仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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どーも竜尾です。
感想が来るたびにこう思っているのかとか返信どうしようとかニヤニヤしています。
さて、展開が多くなりまして書く側としても大変楽しくなっています。
僕もこの物語が出来るのを楽しみにしている一人なんですよね。


同類

==========

 

時が進むのは実に早いものだ。

今の最前線は第五十五層、ここは主街区の《グランザム》だ。

その街を形作る無数の巨大な尖塔は、全て黒光りする鋼鉄で作られている。

《アルゲード》なんかの建物は大抵石造りだと言うのに、もの珍しい街だ。

今日もジャックは単身ダンジョンでひと暴れしているのだろう。

第五十一層と第五十二層の探索は四日ほどの時間を費やされ、どちらのボス部屋にもボスがいないことが裏付けられた。

 

『十六時間で二階層を突破したプレイヤー』

 

ジャックは肯定していないがまず間違いなくそれを成し遂げたのは彼で間違いない。

アインクラッド中のプレイヤーがそう思っているはずだ。

しかし、それほどまでジャックに強さがあったとはだれも予想出来ていなかった。

《ユニークスキル》《神聖剣》を持つヒースクリフですら出来やしないのではないかと思うほどだ。

ヒースクリフにも《神聖剣》の力をもってすれば出来るのかと聞いたことがある。

『やってみなくては解らない、とはよく言うが、私の戦い方ではその短時間で二度もボスと戦うのは無理だろう』

とだけ返されたが、彼は否定しなかった。

ボスを単独では倒せないということを。

俺はそれ程の力が《ユニークスキル》には込められているのだと悟った。

数日前手にしたエクストラスキル。

いや、結局あの後も情報屋に名前が出ないことから《ユニークスキル》であると推測できる《二刀流》。

今のところこの《エリュシデータ》に匹敵する片手剣もないし何よりバレると厄介だから最前線では全く使っていない。

それにもしジャックにバレたらどうなるか想像もしたくない。

ここで、俺はあることに思いつく。

《ユニークスキル》の強大さ、ジャックが恐らく単独でしかも短時間で攻略で来た理由。

 

――ジャックも、何らかの《ユニークスキル》を手にしているはずだ。

 

あくまでも憶測の段階に過ぎないが、あり得ない話ではない。

俺自身、出現条件の解っていないスキルで何種類あるかも解っていないんだ。

それに『唯一(ユニーク)』と呼ばれる程の代物なら《殺人鬼》なんてものはそれに相応しい物のハズだ。

(ま、それを聞いたところでジャックが正直に答える訳はないか……)

《グランザム》の街を歩きながら首をゆっくり左右に動かしながら見ていく。

すると、あるところで足が止まった。

目の前にあるのは一際高い塔。

巨大な扉の上部から何本も突きだす銀の槍には、白地に赤の十字を染め抜いた旗が垂れ下がって風にはためいている。

今やアインクラッド最強のギルドと名高い《血盟騎士団》のギルドだ。

ジャックもアインクラッド最強とは呼ばれなくなった。

あのジャックの敗北宣言には全てのプレイヤーが驚いたことだろう。

最強のプレイヤーの率いる最強のギルド。

 

――俺がジャックに抱いていた理想形がそこにはあった。

 

そのまま通り過ぎようとしたところで「キミ」、と声を掛けられた。

聞き覚えのある声、しかも女性と言えば――

白革のブーツの音とともに俺の方へ接近してくるのはボス攻略で何度も共闘したアスナだ。

しかし、今の彼女と言えば出てくる単語は《閃光》《副団長》《攻略の鬼》だ。

女の子にそういうのはどうかと思うが全て事実だ。

《閃光》は彼女の代名詞のようなものであり剣先すら見えないような速度で自身の細剣を打ち出す姿から付けられた二つ名。

俺も実際にそれを何度も見たが俊敏値にステータスを一極振りでもしているのかという程のモノでジャックより早いと解った時には肝を冷やした。

《副団長》、《攻略の鬼》はほとんど言葉通りだ。

この最強のギルド《血盟騎士団》の副団長を務め、前線をジャックにも負けぬハイペースで押し上げる程の攻略至上主義者だからそう呼ばれている。

因みにこの情報をアルゴから仕入れた後ジャックと話をしていたのだが腹を抱えて大爆笑していた。

閑話休題。

こういったことから俺も何と声を掛けて良いか解らずに取りあえず彼女の方を向く。

俺の前まで来ると彼女は腕を組んでこちらを睨んで来た。

「えっと、何かご用でも……」

以前から俺とアスナは攻略会議の度にぶつかってきたこともあった。

まあ、ボスに対しての戦い方による論争は終わらずに、結局デュエルで決着をつけることもあった。

ジャックもヒースクリフも攻略会議では全くと言っていい程口を出さないので仕方がない。

だからって呼びとめられて無言で睨まれることはないと思う。

「《Jesus to Rippers》って知ってる?」

「……え?《Jesus t》――」

「キミと仲の良いジャック=ガンドーラが関係してるって聞いたのだけど」

それを聞いて思い出す。

少し前に《アルゲード》の掲示板に張られていた紙。

 

