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【福岡×人口問題】書店のこれから

本と出会う場所を守るには
  • 2024年8月15日

    本と出会う場を守るには

     

    いま、全国で書店が減り続けています。福岡県も例外ではなく、この10年間で3割減少。書店がゼロ、もしくは1つしかないという自治体が半数を占めています。人口減少やインターネット書店の普及を背景に、苦境に立つ書店の現状と“これから”を探りました。
    (NHK福岡放送局・松木遥希子)

    市でただ1つの書店

     

    嘉麻市唯一の書店

    筑豊地区にある人口3万5000あまりの嘉麻市。2006年の合併前は1市3町あわせて少なくとも8軒の書店があったといいますが、現在では市内で1つになってしまいました。

     

    届いた本をチェックする仲野さん

    創業から70年以上たつというこの書店を経営する仲野千鶴子さん(79)の1日は、朝9時に店を開けることから始まります。仲野さんは昼過ぎにいったん店を閉じると、市内に車で配達に出ます。配達先は図書館から美容室や歯科医院、個人宅などさまざまで、毎日20軒から30軒ほど回るといいます。夕方店に戻り、午後8時半ごろ営業を終えるということで、こうした毎日を月曜から土曜まで続けているそうです。地元ではなくてはならない存在ですが、後継者はいません。

     

    仲野千鶴子さん

    (仲野千鶴子さん)
    お客さんからは「本屋がなくなると文化がなくなる」「本屋さんのないところは考えられん」などと言ってもらっています。これからも続けていきたいですが、私も足や腰を痛めているのでいつまで続けられるかわかりません。また書店は仕事量の割に売り(利益)が薄く、返品が多いと返品料なども必要です。いまの若い人たちがインターネットで注文する中、後を継いでもらうほどの仕事ではないとも感じています。

    独自の店づくりで集客

     

    うきは市の書店

    嘉麻市の書店の仲野さんが言っていた「書店は売りが薄い」とはどういうことなのか。そもそも本や雑誌は利益率が22%前後と雑貨の平均40%ほどなのと比べても低く、薄利多売で成り立つ商売とされています。利益が上げづらい中、業界では「配本システム」という独自の仕組みが主流となってきました。これは本の問屋「取次」が書店の規模や販売額に応じて見繕った本を書店に届けて販売を委託するというシステムで、書店側は売れなければ送り返せるため、在庫を抱えずにすむというメリットがあります。ただ書店を取り巻く環境はどんどん厳しさを増しているのが現状です。こうした中、従来の仕組みから抜け出し、人口が少ない地域でも独自の店作りを進めることで人を集める書店があります。
     

     

    店主の石井勇さん

    人口2万7000あまりのうきは市で書店を営む石井勇さん。地元出身で、福岡市のブックカフェに勤めた経験などをもとに9年前に店を開きました。書店のテーマは「暮らし」。この地域に暮らす人たちの生活に寄り添ったり役立ったりする本を置いています。ここでは取次による配本システムは利用せず、店内には公害やジェンダーなどの社会問題から絵本や料理、雑誌まで、すべて石井さん自身が選んだ本が並びます。こうした本のおよそ4割が出版社や個人と直接取り引きして入手した書籍で、じか取り引きの本は返品はできないものの、従来より利益率が高くなるというメリットがあるということです。またこれらの本は大手の書店では見かけないユニークな本も多く、店との相性がよいとして売れ行きも上々だと話してくれました。
     

     

    店内には小さなカフェのスペースも併設していて、購入した本や一部の雑誌などを読むことができます。もともと鮮魚店だったという築50年以上の建物を改装したおもむきのある店構えにはファンも多く、遠くから通う人もいるといいます。
     

    糸島から来ました。本の品揃えが個人的にツボで、カフェもあるので助かります。ネットで本を買うこともありますが、このお店のような“本の森”で迷いたいんですよね。ネットだと臨場感がありませんから。

    週に1回来ています。そのとき自分が悩んでいることが解決できるような本とか、暮らしにまつわる本とか、あ、いいなと思う本があると買っています。私はもともと本を読む習慣がなかったんですが、ここに来るようになって読むようになりました。

     

    石井勇さん

    (石井勇さん)
    いつも考えているのは「まちの本屋」とは一体何だろうかということです。昔はまちに八百屋や鮮魚店といった地域の商いがありました。たとえば鮮魚店なら生きのいい魚を目利きして、お客さんに“きょうのごはん何にするの”とか“この魚はどう?”とかいった会話がそこら中に聞かれました。自分としてはそうした古くて新しい商いをやりたいと思っています。ちゃんと目利きをして、このまちの人たちにどんな本がいいのかをセレクトして売るということを続けていきたいと考えています。まっとうな思いでまっとうに書かれている本をまっとうに並べて、来てもらった人にはその中から自分に共感することばを拾い上げてもらって、買ってくれたらうれしいですし、そこから何かを考えるきっかけになったらと思います。

    本と出会う場所を守るには

    石井さんが店を開くにあたり、助言を求めた人がいます。福岡市中央区で書店を営む大井実さんです。20年以上書店を経営している大井さんは、出版社などとのじか取り引きやカフェの設置などに先駆けて取り組み、最近は地域の書店のプロデュースも手がけています。そんな大井さんに書店のこれからについて尋ねました。

     

    大井実さん

    (大井実さん)
    書店の経営はどこも大変という声はよく聞いています。この20年あまりで2回消費税が上がり、震災やコロナもあり、ようやく最近持ち直すかなと思っていましたが食品などの値上げが激しくて本にまで消費が回ってきていない印象があります。ただ、やってみたらこんなに面白い仕事はないし、本屋はあってほしいという声もすごく強く聞かれるんですよ。この仕事をどうやって継続できるか、そしてどうやって支持してもらうか、これからもあの手この手でアイデアを出しながらやっていくしかありません。

    実際の店舗を持つ書店については、経済産業省が「地域の書店には文化拠点の役割がある」として振興プロジェクトを立ち上げ、地域の書店経営者への聞き取りや海外の書店振興策の調査などを行っています。ただ、書店の減少の背景には人口減少やインターネット書店の普及に加え、時代とともに読書教育が変化していることなどさまざまな要因があります。ふと足を踏み入れた書店で思いがけない本との出会いがあったという経験がある人は少なくないと思います。そうした場所をこれからも保つには、書店側の工夫に加え、まちの書店に足を運ぶという私たちのアクションも重要になってくると感じました。

      • 松木遥希子

        NHK福岡放送局 記者

        松木遥希子

        2006年入局、福岡県出身。書店特有の香りが好きです。

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