仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

20 / 123
お気に入りが100人突破いたしました!
本当にありがとうございます!!
どーも竜尾です。
テンションが非常に高ぶっております。
正直シンディアさんが死んだのでそれどころではないはずですが。



垣間見た者

==========

 

「キリト!ジャック!時間を、時間をくれ!!」

 

黄金の鎧が消えた瞬間俺達を呼ぶ声が聞こえた。

その声には聴き覚えがある。

腰に刀を携え趣味の悪いバンダナをしたクラインだ。

その手には、二、三週間程前にクラインに投げ捨てるように渡した宝石が握られている。

――《還魂の聖晶石》だ。

あれで、シンディアを生き返らせるというこ――

「おい、時間がねぇ!行くぞキリト!!」

ジャックが急かすように俺の背中を強く叩いた。

まだ、シンディアが消えてから五秒程しか経っていない。

彼女が最後に放った《ディア・ピカーティ》によって《ワールド》は数メートル吹き飛び、HPバーは残り一本となりそのゲージも一割以上削れていた。

尻餅をついた巨体を両腕を使って持ち上げている。

(今なら、行けるっ!)

俺とジャックはさらに加速する。

まだシンディアが死んだことに信じられずに立ち尽くすプレイヤー、逆上して闘志を燃やしたプレイヤー、あれほど強い彼女さえも殺してしまったボスに対して慄くプレイヤー。

その全てを無視して、ただただ目の前の敵を『殺す』ことに集中する。

見れば、ヤツの腕の数は元の二本になっていた。

つまり、これが最終形態。

しかもその両腕は地に付いている。

俺は《ヴォーパル・ストライク》を放つ体勢に、ジャックも《アスタンティス》を打つつもりだ、短剣が真っ白な光を帯び始める。

しかし、仏像はその手で張り手を打つように地面を叩き、身体を浮かび上がらせた。

思わず体の動きが止まる、《剣技》が発動せずに足がつっかえた。

ジャックは動じずに単身で浮遊する《ワールド》に向かって接近する。

着地の瞬間を狙うはずだ、徐々に蛇行している走りには迷いが無い。

俺は落下し始めた《ワールド》に目を向けると今度取り出したのは真っ黒な片手剣と同じく真っ黒な盾。

顔はジャックの方を見つめ、落下の体制を整える。

ジャックの短剣に再び光が帯び始める。

速度を殺さずに仏像が落ちてくるであろう場所の後ろに回り込んで《剣技》を発動させた。

あの位置なら《ワールド》の死角であり剣も届かない。

だが、一直線に突っ込みながら急速に速度を落として一撃だけ切り裂く《プラガエ》は空中で体勢を変えた《ワールド》の盾によって防がれてしまった。

そのまま盾でジャックを押し飛ばし、地面に両足で着地する。

すると、黒光りしていたヤツの身体から黒い破片が吹き飛んだ。

その中から見えたのは全身が黄金に輝いた仏像だった。

表情は満面の笑みを浮かべている。

それに俺は一つの狂気すら覚えた。

輝きの修まった《ワールド》はゆっくりと歩き出す。

歩くスピードも、最初の方と同じくらいに戻ったのだろう。

真っ黒な片手剣に注意を向けながらジャックと共にプレイヤーたちが固まっている元へと下がる。

そこには、先ほどよりもプレイヤーたちが沈んだ顔をしているのが判った。

「キリト君、ジャック君。《ワールド》は……」

ヒースクリフが心配そうに俺たちに尋ねる。

何があったのか。

そんな俺達にクラインがゆっくりと近づいてきた。

「クライン、シンディアは……」

「無事、生き帰って《圏内》に転移結晶で帰ったぜ、サンキューな」

そういうクラインの声もこう、先程のような覇気が感じられなかった。

「すぐにシンディアは生き返らせたんだけどよ、もう生きているのに死んでいるような感じだったんだ」

きっと、彼女は生と死の狭間で感じたんだ。

これから死んでいく恐怖を。

ここに居る誰よりも感じたまま生き帰ってしまった。

「声も身体も震えて俺が《圏内》に戻れって言ったとき《アルゲード》じゃない場所をシンディアさんは口にしていたんだよ」

冷静沈着な彼女がそこまで追いつめられるのが死の恐怖だったということ。

それが、目の前で人が死ぬよりも明確な『死』への認識が立ち尽くすプレイヤーたちの中で葛藤を生んだのだ。

「俺も、あんな姿を見ちゃ生き返らせたのがよかったのかも分からなくなって来ちまう……何度も助けてもらった借りを返そうとしただけなのによ」

今にも泣き出しそうな声色でクラインは膝から崩れ落ちた。

俺は、何も声を掛けることが出来なかった。

それにまだ終わっていない。

《ワールド》はこちらに向かってゆっくりと歩いている。

戦えるのは三十人はいるのか?

