今回は非常に長いです。
確認しましたが七千九百九十八文字とほぼ八千文字です。
気がつくと書いちゃってました。
人の集中力とは何と恐ろしいモノよ…。
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無数の手の全てにありったけの武器を持ちながら炎に囲まれた台座の上で無表情な仏像が佇んでいる。
背中から蠢く百はある手はゲシュタルト崩壊を起こさせるような不気味さを帯びている。
初期位置である台座に戻ったことにより俺達とはかなり距離がある。
ジャックはこの膠着を破ろうと《投短剣》スキルを発動させるために短剣を一本取り出す。
それを見て、先に動いたのは《ワールド》だった。
蠢いていた手がピタッと止まる。
そのうちの一本が仏像の背中の後ろへと消える。
斜めから奴の姿を見ていたシンディアがその目的に気付いて声を上げる。
「ガンドーラ、武器を投げてくる!!」
同時に、《ワールド》の背中で黒い残像が俺の眼に映った。
奴から投擲されたモノに目を向けるとそれは両手剣だった。
切っ先は真っ直ぐジャックの方を向いている。
このままではジャックに直撃してHPの全てを持っていかれるだろう。
ましてや今握っているのは《投短剣》用の消耗品の短剣だ。
それでも尚、ジャックは笑っていた。
重心を低くして一直線に向かってくる両手剣に短剣を持っている手を突き出す。
その時、両手剣のバランスが崩れ、切っ先が地面を掠める。
勢いは留まることなく、加えて回転しながらジャックへと襲いかかる。
ジャックは地面に身体が着くんじゃないかと言うくらいに身体の位置を低くして一気に飛び出す。
そのまま高速回転する両手剣へと短剣を突っ込んで腕を思い切り振り上げ、両手剣を短剣ごと打ちあげた。
耐久値の切れた安物の短剣と、持ち主の手から離れた両手剣は空中で同時に四散する。
「今度は、武器をそのまま投げてくる訳か、要は全部避けろってことかぁ」
愛用の短剣《リッパー・ホッパー》を取り出してジャックは不敵に笑う。
「みんな!もう一度防御陣形を組むんだ!!」
リンドが叫び、自分から部屋の中央へ行くためにパーティーを連れて動く。
しかし、《ワールド》は狙い澄ましたようにそこへ向かってメイスを投げる。
「くっ……!!」
リンドはそれを地面を転がって何とか避ける。
そこへ立て続けに二本の武器が投げられる。
「うわっ!」
辛うじてその二本も躱わし切るが、リンド以外のパーティーメンバーと距離が開いてしまった。
(くそっ……)
そして、仏像の手がまた残像を残して振られる。
俺はその間に入って投げられた槍を正面から切り伏せた。
「動くのは危険だ!俊敏値の高いものはボスに向かって接近。壁役は慎重に距離を取れ!」
ヒースクリフが状況を見て指示を出す。
確かに、動けばヤツの的になるだけだ。
ジャックの《投短剣》も、もう通用するかも分からない今、俺達は接近をしなければ攻撃することが出来ない。
徐々にヒースクリフの作戦に合わせてみんなが動いていく。
《ワールド》もいつまでもじっとしている訳ではない。
遠ざかって行くプレイヤーに対して自身の武器を投げていく。
「遠くなって避けやすくする前に遠くの人だけ狙おうってことね、わたしたちも狙われない訳じゃないから迂闊には動けないし……」
隣で顔も黄金の兜ですっぽり覆われたシンディアが呟く。
俺達は何も出来ない。
高い位置から放たれる武器にただ躱してくれと願い、自分にいつ武器が飛んでくるか解らない恐怖の中で仏像へと接近している。
後ろは振り向けるはずもなかった。
耳には金属音や猛る声、落ちた武器の破裂音がはっきりと聞こえる。
それでも振り向けない、振り向かない。
が、突如俺の耳に武器の破裂音とは違う、命の消える音がした。
――どうする……。
ここで反射的にも振り返らなかったからこそ、気付くことが出来た。
恐らく、今前を向き仏像を見ているプレイヤーは本当の意味でこの世界に居るんだ。
半年前の何もかもを失った俺だったら、間違いなく振りかえっていただろう。
人が死んだかもしれないのに見向きもしないのは非人道的かもしれない。
――でも、これはゲームだ。
――ゲームという現実だ。
俺達は本来、いつ死ぬかも分からない世界で生きているんだ。
ただ、それに目を逸らし続けた結果なんだ。
俺の目の前には何人か後ろを向いたプレイヤーがいる。