【『予告』近々《Jesus to Rippers》が参上しますので宜しくお願いします】

 

そこに確かに《Jesus to Rippers》と書かれていた。

やっぱり、ジャックと何か関係があったのか。

「何も知らないの?」

アスナが黙り込んだ俺にそう言った。

「あ、ああ」

 

「《Jesus to Rippers》ってギルドが次々とプレイヤーを拉致しているらしいのよ」

 

その内容に驚愕する。

しかし、俺はあくまでも平静を装った。

「そのギルドとジャックと何の関係が?」

「ギルドの名前もそうだけど、そのメンバーって言うのが《殺人鬼》に感化されたプレイヤーだと言うことよ」

言葉が詰まる、ついにジャックの蒔いた種はここまで大きくなってしまった。

「その中には犯罪者プレイヤーもいればそうでないプレイヤーたちもいるらしいの」

「そんなに大勢のプレイヤーが……」

「彼らは今第二十層のギルドホームに立て籠っている。恐らく彼らとコンタクトが出来るのはジャックだけということ」

恐らくそれは今は行った情報のハズだ。

それにしたってプレイヤーを拉致する必要があるのか?

「だから、キミも何か知らないかと思って。ジャックの居場所も知っていそうだし」

「拉致されたプレイヤーの素性って解るのか」

「え?」

アスナの言葉の後にすぐそう返す。

ジャックのことを崇める集団なら何らかの意図があるはずだ。

「解らないかな、多分情報屋も調べてると思うけど……何で?」

「ジャックは邪魔なプレイヤーを殺すことを旨としている。それならPKプレイヤーだってその対象に入るんじゃないか?」

「じゃあ、オレンジじゃない人たちは皆犯罪に関与しているってことなの?」

「その《Jesus to Rippers》がしっかりジャックのことを知っていれば、その可能性が高い」

アスナは考えるように視線を下に下げた。

《Jesus to Rippers》のやっていることも犯罪に変わりない。

いくら捕まえているのが犯罪者でもそれを裁くのは俺達では決してないのだから。

「とにかく、ジャックを探すことに他ないわね」

その言葉に俺も同意しようとした時。

「呼んだか?」

通りの反対側にその男は立っていた。

鋭い金髪をなびかせながら笑みを浮かべて歩いてくる。

「《Jesus to Rippers》……もちろんあなたなら知っているハズよね」

ジャックは表情一つ変えずに口を開く。

「ああ、今からそこに行くつもりだ」

「「え!?」」

それには俺達も動揺が隠せなかった。

たった今《血盟騎士団》に知らされた情報がこんなに早くジャックの耳に通る訳がない。

「さっきそこの奴らから簡易的なメッセージが届いた」

「なんだよ……」

緊張が解けて大きな溜息か出た。

俺を見てジャックはほくそ笑む。

「《KoB》の連中は今準備中ってとこか?」

《KoB》というのは《血盟騎士団》の略称だ。

「いいえ、団長は相変わらずまかせっきりだから今は情報が欲しいみたい」

それを聞いてジャックはさらにニヤッと笑った。

「じゃあ、行くか」

俺達三人は転移門へと向かって歩き出した。

 

==========

 

ジャックがPKプレイヤーを襲う様になったのは第三十層あたりからだ。

当時もうジャックの力は絶対的なモノになり模擬戦すら行われなくなった。

攻略組に自分の邪魔になる物はいないと見極めたジャックが次に狙ったのは千人入るのではないかと言う犯罪者プレイヤーの殺戮。

自分を邪魔する可能性は全て排除する。

攻略の片手間にジャックが何人ものプレイヤーたちを黒鉄球送りにもせずに殺している。

誰もが複雑な心境になった。

犯罪者プレイヤーは俺達の敵であることに変わりないしジャックに狙われても仕方ないと割り切ることが出来る。

攻略組の多くも殺すまではしなくていいのではないかと思っている。

それでも犯罪者ギルドを壊滅させたと情報が入れば手のひらを返す者がいるのも確かだった。

彼を《英雄》として見るのではなく、《殺人鬼》として称えているのだ。

「あれ?《Jesus to Rippers》のギルドがあるのって第二十層じゃ……」

俺達が降り立ったのは第四十四層の主街区だった。

「その代表者と話があるってことでここに呼ばれた訳だ」

 

