※この話は虚数学区・五行機関に対して、作者の独自解釈があります
異音が途切れる事なく鳴り響く。
───カチャカチャガシャシャッ!
その音を出している、
止めどなく動き続けているその理由は?何と連動して稼働しているのか?
その理由に誰も気付けない。誰も分からない。
ならば、誰も考え付くことすら出来ないことが原因なのか?
科学と魔術の両方の世界を知る土御門元春でも、学園都市統括理事長にして大魔術師アレイスター=クロウリーでも、人外の視点と知識を有する聖守護天使エイワスでも、察知することすら出来ないのだとするならば、それは世界にとってどれほど異質なものなのだろうか。
ならば、
ならば、
ならば、
───その
そもそも、『虚数学区・五行機関』とは一体何か?それが、理解できない内はどうすることも出来ない。
学園都市最大の禁忌とされながら、風斬氷華という存在しか表に出てきていない未だに謎が多いもの。
だが、その名称から導き出せる推測が幾つかある。
「虚数学区はその名の通り虚数に存在していて、学園都市は街を学区で分けられている。要するに、実数空間に存在する俺達には目に見えない街、学区が虚数学区だ」
それを分かりやすく説明するならば、『陽炎の街』を説明しなければならないだろう。
能力者が無意識に発するAIM拡散力場によって形作られた、実数には存在しない虚数に存在している街こそが『陽炎の街』。
だからこそ、常人には知覚することはもちろん認識することも出来ない。
唯一、『陽炎の街』に存在することを許される風斬氷華は、彼女自身もAIM拡散力場から構成されているため、本質的には『陽炎の街』と変わりがない。
それこそ、
「だからこそ、この虚数学区に接続出来るのは虚数学区の鍵である風斬氷華だけのはずなんだが、何故か天野の奴はそれを扱っていやがる。
何かしらのイレギュラーが起きたせいだろうが、ここを追求しても解決にはおそらくならない」
虚数学区に関する知識をアレイスターより土御門が有していないのは明らかだし、そのアレイスターが風斬を使って虚数学区との接続を切らないことから、それをすることが不可能なのだと推察する。
「重要視するのは『陽炎の街』と呼ばれる人工的な『天界』を構築出来るほどの、
元々はエネルギーの塊でしかないものが、一つの街を形作るほどに濃縮された異界を生み出している。外に漏れたエネルギーが自然とそのような街を形作ることはあり得ない。
何故ならば、能力者が無意識に発するAIM拡散力場が源のため、自然と形成するものは『発生源の能力者』となるはずだからだ。
それにもかかわらず、AIM拡散力場が街を形作っているのは、明らかに外部の誰かから手を加えられた結果だ。
そして、その下手人こそ学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーに他ならない。
「大魔術師、アレイスター=クロウリーが生み出した人工的な『天界』である以上は、必ず魔術的な要素が絡んでくる」
しかし、土御門が確信を持って断言出来るのはここまでだった。これより先は土御門がスパイとして手に入れてきた情報は役に立たなくなる。
何故ならば、『虚数学区・五行機関』の『虚数学区』の説明は、『虚数学区の鍵』である風斬の存在とアレイスターの証言から分析可能だったが、後半の『五行機関』については情報が一つも存在しない。
土御門の情報収集能力を持ってしても、それ以上の詳しい情報を得ることは不可能だったのだ。
しかし、彼とてプロの魔術師。少ない情報から魔術が抽出された出典を探るのは、魔術師にとって必要技能と言って良い。そんな彼が思い付く『五行』とは一体何か。
「──五行思想。古代中国から日本に伝えられ、万物は木・火・土・金・水の五種類の元素で成り立つという自然哲学だろう」
日本の学園都市に根城があることから分かるように、アレイスターは西洋の魔術だけではなく東洋の魔術体系にも関心を抱いていた。
ならば、東洋で生まれた魔術思想を利用することに、なんの疑問があるだろうか。