ジャックは《死刀》を発動させて仏像に向かおうとしていた。

しかし、それを手で制した者がいた。

「ジャック君、済まない。ここは私にやらせてくれないか」

《血盟騎士団》団長ヒースクリフだ。

ヒースクリフは右手でウィンドウを動かし始めた。

「諸君!私たちはまだ負けていない!!」

彼は背中の遥か後ろに居るプレイヤーにも聞こえるように大きな声を出した。

「いつか、この鋼鉄の城の最上階まで上るのはここにいる私たちだ!!」

何かを見付けたようでその人差し指が止まる。

 

――「戦うぞ!!」

 

タップする音が聞こえるとヒースクリフの体全体が青白い光に包まれ、未だに半分以上残っているHPも緑から青へと色が変わる。

そのままヒースクリフは真正面から《ワールド》に相対した。

金色の銅像は冷静に、歩くスピードとは段違いの速さで片手剣を振るった。

それを、ヒースクリフは十字の刻まれた盾でピタリと防いでしまった。

そのまま留まることなく襲いかかる連撃を何なく受け止め、反対の手に握られた長剣で《ワールド》を切り裂いた。

(……!?)

この場に居る誰もがその光景に絶句せざるを得なかった。

静かな集団パニックが急速に消滅していく。

ジャックやシンディアでさえ真正面から接近しあろうことか敵に直撃を与えるなんてとても信じられるものではなかったからだ。

それを、この男は意図も容易くやってのけた。

一応ジャックの方を向く。

彼は、ヒースクリフの行動に対して無表情に見ているだけだった。

何か、その姿に違和感を感じてしまった。

が、それもすぐにリンドの声に掻き消された。

「全員ヒースクリフに続けえ!!」

一斉に沈んでいたプレイヤーたちが飛び出した。

目の前に居るヒースクリフの強さが、彼らの恐怖を紛らわしたのだ。

俺とジャックも、それに巻き込まれるように仏像へと攻撃を仕掛けた。

恐怖をかき消すのは自らの声と絶対的な盾を持つヒースクリフ。

一度は崩壊しかけた戦線をヒースクリフがたった一人で立て直したということだ。

(それにしても、あれは一体何のスキルなんだ?)

いや、そんなことは今は考えなくて良い。

心を落ち着けて敵をもう一度見ると、勢いよく走りだした。

 

==========

 

それからは慎重な戦いが続いた。

ヒースクリフを一人前において俺達がその隙に攻撃するだけだ。

非常に簡略的だが、それもヒースクリフのあの防御力あってこそだろう。

終盤、ヒースクリフの防御を無理やりこじ開けられ一部のプレイヤーがパニックに陥ったが、俺とジャックでなんとか対処し、俺がラストアタックを決める結果となった。

黄金の仏像の体は葵硝子片へと姿を変え、大きな破裂音と共に部屋全体に爆散した。

「終わったな……」

腰に両手をあてて上体を逸らしながらジャックが呟く。

死者は四人程だろうか。

二十五層の攻略程ではないが、歓声が上がることはなかった。

あのときは無造作に人が殺されていったが、今回はまた違う形で『死』を実感することになってしまった。

「んじゃ、説明タイムに入りますか」

ジャックがヒースクリフに詰め寄ると、彼に全員の視線が集まる。

視線を一気に浴びたヒースクリフは、俺達を見渡すとその口を開いた。

 

「あれはエクストラスキル《神聖剣》だ」

 

俺達は思わず息を呑んだ。

そんなモノ情報屋のリストにすら載っていないスキルではないのか。

少なくとも、アルゴがそんな単語を口走ったことなど一度もなかった。

「しゅ、出現条件は?」

リンドが恐る恐る聞くと、ヒースクリフは肩を落としながら答えた。

「判らない、気がついたらスキルスロットの中に入っていた」

そこで、ヒースクリフは一息吐いてから言った。

「情報屋にもこのスキルが載っていないということはつまり、《ユニークスキル》。とでも言ったところだろう」

 

――《ユニークスキル》。

 