「お待ちしておりましたジャック様。それに《黒の剣士》と《閃光》までとは」

 

不意に後ろから声がして振り返る。

「背後から話しかけるなんて無礼な真似をお許しください」

深くお辞儀をするプレイヤーに目を向けるジャックの顔は笑ってなどいない。

コイツが今後自分の邪魔になるかを見定めているようだった。

顔を上げたプレイヤーは先ほどの声を聞く限り女性プレイヤーだと解ったのだがそれでも俺はその姿に驚愕した。

明らかに小柄でナーブギアの対象年齢ギリギリと言える程の少女だ。

俺達と圧倒的に身長差があるのを感じることが出来た。

茶色をベースにした装備で金属製の防具は少なめだが肩に付けられた黒の金属にはギルドマークであろうか。

左腕を横に出し指を下に向けその腕とクロスするように右腕が立てられ中指が一直線に立っているモノが赤い色で描かれていた。

その中でも異彩を放つのは眼から鼻まで顔の半分を隠している仮面だ。

同じく真っ黒な仮面に白く大きな眼が一つだけ描かれている。

一応仮面はカテゴリー的にもアクセサリーに入るから目は見えていると思うが。

「どうも、《Jesus to Rippers》の代表として来ました《イナニス=グロリア》ですグロリアとお呼び下さい」

そういうとグロリアは「こちらへ」と俺達を近くのカフェへと誘った。

随分と手際の良い事だ、俺達は何も言葉を発さずに後ろをついて行った。

外にある席に四人で腰掛けるとグロリアがウィンドウを操作しながら口を開いた。

「それで、ジャック様を呼んだ理由ですが……《閃光》がいるということは《血盟騎士団》にも情報が回ったということですね」

アスナが小さく頷く、「そうですか」とグロリアが返すと数枚の写真が取り出された。

「この四人が、今回我々が捕えた犯罪者もしくはそれらに加担しているプレイヤーです」

緊張が奔る。

四枚ともジャックの方を向けて置くと一人ひとり指を差しながら彼女はそのプレイヤーがどんなことをしてきたのかをこと細かに語った。

一通り話し終えるとジャックが口を開く。

「で、オレに誰を殺すか決めろとでも言いてぇのか」

それを聞くとグロリアは嬉しそうな顔をした。

「流石ジャック様です、もう予想されていたんですね」

俺とアスナは戦慄した。

グロリアは間違いなく本気だ。

《Jesus to Rippers》のメンバーはジャックの指示さえあれば必ずそれを遂行してしまう。

ジャックに視線を向けると写真を持ちながら椅子に深く座っていたが、その腰を上げると写真を投げ捨てた。

「全員黒鉄宮に送れ」

短く言い放つと立ち上がる。

「はい、わかりました」

ジャックの言葉に意に介さずグロリアはまたお辞儀をする。

俺は思わず「いいのか」と言葉が出てしまいそうになるのを必死に抑えた。

なぜ、こんな言葉が出そうになったのかは解らない。

俺もジャックに感化され始めているのか?

それとも、つい珍しい事にジャックを疑ったからなのか。

アスナの方を向くとジャックのことを疑っているようだった。

「あと、《Jesus to Rippers》の連中に伝えとけ」

 

「オレが殺してぇ奴はオレ自身の手で殺す」

 

