【第29回】<補適法第18条解説>:「返還命令」は誰のためにあるのか?
前回(第27回)では交付決定取消しの根拠となる第17条を取り上げました。今回はその「取消しの結果として、国が補助金の返還を命じることができる」という**第18条(返還命令)**について『補助金適正化法解説 全訂新版(増補第2版) : 小滝敏之』を基に解説します。
この返還命令は、単なる「請求」ではなく、行政処分です。
つまり、「返してね」というお願いではなく、「返せ」と命じる法的手続です。
第18条の条文要旨
交付決定が取り消されたとき、または確定額を超えて交付していた場合には、国は補助事業者に対して補助金の返還を命じなければならない。
つまり、
取消しが行われたら必ず返還命令が必要
確定金額を超えて交付していたら必ず返還命令が必要
という、“義務的”な行政処分です。
「義務違反による取消し」は、返還義務とワンセット
第17条による取消しが「負担付き贈与契約の解除」に似ているという前提に立つと、返還命令は「原状回復」として極めて自然な流れです。
ただし、重要なのは以下の2点です。
① 返還すべき金額は「個別に確定」される必要がある
どの部分を取消すのか?
どの金額に相当するのか?
→ 明確な「返還命令書」によって確定させる必要があります。
② 返還命令は「処分」であるため、不服申立て・訴訟の対象になる
返還命令は独立の行政処分であり、抗告訴訟で争うことができます。
私たちのケース:「命令」はあったが…その中身は?
中小機構(実質はパソナ)は、突然私たちに**「交付取消通知」と同時に返還命令通知**を送りつけてきました。
しかし、次のような問題がありました:
通知に「どの費用が交付決定に適合していないか」の説明がない
どの部分が返還対象かの明確な根拠がない
交付金額全体を一括して返還請求している(過剰)
しかも、パソナ名義で送付されてきた
これは本当に適法な「返還命令」だったのでしょうか?
第18条の義務と運用のねじれ
補助金適正化法の解説書では、第18条による返還命令は「国損の拡大を防止するため」「補助金の不当利得を放置しないため」と説明されています。
しかし、「適正な返還」こそが求められるのです。
つまり、
● 不明瞭な取消し
● 過大な返還請求
● 一切の是正措置なし
● 返還根拠の不提示
これらがそろった上での返還命令は、第18条の趣旨を逸脱していると考えざるを得ません。
裁量はあるのか?:返還免除や延長の制度も存在する
実は第18条第3項では「やむを得ない事情があるときには、返還命令の全部または一部を取り消すことができる」とされています。
つまり、次のような場合には返還を免除・猶予できる余地があるのです:
補助事業者の責任が軽微
被害(損害)が回避困難だった
間接補助の返還が困難な状況
誠実に対応し改善努力をしていた
ですが、私たちのケースでは、そうした事情の確認すらされませんでした。
終わりに:「返せばいい」のではなく、「なぜ返すのか」が重要
補助金は税金です。
その返還命令は、適正かつ慎重に行われるべきです。
「取消したからとりあえず全部返せ」では、補助金行政に対する信頼は崩壊します。
私たちの訴訟を通じて、「返還命令」という行政処分の適正手続を問いたい。
第18条を盾にした機械的な“取り立て”ではなく、法の趣旨に立ち返った運用こそ、今こそ必要です。


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