ずっと前、この仕事に就きたての頃。
一組のエルフ達を助けたことがあった。
アルヴの王森から離れて、ポーションかなんかの素材を集めに来たのだろう。
森林の奥まで進んで行って、数匹のモンスターに囲まれていた。
モンスターに苦戦し、傷だらけになっていく姿を見て。
────助けようと思った。
もしかしたら、助けることで感謝されると思ったのかもしれない。
自分の友だちになってくれると思ったのかもしれない。
「────はっ!」
「ギァアア゛!?」
「…ふぅ────さ、もう大丈夫だよ、モンスター達は全員────」
モンスターを斬り倒して。
直後、僕は
助けた筈の、淡い期待を持っていた────
「?へ、……な、なんで?僕、モンスターじゃない、よ?」
「なんで……なんで
「なんで俺達を助けたのが、お前なんだ!?"薄汚い肉"のくせに、俺達に恩を売ろうとでも思ったのか!そうなんだろ!」
「ち、ちょっとバルファ君…私達は助けてもらって……」
「リア、こいつは"薄汚い肉"なんだぞ!モンスターと同じ怪物達だッ!!」
「……ぁ、う、うん」
「絶対に
「ごめん、なさい……シア君……」
こんな事になるなんて、思ってなかった。
だって────関係ないのだから、同じエルフとか、そうじゃないとか。
"同じ"とか、"違う"とか。
人を助けることに、その人の考えも、その人の人種も、関係ないのだから────だから、
僕が助けたって、誰が助けたって。
でも、そうじゃなかった。
誰が助けたっていいけど、"
この日から僕は、より意識するようになったのかもしれない。
僕の異端の力を────僕と他の人との壁を………
「う、……ううん……」
「あ!起きた、シア君ー!朝だよ、清々しい朝だよー!」
目線を声の方に向ければ、女神が居る
茶髪の少女の女神。
(夢じゃなかったのか────)
てっきり僕の見た都合の良い夢だと思っていた、あんなに優しくしてくれる人が僕にいるはずないと、考えていたから。
「あ、そうだ!君のために朝食を用意したんだよ♪……朝食にしては、ちょっとヘビーだけど……」
ひとしきり嬉しそうにした後、気まずそうにした女神。
「とにかく!食べてみて」
それを見て、唖然とした。
そこにあったのは、肉────正確に言えば、丸焼きにされた鹿だった。
「ご、ごめんよー私狩りは他の神の手伝いをしてたから得意なんだけど、料理の方はどうもからっきしで────ってえええ!?」
「ぐ、う゛、うっぐ……」
いつの間にか、涙が溢れていた────おかしいな、涙なんてずっと前に流し切った筈なのに……
「そんなに嫌だったかい!?」
(しまった!……そういえばエルフってお肉食べないんだっけ……)
「違う!!誰かに……ご飯つくって貰うの、初めてで……」
「……あ、そっか…うん、好きなだけ食べて良いんだよ、好きなだけ…」
その朝食は、今までに食べたどんな物よりも美味しかった。
なにも味付けなんてされてないのに、少し、しょっぱく感じた。
「……よかったぁ───うん、うん!」
少女の女神もその様子を見て、地面に水溜りができるほどの涙を流した────
「────と言う訳で、私はオラリオに行きたいんだよッ!!
」
「そ、そうなのか?」
女神が言うには、世界の中心の街、オラリオにはダンジョンがあって、未知があって、娯楽があって、────なんというかとにかく凄くてすごいらしい。
「私はオラリオでファミリアを建てて、子供達を眷属にして、それから────」
「わかった、とにかくやりたい事が沢山あるんだな」
「そうなんだよっー!」
「じゃあ…頑張って」
「うん!!私頑張ってオラリオまで────ってちょっと待て────!!」
「へ?……なに?」
「へ?……なに?───じゃ無くて!!一緒に行くんだよ!」
「誰と?」
「君とだよ、君と!!」
「はえ?」
「え、僕と?嘘でしょ!?」
「嘘じゃないさ、もう君に恩恵も刻んじゃったし」
いつの間に!?
確かに今日は身体がなんか違うというか、軽い感じがしたけど、知らないうちにこんな事になってるなんて────
「君の話を聞いて、決めたんだよ────君と一緒にオラリオに行くって」
「でも、僕がオラリオに行ったところで英雄になんてなれない…それに!僕の異端の力が知られたら…また────」
「いーや、なれるね!私という一人の女神が言うんだ、間違いない!!それに君はとっっても綺麗な心を持ってるんだもん、オラリオで受け入れられない筈がない!」
「僕の心が綺麗だなんて、────エルフ達を助けようだなんて微塵も思ってないのに」
「────嘘だね」
「……え?」
「神は嘘を見抜けるんだ、微塵も助けようなんて思ってない───なんて、随分大きな嘘をつくもんだね?」
「大体、助ける気がないならとっくにこの森林から逃げ出していた筈だよ、仕事も、何もかも投げ捨ててね」
「そ、それは!……王森のエルフ達が怖くって────」
「君、このままだとその怖いエルフ達に殺されるよ?」
「身体は死ななくても、心が死ぬ────恐怖に支配されてこのままずっと一人ぼっちでモンスターを狩るんだよ?」
「君、このままでいいの?」
ガツンと、頭を殴られたような気がした。
「良いとは、思っていない……此処を離れたい」
「離れればいい」
「友だちだって……つくりたい」
「オラリオで沢山つくればいい────」
「でもッ!!……僕は、怪物で、"薄汚い肉"で!!────」
「違う────違うよ、シア君」
「君は、女神────女神ハルティアの誇る一番目の眷属だ」
「決して、怪物なんかじゃない────怪物だなんて、言わせない」
綺麗な、瞳。
嘘偽りなんてひと欠けらもないような────愛と優しさによってのみ造られた暖かな言葉だった。
あ、ああああ。
最初から、こんな仕事したくなかった。
前よりはマシだと、自分のことを騙し続けてた。
人に傷つけられるのも、怪物に傷つけられるのも、痛くて、苦しくて堪らなかった。
「うん……うん、辛かったね……」
オラリオに行っても、怪物だと言われるじゃないかと思った。
そうしたら、もっと苦しくなるだけだから。
最初から諦めて、行かない言い訳をしてた。
ねぇ、
「ハルティア様は、僕のことを見捨てない?」
「見捨てるわけないよ、私の大切な子供だもん、見捨てるわけない」
「…ハルティア様、僕────オラリオに行きたいです!!」
「うん、うん!!────一緒に行こう!!シア君!!」
ああ、きっと────此処から歩み出すんだ。
────オラリオへ続く道、その一歩を。