仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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どーも竜尾です。
この度UA数が一万を超えました!
お気に入り100も突破したばかりでダブルショック。
読者の皆様本当に有難う御座います!
これからも『仮想世界に棚引く霧』をよろしくお願いします。


敗北宣言

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転移が完了し、視界が開けるとそこに広がっていたのはただ真っ白な空間だった。

《アルゲード》はあんなに快晴だというのに、第五十三層主街区《ネブラ》はただただ白かった。

周りを見渡しても何か建物が見える訳でもない。

それに、何だか気温が下がったような……。

(……ん?)

視線を下に向けたとき俺は気がついた。

足の周りで煙のような白い空気が動いていた。

(霧……?)

匂いもしないし手を振れば冷たい感覚も残っている。

第五十三層は霧の町なのかと思いながら周りの建物はどの位置にあるか把握するために《索敵》スキルを発動させようと思ったその時。

霧が背中から通り抜けて消えていった。

振り向くと、そこには陽が差したこの世界では普通の町並みが広がっていた。

(つまり、この霧はイベントか何かか?)

踵を返すとすぐにその霧の発信源を追った。

周りを見ると、別の場所からも霧が集まってくるのが判った。

霧の中に入り真っすぐ走って行く。

《索敵》を発動する暇もなく、もし建物にぶつかったらその時だと走る速度を上げる。

もしかしたら、この霧の発信源にはジャックがいるに違いない。

そうして走り続けているといつの間にか俺は《圏外》に入り込んでいた。

流石にこのまま走り続けるのは敵がどこに居るのかも解らないので急いで立ち止まって剣を引き抜いた。

背中を霧が通り抜けていく。

仕方ないと心の中で割り切り引き返す。

《圏外》まで来て追いかけっこをするつもりはなかった。

(と、言うことはフロアボスが発生させていたのか?)

だとしたら厄介この上ないだろう。

数メートル先も見えない霧を発生させられれば仲間の位置すら視認できやしない。

早急に主街区へと戻ると数人のプレイヤーの影が見えた。

その全員が《血盟騎士団》だと判ると俺は警戒を緩めた。

先頭に立つのはやはりヒースクリフだ。

彼も俺の姿を視認したようで一人で俺の方に向かってきた。

「やっと《神聖剣》のお出ましだな」

ちょっと意地悪っぽく言うとヒースクリフはやれやれといった仕草を見せると言った。

「それで、《圏外》から出て来たということは何かあったのかい《黒の剣士》」

その返し方に「うっ」と心の中でやられたなと思うと俺は《圏外》の方を指差す。

「さっきまでこの主街区を霧が包んでいたんだ」

「霧?」

「ああ、数メートル先も見渡せないような濃霧だった。そいつがどこかへ消えようとしたから追いかけたんだ」

「それで、《圏外》まで出て行ったということか、発生源は見ていないのか?」

「《圏外》まで出て追いかけっこするのは流石にな……」

俺がそういうとヒースクリフは何かを考えるように顎に手を置いた。

そこで俺は先程から気になっていたことを聞いた。

「そういえば、ジャックを見なかったか?」

ヒースクリフは後ろを向くと《血盟騎士団》の連中は首を横に振る。

「そういうことだ、ジャック君の姿は確認されてない」

じゃあ、やっぱりさっきの霧の先にはジャックが?

すると、俺のメッセージウィンドウに一通のメールが届いた。

ヒースクリフも考え事をしているようだし右手を動かして開くと差出人はアルゴだった。

 

【ジー君が転移門から出て来たんダ。急いで戻って来ナ】

 

それを見て俺はヒースクリフに軽く挨拶をして走り出した。

そのまま転移門を素早く操作して俺は再び《アルゲード》へと帰還した。

 

==========

 

《アルゲード》の街は騒然としていた。

それは、転移門より十数メートル先で一人のプレイヤーを大勢のプレイヤーが取り囲んでいるからだろう。

「遅かったナ、キー坊」

転移してばっかの俺にアルゴが後ろから話しかけて来た。

「これでもすっ飛ばして来たんだけどな……」

「まあジー君が来たのも一分や二分前だししょうがないカ」

改めてジャックの方を見ると、その周りを取り囲んでいるのは全員《聖竜連合》のメンバーだった。

隙間なく人で固められ、壁のように並んでいるその姿見ていた俺にアルゴは言った。

「ジー君が出て来て周りのプレイヤーは一斉に退いたんだけど、数歩歩いたところで用意していたように奴らがジー君を取り囲んだんダ」

「《ボックス》か、《聖竜連合》も性質の悪い事をするな……」

この《圏内》では《犯罪(アンチ)禁止(クリミナル)コード》というプログラムが常時働いており、他のプレイヤーにダメージはもちろん無理やり移動させるような真似は一切できない。

