仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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はい、どーも竜尾です。
この始まり方も恒例となってきましたね。
今回が僕の物語の構想において結構書きたかったところです。
と、いうわけで前書きはさっさと終わります。


一点の曇りのない殺意

==========

 

「ジャック……」

絶望の余韻に浸っていた俺は、聞こえるか聞こえないかくらいのか細い声を出していた。

「んで、イベント報酬は手に入ったのか?」

「……ああ」

「その顔を見る限りじゃ、テメェが描いてた物とは違ったらしいな」

ジャックは無表情に、慰めるでもがっかりするでもなくゆっくりと歩を進める。

「クラインが持ってんのがソレってことか?」

ジャックが指をさすとクラインは腕を振って手に持った宝石をジャックに向けて投げた。

宙に弧を描いた宝石は僅かな夜の光を反射しながらジャックの手の中へと納まった。

それを指でワンクリックして数秒。

少しだけ口元を釣り上げたジャックは再びクラインにそれを投げ返した。

「《殺人鬼》が《蘇生アイテム》なんて皮肉かっつの」

「じゃあ、なんでこんなところに来たんだ……」

今、俺には生きる意味もなくなったのに……。

なんでそんなタイミングでこいつは現れたんだ。

その疑問は、ジャックが放った一言ですぐに解消された。

 

「ま、既に死んだ奴が生き返るなんてやっぱり無理だったな」

 

(やっぱり……?)

その単語が、俺の思考に引っかかった。

「どういうことだ……」

思わず口から出てきた言葉に、ジャックはワザとらしく首を傾げる。

「やっぱり、ってまるで知っていたみたいな言葉じゃないか……」

俺の疑問に、クラインたちも顔を上げる。

視線の先に居る彼は、ふっ、と息を吐くと首を傾けたまま笑みを浮かべた。

 

「当たり前だ、《蘇生アイテム》の情報の元手はオレだからな」

 

(なっ……)

絶句する俺達を尻目に、ジャックは楽しげに口を開いた。

「二ヶ月くらい前に第四十四層であるクエストを終わらせた後にクエストフラグのヤツが言ってたんだよ『ニコラスの大袋の中には、命尽きた者の魂を呼び戻す神器さえもが隠されている』ってな」

それは、まさしく出回っている情報の内容そのものだった。

その内容を、情報屋から情報を手に入れてないジャックが知っているということは、彼の言っていることに嘘はない。

「だがな、そのクエストの名前、何だったと思う?」

ジャックの問いかけに、誰も答える者はいない。

「『R.I.P』だってよ、意味は『安らかに眠れ』。そんなクエストの終了時に言われたんだ。それこそ本当の皮肉だよなぁ!」

その声は沈黙の中に消えていくが、俺の頭ではジャックの綴る言葉が巡って思考がどうにかなりそうだった。

「それでも、オレにはそんなもんいらねぇし、どっかの誰かが欲しがると思ったから情報を売りに出してやった」

「じゃあ……それがキリトの望むものではないことも知ってたのかよ、お前は!!」

クラインがジャックに向かって叫ぶ。

すると、ジャックから笑みが消えた。

「希望の一つでもねぇと、コイツは戦えもしなかっただろ」

その言葉は俺の心に深く深く突き刺さった。

確かに、俺の戦い方は無茶なモノが多く、攻略組に迷惑を掛けることも少なくはなかった。

「なら、キリトをここまで利用するためにやったのかよ!」

クラインは怒りを前面に出してジャックに吠えている。

俺が何も言わないからなのか……。

つくづくこの刀使いは優しいヤツだと思う。

「だから今日で解っただろ?クラインもコイツがもう前線に出れる状況じゃねぇってことがな」

「そりゃ、こんなことがあった後じゃとても戦えるわきゃねえだろうがよ、お前だってそれくらい」

俯いたままの俺の前にクラインが立つ。

だが、俺はよく知っていた。

「つえーくせに戦えもしないヤツをオレは黙って見過ごせねぇんだなぁ……」

ジャックが右手を動かすと、俺の目の前にデュエル承諾のメッセージウィンドが出現する。

 

【Jack=Gundalaから《ノーマルモード》でもデュエルが申し込まれました。承諾しますか OK/NO】

 

「だから、今のお前はオレにとって邪魔なんだよ、キリト」

「なっ、お前まさかキリトに……」

クラインがそれに気付いたのか俺の肩を掴んで止めさせようとする。

だが、それが俺の耳に入ってくることはない。

俺の思考は完全に上の空で、視線がどこに向いているかも分からない。

 

――ああ、これで終わるなら、それでいい。

 

