どーも竜尾です。
僕、黄金ってホント大好きなんですよね。
金に目がくらんでいる訳ではありません、本当に。
いやー、シンディアさんくそかわ。
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その足が踏み締めたのは、第五十層主街区《アルゲード》だった。
――俺は、死んではいなかった。
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互いにHPが危険域に入り最後の切り合いが始まろうとしたときに、俺達の耳に聞きなれないアラーム音が鳴り響いた。
二人の間に俺の体から跳び出したのは一つのクリスタルだった。
それを見たとたんに俺の足は自然と止まってしまった。
しかし、全走力で走っていたために爪先が地面に引っかかって体勢を崩して前のめりになる。
そのまま重力に従って上体が落下。
それ程積もっていない雪の地面に頭からヘッドスライディングをする。
うつ伏せに落ちたので顔や腹が雪の下の地面に擦れて痛みに近い感覚が襲うが、それでも俺は跳び出したクリスタルを両手でキャッチしていた。
そのクリスタルに見覚えがあった訳ではない。
それから少しだけ地面を滑った後、顔を上げると目の前にジャックの姿があった。
(ま、まずい……)
思わず奥歯を噛み締める。
(俺達は今殺し合いをしているんだ!余計な事を考えている場合ではなかった!!)
無防備にもうつ伏せに倒れる俺に、ジャックはその短剣を振り下ろすだろう、今片手剣を振っても、この体制ではどうあがいてもジャックの方が早いはずだ。
だが、ジャックは短剣を振り下ろすどころか、得物をしまって俺に空になった右手を差し出してきた。
俺はその行動に呆然とし、何の躊躇いもなくジャックの手を握る。
「ほらよっ」
そのまま俺を引き上げる、頭や服から雪が落ちるが、俺の頭はそんな事を気にしている余裕などなかった。
迂闊な行動をした自分への嫌悪よりもジャックの取った行動に対する疑問の方が大きかった。
頭の中で「え?」という言葉が交錯する中ジャックはなくなった方の左手の人差し指で何かのジェスチャーをする。
「ほら、早くそれタップして再生しろよ」
――本当に何がしたいのか解らない。
さっきまでの殺意剥き出しのぶつかり合いは何なんだよ……。
一応デュエルは継続されてるし、俺もジャックもHPは真っ赤に染まっている。
(ま、一応さっき殺されなかったし……寧ろ逆らったら今殺されそうだ)
俺は視線を手の中にある小さなクリスタルに向ける。
見れば、それは《録音クリスタル》のようだった。
指でタップすると、それから聞き覚えのある声が聞こえた。
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それは、サチの遺言だった。
彼女は俺が彼女たちとかなりレベル差があることに気付いていた。
そしてこれを俺との共通アイテムウィンドウに入れて、タイマーをセットしていたのだ。
その内容は、サチの不安と、曖昧になった罪への赦しと、感謝と、別れの言葉だった。
『――ありがとう。さよなら。』
その声を最後に、クリスタルは輝きを失い、俺の手の上に落ちる。
サチは、最後まで俺のことを気にかけてくれていた。
「……うっ、あぁああ……」
膝から崩れ落ち、嗚咽する。
両眼を手で覆っているために、横に居るはずのジャックの表情は見えない。
彼は、人が人の命を奪うことに関してどんな感情を抱くのだろう。
ひたすら咽び泣き続ける俺に、それを確認する術は俺にはない。
涙も流れないというのに俺は十数秒の間叫び続けた。
一頻り叫び終えると、沈黙が包む。
その中を淡々と雪が降り、火照った体を徐々に冷まして行った。
ジャックは大きくため息を吐くと、ウィンドウを動かして小さな小瓶を二つ取り出す。
一本を指で弾き、それは俺の目の前にある雪に刺さる。
その行動に俺は見向きもせずに言った。
「殺さないのか……」
「ああ」
ジャックは即答してポーションを口に含む。
「俺を殺すんじゃなかったのか」
ポーションを呑みこむとジャックは口を開いた。
「今更死にたくなったか?」
その言葉に、俺は目を見開いた。
意味のある死に方を探し、今日まで希望に縋り、何もかもを失って、それでも俺はサチの一言で生きたいと思ってしまった。
「テメェが生きることを自分勝手だと思うなら、自殺でもしとけ。生憎、邪魔じゃねぇ奴は殺しても意味ねぇからな」
ジャックは不敵な笑みを浮かべ、俺の方を見る。