しかしそれは裏を返せば、行く手を阻もうとする悪意のあるプレイヤーも排除できないということであり、あのように一歩も外へ出られないようにする行為は《ボックス》と呼ばれている。

そこまでしなければジャックは止められないと思ったのだろう。

ジャックはただ無表情にそれを見ては、何もせずにただ立ち尽くしていた。

そこへ《聖竜連合》の幹部らしきプレイヤーが壁の間から姿を現した。

「ジャック=ガンドーラ、こんなことをされる理由を探せばいくらでもあるかもしれないが、我々が聞きたいのはただ一つだ。」

一息ついてそのプレイヤーは口を開く。

 

「第五十一層と第五十二層を突破したのは貴様か」

 

野次馬たちが一気にざわめく。

これにジャックが肯定の言葉を言えば、彼は単独で、しかもたった十六時間で二つの階層を突破したことになる。

「いかなるギルドも貴様に手を貸さないことは明白だ、それにこんなことをやってのける程の実力を持ったプレイヤーで姿を現さないのは貴様だけだ」

その言葉に俺はアルゴの方を向いた。

俺が何を聞きたいのかアルゴは察したようで「1000コルだからナ」と言うと俺はその商売魂に苦笑いしながらウィンドウをタップした。

「シンちゃんならまだ自室に居るって連絡が来たヨ、その情報をまた売ってやったのサ」

やっぱりかと心の中で呟くと俺は再びジャックの方に視線を向けた。

すると転移門から数名のプレイヤーが姿を現した。

ヒースクリフ達が第五十三層から戻ってきたのだ。

「これは、どういうことかな」

真っ先にヒースクリフが声を上げる。

「《神聖剣》だ」「今度は《血盟騎士団》かよ」と野次馬達から声が上がり、前に進むヒースクリフ達を避けていく。

やがて壁まで来ると「通してくれないかな」と言うと声を掛けられた《聖竜連合》のプレイヤーは素直に道を開けた。

「《神聖剣》か、見ての通りジャック=ガンドーラに聞いているのだ、貴様がやったのかと」

そして、視線はジャックに集まる。

それでもジャックは全く表情を変えることなはない。

「ジャック君、確か君は嘘は吐かない主義を貫いているらしいね」

そこへ、ヒースクリフがジャックに語りかけた。

「私がここに来たのは君が二つの階層を突破したか聞きに来た事ではない」

言い放つと、ヒースクリフは大きな盾に取り付けられた剣を取りだした。

 

「君を、我が《血盟騎士団》に勧誘しに来た」

 

場の空気が凍りついた。

いや、だがそれもおかしくはないと俺は考える。

あの《神聖剣》ならジャックですらも破ってしまいそうな気はしていたのだ。

「君を倒せば、《血盟騎士団》に入ってもらえるね」

「他の奴らは納得してんのか?」

ジャックが始めて口を開いた。

「君の実力は皆熟知しているからね、君をこのまま放っておくのは惜しい」

間髪いれずにヒースクリフは答える。

「そうかよ」と小さく呟くとジャックは被りを振ってヒースクリフの方を見る。

その後《聖竜連合》の幹部のプレイヤーを見ると口を開いた。

「まず、テメェの質問だがオレからしちゃノーコメントだ。証拠がある訳でもねぇだろ」

「その言い草だと貴様がやったと認めていることに変わりはないだろう」

「一言もオレがやったなんて言ってねぇだろ、嘘はついてねぇな」

素早く返答して一蹴する。

確かにジャックの言うことはもっともだが、やはり彼が単独で二つの階層を突破したのだとここに居る全員が確信を持った。

「んで、次はヒースクリフか」

ジャックはヒースクリフの方を向くと、彼はそれを微笑んでみていた。

その中には湧き上がる闘志が見て取れた。

ヒースクリフもジャックを相手にすることに興奮しているんだ。

《神聖剣》というゲームバランスを崩壊しかねない代物と《殺人鬼》と呼ばれながらも最前線に立ち続けアインクラッド最強とも謳われているジャックがぶつかることが。

 

「お前とは戦わねぇ」

 

が、ジャックから放たれたのは意外な言葉だった。

今まで誰からの挑戦も受けていたジャックが、初めて挑戦を蹴ったのだ。

ざわめきが大きくなる。

「理由を聞いてもいいかな?」

ヒースクリフは相変わらず涼しい表情だ、動揺すらしていないのか?