俺は肩を揺さぶられたまま指を動かしてメッセージのOKボタンを押す。

瞬間、クラインはデュエル妨害禁止システムによって仲間たちの下まで吹き飛ばされる。

カウントダウンが始まる中、俺は剣の柄に手すら触れていなかった。

ジャックは無表情のまま短剣を引き抜く。

「そういや、《月夜の黒猫団》だったか」

だが、ジャックが放った一言に俺は小さく反応してしまった。

「なんであいつらが死んだか、オレが答えてやろうか?」

驚きで、今まで俯いていた顔を上げるとジャックは狂気に満ちた満面の笑みだった。

 

「慢心だ」

 

ジャックの確信めいた言葉に、思わず言葉が出そうになったのを押さえてゆっくりと口を開く。

「違う、あれは俺のせいだ」

「あのとき、何でオレがお前のことを何も言わずに去ったか解るか?」

彼は笑みを崩さず俺の方を向く。

 

「あいつらに自分たちが強いと錯覚させるためだぜ?まだ気付いてねぇのかキリト」

 

口元を大きく釣り上げてジャックは言う。

「ただでさえオレは《殺人鬼》。人を褒めることなんてお前が見たあの一回きりだ。故に『《殺人鬼》にすら俺達は認められている』って過信する」

俺はそれを黙って聞くことしかできない。

「ま、誰一人かけずに安全に狩りをしてれば『死』に関わりなんてねぇしな、だから余裕が生まれる」

 

――それなら、みんなを殺したのは……。

 

「テメェは五人を自分で殺したと思ってるらしいが。殺すことがどういうことか」

 

――それじゃあ、俺は……。

 

「贖罪のつもりだろうが、無駄だったなぁ!!」

 

――俺は……何のために。

 

「あいつらを殺したのはやっぱり《殺人鬼》のオレって訳だなぁ!」

 

限界だった。

このまま殺されてしまう方がいいんだと思っていたはずだった。

でも……。

俺は気が付くと剣の柄を握っていた。

 

「ジャああアアああアあぁァぁぁァぁああアアぁァぁぁああアアああアああアック!!!!!!!!」

 

激昂。

そして咆哮。

俺の心に残ったのは一点の曇りのない殺意。

理性が跡形もなく吹き飛び、俺はただ目の前に居るこの男を殺すために剣を引き抜いた。

それを見ていたジャックは腰に手を当てると目も口も大きく開いて高々と嗤う。

 

「あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!!!!!!!!!!」

 

その時始めて、ジャックが《殺人鬼》に相応しい音の爆発にも似た嗤い声を上げた。

 

==========

 

短剣と片手剣が戦った場合のお互いの長所と短所とは何だろうか。

短剣はリーチが低いが、軽いため攻撃後の隙も短く片手剣よりも手数を十分に増やせる。

対する片手剣はリーチが長く、一発の威力が短剣とは段違いだ。

だが、俺達の戦いにそんな単純な武器の良し悪しは関係ない。

つまり、相手を殺せばそれで勝ちだ。

レベル差も体格差も技術も考える必要が無い。

後先考えず、今。

目の前に居るヤツを殺すことだけを考えれば良い。

本気でジャックとぶつかると、いかに彼の戦闘センスが高いか解る。

切り合っている最中に、爪先で剣の軌道を逸らして下段に攻撃を加えてくるなど彼以外に誰が出来るだろうか。

両の手に持った短剣、名は《リッパー・ホッパー》と言ったはずだ。

その刀身は驚くほど白く、一太刀モンスターを切り裂けば赤いポリゴン片がくっきり見える程の彩やかさを持っている。

まさに、この短剣は血を色鮮やかに見せるモノだといっているようだった。

両手に握られれていると言ったが、右手に一本、左手に三本同じ短剣が握られている。

 

――エクストラスキル《投短剣》。

 

《投剣》《短剣》両方のスキル熟練度を八百以上にすると発現するこのスキルは、短剣を投剣扱いとして投げることが出来るスキルだ。

《投短剣》スキル熟練度を上げると補助効果がどんどん増え、五百を超えると投げた短剣が一定確率で装備の中に戻ってくるということもある。

だが、当然内容の短剣を投げる者などいるはずもなく、結局のところ《投剣》スキルだけ上げて安い短剣を買うよりもピックで何とかするプレイヤーが多く、攻略組でそのスキルを使っているのはジャックしかいない。

