしも皆の下に戻らなきゃ。頑張ってね二人とも」
シンディアはジャックが去った後にそう言うとあっという間に転移門で別の階層に飛んで行った。
残された俺達の間には微妙な空気が流れたが、アスナが「それじゃあ行きましょうか」と言ったところで意識が覚醒する。
「どこに?」と返したところで彼女は答えた。
「もちろん、きみからあの槍をかっぱらったって人よ」
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それから俺達は《聖竜連合》通称《DDA》の本部まで赴きアスナの魅力パラメーターを駆使してシュミットを呼び出し話を聞いた。
唯一聞き出せたのはグリムロックがよく通っていた店。
そういうとシュミットはヨルコと話がしたいと言った。
一応俺達もいると言うことでヨルコさんに了承してもらい二人をヨルコさんが泊っている宿で会わせた。
しかし、話の中でヨルコさんは恐怖に怯えるように後ろ歩きをして窓に腰を掛ける。
シュミットも《黄金林檎》のリーダー《グリセルダ》の呪いだと頭を抱えた。
とん、と乾いた音が響きヨルコさんの背中には小さな黒い棒のようなモノが突きだしていた。
彼女の体がぐらりと窓の外へと傾く。
俺は急いで飛び出し手を伸ばそうとした。
だが、僅かに手は彼女のショールの端を掠め、石畳に墜落しその体を青いエフェクトが包んだ。
ささやかな破壊音の一秒後に、乾いた音を立てて、漆黒のダガーだけが路上に転がった。
窓の外に視線を向けるとフーデッドローブに身を包んだプレイヤー。
俺はコンマ数秒で怒りを鎮めるとヤツを睨みつけ飛びだした。
しかし、睨みつけた瞬間に奴はもう逃げており結局取り逃がして転移結晶でどこに転移したのかもこの町のギミックによって聞きだすことが出来なかった。
その後、自分の危惧していたことが現実になったとしか思えずに恐怖を前面に出すシュミットを送った俺達は彼が教えてくれたグリムロック行きつけの店に向かった。
到着した時にはもう夜で明らかに空腹を表した俺にアスナはバケットサンドをくれた。
そして俺はグリムロックが現れるのを待ちながらふとシュミットに書いてもらった元《黄金林檎》の八人の名前が書かれた紙を見ていた。
そこで、メモをしまう前に気付く。
慌てて眼を近づけるとデティール・フォーカス・システムが作用してその文字ははっきりと俺の目に映る。
「あっ……ああっ……!?」
「何、どうしたのキリト君」
「俺は……俺たちは……何も見えていなかった。見えているつもりで、違うモノを見ていたんだ」
「《圏内殺人》……そんなモノを実現する武器も、スキルも、ロジックも、最初から存在しちゃいなかったんだ!!」
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ヒースクリフが見せたラーメンの台詞にツボったのは僕だけじゃないはず。
次回はついにあの方々が初登場です。
珍しくあとがきで書くことが思いつかないのでこれで終わります。
【次回予告】
「お、俺と……質問メールを掻いてみないか、ヒースクリフ宛の」
――ここからは俺が笑う番だ。
「面白いモノが見れたんじゃねぇのか?」
「《黒の剣士》、君なら彼の居場所が分かるんじゃないか」
次回をお楽しみに!それでは。