どーも竜尾です。
なんかキリト視点のはずなのにそれっぽくなくなってきたのが悩みですな。
うーん、やっぱり自分の手で書くのは難しい!
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第十九層主街区《デ・ポエラ》はボス攻略を二日後に控えているというのに広場は人で溢れ、街はざわめきに包まれていた。。
『史上初となる攻略組同士の殺し合い』
その情報が流れ、一時間後にはもう人だかりがこの広場には出来ていた。
下層のプレイヤーも大量に集まっている。
話を聞けば、最前線でもあまりドロップしない《転移結晶》が競売にかけられ、高値で下層プレイヤーと取引したらしい。
誰もが、興味と恐怖を持ちながら広場を取り囲んでいた。
俺はただ、その輪の前に居たが、他のプレイヤーのように騒ぎ立てたりすることはなく下を向いていた。
あの時……。
第二層の時点でジャックと一緒に行くと言っておくべきだった。
そうすればジャックだって殺人なんて起こすこともなかったかもしれない。
クラインを見捨てた罪悪感から、それを拒んだ結果がこれだ。
歯を食いしばり、拳を強く握る。
「キリト」
不意に声をかけられる、声の主はクラインだった。
「ひでえ顔してんな。お前が戦うことじゃないんだろ?」
肩に手を置かれるが、顔を上げることは出来なかった。
すると、クラインが小さくため息をついた。
「やっぱりよぉ、俺にはジャックが殺人を好き好んでやる奴には思えないんだよな」
その言葉にはっとなり、クラインを見る。
むさ苦しい無精髭を手でなぞりながら、笑顔を俺に向ける。
「最初は狂気的なヤツだとは思って、喧嘩を吹っ掛けてぼこぼこにされちまったけどな。話してみると普通に言いヤツじゃねえか」
……そんなことは、俺だって分かっている。
「だがらさ、あいつがPKをするのはあいつにとって避けられない理由があるんだよ。だから――」
そこまでいってもう一度クラインは息をする。
「それを一緒に背負っていけばいいじゃねえか。ゆっくりジャックを救っていこうぜ!キリト!」
「ああ」
下を向いていたせいで、その声が届いたかは分からない。
しかし、クラインは「よしっ!」というと俺の肩を二回叩いた。
刹那。
大きな歓声が起こる。
プレイヤーたちの列を掻き分けて出て来たのは太陽の光を反射してきらめく金髪を携え、いつもの笑みを浮かべながら歩くジャックだった。
「あれが《ジャック=ガンドーラ》か」「まさに犯罪者って顔してるな」など喧噪の中から声がする。
ジャックが俺に気付いたのか視線を向けて来た。
黄金の眼で俺を見据えると、その視線は空へと移っていた。
すると、今度は反対側で歓声が上がる。
控え目な茶髪に、他の装備とは違った銀色が目立つ姿。
実力も未知数なユースティティアだった。
既に得物は手に握られており、その色と長さが片手剣としての異色を放つ。
途端にジャックの顔から狂気が消える。
広場で二人の視線が交錯すると、歓声が徐々に止んでいった。
「随分早いですね、ジャック=ガンドーラ」
「早いとか遅いとか関係ねぇだろ」
無表情のまま話すジャック、すこし不敵な笑みを浮かべるユースティティア。
「それでは、さっさと始めましょうか。明後日には大事なボス攻略が控えていることですし」
その声に、再び歓声が上がる。
ジャックも狂気的な笑いを浮かべながら短剣を取り出した。
《ワイトダガー》と呼ばれる真っ白な短剣は、ジャックの指で回転した後で手におさめられた。
そして、二人が指を動かす。
今、デュエルの申請と承諾が行われいるのだろう。
《完全決着モード》という最悪の殺し合いを決めているんだ。
思わず震えそうになる体を押さえる。
――駄目だ、逃げるな。
自分に言い聞かせ、目の前の物事にだけ集中した。
六十秒のカウントダウンは残り四分の三。
誰も言葉を発する者はいない。
今までふざけながら声を上げていた者たちも、この雰囲気に気付いたのだ。
