※日経エンタテインメント! 2024年1月号の記事を再構成

2023年に発表した、ガールズグループのメンバーを発掘するオーディション「GIRLS GROUP AUDITION PROJECT 2024『No No Girls』」(以下、「No No Girls」)が進行中だ。既に応募は締め切られ、選考がこれから本格的にスタートする。本プロジェクトではBMSGがちゃんみなをプロデューサーに迎え、オーディションから生まれたガールズグループが所属する新たなプロダクションをBMSG傘下に設立する。

SKY-HI(写真/上野裕二 ヘアメイク/椎津 恵)
SKY-HI(写真/上野裕二 ヘアメイク/椎津 恵)

 「No No Girls」のホームページで、ちゃんみなは「私は今まで沢山、様々な場面で“No”と言われて来ました。それでも自分の魂の声を聞いて歌って踊ってきました。私の様な経験をした方、または自分で自分に“No”と言い続けている方、この“No”をどう受け止めるかは任せますが、様々な視点やドラマがあったと思います。そんな皆さんの声を是非聞かせていただきたいです」(原文ママ)と書いている。まずは協業に至った理由を聞いた。

 ちゃんみなとは年に数回ではありますが、会うたびに今回のような形の話をしてきました。みな(ちゃんみな)のレーベル「NO LABEL MUSIC」と自分の「BE MY SELF GROUP(=BMSG)」では、その看板にも現れている部分ですが、信念や理念、アートに対する考え方はもちろん、日本の芸能におけるストレスや問題意識も共通する部分が多い。みなを拒絶した世界と自分を拒絶した世界は、微妙に違うところに存在しているけれども、すごく近いところに在るんです。

 自分はちゃんみなを「最もBMSG的なアーティストの1人」だと思っていますが、同時にみなもBMSGの理念やビジョンに強くフィールしてくれているし、応援もしてくれているから、「THE FIRST」では山梨での合宿にまでわざわざ来てくれました。ちゃんみなと何か一緒にやるということは、起業時からそれこそマスタープランだったような気がします。

 自分は自分でずっと、俺みたいな先輩が自分より1つ上の世代にいたらやりやすかっただろうなと感じることがあるんです。たぶん自分(36歳)とみな(25歳)の年齢が逆だったら、みなが先に会社を立ち上げていただろうし、自分はちゃんみなのように活動していたんじゃないかな。みなを見ていると、そうした「自分が選ばなかった人生」を感じるんです。だから、深くすり合わせしなくても、根っこの部分では自分もみなも同じ回答を出すだろうという安心感や期待感のようなものもあります。

 もう1つ、ちゃんみながやるべき理由は、「AREA OF DIAMOND」(23年3月に横浜アリーナで開催したちゃんみなのライブ)を見たときに、アーティストフェーズが明確に1つ上がる時期にいるなと感じたから。先日2人でインタビューを受けた際に、みなが「18歳でデビューしているから、まだ新人の気持ちがすごくある」と話しているのを聞いて、納得したんですよ。俺も18歳デビューだったから分かるんですけど、新人の気持ちだけど実はもう7年も活動しているわけです。新しいフェーズに進んだほうがいいし、フェーズのほうがちゃんみなを待っている。やるなら今がいい。早ければ早いほど良かったんです。

女性グループもできる体制が整った

 現在、所属アーティストは全員が男性。そうしたなかで「女性はやらないのか」という意見は社内からも出ていたという。

 社員はどちらかと言えば女性が多いですし、年齢性別の偏りがないようには多少なりとも採用面でも意識しています。一方でアーティストに関しては、育成チームとかと今後のことを話していると、「女の子ってやらないでいいんでしたっけ」という話題は普段から出ていました。それに、男性のみを募集するってすごく前時代的じゃないですか。自分がこれまで諸々のギャップで苦しめられてきたにもかかわらず、考え方によってはすごくジェンダーギャップの促進につながりかねないことをやってるんじゃないかという自責の念も感じていましたし、BMSGの理念や哲学にめちゃくちゃフィールしてその能力もあるのに、女性だから受け入れてもらえないっていう人がいるのはどうなんだろうとか。気にはしていたけど、 自分ではできない。そうした意味でも、ちゃんみなのおかげでBMSGがより理想的な歩みを進められることに、すごく感謝してますね。

 ただ、BMSG側にガールズグループのオーディションができる状況や環境が果たして整えられるのかとも思っていたのですが、幸い23年春以降も新しい社員がどんどん増え、組織として強くなれていることを随所で感じるようになりました。また、BMSGとして水面下でたくさんのプロジェクトが動いているわけで、すでに予定しているものとの調整も必要になります。そうしたタイミングを考えると、今しかないとも思ったんです。

 社員たちにこのオーディションの話をしたとき、自分よりやる気を出してくれたスタッフがかなりいたこともいい驚きでした。自分以外の環境を見ても「風が吹いている」感じがしたというのが大きいですね。自分が思っていることと、自分の周りの人が思っていることが重なった場合にのみ、思い切ったアクションで風を強めることができると思うんです。そうすれば「1」だった思いが「2」になり「4」になり「8」になり…というふうに、プロジェクトそのものも強くなっていきますから。

 「THE FIRST」の頃に、ゆくゆくはガールズグループも手掛けるのかと尋ねたところ、SKY-HIが即座に「僕がガールズをやることはないと思う」と答えたことがあった。まだ目の前のグループがどうなるかも分からない頃だったので聞いた理由に納得したが、今やボーイズのプロデュースで手腕を奮い、実績を重ねてきた立場だ。なぜ、そこまで自らがガールズをプロデュースすることを避けるのか。

