第2次ドナルド・トランプ政権に対する世界的な反発が加速している。カナダ人は(“トランプ関税”への抵抗から)米国製品をボイコット。ロンドン市内では、イーロン・マスクを揶揄するポスターが登場。欧州ではテスラへの抗議行動も広まっている。さらに、米国によるウクライナ支援停止が懸念されるなか、欧州当局は国防費の大幅増額へと舵を切った。そして、次の標的になりそうなのが、米国の主要なクラウドサービスだ。
実際、欧州企業や政府のなかには、「Google Cloud」、「Microsoft Azure」、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が提供するクラウドサービスの利用を控える兆候が見られる。この3社は、いわゆる「ハイパースケーラー」と呼ばれており、インターネットの広大な領域をホスティングすることで、世界中の何千ものビジネスを支えている。しかし一部の欧州企業は、米国企業が提供するサーバーやストレージ、そしてデータベースなどのクラウドサービス利用について再検討をしている模様だ。トランプ政権下でプライバシーやデータアクセスへの懸念が高まっていることが理由だ。
「欧州では、米国のハイテク企業への過度の依存から脱却する、あるいはリスクを回避しようとする動きが活発化しています」。スタンフォード大学サイバー政策センターの非常勤研究員で、欧州議会議員を10年間務めていたマリーチェ・シャーカはこう語る。「なぜなら、欧州の利益に反する武器として利用される恐れがあるからです」
米国企業への依存を軽減
こうした動きはすでに始まっているのかもしれない。3月18日、オランダ下院の政治家たちは、米国のハイテク企業への依存を減らし、欧州の代替企業に移行するよう政府に求める8つの動議を可決した。その数日前には、100以上の団体が欧州当局に宛てた公開書簡に署名し、欧州大陸が「技術的にもっと自立」するよう求め、現状では「セキュリティと信頼性のリスク」を生じさせていると訴えた。
欧州を拠点とするクラウドサービス企業2社──ExoscaleとElastx──が『WIRED』に明らかにしたところによると、米国のクラウドプロバイダーからの乗り換えを検討している潜在顧客がこの2週間で急増し、すでに移行した企業もあるという。また、複数のテクノロジー・アドバイザーが、サービスやデータ、そしてシステムをすべて移行するにはどうすべきかについて、広く議論をしている最中だと語っている。
「欧州全域からの需要が増えています」とスイスを拠点とするホスティング・プロバイダーExoscaleの最高経営責任者(CEO)であるマティアス・ヌーバウアーは語る。そして、(米国の)クラウド大手からの移行を希望する新規顧客も増えていると付け加えた。「特にデンマークの顧客は、米国政権と、そのグリーンランドに関する発言を理由に、米国のハイパースケーラーから離れたいと明確に語っています」
「すべてが不透明であることが大きな懸念材料になっています。そして欧州から見ると、米国はもはや同じチームメンバーではないのかもしれない、という懸念もあります」とスウェーデンのクラウドプロバイダーElastxのCEOであるヨアキム・オーマンは語る。「こうした理由から、人々や企業は代替プロバイダーを探しているのです」
データ共有への懸念
EUと米国の間で人々の権利を保護しつつ、両大陸間で情報を移転できるよう設計された現行の枠組みについても、懸念が高まっている。この枠組みにはいくつかのバージョンが存在してきており、過去に欧州の裁判所により無効という判断が下されたものもあった。
トランプ大統領は1月末、現行の枠組みを監督する「米国プライバシー・自由監視委員会(PCLOB)」から、3人の民主党議員を解任した。これにより、現行の枠組みを巡る不確実性が高まったり、弱まったりしかねない。さらに、米国の捜査当局がハイテク企業に対し、ユーザーデータの開示を要求できる「米国クラウド法(CLOUD Act)」についても、(欧州)企業から懸念の声が上がっていると、オーマンは語る。同法には、米国外のシステムに保存されているデータも含まれる可能性があるという。
オーストリアにある小規模な技術インフラ企業であるSkunkWerksは、2025年の初めごろから同社の少数のサーバーとデータベースを、米国プロバイダーから欧州のサービスに移行しているという。同社の創業者であるデイブ・コットルフーバーは「何よりもまず、これは価値観の問題なのです。わたしにとって、プライバシーは特権ではなく、権利です」
コットルフーバーは、自分のような中小企業のほうが移行の決断は容易だろうと話す。しかも、トランプ政権に支払う税金の一部を回避できるとも強調する。「わたしにできる最善のことは、少額だとしても、わたしから(米国への)支払いをなくすことです。それと同時に顧客のプライバシーが尊重され、保護されるように確認することです」とコットルフーバーは言う。