「五行は互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し循環するとされている。おそらく、アレイスターの奴はこの性質を利用して『虚数学区・五行機関』を生み出し維持しているのだろう。
なら、これに介入できる魔術サイドの人間は陰陽道に通じていて、日本で更なる体系変化を加えられた五行思想に対しても造詣に深く、アレイスターが修めた西洋魔術にも詳しいこの俺を除いて他には誰もいないって訳だ」
それは、選ばれた人間である聖人にも不可能だった。
比較的日本の魔術に詳しい天草十字凄教の面々でも、実行することは可能かもしれないが成功させることはまず出来ないだろう。
そして、その二つをクリアしている『
土御門は御坂が焼いた巨大な図形をぐるりと廻りながら話していく。
「五行思想は生滅盛衰。つまり、五行のみで再生と消滅を繰り返し循環している。その五行は木・火・土・金・水に分類されるがそれだけじゃない。他にも様々なものに照応させているんだ」
色紙で作った四つの動物を、一つ一つ特定の位置へ置き彼は歩きながら語る。
「例えば、木は青に。火は赤に。土は黄に。金は白に。水は黒、と言った具合に色と関連付けされて五行思想には組み込まれてるし、他には方位や五獣なども照応させている。
なら、あとは簡単だ。俺が上やんの実家を吹き飛ばしたときに利用した、四獣と照応させた折り紙をそれぞれの星の角に配置してやればいい。
木は青竜に。火は朱雀に。金は白虎に。水は玄武にな」
御坂美琴と削板軍覇が天野とぶつかり合う。天野をその場から一歩として動かせてはいないが、土御門にとってはそちらの方が都合が良い。
そして、今話した説明には一つ足りないところがある。
「となると、だ。『土』には麒麟と照応させた黄色の折り紙を配置するのが順当だが、今回に限って言えば必要ない。変わりとするモノはそこにあるからな」
土御門は円の内側に描かれた星の中心で足を止めた。ここが終着点。そして、ここまできてようやく始まるのだ。
陰陽博士と言われた魔術の天才が編み出したこの事態を打開するための一手。それが今ここに明かされる。
「お前を残りの五行思想の『土』に照応させ、天野の中に居るだろう超常の存在を呼び起こす。この五芒星の陣を生み出した最強の陰陽師、───安倍晴明の晴明桔梗を用いてな」
星形の魔法陣。
子供が思い付くようなシンプルなものだが、安倍晴明が考案したその術式は最強の陰陽術と言われるほどに完成している。
そして、それこそが土御門の賭けだった。しかし、これは知識がなければ考え付くことさえできなかったはずだ。土御門自身は直接見たことが一切無いエルキドゥの存在を。
だが、その情報を彼が知っているのはある意味当然であった。
「天野の奴と旅館『わだつみ』で別れた後に、イギリスに戻るねーちんから天野のことを聞いておいた。
俺より先に天野の奴と魔術を介して遭遇したねーちんなら、俺の知らない情報の一つや二つは知っているかと思ったが、まさか大天使クラスの化け物が内側に居るのは予想外だったぜよ」
土御門は神裂火織から既にその存在の情報を得ていたのだ。これから協力者となる人物の裏を取るのは、スパイとして当然の行為だと彼は認識している。
そして、彼等は学園都市に探りを入れるように上から言われていたのだから、情報を共有し合うこと自体におかしなことは一つもない。
「まあ、ねーちんにはちっとばかし渋られたが、昔イギリスにやって来たときに世話してやったことを持ち出したら簡単にゲロってくれたぜい。
情けは人のためならずとは良く言ったものだぜよ!わーはっはっはっは!」
と、彼は言っているが、天野倶佐利という少女に対して少なからず感謝の念がある神裂が、昔の負い目があるとは言え考えもなしに土御門へ喋るはずもない。
土御門の柔軟さを知っていた彼女からすれば、インデックス命のステイルや科学サイド滅ぼすべしと考える魔術師達よりかは、よっぽど信用できる人物だったに違いない。