彼らの顔を見る限り、やはり誰かが死んだのだ。
だが、悲しみに浸っている余裕はない。
一瞬の判断が命取りとなるボス攻略戦。
後ろを見た時点でその全てを《ワールド》は見ていた。
彼ら全てに向かって仏像の腕が忙しなく動く。
接近していたプレイヤー全員に武器が飛んでくる。
当然奴の動きを見ていた俺は剣で飛んでくる刃を回避することが出来る。
しかし、視線を戻したプレイヤーにとっては急に目の前に奴の武器の切っ先がこちらを向いてしかも自分に向かって飛んできているのだ。
まさかあの一瞬目を逸らしただけでと思うだろう。
何とかそれを回避したり、直撃だけは免れる。
それでも、俺が見えた範囲で二人のプレイヤーの身体の中心を武器が貫通していた。
大きくHPが削れる。
何故、武器が刺さっているのか二人が理解する時間もなく、呆気なくその体を硝子片に変えた。
奴の武器の残りは二十弱と言ったところか。
俺達は限界だと言わんばかりに地を蹴った。
今の攻撃で戦意喪失したプレイヤーも少なからずいる。
ならば、今戦える奴だけで証明するしかない。
――『勝てる』と言う勝利への確信を。
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いきなりの接近にも《ワールド》は対処してくる。
正確に、勢いを止めるように武器が投擲される。
それをスピードをなるべく止めないように剣で往なす。
下手に飛び越えれば、空中無防備となった姿を間違いなく武器で貫かれる。
二度目の投擲。
真っ先に飛び出した俺やジャックはもう階段の手前まで来ている。
先陣を切るのは俺より俊敏値の高いジャック。
片足を蹴って軽く跳んだと思うと投げられた斧の柄の部分を踏みつけてジャンプ台のような形にして斧が消える前に跳躍する。
俺は身を屈めて武器を避けた後、階段をジグザグに登って行く。
奴の残った武器の数は六。
九十四本の腕はその全てが千手観音を彷彿させる構えを取っている。
武器を持たない腕が攻撃してくる様子はない。
ジャックは《ワールド》の手前に着地する。
台座の周りの炎が消え、黒い仏像の陰影がより雰囲気を増す。
「化け物見上げんのは、オレは納得いかねぇんだよ」
ジャックは《ワールド》が腕を二本振り下ろす前にバックステップで一気に階段を跳び越える。
その体は再び宙へ、《ワールド》はすかさずジャックへと武器を投げる。
それを身体を捻って腕を前に出し、短剣と武器の切っ先が触れた瞬間に腕を動かして身体から逸らす。
が、僅かに腕が切られHPが数パーセント減少する。
「ほら、これで三本。さっさと決めちまえ」
ジャックが着地しながら言う。
俺の後ろにはシンディアやクラインたちも集まっている。
水色の光を片手剣に纏わせた《剣技》を発動する。
余った三本のうち、俺に飛ばされた腕は一本。
それを避けて背中に回り込んで素早く四連撃を放つ。
斬撃跡は正方形。
《ホリゾンタル・スクエア》を打った俺は素早くその場から離れる。
次々とプレイヤーたちが押し寄せる。
シンディアが残り二本の腕を防ぐと奴は丸腰も同然。
一斉攻撃で急速にHPが削れていく。
そして、ついに三本目のHPバーが消滅した。
瞬間、奴は再び跳躍して今度は台座の前に降り立った。
また腕が増えるのかと緊張が奔る。
仏像は上半身だけ傾け顔を見せないような体制になる。
すると、顔辺りから水のようなものがぽたぽたと音を立てて零れ落ちた。
《ワールド》が顔を上げると敷き詰められた腕が引っ込んだ。
奴の顔は涙の後を浮かべていた。
悲しそうな顔をしている。
そして、映えている腕は十本。
しかし、全てが肩ではなく、二本は両肩、残りは適当に生えている。
先程のようにジャックが肩に乗ってもあれなら対処が出来るという訳だ。
誰もが気を引き締めた、しかし――。
――既に死者が出ているというのに、ここからが、俺達にとって本当の地獄だった。
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今、ヤツはアタッカーである俺達と壁役隊達の真ん中あたりに居る。
比較的《ワールド》に近いのはジャック。
《ワールド》ジャックの方へと振り返る。
するとヤツは今までとは段違いのスピードを出した。
その速さで顔から涙が後方へと流れていく。
俺達も急いでジャックへと加勢に向かうが間に合わない。