その《投短剣》スキルを《完全習得(コンプリート)》した際に発現する《剣技》。

名を《死刀》。

同じ短剣を三本複製し、元となった短剣とまったく同じ威力を発揮するこのスキルは、ジャックが扱うと対人戦では恐ろしいものへと変貌する。

一度の戦闘に付き一度しか使えないことが唯一の欠点だが、あの《タート・テセラス》の兜の穴にピックを打ち込むジャックの精密な投剣の前に、多くのプレイヤーが成す術もなく敗北した。

《死刀》は投剣として扱うのだけでなくそのまま武器としても十分に扱うことができる。

 

正直、戦況はジャックに傾いていた。

手数が全く違うのだ。

まだ左手に握られた三本の短剣は健在だ。

かく言う俺は盾無しで片手剣が一本。

ジャックの素早い攻撃にじわじわとHPが削れ《戦闘時(バトル)回復(ヒーリング)》が追い付いていない。

彼はまだ疲れる様子はない、このまま押し切るつもりなのか。

だが、着実に削られるHPに俺は何の焦りも抱くことはなかった。

俺に残された物が何もなくなったからなのか。

それとも、自分が死ぬことに対して何の恐怖も抱いていないからか。

 

――違う。

 

俺は殺すんだ。

黒猫団の皆を殺した罪すら曖昧で、その上生きることにも死ぬことにも迷っている。

ただ一つだけ。

俺の殺意に嘘はない。

(だから……)

俺は一つの賭けに出た。

こんなことがジャックに通用するかどうかは未知の領域。

それでも、ヤツを殺すには今までの俺じゃあ到底無理なんだ。

雪を蹴って一直線にジャックへと走る。

いつもよりも遠めに《剣技》のモーションに入る。

下手に悟られれば《投短剣》によって短剣の直撃を食らう。

刀身に青い光が迸る。

体を捻って少しでもジャックに最初の動きを見せないように、それでいてモーションの邪魔にならないように接近する。

ジャックは逃げもせずにじっと構えている。

(ここだっ!!)

俺の剣がジャックに届くか届かないかの距離で剣を振るった。

「やっぱ《バーチカル・スクエア》かっ!」

奴にはやはり隠しても隠し切れていないが、それでも構わない。

初撃は躱されるがまだ三発残っている。

この技はスキル後の硬直時間が大きいの玉に瑕だが、その分威力も大きい。

もちろんボス戦でこの技を使っているのを見たことのあるジャックにはその剣の軌道がある程度読めているのかもしれない。

だからこそ、俺はこの技を放った。

二撃目は右手の短剣に逸らされる。

(まだだ……)

三撃目も同じ方法で剣の軌道を逸らされジャックの体には当たっていない。

(もっと早く!)

ジャックがこの戦いにおいて油断することなんて考えることが愚問だ。

それなら、その先に行けばいい。

弱点を吐くんじゃない長所を超えてこそ勝利が得られるのだ、と。

そして放たれた最後の斬撃。

 

――青白い残光と共に、俺の剣はジャックの左手にある三本の短剣を吹き飛ばしていた。

 

レプリカの短剣は地面に落ちた瞬間に耐久値がゼロとなり四散する。

ジャックは衝撃で軽く後退する。

見れば左手の人差し指がなくなり切断面から赤い光が漏れだしていた。

「チッ……早過ぎだな。腕を動かすタイミングがずれたなぁ……」

短剣を持ったままの右手でこめかみを叩く。

「じゃあ、お返しだ」

俺から十数メートル離れているというのにジャックは駆け出しながら《剣技》のモーションに入る。

彼の敏捷値なら、この距離がスキル発動までに詰め切れると言っているのだ。

ここで少しでも距離を取っておきたかったが、僅かにスキル硬直の残っていた俺の体は後ろへ下がることが出来ずにいた。

白い刀身に白いライトエフェクト。

その最初の攻撃は腹部への攻撃を見せかけた武器への攻撃。

片手剣を弾かれそうになるのを何とか持ちこたえる。

それも、始まりに過ぎない。

二撃目、三撃目、四撃目と短剣が飛んでくる。

右腕、左足、首と切られそうになるのを身体を限界まで動かして躱わす。

どれも直撃とまでは行かないが俺の体を掠め、HPが削れていく。

五撃目は無表情のジャックが狂気的に笑ったまま繰り出された。

首への攻撃を躱わすために上体を逸らした俺の体の中心を突き刺そうとする。

咄嗟に剣で弾こうとしたが、軌道は中途半端に逸れ、今までよりも深く腕を切り裂く。

不快感に襲われながらも続けて六、七、八撃目を無傷で躱わす。

そして九撃目は大胆にも俺の顔に向かって放たれた。

体を捻って何とか避けると、地面に手を着いてジャックの真横に回り込んですぐさま切りかかる。

しかし、それをジャックはしゃがんで避けると軽くバックステップをし、着地した瞬間に一気に突進を仕掛けて来た。

これが、九連斬撃技《アスタンティス》。

《短剣》の熟練度が九百五十を突破時に習得できるスキルで手数が多い上にスキル後の硬直がほとんどない便利なスキルだ。

だが、あくまでも硬直が無い訳ではない。

その証拠にジャックの頬には横に一本傷が入っていた。

「ギリギリ、避けきれなかったか……。ま、十分だ」

ジャックの言うとおり、俺のHPは半分を切ってイエローゾーンに入っていた。

いや、まだだ。

 