そして、科学サイドと魔術サイドのバランサーである土御門元春ならば、『天野倶佐利』という少女が科学と魔術の両サイドに、それぞれ致命傷を与え兼ねない途轍もなく厄介な爆弾だと、正確に理解してくれる確信が彼女にはあったのだ。
「ねーちんの話じゃ斬り合ったときに、地面へわざわざ触れていたらしいな。大天使を含めた超常の存在ってのは人を見下すものだろう。
だが、地面に手を触れるってことは相手をする人間を自然と見上げることになる。それを、お前達は許容しないはずだ。なら、答えは絞られる」
土御門は少ない情報からその答えを導いた。
「つまり、天野の中に居るその超常の存在は、『土』や『大地』に馴染み深い存在のはず。少なくとも地面に手を付くことに一切の拒絶感を抱かない、『土』の属性を色濃く宿しているのは間違いないだろう」
一度だけであったが大天使である『神の力』と遭遇したことが、土御門の予測を裏付けている。あのような存在が地上に居る人間程度に侮られるなど、看過できない事態のはずなのだから。
「だが、結局のところ天野の中に居る存在に対して、断定することは最後の最後まで出来なかった。日本神話や伝承に語られる土と関係深い存在なんて山の数ほどいやがるからな。
日本神話だけならともかく各地で語られる土地神なんかも含めると、そう言った存在を断定するのは難しい上に、今の天野は外国の神話である女神イシスの力を扱っている。
情報を得ようにも得られたのはイシスの情報のみだった、なんてことになりかねない。
……いや、イシスのことから考えるとそもそも天野の中に居る存在も日本由来じゃない、他の国で語られる存在かもしれないな」
御坂美琴の電熱で焼いた魔法陣に魔力を流し込み、魔術を起動させる。本来なら魔方陣にも魔術師の魔力を注がなくてはならないが、今回だけは例外だ。
「そして、今回俺が介入するのは『虚数学区・五行機関』。そして、虚数学区を世界に根付かせるためにアレイスターの野郎は世界中に一体何を配置したのか」
それがなんなのか、それは既に語られていた。
御坂美琴のDNAマップから造られた一万弱のクローンの少女達。世界各地の研究機関に預けられた彼女達はそのネットワークを通じて、『虚数学区・五行機関』を世界中に展開するための、アンテナとしての役割を当人達の自覚なしに与えられているのだ。
「『虚数学区・五行機関』は能力者が無自覚に発するAIM拡散力場の集積体。つまり、能力者が集まるこの学園都市ならどこにでも展開されているんだ。それこそ、目に見えないだけで。
そして、アレイスターの奴が
それに加えて、そのオリジナル様の能力によって作られた魔法陣だ。何かしらのご利益ぐらいはあるだろう?」
暴走する今の天野を相手にしつつ魔法陣を書くという荒業を、能力者となってしまった土御門には実行することが出来ない。だからこそ、学園都市第三位である彼女に頼んだのだ。
本来ならば術者である彼自身で魔法陣を書いた方がより効果が望めるが、それを実行していれば土御門は途中で力尽きていたことだろう。
「それに、今回の騒動は御坂美琴にミサカネットワークを繋げて呼び込んだのが発端のようだし、ラインの形成としては充分に機能する可能性がある。まあ、それだけじゃちっとばかし弱いから必要最低限の行程はこっちでもやるしな」
そう言うと、土御門の雰囲気が変わる。これより行うのは文字通り命懸けの大博打。
失敗すれば世界の破滅。成功したとしても土御門は死んでしまうかもしれない。このハイリスクな賭けに土御門は挑む。
少年は不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
「ここで俺が神頼みをするとしたらその対象はお前か?それじゃあ、大した御利益は無さそうだにゃー。
なら、命を懸けた鉄火場で思い出すのは最愛の妹だと古来から相場が決まってるし、ここはやっぱりラブリーエンジェル舞夏に祈りを捧げるとするか」
◆作者の戯れ言◆
主人公がまるで土御門みたい(小並感)
それと、にじさんじと禁書がYouTubeでコラボしていて、「えっ!?」って声出して驚いたわ……
驚きましたわー!!(唐突)