俺は先程までの《ワールド》とは何か違った違和感を確かに感じ取っていた。
《ワールド》は左脇腹に生えた手と右肩から生えたてにそれぞれサーベルとハンマーを携えて一気に振り下ろす。
ジャックはその腕が通らない位置に回避する。
が、その先にも既に二本の腕がジャックに襲いかかろうとしていた。
「……チッ」
舌打ちを打ちながらそれらも順序を見極めてステップで避けていく。
まだ攻撃は終わっていないとばかりに《ワールド》の右手左手に握られた片手剣と刀を横に薙ぐ。
ジャックはバックステップで躱わし、攻撃を逃れていた。
そこで仏像の動きが止まる。
「六連撃、上手く誘導されてたな」
短剣を手の上で回しながらジャックはポーションを出して飲み込む。
見れば、僅かに被弾している跡があった。
そこに俺達が合流する。
「兎に角、今は扉の近くに居るプレイヤーたちと合流だ。私たちではあの連撃を避けきることは困難だ」
ヒースクリフが言うと俺達は《ワールド》の動向に目を光らせながら部屋を回るように走りだす。
敏捷値の高い俺達はすぐに別れてしまったプレイヤーたちと合流することが出来た。
その間、ヤツは俯いたまま何もしてこない。
さっきジャックが食らった攻撃を下に防御のやり方を壁役たちが話すと再び仏像が動き出す。
「何連撃まで跳んでくるか解らない今は俺達が迂闊に攻撃する訳にはいかない。みんな頑張ってくれ!」
リンドが檄を飛ばすと俺達の前に出た数人のプレイヤーたちは盾を掲げてボスと向き合う。
《ワールド》の顔からまた一滴の涙が零れ落ちる。
瞬間、仏像は上半身を少し傾けてカクカクした動きでしかもなかなかの速度を持って接近してきた。
一気に緊張が奔る。
《ワールド》は壁役たち全員に対して一本ずつ腕を伸ばして同時攻撃をする。
開いた腕は二本。
それが無理矢理後ろの俺達に伸ばされるが、俺とジャックがソレを弾き返した。
仏像は攻撃が失敗したのを見ると後ろへ跳んで退避する。
その体が地面に付いた瞬間、ヤツはまた勢い良く俺達に突撃してきた。
今度は全ての腕を前に構えて壁役の間を通り抜けてくる気なのだろう。
そうはさせないと全ての壁役が一丸となって《ワールド》を迎え撃つ。
俺達も左右に展開して壁役隊が突破されても被害が出ないようにする。
しかし、ヤツは壁役たちに当たる直前でスピードを殺さないまま進行方向を直角に曲げた。
(狙いはこれだったのか!?)
連撃の恐怖から左右に逃げるのを早まり、何人かは壁役たちでは対処しきれないような位置に居る。
しかも彼らが逃げたのは右側で俺やジャックがいるのは左側。
誰かいないのか、と無責任にも心の中で呟く。
《ワールド》が腕を解いて数人の飛び出してしまったプレイヤーに十本すべての腕を繰り出す。
刹那。
――黒光りする仏像の身体に何かが反射した。
黄金の槍と盾で全ての攻撃を弾くか受け流すかして自分と後ろに居るプレイヤーを同時に守る。
そのまま無防備になったヤツに黄金の槍はこれまた同じくらい輝く金色のライトエフェクトを纏わせた重い一撃が入る。
爆発でもしたのかという程の音が仏像の身体から上がる。
槍を強烈な速度で上げる大きなランスを使う人間にとっては一撃必殺ともいえる大技の《剣技》。
《槍》スキル《ネクエ・アースタ》が仏像の巨体を吹き飛ばしていた。
そして黄金の鎧を纏うのは俺達の知る限りただ一人。
「大丈夫?攻撃は逸らせたと思うけど当たってない……かな?」
《黄金》の二つ名を持つ女性プレイヤーシンディアだった。
しかし、ただでさえヘイト値を大量に取る《LGL》の装備に加えて《ネクエ・アースタ》を当てればしばらくの間は彼女に攻撃が集中することは必至。
シンディア達が再び壁役隊に戻り陣形を立てなおすと他のプレイヤーはシンディアを後ろに下げた。
「そのままシンディア君は後ろへ!」
ヒースクリフが《血盟騎士団》の面々と前に出る。
シンディアはそれを見ると少しだけ兜を前に傾ける。
「けど一か八かじゃない?」
彼女も判っている。
もちろん俺達もヒースクリフが何を差しているのか判っていた。
一度、別のボス攻略でも使った手だ。
敵の意識はヘイトの高いシンディアへと集中する。
それを利用して真正面からシンディアに近づけさせないように敵を捩じ伏せる。
シンディアだけを攻撃対象としていれば俺達は攻撃されずに済むというモノなのだが。