ユースティティアはいつでも動けるように構えを取る。
対してジャックはそれを物ともせず立っている。
白銀の剣を握るその姿からは殺気が漏れているが、黄金の髪を輝かせる彼は特に臆すことなく殺気も出していない。
――本当に、ジャックがPKを行うことが出来るのか。
そんな疑問すらも浮かんできそうだった。
「さーてと……」
沈黙を壊すようにジャックが声をかける。
当然ユースティティアは無視して残り数秒のカウントダウンに意識を向けている。
「――殺すか」
無機質に放たれたその一言の不気味さに気付いたのは俺だけだろうか。
【DUEL】の文字が閃き、大きな歓声が上がる。
視界の中で、金色が線を引いた。
=Side out=
ガキンと強い金属音が響くが、大きな歓声の中に消える。
先制攻撃はユースティティア。
ジャックが近づいてくるタイミングを読んで剣を突き出す。
それをジャックは左に避けると、短剣は最初から握っていた左手にはなく、ジャックの体に視線を向けていたユースティティアの死角の位置にある右手を顔に向ける。
しかし、それすらも予測していたように銀色の長剣は真っ白な短剣を防いだ。
すかさず、追撃を試みるが、ジャックは既にユースティティアの間合いから姿を消していた。
「俺の動きはしっかりと予習済みってことか。やっぱ《索敵》は持っておくべきだな」
笑った顔はそれでも崩れない。
手の中でくるっと短剣を一回転させ、舌打ちを打つ。
次に動いたのもユースティティア。
ジャックの胴体に向け、片手剣を横薙ぎにする。
と、見せかけて彼の体に当たる数十センチほどの距離で体性を落とし足の方を狙う。
凄まじいまでの切り替えの速度に、観客たちから「おお」と声が上がる。
ジャックは後ろへ飛び退き躱すが、即座に追撃をかけ、体を捻って胴に向かって長剣をのばす。
それを跳んだ状態で短剣に当て、向きを逸らす。
少し衝撃が残ったのか、先程いた場所よりも大分後ろに後退させられていた。
攻撃を仕切った青年の顔はやはり集中を切らさず、真剣なものだったが、口元は僅かに上がっていた。
「なるほど、装備だけじゃなくて技術も殺す気も十分ってことか」
目の前の相手は、隙を窺っているというのに、それでも口を開くジャック。
「じゃあ、何でテメェはオレと戦うことを選んだ?」
その言葉と同時に、ユースティティアは動き出した。
刀身に光が奔る。
この戦いで初めての《剣技》が繰り出された。
片手剣の長いリーチを生かして再びジャックに対して水平に切りかかる。
しゃがんで回避するジャックに、手首を返して二回目の斬撃が襲う。
しかし、《ホリゾンタル・アーク》と呼ばれるその《剣技》は刀身に滑り込まされた《ワイトダガー》によっていとも簡単に弾かれる。
長い剣故に、弾かれれば隙も大きい。
ユースティティアの顔に、驚愕の色が浮かんだ。
「別に驚くこともねぇだろ」
ジャックは《ラップサム》を素早く放つ。
ユースティティアの回避も早いモノで、少しだけ防具に掠っただけだが、確実にその命を削っていた。
初めてHPが削れたことに、観客は騒ぎ始める。
『死』という概念を完全に受け止められていないのか、その歓声は止まることを知らない。
「あそこまで簡単に弾かれると思ってなかったか?」
ユースティティアに向かって余裕といった表情で言い放つ。
「やっぱり奥底は甘ちゃん野郎か」
「なんだと……」
ここでユースティティアが口を開く。
その顔は、また真剣なものに戻っていたが、憎悪と殺気が先ほどよりも強くなっていた。
「僕が今やっていることは今まで貴様によって殺められた人の仇討ちだ!甘さなどない!!」
怒号を上げ、両手で片手剣を握りジャックに向けて走り出す。
ジャックは右足を半歩下げ、左手の短剣を真っすぐ向ける。
間合いのギリギリのところで片手剣を振り上げ、斜めに振り下ろす。
当然少しだけ身体を後ろに動かし躱す。
振り下ろして剣を中央で止め、走りながら速度を乗せて突きを打つ。