欧州の医師や病院にテキスト読み上げサービスを提供するMedicusdataのCEOであるシュテフェン・シュミットは、欧州にデータを置くことは、常に「必須」だが、ここ数週間、顧客からさらなる要望が寄せられていると言う。「2025年の初めから、顧客は積極的に弊社に対し、データ・レジデンシー(保管場所)の保証に加え、欧州企業のクラウドプロバイダーを利用するように求めてきています」とシュミットは語る。同社のサービスの一部は、ヌーバウアー率いるExoscaleに移行したという。
AWSからの反論
AWSの広報担当者であるハリー・ステイトは、顧客がAWSからEUの代替サービスに移行しているというのは、「正確ではない」と語る。「わたしたちの顧客は、データの保存場所や暗号化の方法を制御できています。またAWSクラウドは、sovereign-by-design(企画・設計段階からの統制)を念頭に構築されています」とステイトは解説する。「AWSのサービスは、AWSからはアクセスできない、顧客が管理する鍵による暗号化をサポートしています。つまり、顧客は自分のデータに誰がアクセスできるかを、完全に制御できるのです」とステイトとは説明を続ける。
そして、PCLOBの構成メンバーの変化は、現行の枠組みには「影響しない」とも話した。さらに米国クラウド法には、「クラウドコンテンツに対する追加的な保護措置」があるとも語った。グーグルとマイクロソフトはコメントを控えた。
代替サービスへの移行と課題
欧州による米国のハイテク企業離れは、クラウドサービス・プロバイダーに対してだけとは限らない。欧州のクラウド分析サービスPlausibleによると、デジタル関連製品やサービスのEUにおける代替品を掲載するウェブサイト、European Alternativesへの訪問者数が今年に入ってから急増しているという。同サイトには、音楽ストリーミング・サービスからDDoS対策ツールに至るまで、さまざまなEU代替品が掲載されている、と解析サイトPlausibleの共同設立者であるマルコ・サリックは語る。
「何かが起きていることを確かに感じています」とサリックは語る。同社の3月1日から18日までの純経常収益の伸びは、1月と2月に記録した伸び率を既に「上回っている」という。「これは季節性や自社の営業努力では説明できない、オーガニックグロースです」
このように、EU代替品への乗り換えの動きの兆しはある。だがその影響は、少なくとも現段階では小さそうだ。世界中の政府や企業は、クラウド及び技術サービスプロバイダー大手3社のクラウド・サービスを複数利用している。その内容は、認証手段、ホスティング、データストレージ、そして最近ではAIデータセンターなど多岐にわたる。
(クラウドを)移行するとなると、大企業の場合、何を移行すべきか、そしてその移行に伴うリスクを検討したり、実際にシステム変更したりするには何カ月、いやそれ以上かかる可能性がある、とコットルフーバーは指摘する。「ストレージが100ペタバイトもあれば、インターネット経由での移行には何年もかかるでしょう」
欧州企業は長年、毎年のように巨額の利益を生むグーグルやマイクロソフト、アマゾンなどが提供するクラウドサービスや技術インフラに対抗するのに腐心してきた。しかし、同じ規模の類似サービスを、欧州の代替クラウド企業が提供するサービスのなかに見つけるのは難しそうだ。
「ハイパースケーラのクラウドエコシステムに深く入り込んでしまっていると、同等のサービスをほかで見つけるのは困難でしょう」と、起業家でオランダ政府の規制当局員を務めたこともあるベルト・ヒューバートは話す。ヒューバートによると、米国企業のクラウドに新たに移行する予定だった複数のケースが保留、あるいは再検討中だという。
欧州政府が米国のクラウドに移行するのは、もはや「安全」ではないものの、欧州の代替クラウドの競争力は不十分だと、ヒューバートは指摘する。「ここ欧州では、たくさんの高級木材を販売しています。それなのに、家具販売はそれほど多くありません」とヒューバートは語る。しかし、それも変わる可能性があるだろう。
欧州議会の元議員であるシャーカは、(政府が)新規投資、公共サービス購入方法の多様化、欧州第一主義的アプローチ、そして欧州のテック・スタックへの投資などを組み合わせて実施することで、欧州大陸における、広範な活動を活発化させられるだろうと語る。
「トランプ政権の劇的な変化は非常に明白です」とシャーカは警告する。「何が起きてもおかしくありません。欧州が自力で何とか対処すべきなのは、明らかです。実際に意味のある行動に移すためには、国防費増額で見られたのと同じようなスピードとリーダーシップが必要でしょう」
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるセキュリティの関連記事はこちら。クラウドの関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.56
「Quantumpedia:その先の量子コンピューター」
従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。