まず第一にクオーターポイントのフロアボスである奴にそれが効くかどうか。
第二に《ワールド》を止められるかだ。
もしシンディアが射程距離に入れば攻撃している奴らは間違いなく巻き添えを食らう。
だから、『一か八か』なのだ。
「下手に攻撃を食らうよりはマシじゃねぇの」
ジャックは笑みを浮かべてシンディアを一瞥する。
「こいつが攻撃される距離にさえいなければ……な」
喉の奥で小さく笑い声を上げるとジャックは一気に無表情になる。
そのまま身を翻して伸びをする。
「さーて……やんぞ」
視界には一直線に突撃しようとする仏像の姿が映った。
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「絶対近づけさせんなよ!」
「ここから先には行かせねえ!」
各々が恐怖を紛らわすように声を上げる。
それを泣いた顔の仏像は十本の手を全て構えるという形で答えた。
しかし狙い通り突進したプレイヤーたちは間合いに入っても攻撃されることはなかった。
各員が《剣技》を叩き込んでいく。
が、ヤツの突進によって何人かのプレイヤーが吹き飛ばされる。
「あれだけで二、三割もHPが……」
思わずそんな声が漏れる。
しかもまだそのスピードは全く落ちていない。
残るは俺とジャックと壁役たちとシンディアだ。
「削り行くぞ」
ジャックは俺の肩を小突くと走り出した。
俺もその後に続くが、ジャックは俺の前に出るとその場で大きく跳んだ。
「キリト、肩借りんぞ!!」
(まさか、さっきのはその合図だったのか)
苦笑いを浮かべながらジャックの両足の着地位置に自分の両肩を合わせる。
前に何度か同じことをしていたせいで俺はそれに慣れてしまっていた。
ジャックは俺の肩を足場にして一気に《ワールド》の眼前まで跳ぶ。
体勢を崩しそうになるのを何とか抑えて俺も走り出す。
しかし、空中で《剣技》の体制を取ろうとするジャックに仏像の手の一本が飛来した。
「やっぱオレにもヘイトが溜まってたか!」
悪態をつきながらジャックは短剣で攻撃を弾く。
ジャックの体はそのまま《ワールド》の上へ。
このままではただ仏像の上を通り過ぎるだけだろう。
だが、ジャックがただで終わるはずがない。
空中で《剣技》の体勢を取る。
俺も同時に《剣技》を発動させる。
俺が狙う先は足。
ジャックが発動させたのは《シーティ・ビーティア》。
切っ先が二度《ワールド》の背中に当たる。
俺は《バーチカル・アーク》で右足だけを集中して切り裂いた。
ジャックは無理な体勢で《剣技》を打ったため背中から落下。
俺も急いで《ワールド》の方を向く。
その速度は、少しだけ遅くなったが、変わってないと言っても大差ないだろう。
「みんな、ありがとう!!」
悔しがる俺達にシンディアが言う。
シンディアの前の壁役隊と《ワールド》がぶつかる。
「後は、まかせて!」
シンディアが壁役たちの前に出る。
彼らも相当に消耗している。
シンディアが前に出ると《ワールド》の攻撃の矛先は彼女一人に向いた。
三本の腕がそれぞれ別の角度から襲いかかる。
間違いなく避けられない。
そう思った俺達は度肝を抜かれた。
シンディアは身体を捻って小さく跳び、槍と盾を突き出す。
一本は彼女の下、一本は槍、一本は盾に当たり、シンディアはその勢いを利用して回転。
着地まで決め鎧が揺れる。
それだけでは終わらず《ワールド》から次々と攻撃が繰り出される。
十二連撃に渡るその攻撃をシンディアは無傷で回避し、反撃までして見せた。
俺はその姿にジャックに近い戦闘センスを感じていた。
見れば《ワールド》のHPゲージの四本目はあと僅かだ。
仏像はそれに気付いたのか慌てて後ろに跳ぶ。
俺達も急いでシンディアの下に集まって陣形を組んだ。
正直シンディアに対する驚愕は心の中に残っていたが、今はそんな事を考えている暇はない。
《ワールド》は俺達の方を向きなおすと十本の腕で何か仏像を思わせるような構えを取る。
十数秒の沈黙の後再び仏像は走り出した。
――その腕の全てに赤い光が奔った。
この戦いでヤツが見せる初めての《剣技》だ。
全員の気が引き締まる。
どんな《剣技》使ってくるのか、その一瞬が思考を僅かに鈍らせた。
仏像の右腕が降り上げられる。
俺達は急いでその戦場から避ける。
しかし、振り下ろされた奴の腕は俺達の一メートルほど手前に落ちた。
(フェイクか!?)