かつて、ジャックと戦った時のことを思い出した。

「じゃあな」とだけ呟き、ジャックはその場を後にした。

残されたのは俺達にグロリアは振り返り、再び席に着いた。

「改めて《Jesus to Rippers》の《イナニス=グロリア》です」

先ほどとは違い無機質な声だ。

「お二人は私に何か聞きたい事があるんじゃないんですか?」

そういうと先に口を開いたのはアスナだった。

「一応今回はジャック君が黒鉄宮送りにしたから不問にするけど、もしPK行為が見られれば私たちも黙っていないわ」

「大丈夫です、バレませんから」

すかさずグロリアが返した言葉に俺も言った。

「どういうことだ」

「今回《血盟騎士団》に情報を回したのは紛れもなく私たちですから」

顔が強張るのを感じた。

「私たちは自分たちの情報に関しては徹底しているので、今後関わることは多分ありませんよ」

「本当にそういえるのかしら」

「もし攻略組の情報収集能力が高ければ、今頃《笑う棺桶》のアジトは見つけられていたと思いますが」

少しだけいたいところを突かれた。

ジャックと同じように殺人行為が目に見えて増えて来たのが《笑う棺桶》の連中なのだが、未だに尻尾すらつかめていない。

アルゴにも聞いてみたが、捕まえたPKプレイヤーに尋問しても情報は得られなかったらしい。

曰く「《笑う棺桶》の情報だけは頑なに割ろうとしなかっタ。あいつらの中に《PoH》と同等のキレ者がいるとみて間違いないヨ」

――PoH。

そのユーモラスなプレイヤーネームに反して、《笑う棺桶》を先導するアインクラッドきっての快楽殺人者。

ジャックに感化されたプレイヤーすら操ってしまうほどのカリスマを持っているヤツがもう一人いると言うのか……。

「私たちの行動原理はあなたたちも知っている通りジャック様にあります」

グロリアという少女はなおも口を開く。

「だから、あなたたちがジャック様の邪魔さえしなければいいんですよ。互いに不干渉で良いじゃないですか」

口元しか見えないが、確かに笑っているのが解った。

そこで、俺は言った。

「君は、どうしてこんなことを」

一瞬、彼女の動きが止まった。

何かを思い返すように椅子に深々と座って顔を少し上に向けると俺の方を見た。

 

「それしかないんですよ、私達には」

 

モンスターの攻撃よりも重い一撃が突き刺さったような感覚に陥った。

「私の姿や声で解るようにお二方よりも年下です。あの日から孤独で絶望していたんです。そして、踏み出せなかった愚かなプレイヤーなんです」

あの日、と言うのはデスゲームが始まった日のことだろう。

「もちろんお二方も私は尊敬していますよ、《閃光》の方は半年、《黒の剣士》は未だに独りで戦っているんですから」

言葉を聞くのが酷く痛かった。

俺はただ他人を見捨てたからその贖罪とトラウマで孤独を貫いているだけだと言ってやりたかった。

「あなた方がどのようにして希望を見出しているか解りませんが、私にはそれがジャック様だった。というだけです」

アスナの方を見ると俯いていた。

彼女にも思い当たる節がいくつかあるということだ。

「あの絶対的ともいえる存在にずっと惹かれていました。だから、私は強くなることを始めました。」

「そういったプレイヤーが集まったのが《Jesus to Rippers》ということか」

俺の言葉に「はい」と言いながらグロリアは小さく頷いた。

「《閃光》には何か思うモノがあるんですか?」

テーブルに頬杖をついてグロリアはアスナを見た。

肩が僅かに震えていた。

「怖くはないの?」

「何にですか?」

「ジャック君に対して恐怖を抱いたことはないの?」

「最初の内はありましたよ、さっきも言った通りあなたたちより幼いんですから」

小さく微笑んでグロリアは言う。

「なんでこんな人がいるのか、もしかしたら自分のことも殺しに来るんじゃないのかと震えていましたよ」

「じゃあ……」

「それ以上にジャック様の強さに惹かれただけです」

アスナはそれから次の言葉を発することはなかった。

少しの沈黙の後グロリアは席を立った。

「それでは、また機会があればお会いしましょう」

俺は小さく「ああ」と言い隣に座っているプレイヤーを見る。

アスナはゆっくり立ち上がって俺を見た。

「ジャック君ってどうして《殺人鬼》なんだろう……」

俺は少し間を開けた後に応えた。

「ジャックがそうあることを望んだから……だと俺は思う」

アスナは「そうなのかな」というと転移門へと歩いて行った。

最後に「またね」と言われた言葉が、やけに印象的に俺の心に残った。

 

==========




はい、まず感想の返信で誤情報を出しましたすいませんでした。
今回《Jesus to Rippers》の回だということを忘れていました。
オリキャラは基本的にジャック、シンディア、グロリアともう一人しか大きく取り上げはしません。
それに、キリト君視点ですから。
そろそろ原作に戻りますよ~。

【次回予告】

「久しぶりね、ガンドーラ」

「知りてぇんだろ?《Jesus to Rippers》のことを」

「……かっ!誰か、仲間の仇討ちをしていただけないでしょうかっ!!」

「システム外スキル《潜水》だ。オレが名づけたがな」

次回をお楽しみに!それでは。

※追記。
《二刀流》を《両手剣》と間違えていました。
恥ずかしい間違いをしてしまってすいません。
誤字報告ありがとうございました。
『黒鉄宮』が『黒鉄球』になってました。
用語に関しては僕の先入観が入っているので間違えやすくなっているようです。
ちょっと最近誤字が多くなっているので気をつけますが、誤字が出てしまうということをご了承ください。
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