 

「今のオレじゃテメェには勝てねぇから」

 

それは、ジャック自ら敗北を認めたということだった。

「逃げるのかい?《殺人鬼》ともあろう君が」

「あぁ、生憎負けることが判っている勝負を受ける程戦闘狂じゃねぇからな」

「やってみなければ判らないだろう?」

「やる前から相手と自分の実力すら見極められねぇんじゃこの世界じゃ《殺人鬼》として生きていける訳ねぇよ」

その言い争いは平行線を辿るだけだが、ジャックが自身が負けるなんて言葉を使ってのは初めてだ。

周りの人間も彼が負けを認めていることにざわつきを隠せていない。

今まで何もかもを力でねじ伏せて来たジャックがこれほど勝負を渋るのも信じがたい光景だった。

「それじゃあ本当に君の不戦敗と言うことでいいのかな?」

「問題ねぇな、勝てねぇことが判ってんだからそれでいいだろ」

そこでジャックは「ただ」と言いながら振り返る。

顔には狂気的な笑みが浮かんでいた。

 

「本当にオレとヒースクリフが戦ったらどうなるんだろうなぁ」

 

「どういうことかな」

ヒースクリフは驚きもせずにジャックの背中に声を掛ける。

「ここに居るほとんどのヤツが本当にオレが負けるのか納得できねぇ奴もいるだろ」

確かにそうだ、俺も納得できていない。

それはジャックに贔屓しているのではなく心の底から思っている。

アインクラッド最強と、アインクラッド最強の《剣技》をもったプレイヤー同士の戦いなどどちらが勝つかなんて予想できるはずもない。

「オレにとっちゃ、それだけで十分だ」

ジャックはそういうと敏捷値全快で走り出した。

急な事に《聖竜連合》のボックスの隙間を突破され、ジャックはそのまま走って路地裏へと逃げて行った。

残ったのはただ沈黙だった。

「仕方ないか、諸君。戻るぞ」

それを破ったのはヒースクリフだった。

立ちつくす団員達の肩を叩き、転移門でギルドホームのある場所へ戻って行った。

沈黙が解かれると、他のプレイヤーたちもぞろぞろと転移門で帰って行った。

俺も、今はとても攻略へ戻ることはできそうにない。

それに恐らくジャックの手により今の最前線は第五十三層だ。

(そういえば五十一層と五十二層の《LAボーナス》について何も聞かなかったな)

すると、隣でアルゴが大きな溜息を零した。

「はあ、全くジー君は……ネタには欠かせないナ」

それだけ言うとアルゴは軽く俺に別れを告げて転移門でどこかへ飛んで行った。

(俺も戻るか)

大きく息を吐くと、疲労が溜まっていることに気付いた。

アインクラッドも半分が攻略され、ジャックの存在は全ての階層にその名が轟く程だった。

事実下層プレイヤーの中にはジャックを神聖な存在として崇める者たちがいるらしい。

 

――もはやジャックは《殺人鬼》ではなく《神》だ、と。

 

《アルゲード》のホームに戻るとまだ午前九時半。

どうにも攻略に行く気も慣れないし《アルゲード》の路地裏でも見て回るかと考える。

その前にどうせ時間があるならアイテムや装備なんかの整理をしておこうとウィンドウを開いた。

一個一個詳細を見ながら売る物と取って置く物の仕分けをしておく。

そうして一時間くらい経った時、俺はあることに気がついた。

(スキルの欄に、何か違和感を感じる)

スクロールしながら表示される文字一つ一つに目を向けていく。

(あった!)

指で止めるとそこには片手剣を二本クロスさせたようなアイコンと《二刀流》の文字。

「何だ……これ……」

軽くタップするとそこに書かれていたのは幾つかの《剣技》。

しかし、《二刀流》なんて《剣技》は情報屋のリストにも載っていなかったはずだ。

思考に電流が奔る。

(まさか……これが?)