またしても《ワールド》は俺達を操って見せた。
そして、一番無防備だとヤツが判断したプレイヤーにその刃が襲いかかる。
そして、またしてもそれを防いだのは黄金の鎧を纏うシンディア。
続いて別の場所へと攻撃が跳ぶ。
シンディアはその先へと移動してまた攻撃を防ぐ。
片手剣、両手剣、刀、サーベル、槍、ハンマー、短剣、曲刀、斧、細剣。
十種類の武器をあらゆる方向に動かして攻撃をする《ワールド》。
対して俺たち全員を守りながら動くシンディアの姿はまさに『女神』やそれに近い大きな存在だった。
十回目の攻撃を防ぐと全ての武器を回して今度は彼女に直接攻撃が繰り出された。
一本一本重量のある《剣技》がシンディアを襲う。
盾で流す、槍で弾く、跳んで躱わす。
まるでシンディアと《ワールド》だけで戦っているような錯覚を起こしそうなほど壮絶な戦い。
しかし、戦況が変わる。
《ワールド》の十九連撃目が終わる。
恐らく後一撃だろうとこのとき誰もが思っていた。
そして二十回目の攻撃。
その矛先は、シンディア――ではなく、一人のプレイヤーに向けられていた。
シンディアの次にヤツの近くに居たプレイヤーだ。
まさかこのタイミングで自分に、俺でも同じ立場ならそう思っていただろう。
焦って足が縺れ体勢を崩す。
俺やヒースクリフも武器があのプレイヤーに向けられたときに走り出していた時には走り出していたがとても間に合う距離ではない。
それでも、彼女なら間に合う。
シンディアは腕を伸ばして何とか軌道を逸らそうとしていた。
この一撃だけ逃れられれば。
兜の下の表情は見えないがそう言っているようだった。
だが、隣でヒースクリフが何かに気付いたように声を上げた。
「駄目だ!シンディア君!!」
突如、片手剣の軌道が変わった。
刀身は跳び込んだシンディアの左足へ。
またしても、フェイント。
それは攻略組ならだれでも知っている片手剣の《剣技》だった。
突きと見せかけて袈裟斬りをする簡単なモノ。
俺達は、それに気付くことが出来なかった。
切り裂かれたシンディアの左足は身体から離れて宙を浮き、地面にたたきつけられる。
そこに、仏像は全ての腕を振り上げていた。
(まさか、もう一撃――)
まだ赤い光は宿ったまま。
シンディアは残った右足と盾を使って立ち上がった。
だが、彼女が回避も防御もする気配が見えない。
恐らく、左足が無ければこの攻撃は防げないと思ったのだ。
けど、その選択肢は――。
――十本の腕が振り下ろされるのと、黄金の槍が仏像の額に刺さるのはほぼ同時だった。
最高位《槍》スキル《ディア・ピカーティ》を放ったシンディアの身体は十本の武器に貫かれていた。
急速にHPが減って行く。
その中で、彼女はどこかを見ていた。
そして、兜の下で小さく微笑んだ……気がした。
――四本目のHPバーが消えると同時に黄金の鎧はその持ち主ごと姿を消した。
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ああああああああ!!シンディアさーーん!
ま、殺すように書いたの僕ですけどね。
《LGL》が全部そろった時から死亡フラグが立ってしまったということです。
しかも壁役ですからね。
第二十五層のときの『軍』『精鋭』『壁』という全身フラグ人間スコータムさんとは違ってましたが。
どうしてもここが書きたいが故にこんなに長くなってしまいました。
【次回予告】
「ジャック君、済まない。ここは私にやらせてくれないか」
(それにしても、あれは一体何のスキルなんだ?)
「見殺しってのは殺人に入ると思うか?」
「嘘だ……ロ……?」
次回をお楽しみに!それでは。