どーも竜尾です。
みなさんは『殺人鬼』と聞いて、何を思い浮かべますか?
やはり『ジャック・ザ・リッパー』などですかね。
僕ならこう答えます。
『布団』と。
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――結局、サチは死んだ。
あの地下水路の夜から一カ月足らず後、俺の目の前でモンスターに切り倒され、その体と魂を四散させた。
その日、ケイタは、ついに目標額に達したギルド資金の全額を持って、ギルドハウス向けの小さな一軒家を売り出していた不動産仲介プレイヤーの下に出かけていた。
「ケイタが帰ってくるまでに、迷宮区でちょっと金を稼いで、新しい家具を全部揃えちまって、あいつをびっくりさせてやろうぜ」
俺達五人は、最前線からわずか三層下の迷宮区で狩りを始めた。
もちろん俺は以前にそのダンジョンで戦ったことがあり、そこは稼ぎは良いがトラップ多発地帯であることも知っていた。
だが、それを告げようとはしなかった。
狩りは順調に進み、一時間ほどで目標金額に達した。
帰って買い物をしようとなったその時、シーフ役のダッカーが宝箱を見付けた。
俺は、その時ばかりは放置することを主張した。
しかし、理由を聞かれれば本当のことは話せず「何となくやばそうだから」と言うしかなかった。
結局多数決で宝箱を開けることになった。
何故マージンを十分に取っているからと言って危険な迷宮区に置かれている宝箱を開けられるのか。
攻略組の誰かが先に取ることはなかったのかという疑問が無かったのか。
思い返してみれば、ただの慢心だ。
刹那、トラップを示すアラームがけたたましく鳴り響く。
同時に部屋の入口の全てから怒涛のようにモンスターが押し寄せてきた。
俺は即座に、全員に転移クリスタルで脱出しろと叫んだ。
しかし、その部屋はクリスタル無効エリアに指定されており、その時点で、俺を含む全員が、程度の軽量はあれパニックに陥った。
次々と黒猫団の仲間たちが死んでいった。
サチは、モンスターの波に飲み込まれHPを全て失うその瞬間、俺に向かって右手をのばし、何かを言おうと口を開いた。
見開かれたその瞳に浮かんでいたのは、夜毎俺に向けていたのと同じ、縋りつくような痛々しいまでの信頼の光だった。
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どうやって生き残ったのか、俺はよく覚えていない。
ふと気付くと部屋に残っていたのは俺唯一人だった。
呆然としたまま宿谷に戻った俺を待っていたのは新しいギルドハウスのカギをテーブルに乗せたケイタだった。
俺は何もかもを話した。
四人がなぜ死に、俺がなぜ生き残ったのか。
その全てを聞くと、あらゆる表情を失った眼で俺を見た。
「《ビーター》のお前が、僕たちにかかわる資格なんてなかったんだ。あのときのジャック=ガンドーラが言っていた探しモノはお前のことだろう!」
徐々に声に怒気が増していく。
「お前もあいつと同じだ!何の罪のない僕たちを殺した《殺人鬼》だ!!」
全くもってその通りだ。
俺は強さを偽ってまで仲間といる快感を得ていたんだ。
俺があの時保身に走らなければ、今頃彼らは中層で安全な狩りをしていたはずなんだ。
だから、ケイタが町外れの外周部へ向かい、何の躊躇いもなく柵を乗り越え、無限の虚空へと身を躍らせたとき、その手を掴もうとする事すら俺には出来なかった。
そんな俺の姿を見ながらケイタは落ちていく。
その体が青く発光する。
自らの『死』が訪れる中で、四散する前にケイタが最後に俺に向けた表情は、あの時の顔と酷似していた。
ただ、憎いヤツを絶対に殺すという殺意の浮かんだ表情。
――『死』を持って『死』を運ぶ。
そんな曇りのない心が、視界一面に映っていた。
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それから、俺は何をしていいのか分からなくなって、自分の命を絶つことも出来ずフラフラと前線に戻ってきた。
黒猫団の皆を現実に還すことも出来なかったのにまだ俺は現実に対して生還したいと思っている。
なんて野郎だ。
黒猫団の優しさに甘え、自分の欲に甘えたのに、それでもまだ生きたいなんて戯言をほざいている。
こんなことならジャックにでも殺されてやろうかと思った。
しかし、俺が前線に戻ってからジャックは俺との接触を避けるようになっていた。