 僕はガールズグループを自分で作る気はありませんでした。過去にも「ちゃんみなが5人いるなら」とか「ちゃんみなみたいな人が(プロデュースを)やるんだったら」とか言ってましたが、その頃から頭の中にあったのは、正確には「ちゃんみなみたいな人」ではなく、「ちゃんみな」だけですね。それは何よりちゃんみな本人が1番感じていたんじゃないかなと思います(笑)。

 自分がやらないのは、単純に、絶対できないからです。本当に分からないから。もちろんいろいろなグループを見ているんだけれども、経験としても趣味嗜好としても、グループの場合はまだ男性のアートフォームしかフィールしたことがなくて。ガールズグループの場合、周りの人に「このグループ、いいから見て」って言われて見ると「めちゃくちゃいいな」と思うし、「ちょっとイマイチだよね」と言われると「確かに」って思っちゃうくらい感度が低いんです。ファンの方は知っていると思いますが、そんな自分が初めて好きになったガールズグループのメンバーが、LE SSERAFIMのキム・チェウォンなんです。ビジュアルもパフォーマンスも好きなんですが、たとえ彼女がソロでも、国籍が日本とかアメリカでも好きになっている気がします(笑)。それでもまだ、“ガールズグループ”に関しては、自分事として見れていない。逆にボーイズは、どんなに好きでも良くも悪くもいろいろなことを仕事目線でも考えながら見てしまうわけですが。

メンター的な役割を果たしたい

 ガールズグループの話とは(含まれる部分もあるかもしれませんが)逸れますが、よく「ステージ上で演じ切る」っていうワードが使われますが、その美学や美徳にはあまりフィールしません。これは自分自身の志向でもあるんですが、アイドルであれアーティストであれ、演じ切るタイプが自分に刺さることはたぶん今後もないかも。

 ステージ上で与えられた役割を全うするために演じ切ることと、自分自身を定義して、自分自身を提示するためにパフォーマンスを練ることって、近いようでいて大きく違うんです。せっかくなので例としてちゃんみなの話を出しますが、「AREA OF DIAMOND」の中で、『美人』のステージ中にみながメイクを落とす演出が大きな話題になったけれども、あれはカメラの位置だとかも絶対意識しながらやっていると感じたんですよね。そういう意味で、ちゃんとみなの頭の中にパフォーマンスのための計算が刻まれているのは間違いないんだけど、その冷静な思考の上で自分が見せたいもの、提示したいものを情熱的に出している。そうしたことと、世間一般的に言われる「演じ切る」の指す意味は、だいぶ違うんじゃないかなっていう気がしますね。

 だから結局、繰り返しになりますが、自分が責任を取ったり賭けたりするなら、ちゃんみなしかいないっていう話です(笑)。「No No Girls」で、みなは「ただ、あなたの声と人生を見せてください」という言葉を掲げているんですが、その発言も感覚もすごくフィールします。

 「No No Girls」のプロダクションは別会社だが、ホールディングス化はしない。「単に内側で面倒なことが増えるし、それがクリエーションには必要ないことばかりだから」とSKY-HIは語る。ただ、BMSG(BE MY SELF)な才能が集まることには変わりない。改めて、ちゃんみなとSKY-HIの役割分担はどういったものになるのか。

 ちゃんみなが「THE FIRST」での自分に当たる役割を務め、今回の自分はバックエンドの整えと、あとはみなのメンターのようなものですね。ちゃんみなは、スーパーな方であるのは間違いありませんが、一般的なところよりもちょっとだけ人生経験豊富な25歳女性とも言えます。社会人で言えば新卒3年目くらいですから、大きなプロジェクトを企画するとか、それを動かすとか、外部の会社にお願いしていくとかを経験したことはない。もちろん、彼女ならできると思っているんですが、それでも「大丈夫だよ」もしくは「それは違うんじゃないかな」って言ってあげる役割は果たしたいなと思っていて、それだけですね。「大丈夫だよ」って言ってあげることと、実際にそれを大丈夫にすることはやるけど、自分も心をこのプロジェクトに大きく割くわけにはいかず。もし、本当にちゃんみなみたいな人たちが集まってきた場合、俺でもプロデュースできる可能性もあるけれど、自分の想像を超えるものを見たい気持ちも強くあります。それも含めて、本当にちゃんみな以上の存在はないですよね。

 どんなふうになってくんだろうなと楽しみですけど、実際に動き出してから自分がどう関わるのか関わらないのかも分からないところがあるし、事実上の別会社だから自分がガールズグループのメンバーたちと会う機会も本当に少ないかもしれない。そこらへんはやりながらですけれども、その彼女たちがみなを信じて、自分もみなを信じている、信じてもらっているという状態ができていれば、結果として同じ方向に向かえているので心配はしていません。

SKY-HI(日高光啓)
1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなどとして、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビューし、同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任

この記事は連載「SKY-HI「Be myself, for ourselves」」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

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『日本の音楽は世界への壁を越えられるのか マネジメントのはなし。2』 SKY-HI・著

社長・SKY-HIの挑戦をたどる“ドキュメント本”第2弾
急速に拡大するBMSGの歩みをリアルに記録
 2020年9月、わずか数人でスタートしたBMSG。創業から4年でBE:FIRSTはドームアーティストに成長、2つ目のグループMAZZELもアリーナに進出し、各ソロアーティストも存在感を高めている。今やスタッフは約80人となり自社ビルを購入するなど、設立以来のビジョンを次々にかなえてきた。
 本書は業容を拡大してきた2023~2024年のBMSGの歩みをリアルに記録した1冊だ。次の世代のアーティストとそれを支えるスタッフをいかに育成したのか。そして、会社が急速に大きくなるなか、組織をどうやって運営してきたのか。SKY-HIの経営者/リーダーとしての足跡には、ビジネスのヒントも数多く見つかるはずだ。
■発行:日経BP
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