「せいぜいオレの役に立ってから死ねってんだ」
それがジャックなりの慰めなのか、俺には解らなかったが、一つだけ……。
(敵わないな……コイツには……)
俺は指を動かして『降参』の宣言をする。
【WINNER/Jack=Gundora 試合時間/33分5秒】
ウィナー表示を見ると、ジャックは元来た道へと身体を向けた。
「そろそろ俺が最上階のマッピングが完了する。一週間もすれば第四十九層のボス攻略が始まるだろぉな」
「そん時を楽しみにしてるぜ。キリト」
それは、《殺人鬼》直々の招待状だった。
ズボンのポケットに手を突っこんだままジャックは暁の中を歩いて行った。
ジャックの姿が見えなくなると雪の中から小瓶を抜き取り、口に流し込む。
そして、今までずっと俺達の先頭を見ていたクラインの方を向いた。
俯いていてその顔は見えない、俺は謝罪の言葉を口にしようとした。
「クライン、悪かっ「悪かったじゃねえよ!!」」
左の頬に鋭い痛み。
体が数センチ浮き、再び雪に手を着いた。
「お前らが戦ってんのを見て俺がどれだけ心配したのか解ってんのか!!!」
その顔は、怒るどころか泣きそうなものだった。
ゲーム序盤にレクチャーしてもらい、不器用なコミュニケーションしかとれない俺。
《殺人鬼》ながらも気さくな性格で会話に長けていたジャック。
その二人と強い関わりを持っていたクラインはどちらも止められずただ見ていることしかできなかったんだ。
(そりゃ、そうだよな……)
こんなやつに心配なんて言葉を掛けてくれるほどこの男はお人よしなんだ。
なら、心配させる訳にはいかない。
――生きると決めたんだ。
「もう、大丈夫だ。ありがとうクライン」
雪を叩きながら立ち上がる。
ジャックも言った、次のボス戦を楽しみにしていると……。
それに、現実にだって戻りたい。
俺達の時間はまだ何一つ進んでいないんだ。
「俺は、ちゃんと生きるから。生きて現実に帰るよ」
これが、この世界での二度目の誓いだ。
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俺は主街区に戻った後、思う存分に眠りに付いた。
今まで夜通しでレべリングをしていたし、何より《背教者ニコラス》戦後にジャックと戦った疲労が一番大きかった。
結局、その日は丸一日寝て過ごした訳で、目が覚めてから日付が変わっていたのは一つの良い経験になった。
そして新聞を見ると、ジャックの言葉通りボス部屋の発見が記事に載っていた。
翌日には偵察隊が編成され、偵察戦が行われるらしい。
この日も特に迷宮区に行くこともなく、主街区の中を練り歩いて一日を過ごした。
今までこんなことを一度もしたことのなかった俺は、言いようのない不思議な感覚に襲われた。
子供っぽい探究心だ。
この世界だって攻略がすべてではない。
そう思った俺は、《転移門》で適当な場所に降りてはその街を探検することにした。
すると、攻略ばかりに囚われているだけでなく、たまにはこんな場所に目を向けて見るのもいいのではないかと思った。
飲食店や掘り出し物のアイテム屋。
強くなるのに必死だった頃には見過ごしていた場所も探索すればするほどより面白い事が判ってきた。
挙句の果てには昼寝ポイントなる物を数か所見つけ出し、これまた半日はそこで寝て過ごしていた。
そして……。
「一週間何もかもを忘れて思うがままエンジョイしてたわけか」
「はい……そうです」
俺達がいるのは第四十九層ボス部屋前だった。
やけに俺の様子が変わったことを気付いたジャックに、この一週間のことを話すとさすがに苦笑いで呆れられた。
「別に戦えるなら問題はねぇけど、聞くまでもねぇな」
「ああ」
確かに、この一週間は今までの俺だったら完全に別人だった。
でも、戦いを忘れたことはない。
今日この戦いを超えて、俺の立てた誓いが形となって行くんだ。
だから、こんなところで死ぬわけにはいかない。
俺は背中にある剣の柄に手を掛ける。
ここから、はじまるんだ。
――俺の、本当のデスゲームが。
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行われた第四十九層ボス攻略は今までにない程の速さで終結した。
四本の足を地につけ、一つの目玉でこちらを見てくる姿はまるでモンスターそのもの。
薄緑に発光した身体とその中心に付いている真っ赤な瞳で見られても、特に臆することもなかった。
その戦いにおいて、俺とジャックはこれでもかといくらいの猛攻を見せた。