いや、気のせいだろう。
寧ろ変わったのは俺だ、ジャックは関係ない。
そんな生きているか死んでいるかも分からない俺は、それを他人に悟られるのを必死に隠した。
ただ、攻略バカになったとでも思わせればいい。
それ以来、俺はひたすらモンスターと戦い続けた。
死に場所を探していた。
ボス戦にもそこそこ積極的に、怪しまれないように立ちまわった。
意味のある死に方を探していた。
――それが、彼らの贖罪になるのなら。
いつしか《ビーター》とも《黒ずくめ》とも呼ばれなくなった。
昼夜絶えず漆黒の装備で盾を持たずに片手剣一本でモンスターを単独狩りする攻略バカ。
――俺の代名詞となる《黒の剣士》の誕生だ。
そんな俺にある情報が入った。
『《蘇生アイテム》をドロップするフラグMobがクリスマスの夜に現れる』
このデスゲームが始まってから一年。
NPC主催の大食い大会なるモノが行われる陰でその噂が俺の耳に入った。
すぐさま俺はアルゴに情報の真偽を大金をはたいて聞きだした。
アインクラッド最高の情報屋から放たれた答えは――是。
思わず泣き出してしまいそうだった。
俺がまだ生きている意味が見いだせた。
アルゴはそんな俺になんでそんなに必死になっているのかと聞いた。
彼女は俺が犯した罪を知らない。
誰も知る必要はないんだ。
俺だけの罪で、それを償えるのも俺だけだ。
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そして、俺はさらに過度のレべリングを開始した。
最前線の四十九層より三層下に棲息する蟻型のモンスター。
攻撃を受ければ一人でその群れと戦っている俺はひとたまりもないが、俺は全神経を集中させて最小限の被弾に抑える。
危険ではあるが、この場所は今現在知られている最も効率の良い狩場だった。
一パーティー一時間までと協定が決められ、今や人気スポットと化しているこの場所だが、俺はそこに出来る列にただ一人で並ぶプレイヤーは俺だけだった。
後退の時間になるとタイミングを見計らって撤退する。
流石に一時間ぶっ通しで神経を張り巡らせて剣を振り続ければ心身ともにかなりの疲労が来るようで、俺は出口から少し離れたところでその場に倒れ込んだ。
そんな姿を見て、他のプレイヤーは「あの《最強バカ》、死んだか?」「いや、《はぐれビーター》だから貧弱なだけだろ」と俺のことを嗤いもの扱いする者の声が聞こえる。
何を言われてもいい、俺は《蘇生アイテム》さえゲットして……そして――。
「ほれ、キリト」
飛んできた回復ポーションの小瓶を有り難く受けとり、貪るように呷る。
顔を上げるとそこにはギルド《風林火山》のリーダー《クライン》の姿があった。
相も変わらぬ趣味の悪いバンダナの下で無精髭に囲まれた口元をひん曲げて言った。
「いくらなんでも無茶し過ぎなんじゃねえのか、キリトよ。今日は何時からここでやってんだ?」
「ええと……夜八時くらいか」
「おいおい、今午前二時だから、六時間も籠りっ放しかよ。こんな危ねえ狩場、気力が切れたら即死ぬぞ」
だから、こうして気力を回復してるんじゃないか。
それを感じ取ったのか、このバカったれが、と舌打ち混じりに吐き捨てると、クラインは腰からレア武器の日本刀を外し、俺の前にどかっと座り込んだ。
「……まあ、お前の強さはSAOの初日から嫌ってほど知ってっけどよ……。レベル、どんくれえになった」
「今日上がって69だ」
「……おい、マジかよ。いつの間にか俺よか10も上ンなってんのか。お前とレベルでタメ張れるのはジャックかシンディアさんだけじゃねえか」
そう、今攻略組で最も常軌を逸しているのはジャックと思われがちだが、あの《LGL》を四種類揃えた女性、シンディアも攻略組途中参加と言うのにその頭角をめきめきと現してきた。
「お前らレベルの高い奴らはホントに一匹狼だよな。ああ……シンディアさんだけでも俺のギルドに来てくれたらいいのに」
クラインの言葉に、俺は内心苦笑いする。
今でも、たまにソロである俺に対してギルドの勧誘が来る。
ジャックは《殺人鬼》となった初めこそ勧誘がぼちぼち来ていたが、ジャックと言う存在と質力に恐れをなし、誰もジャックをギルドに誘う者はいなくなった。
故に、未だにソロのシンディアには勧誘が殺到してる。
もちろんそれは実力もあるが、やはりあの美貌だろう。
《LGL》の付属効果で妖艶になったと言えど素材が良いからあそこまで男たちを惹きつけるのだろう。