ただでさえこの世界はデスゲームだというのに、そのバランスすら崩壊させてしまいそうな強大な力。

俺には、何故そんなモノが存在するのは不思議でしょうがなかった。

「それを今まで隠してたってか?」

ジャックが真っ先に声を上げた。

その意見はもっともで、数人のプレイヤーの眼には憎悪が浮かんでいた。

「すまない、私も人間だ。誰か一人しか持っていない特別な力を持っているなんて知れたら、どうなってしまうのか判らなかったのだ」

ヒースクリフがこういうのも仕方がない事だ。

このゲームに居る人間のほとんどがコアなゲーマーたちだ。

もちろん誰もが強くなりたいとそう願っている。

故に、ゲームにおける嫉妬心と言うものがとても強い。

増してはこんなゲームの中だ、PKに遇う危険性も高まるということだ。

後ろで「それでも……」と言いながら地面に拳を打ちつけるプレイヤーの姿があった。

彼も判っている、このゲームで強さは武器であると同時に欠点だ。

中途半端な強さでは生きていくことは遥かに難しい。

だからこそ、ジャックは強くあり続けていた。

躊躇うことなく殺人を行い、誰もが驚愕するような行動を起こしてジャック自身の強さをいつでも誇張させていたんだ。

彼はもう人の心すら操ることですら造作ないということだ。

ヒースクリフの返答に小さく舌打ちを打つと踵を返して次の階層へと歩き始めた。

それをヒースクリフは申し訳なさそうな顔で見ていた。

 

「見殺しってのは殺人に入ると思うか?」

 

階段の手前でジャックが俺達に聞こえる声で言い放った。

その背中にはいつか垣間見たジャックのありったけの殺意が込められていた。

背筋が凍りつく。

その気に当てられ、指先が細かく震える者もいた。

ジャックの背中には今まで殺してきたプレイヤーたちの怨念が取りついているような……。

そのままジャックは振り返らずに再び歩き始めた。

 

「オレはそうは思わねぇな。テメェは殺人者じゃねぇと思うぜ」

 

ヒースクリフに放たれた言葉のハズなのに、何故かその言葉が深く突き刺さった。

かつて俺が犯した罪に対するジャックの見解にも思えてしまった。

「ジャック!!」

だから、気がつくとそんな声が出てしまった。

広間に俺の声が反響する。

ジャックは振り返りもせず、両手で扉を押し開けると光の中へと走り出した。

 

==========

 