俺達の攻撃チャンスになると真っすぐに突撃して攻撃を避けながら次々と身体の至るところを切り裂いて翻弄する。
足を止めることなく一分程の蹂躙が終わるとHPゲージは一本が消えていた。
そんなことが幾度となく繰り返され、第四十九層ボス攻略はあっという間に終わった。
俺達が暴れ過ぎてあまりボスを倒した実感のなく唖然しているプレイヤー達に見向きもせず、俺とジャックは第五十層へと駆け上がった。
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《アルゲード》を見たとき、素直な感想は「大きい」だった。
街の外観を見たときにも感じていたが、今まで見て来たどんな主街区よりも街並みが広がっていた。
小さな建物も多く立ち並び、路地裏が迷宮になっていると思うと、ここ一週間こんな場所ばかり回ってきたせいか、身体がうずうずしてしまう。
「そんじゃ、オレは迷宮区にいくわ」
ジャックと一通り《アルゲード》を見て回ると、ジャックが言った。
まあ予想は出来ていた言葉に軽く相槌を打って俺は街の方へと歩き始める。
やっぱりあの路地裏はちょっと回っておきたい、という好奇心が俺の中では大きかった。
適当な場所から路地裏に入って探索を始める。
主街区故にマッピングは出来ないので脳内で地図を形成していく。
三十分ほど歩き続け、そろそろ俺たち以外のプレイヤーも到着するころ合いだろうと思い適当な場所から外に出る。
それにしても《アルゲード》の路地裏はそうとうに道が入り組んだ、まさに迷宮だった。
「アルゲード迷宮区……」
そんな言葉がポツリと出てしまうほどだった。
そのまま頭の中で道のりを整理する俺に透き通った声が聞こえた。
「《黒ずくめ》さん。今日はすごかったですね」
顎に当てていた手を外して声の主の方を顔を向ける。
そこには首から下を黄金の装備で固めた女性プレイヤーの姿。
シンディアだ。
「ガンドーラと二人でほとんどあいつのHPを削っちゃってわたしの出番はあんまりなかったですし」
ガシャ、とシンディアの装備が揺れる。
《LGL》にはもちろん武具も存在する。
《ルクスリア・ゴールド・ルナ・シールドランス》と二単語加えたチープな名前の武器だが、《LGL》故にとても性能が高い。
彼女の背中にかけられた巨大な円錐型の槍は攻撃防御ともに優れ、耐久値の異常な高さと体のバランスを補正する能力でボスの攻撃が直撃しようとびくともしない。
そして腕に取り付けられた五十センチほどの丸い盾。
その中心には二十センチの蒼い球体の宝石のようなものが取り付けられており敵の攻撃が当たると球体の部分が回転して敵の攻撃を受け流す。
今やシンディアの存在は攻略組では欠かせないものとなっている。
アタッカーもそうだが壁役としても十分に役割をこなすシンディアは俺達からの信頼も厚かった。
未だにギルドや固定的なパーティーには属しておらず、勧誘が絶えないらしい。
たまに攻略会議後に結婚を申す込む輩もいるらしいが、ことごとく玉砕してるとか。
そんな心身ともに鉄壁で、《LGL》を纏うことから《黄金》の二つ名が付いている。
そもそも彼女は俺やジャックと同じくらいのレベルも保持している。
やはり、それほどないと《LGL》獲得クエストは突破できないのだろうか。
一度興味本位でアルゴにクエスト内容を聞いたことがあるが、その内容はぞっとするものだった。
「これから《LGL》のクエストを受けに行くのか?」
「もちろん、次で最後の装備だからね」
不敵な笑みを浮かべてシンディアは答える。
「これで、ガンドーラとも戦えるんだから」
その笑顔の中には、やはりジャックへの闘争心が見えていた。
一週間前に俺はジャックと文字通り死合いをした訳だが、彼女は、人を殺すことが出来るのだろうか。
アスナがジャックを見る目には、まだ恐怖の色が残っている。
女性を差別する訳ではないが、シンディアも『死』に対して恐怖の感情があるのではないか。
俺が少し黙りこむと、シンディアは少し息を吐いて普通の表情になった。
「そういえば、《黒ずくめ》さんはどうして路地裏から?」
あっ、と思わず声が出る。
「い、いや。ちょっとを街を探索に……」
ここは正直に言っておいた方が良いだろう。
シンディアは俺が出て来た路地裏を覗き込む。
「この町見たけど相当建物も多いから路地裏も相当大きかったんじゃない?」
「ああ、三十分ほど歩いたけど、全然回った気はしなかったな」
「へえ~、《黒ずくめ》もこんなことするんだね」
おや?