俺はその事を考える度に得も言われぬ不快感に襲われるのだが。
さて、本題に戻ろう。
「クライン。本当は知りたいんだろ、俺がフラグMobを狙ってるのかどうか」
咄嗟に誤魔化そうとするクラインを無視して俺は言った。
「俺はアルゴから俺がアルゴからクリスマスボスの情報を買った、って情報をお前が買った……という情報を俺も買ったのさ」
「アルゴの野郎……鼠の仇名はダテじゃねえな」
アルゴは売れるネタなら自分のステータスだって売るさ、と心の中で呟く。
余談だが、ジャックには情報を売っていない、いやジャックが彼女から情報を買ったことは一度もないらしい。
ときどきアルゴとジャックがいるのを見かけたことはあるが、ただ話をしていたそうだ。
この情報を買うために払った額は……まあ、そういうことだ。
「ああ……悪かったよ」
クラインは顔から離した手でがりがりと頭を掻き、続けた。
「クリスマスまであと五日切ったからな……。確かに戦力を上げることはこの世界では何もおかしかねえ。だがな……うちはこれでもギルメンが十人近くいるんだぜ。仮にも《年イチ》なんて大物のフラグMobが、ソロで狩れるようなモンじゃねえことくらい、お前にも解ってるだろうが」
「……」
その言葉に、俺は何も反論できなかった。
黙り込んだ俺に、クラインはしばらく口を噤んだ後、低く呟いた。
「やっぱり、あの話のせいかよ。《蘇生アイテム》の……」
「……ああ」
だが、俺達は覚えていた。
『HPがゼロになった時点で、プレイヤーの意識はこの世界から消え、現実の肉体に戻ることは永遠になくなる』
あの時茅場晶彦が言った言葉だ。
その言葉が欺瞞だったとは思えない。
だが……しかし。
「……この世界で死んだあとどうなるのか、知ってる奴はここには一人もいないんだ」
この言葉をこの世界で言うのは自分でも卑怯だと思っていた。
それでも、俺が今生きている理由を、唯一縋ることの出来る存在を、踏み躙られたくなかった。
クラインが怒りの顔をして口を開く。
だが、俺はその言葉を「黙れ」と一言で遮った。
自分でも驚くほどしわがれた声だった。
その一言で、俺が《蘇生アイテム》の仮説に縋りついていることを察したクラインは、怒りの色を収め、代わりに憐れみにも似た目でじっと俺を見た。
「……そうか。キリト……お前、まだ忘れらんねえんだな、前のギルドのことが……。もう半年にもなるってのによ」
「それを言うなら、まだ半年だ。忘れられる訳ないだろうが……全滅したんだぞ、俺以外……」
「《月夜の黒猫団》だったか?攻略ギルドでもねえのに、前線近くまで上ってきた挙句、シーフがアラームトラップ引いたんだろう。お前の責任じゃねえよ。生き残ったお前を褒めこそすれ、だれも責めたりしねえ」
「そうじゃないんだ……俺の責任だ。前線に上るのを止めることも、宝箱を無視させることも、アラームなった後でさえ全員を脱出させることだって、俺には出来たはずなんだ」
クラインは俺に慰めの言葉を掛けようとしたのを、かぶりを振ってから言った。
「ジャックは、この事を知ってんのか」
「俺がギルドに居たことは知っていた。けれど、ジャックはそれに触れることもしなかった。自業自得だと言われてるみたいだ」
自傷気味に小さく呟くと、俺は立ち上がった。
恐らく、クラインも金には困っていない。
確実に《蘇生アイテム》狙いだ。
遠ざかる俺に、刀使いの言葉が小さく届いた。
「それからよ、俺がお前の心配したのは、別に情報を聞き出すためのカマかけばっかりじゃねえぞこの野郎。無理してこんなとこで死んでも、お前には蘇生アイテムは使わねえぞ」
そんなこと解ってるんだよ、こんな意味のない場所で死ぬなんて俺だってゴメンだ。
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クリスマス当日。
フラグMobである《背教者ニコラス》の出現する場所にはほぼ確信に至っていた。
レベルを一つ上げて向かったのは第三十五層。
俺はそのフィールドで一本だけねじくれたモミの木を見付けていた。
(まさか、過去に何となく得た知識が、俺を救うなんてな)
思考を吐き捨て、俺は敏捷度一杯に走り出す。
だが、目標となるモミの木まで数十メートルと言うところで、背後のワープポイントから複数のプレイヤーが出現する気配がした。
現れた集団はおよそ十人。
先頭に立つのは、サムライのような軽鎧に身を固め、腰に長刀を差したバンダナの男――クラインだった。