――まだ生きてるんだよ。

 

「ジャック!!」

同時に駆けだす。

呼ばれたジャックは嗤いながら俺に一直線に向かってくる。

武器の間合いから先制攻撃を出したのは俺。

その軌道を流れるように逸らして俺の首元を掻き切ろうとジャックは腕を突き出す。

即座に短剣を弾いて俺と距離を縮めたジャックを斬ろうと片手剣を横薙ぐ。

ジャックはその場から片足だけで高く跳ぶと剣の上数センチのところで躱わす。

俺が剣を戻すのとジャックが飛んだまま短剣を振り下ろすのはほぼ同時だった。

先に剣を出したのはジャックで、俺は何とか剣を戻し切って剣先をずらして何とか回避に成功する。

一歩足を引くと俺は着地したままのジャックに突きを繰り出す。

それを弾こうとしたジャックだが、さすがに着地直後に全力での突きは体から逸れない。

俺の剣は、ジャックの左の脇と腕の間を通り、切り裂いた。

目の前にあるHPゲージが黄色になる。

それに怯むことなく体の横に突き出された剣を無視して俺の顔に短剣を振る。

このまま剣を横に薙げば身体が真っ二つだというのに、本当に『死』を恐れていないのか。

対応の速さに少し動揺したが、俺はすぐに目の前に迫る短剣を避ける。

だが、やはり完全には避けきれずに額を横に切られ異様な不快感を覚える。

ジャックは跳び退くとしゃがむと思うと低い姿勢のまま一気に向かってきた。

あまりの速さに俺は攻撃を弾くことに決め、剣を身体の中心に来るように構える。

下段からの切り上げは防いだが、そのまま足を止めずに回り込もうとする。

素早くターンすると再び剣を横に薙ぐ。

それが若干斜め上を向いていたのをジャックは悟り、短剣で上に弾くとしたにぐぐりぬける。

地面に手を付くと足を使って器用に俺の後ろを取った。

俺は前に跳び、空中で振り向く。

そこには、既に短剣を振り被ったジャックの姿。

袈裟斬りを剣で受け止めたが、大きく後ろに飛ばされた。

俺は体勢を立て直すと手を着いて着地してすぐにジャックへと走り出す。

剣と剣の応酬は、それからも続いた。

まるで、たった独りでボス戦をしているような感じだ。

金属音が永遠と響き渡る。

少年漫画に描かれているなら老若男女問わず白熱していただろう。

だが、俺達がしているのは純粋な殺意による醜い殺し合いだ。

お互いの命が、ゆっくりと削れていくのに、どちらも『死』を恐れていない。

いや、それはジャックにだけ当てはまることだ。

俺は『死』を恐れていない訳ではない、ただ、今の俺にはもう殺意しか残っていなかったからだ。

徐々に、月光が薄れ、灰色の曙光がそれに取って代わった。

まだ、俺達はそちらも死んでいない。

俺の眼に映るHPゲージはそちらも真っ赤だが。

そろそろ、潮時だろう。

俺はこの世界で最後となる《剣技》を発動しようと走り出した。

ジャックもそれを見て走り出す。

 

――そして互いの距離がちょうど俺の間合いに入る手前で、聞きなれないアラーム音が俺達の動きを止めた。

 

==========




今回でジャックを何をモチーフして書いているか分かった人がいるはず、はず!
ジャックVSキリトですよ…。
ちなみにラストで時間に関して疑問に思う人がいると思うので解説しておきます。
まずニコラスと戦い始めた時間を5:00位にしました。
最初っから思い切り改変ですすいません。
んで戻ってきたのが6:00位。
でジャックと戦い始めたのは6:30。
こ、これで大丈夫じゃないでしょうか…。

【次回予告】

「せいぜいオレの役に立ってから死ねってんだ」

「一週間何もかもを忘れて思うがままエンジョイしてたわけか」

「もちろん、次で最後の装備だからね」

「それじゃあ、攻略会議を始めましょう」

次回をお楽しみに!それでは。
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