次の日には第五十層のボス攻略の記事が新聞の一部を埋め尽くしていた。

特に強調されていたのはやはりヒースクリフの《神聖剣》だ。

昨日もあの後に詳しい能力についてヒースクリフから聞いたのだが、その内容もぞっとするようなものだった。

単純な全パラメーターの上昇に加えて武器も強化して《麻痺》や《毒》と言った所謂状態異常まで防いでしまうという物だ。

それも、持続時間も十分に長い。

一度発動すればフロアボス戦ですら乗り切れるかもしれないというほどだというものだから、もう驚愕するよりは苦笑いするしかなかった。

正直、そんなスキルを二人も持っていたなら絶対にこのゲームは攻略されてしまうだろう。

そして、シンディアの死と《還魂の聖晶石》についても小さく触れられていた。

《LGL》を纏って最後まで仲間を守るために戦った女神として称えられていた。

一方クラインが責められることはなかった。

寧ろ妥当だといっても良い判断だったのかもしれない。

クラインは彼女に仲間と自分の命を救われた恩返しだと言っていた。

シンディアが美女だったから、と言う物もごく少数だがいたらしい。

それでも、あのアイテムを使うか使わないかは使用者のエゴに過ぎない。

それに、クラインはあの戦いが終わった後も悩んでいた。

あの時も言っていた、シンディアに対して自責の念に駆られているのだ。

あれほど悩むクラインを見たのは俺としても意外だった。

結局急に黙り込んだ後に頭をガシガシと掻いて軽く俺に「またな」と言って仲間と共に去ってしまったが。

そんなことを思いながら新聞をしまいこんで歩を進め転移門の下へと行くとそこには人だかりが出来ていた。

何事かと近付こうと早歩きになろうとしたところで軽く服の先っぽを引っ張られる感覚がした。

足を止めて振り返るとフードをつけた小柄なプレイヤー、アルゴの姿があった。

「キー坊、ちょっと来ナ」

黙って了承するように頷くと転移門近くの路地裏でアルゴと向き合った。

「さて、それじゃあ情報交換と行こうじゃないカ」

その言葉に思わず声が出そうになるのを押さえて冷静を装う。

「いや、別にあそこに居る誰かに聞けばいいし……」

彼女が欲している情報は察しが付く。

今日の新聞にすらその内容については触れられていなかった。

「あそこに居る奴らとオイラの情報のどっちの方が有益かは、キー坊なら言わなくても解ってるよナ」

フードの奥で悪戯っぽく笑っているのが分かる。

確かに、事情を聴くだけなら簡単だが、そもそも人と話すことはあまり得意ではないし忌々しい称号まで持ってしまっている俺だ。

素直に教えてくれるかどうかも怪しい。

そう思うと、自然とため息が出た。

「ほら」

そう言いながら剣を取りだすとアルゴはワザとらしく「おー」と声を上げた。

「《エリュシデータ》だ」

「ほうほう、これが第五十層の《LAボーナス》ってことカ」

俺の手に握られているのはあの仏像が最後に手にしていた真っ黒な片手剣だった。

正直ヤツと同じ武器を握っていることに不快感を覚えるがそうは言ってられないほどの力がコイツには込められていた。

「ジー君は二十五層の《LAボーナス》は頑なに見せてくれなかったし、尾行していても一切使う気配を見せなかったからナ」

刀身を一頻り見た後にアルゴは《エリュシデータ》のパラメーターを見て絶句した。

中々見れない《鼠》の顔に笑いが零れてしまった。

「こりゃ、まさに《魔剣》ってヤツじゃないカ……」

目もを取るアルゴに、俺は剣をしまうと言った。

「それで、今度は俺の番だ」

「まあそう急かさんでクレ、あと数十分はあそこで状況が変わることはないと思うカラ」

アルゴは素早く元の情報屋モードに入る。

 

「実はナ、今転移門には第五十二層の主街区の名前が出ているんダ」

 

「なっ……!?」

確か五十一層が解放されたのは昨日の午後三時ほどだった筈……。

今の時刻は午前七時。

つまり――。

 

「た、たった十六時間で階層が一つ突破されたってことか?」

 

「そういうことになるナ」

アルゴの口から出たのは肯定の言葉。

「だから、皆怖がって第五十二層へは飛んでないんダ。攻略組のお偉いさんが来るのを待ってんだナ」

人だかりに目を向けると、次々とプレイヤーがやってきては動揺を隠しきれないといった表情だ。

俺は必死に頭を落ち着かせ、口を開いた。

「ヒースクリフがやったのか?」

「それはない、まだ部屋に居るってあーちゃんから連絡があったんダ」

アルゴのいう『あーちゃん』とはアスナのことだ。

あれ程圧倒的な力を持っていればこの短時間で一層を突破できなくもないと思っていたのだが。

やっぱり、こんなことをするのは――。

その時だった。

 

「おい!第五十三層がアクティベートされたぞ!!」

 

「嘘だ……ロ……?」

目の前でアルゴがそんな声を発した。

しかし、俺はそれを聞いた瞬間に走り出していた。

「き、キー坊!?」

「悪いアルゴ、ヒースクリフじゃなければ。今、最前線に居るのは間違いなくジャックだ!それを確かめに行く!!」

そう、ヒースクリフ以上の実力者なんてジャック位しか思いつかなかった。

俺は人を掻き分けながら前に進んで転移門を操作し始めた。

「おい、何をするつもりだ」

横から声が聞こえるがそんなものお構いなしに第五十三層の主街区を選択すると俺の体は五十層から消失した。

 

==========

 




はい、シンディアさん生き返りました。
まあ予想された方もいるんじゃないでしょうか。
それでもただでは生き返るなんてことは起こさせません。
ちなみにクラインさんはSAOでもトップクラスに気に入ってます。
ハーレムものを見ているとその不憫さがすごいツボなんですよね僕。
死の恐怖を感じたシンディアさんと悩むクラインさんにも期待していただけたら嬉しいです。
ただ基本的にキリト君視点なので細かいことを書くにはまだまだ時間がかかりますが。
ボス戦も呆気ないものになってしまいましたし…

【次回予告】

「そういえば、ジャックを見なかったか?」

「第五十一層と第五十二層を突破したのは貴様か」

「逃げるのかい?《殺人鬼》ともあろう君が」

(スキルの欄に、何か違和感を感じる)

次回をお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。