「……尾けてたのか」
「まあな。追跡スキルの達人がいるんでな」
恐らく、俺の情報を情報屋から買ったのだろう。
全部のツリーを調べた俺なら、正解に辿り着くことをこの男は確信していたということだ。
「ソロ攻略とか無謀な事は諦めろ!俺らと合同パーティを組むんだ。蘇生アイテムは、ドロップさせた奴の物で恨みっこなし、それで文句ねえだろう!」
「……それじゃあ……」
――意味ないんだよ……俺一人でやらなきゃ……。
剣の柄を握りながら目の前の男たちを斬り伏せようと考えたその時だった。
エリアに第三の侵入者。
その数はおよそ三十。
「お前も尾けられたな、クライン」
「……ああ、そうみてえだな……」
彼らの装備を見て、彼らが《血盟騎士団》と並ぶ名声を誇る《聖竜連合》であることを悟る。
そして、俺の思考は真っ黒になる。
今度こそ、俺は背中の剣を抜こうとした。
だが、クラインの叫び声が、俺の手を押しとどめた。
「くそっ!くそったれがっ!!」
刀使いは、俺より先に腰の武器を抜き放つと、背中を向けたまま怒鳴った。
「行けっ、キリト!ここは俺らが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなあ、死ぬなよ手前!俺の前で死んだら許さねえぞ、ぜってえ許さねえぞ!!」
もしかしたら、本当は俺のことを心配してくれたのかもしれないと、この時始めて思った。
だが、もう時間はほとんど残っていなかった。
俺は礼の一つも口にすることなく、最後のワープポイントへと足を踏み入れた。
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数十分後、俺は雪の積もる森の中へと戻ってきた。
そこにはクラインと風林火山のメンバーだけだった。
クラインが激しく消耗しているのを見ると、《聖竜連合》との交渉を一対一のデュエルで決着させたのだと推測された。
俺は地面に座り込んでいる刀使いに歩み寄った。
刀使いは俺の表情に気付くと、すぐに口元を強張らせた。
「……キリト……」
「それが蘇生アイテムだ。過去に死んだ奴には使えなかった。次にお前の目の前で死んだ奴に使ってやってくれ」
クラインに向かって無造作に手元の宝石を投げる。
それをワンクリックして説明文を読んだクラインは声を上げた。
「対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間ならば、対象プレイヤーを……蘇生可能だと……」
つまり、俺が半年間縋っていたモノも。
生きて来た意味も全てが壊された訳だ。
俺が今どんな表情をしてクラインを見ているのかは分からない。
しかし、間違いなく絶望していることは手に取るように分かった。
今の俺に残ったのは経験値に飢えた愚か者として付けられた不名誉な称号とこの身一つだけだ。
――これからどうしようか。
とにかく今は宿に戻ろう。
いくら後悔しても、涙一つ出て来なかったのだ。
こんな場所に居たところで意味など無い。
無機質な瞳で暗闇の空を見上げる。
真っ白な雪が降っている。
一つの大きな雪が目元で溶け俺の顔を伝って行く。
涙の代わりとでも言いたいのか。
そのとき、呆然と立ち尽くす俺と座り込んだまま動かないクラインたちの耳に雪を踏み締めこちらに近づく音が聞こえて来た。
「さーて、《聖竜連合》の奴らが戻ってきてたってことはもう戦いは終わったのか?クラインもずいぶんと強くなったじゃねぇか」
その声に、俺達は一斉に音の方を向く。
こんな声まで狂気を帯びさせられるのは彼だけだ。
「まともに話すのは半年ぶりだな、キリト」
聖夜に打ちひしがれる俺の前に姿を現したのは《神》とは正反対の《殺人鬼》だった。
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あれ?原作と殆ど相違ないぞ?
これは…まずいのでは?
ま、まあ書きたいのはこの後ですから!
突然ですが今回から次回予告的な物をすることにしました。
ついやりたくなるんですよね。
【次回予告】
「ま、既に死んだ奴が生き返るなんてやっぱり無理だったな」
「なら、キリトをここまで利用するためにやったのかよ!」
「だから、今のお前はオレにとって邪魔なんだよ、キリト」
「あいつらを殺したのはやっぱり《殺人鬼》のオレって訳だなぁ!」
次回をお楽しみに!それでは。