リニア中央新幹線の名古屋ー大阪の工事計画について、大阪府の市民団体が懸念を発信し続けている。同区間は未着工だが、工事が始まっている東京・品川ー名古屋ではさまざまなトラブルが起きていることから「同じ問題が起きる」と危機感を強める。大阪では万博やIRカジノ、北陸新幹線など大型事業がめじろ押し。開発を推し進めるだけでいいのだろうか。(中川紘希)
◆「リニアは大阪に必要なのか」不安の声
3月下旬、新大阪駅前の歩道橋。辺りを見回すとJR京都線や大阪メトロ御堂筋線、東海道新幹線などがせわしなく行き来する。さらにリニアと北陸新幹線も付近を通ることが検討されている。リニア市民ネット・大阪(大阪府藤井寺市)の春日直樹代表(79)は街並みを眺め、疑問を投げかける。
「リニアは大阪の未来に必要なのか。事業は市民が理解して進んでいるのか」
リニア市民ネット・大阪は2015年、国がJR東海の品川ー名古屋の工事実施計画を認可した数カ月後に発足した。大阪府内でほぼ毎月、市民に問題を知ってもらうための「リニアカフェ」を行い、年に数回、環境問題などに詳しい専門家を招いた講演会を開いている。
◆大阪までつながるのは2037年度の予定だが…
名古屋ー大阪の区間は、三重、奈良県がルートとして検討され、新大阪駅付近が終着駅として有力な候補地となっている。JR東海は品川ー大阪について、2037年の全線開業を目指している。
ただ、品川ー名古屋の開業は、静岡県内での着工の遅れから当初目標の2027年を断念し「27年以降」に。全線開業の目標時期は変えていないものの、ずれ込む可能性がある。
◆府内の都市部で地下水噴出や地盤沈下が起きるかも
名古屋ー大阪について、JR東海は2023年12月、環境影響評価法に基づく手続きに先駆けてボーリング調査を始めたと発表した。
ルートや駅位置選定時期の見通しは立っていないが、春日氏は、東京都町田市の大深度地下トンネル工事現場付近での地下水などの噴出や、岐阜県瑞浪市の地盤沈下のようなトラブルが起きることを警戒する。開発が進む府内の都市部では地上をルートとすることは難しく大深度地下を使うと予測。「住宅密集地にトンネルを掘れば、振動や騒音、地下水の異常、陥没などは大問題になる」と話す。
一方で大阪ではリニアの他に、万博やカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開発が進み、北陸新幹線を通すための大深度地下トンネル工事も行われる予定だ。
◆「事業が進んで止められなくなる前に、もっと議論を」
春日氏は「環境などの懸念があるテーマが多すぎる。今起きている問題に関心が奪われ、リニア問題を考えてもらいにくい」と活動の難しさも明かした。
1970年の大阪万博で「夢の乗り物」として展示されたリニアの模型を眺め、未来を想像したという春日氏。ただ半世紀以上たち大阪・関西万博が開幕する今も、JR東海のリニアは開業できないままだ。「トラブル続きで開業の予定も示せない事業者に工事を進めさせていいのか。事業が進んで止められなくなる前に、関西でももっと議論する必要がある」
品川ー名古屋の建設工事では既に、...
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