エクストラスキルもとい《ユニークスキル》だと言うことだ。

その概要としては片手剣を両手で持つ《剣技》を発動できるという物だ。

名前だけを聞くと単純なモノのように聞こえるが、意外とそうではない。

SAOにおいて《剣技》が発動するときは例え両手に武器を持っていようが一つだけだ。

ジャックの《死刀》は若干例外で《投短剣》スキルなら《短剣》スキルと併用も可能らしい。

故に両手で武器を扱うと言うことは圧倒的に手数が増えると言うこと。

一対一なのにニ対一と錯覚させてしまう程だろう。

しかし、何故こんなモノが。

(ヒースクリフの言ったことは事実だったのか)

気がつくとスキルスロットに新たな《剣技》が入っているのには不思議にならざるを得ない。

これは《アルゲード》の街を見ている場合じゃないな。

俺は勢いよく自室を飛び出すと人の少なそうな平和なエリアへと転移し、そこで一日中《二刀流》の練習をしていた。

 

==========

 

翌日手にした新聞には昨日のことがぎっしりと書かれていて読み切るのに時間がかかってしまった。

第五十一層と第五十二層に関しては昨日も探索が行われ、本当にボスの姿はどこにもなく、記事でもジャックが単独で突破しているのではないかと強く書かれていた。

あと数日はその二つの階層の探索を続けるらしい。

今《聖竜連合》と《血盟騎士団》の面々が第五十三層の主街区で誰もダンジョンに行かせまいと通路を塞ぐ《ブロック》ということもしているらしい。

好都合と言わんばかりに俺は《二刀流》の練習に打ち込んだ。

常に《索敵》スキルを発動させながら肉眼でも周りに気を配る。

こんな物が見られてしまえばソロで《ビーター》の称号すら持ってしまっている俺は他のプレイヤーたちの嫉妬で殺されてしまうかもしれない。

細心の注意を払いながら俺はひたすら両手で剣を振り回していた。

翌日、ふと《アルゲード》の転移門近くにある掲示板に目を向けて見た。

そこにはモンスターの目撃情報や受けられるクエストの情報などが書かれているが、その中で異彩を放つ紙に眼が行った。

 

【『予告』近々《Jesus to Rippers》が参上しますので宜しくお願いします】

 

始めてその文章を見たときは頭にはてなマークしか浮かばなかった。

(イエス・トゥ・リッパーズ?ギルドか何かの名前か?)

思考を止めて転移門へと向かう。

何故俺はあの謎の文章に惹かれてしまったのだろう。

両の手に握られた剣を振りながら考える。

(《Jesus to Rippers》……イエスは神様の名前でリッパーって……)

そこで手を止めて剣を一本しまうともう一度思考に耽る。

(リッパーから連想できるのはやっぱり《ジャック・ザ・リッパー》しかないか)

と、言うことはつまり。

(ジャックが何か関係しているのか?)

そう思うのが妥当だろう。

考えすぎとは思うがジャックを神聖化している集団だと予測がつく。

ジャックの影響はアインクラッド全体に良い影響も悪い影響も及ぼしていた。

良い影響はやはりジャックに対する闘争心からの戦闘の全体的なレベルアップ。

悪い影響はジャックに感化されたプレイヤーたちの辿る道だ。

どちらもジャックを神聖化することには変わりないのだが、それらは極端に二分化されている。

一方は毎日毎日自分たちが決めた法のような物に則り毎日ジャックを崇め奉る集団。

もう一方はジャックに少しでも近付こうと犯罪者になり下がった集団だ。

第五十層攻略前に《笑う棺桶》と言うレッドギルドが出現したらしいが、その構成員も何人かはジャックに感化された者らしい。

しかし、それにしても《アルゲード》の掲示板に堂々と紙を張り付ける程の集団か……。

また一悶着あるなとため息を吐き、転移結晶も使わず歩いて主街区の転移門へと向かって歩を進めていった。

 

==========




ついにタイトル回収ですね。
いよいよ『霧』が出てまいりました。
そしてジャックの敗北宣言。
ま、ジャックさんですからね。
最後に《Jesus to Rippers》という存在が出てきました。
ここからジャックがSAOに与えた影響が大きくなってきます。
ちょっと《Jesus to Rippers》は思わせぶりでしたかね?

【次回予告】

――俺がジャックに抱いていた理想形がそこにはあった。

「《Jesus to Rippers》……もちろんあなたなら知っているハズよね」

「それしかないんですよ、私達には」

「ジャック君ってどうして《殺人鬼》なんだろう……」

次回をお楽しみに!それでは。
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