なんか気がつけばシンディアとめっちゃ会話してないか俺。
再度顔を見れば、やはり綺麗さと可愛さの混じったものであることがよくわかった。
これは攻略組の男共が惹かれる訳だ。
んー、といいながら路地裏に顔を覗かせるその姿をそいつらが見たときには発狂モノだろう。
首から下は黄金に輝き、肩まで伸びる銀髪は《LGL》によってさらに煌めいている。
四つも装備も揃えれば凄まじいもので、俺の背筋に伝わる、途轍もなく冷たい殺気が無ければ間違いなく彼女に惹かれていただろう。
それにしたって、なんでこんなに俺に殺気が当てられているのだろう。
周りを見てもそんな事をしているヤツは見えないし、大体まだ人もそれほどいる訳ではない。
なのに何故これほど巨大な殺気が俺に当てられるのか。
留まることのないそれに溜息を吐くと勘違いしたのかシンディアがこちらを見た。
「あ、ごめんね。独りで夢中になっちゃって」
はにかんで答える彼女に殺気が増したのは気のせいだ。
「じゃあ、そろそろわたしはクエストを受けに行くから」
「あ、ああ、また……」
一応手を振ると、走りながらこちらを向いて手を振り返してくれた。
遠ざかるごとに殺気は減って行く。
(ホント、何なんだ……)
会話をしただけなのに、とても疲れてしまった。
時間を見れば陽は夕方に差しかかっていた。
飯でも食いに行くかと、俺は転移門までゆっくりと歩くことにした。
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それから第五十層の攻略は着々と進められた。
流石にここまで来ると手慣れたもので、九日ほどでボス部屋を見付けることが出来た。
だが、第五十層を解放した日の夜に、俺はある情報を耳にした。
殺人ギルド《
今まで下層や中層では
そのどれもが金やアイテムを奪い取ったりするような恐喝行為だったが、彼らは違った。
HPだけは全損させないという暗黙の了解が破られたのだ。
大晦日、フィールドの観光スポットで野外パーティーを楽しんでいた小規模なギルドを襲い、全員を殺した。
その規模は四十を超えるというのだからまた驚きだ。
そんなことが起こったというのに、情報が出回るのが遅すぎる。
アルゴ曰く『かなり腕利きの情報統制能力を持った奴がいるナ。滅茶苦茶厄介だヨ』。
と、俺達攻略組はその存在を無視できるものではないと感じていた。
その中でも一番奴らに対して関心を示していたのはジャックだ。
やはり、彼にとって殺人ギルドなるものは邪魔でしょうがないのだろう。
きっとジャックなら俺達の知らぬ間に《ラフィン・コフィン》を壊滅するのではないか。
そんな期待が俺達の中にはあった。
そしてボス部屋を見付けたと報告を受けた五日後。
《ラフィン・コフィン》の情報で動揺する者もいたが、各々真剣な顔でこの場に集まっていた。
第五十層ボス攻略会議。
第二十五層ボス《タナトス》があれ程の強さを誇っていたということは、強力なボスは二十五層ごとに出てくるものと考えて良いだろう。
そして、攻略会議が始まろうとした時、シンディアの姿が無い事に気付く。
まだ、《LGL》のクエストを終えてないのか。
誰もがそう思う中、後方に備え付けられていた扉がゆっくりと開いた。
視線が一気にそちらへ向く。
立っていたのは黄金の騎士とでもいうべきか。
全身を黄金色の鎧で固め、背中には慎重と同じくらいの大きな黄金の槍、左腕には蒼色の球体をつけた黄金の盾。
そんな、全身に黄金を纏ったプレイヤーは一人しか知らない。
新しく手に入れたであろう兜で顔は見えない。
まさか、と疑問が浮かぶの中、その手が兜を掴む。
兜が上げられ、白銀の髪が鎧から飛び出した。
それは、数日前俺が彼女に会った時とは違っていた。
腰辺りまで伸びきった銀髪はその装備に負けず劣らず輝きを発している。
そして頭を軽く振って散らばった髪の毛を上手く纏めるとその顔が俺達の視界に入る。
以前よりも増して艶やかになった肌。
身体全体が宝石のように輝いて見えた。
「それじゃあ、攻略会議を始めましょう」
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シンディアさん大強化!
あ、キリト君生きてましたね。
次回予告で何も話させなかったのはこのためです。
こっから第五十層のボス攻略。
頑張っていきますよ!!
【次回予告】
「全員突撃!陣形を取れ!!」
「《黒ずくめ》スイッチだよ!」
「おー、当たった当たった」
このときのジャックの呟きに攻略組の全員が心の中で頷いた。
次回をお楽しみに。それでは。