幅の広い刀身は、素早く回避したジャックの胴を掠め、HPゲージが削れる。
そこで攻撃の手を止め、ユースティティアは後ろに飛び退いてジャックの動向を見る。
あくまでも一撃与えた所で再び体勢を立て直す。
「まあ、俺の方が防御力も低いし、攻撃力も高くないから慎重にヒットアンドアウェイを繰り返してればオレがジリ貧になるだけ」
そこまで言って短剣を左手で投げて右手でキャッチする。
「本当に、よく考えてんじゃねぇか。ボスがここまで頭が良ければ、オレのHPが危険域に入るまで追いつめられたこともあるかもしれねぇけどよぉ……」
「人間相手に、負ける気はしねぇな」
ここからが本当の殺し合い、とでも言いたげな言葉。
ジャックの顔は、今までのどの時よりも狂気を帯びた笑顔だった。
=Side Kirito=
ジャックは声と共に一気にユースティティアの向かって走り出す。
広場に居る誰もが一瞬息を呑んだ。
ジャックは出せるだけの敏捷値で接近する。
だが、それはあまりにも直線的で、その姿には裏があると思わせているようだった。
それを、ジャックについて徹底的に調べて来たユースティティアならよく分かっていることだろう。
「ぐっ……」
剣を構えながらも、若干の焦りが見える。
しかし、もうすぐでジャックが彼の間合いに入る。
迷いを振り切るように再度剣を握って体勢を落とす。
ジャックはユースティティアの真正面から間合いに入った。
そのタイミングで両手で剣を振り上げる。
《剣技》は発動させずに袈裟斬りのようにジャックの左肩に向かって振り下ろそうとする。
瞬間。
ジャックは左足の向きを変え、斬撃から逃れるように右へと足を出す。
が、その動きを読んでいたようにユースティティアの剣は斬撃の方向が斜めから水平に変えようとしていた。
まだ二人の距離は十分に開いている。
そして、ジャックが右足を着いた瞬間に片手剣の向きを変えようと肘の向きが変わり、左足を踏み出す。
ここにジャックの狙いがあったのだろう。
右足で地面を蹴り、剣の下を通ってユースティティアの右側へと移動する。
「そんな事は、読めてるんだよ!ジャック!!」
茶髪の青年は吼え、罪人を葬ろうと手を十字にクロスさせ、左から右へ攻撃の方向を入れ替える。
――だが、その攻撃がジャックに届くことはなかった。
ユースティティアの体が喧噪の中でゆっくりと崩れ落ちていくのが判る。
騒ぎと止めた観客も、俺も、ユースティティア自身も何が起こっているのか理解出来ていなかった。
その中でジャックは短剣を崩れ落ちる青年に向けていた。
黄金の瞳が、獲物を確実に捉えていた。
右手の短剣が光を放ち《剣技》《シーティ・ビーティア》が地面へと落ちたユースティティアに降りかかる。
当然、防御など出来る訳もなく、真っ白な刀身が二度その体に吸い込まれた。
――塊が宙を舞った。
「えっ……」
それが斬られた本人の声か、観客の誰かが発した声か。
視線は突然飛びあがったそれに向けられていた。
「あっ……ああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁあああぁああ!!!!!」
悲痛な叫びを上げる青年に目もくれず、視線は上を向いていた。
「お、おい……ありゃあ……」
隣でクラインが気付いたようだ。
俺も気づいたが、声が出ない。
「きゃああああああああ!!!」
ユースティティアの現状に気付いた観客も悲鳴を上げていた。
彼には、左の腿から先と、右肘から先の部分が無くなっていた。
宙に浮かんだのは彼の右肘で、斬り飛ばされ地面に転がっているのが左足だった。
二つとも、数秒の内に硝子片となって爆散した。
絶句する観客たちを余所に、ジャックは口を開く。
「流石、ボスドロップの《ワイトダガー》だ。威力は低いが部位欠損の性能が異常なくれぇだ」
白い刃に付着する赤いポリゴンを振り払いジャックは蹲っている青年を見る。
「まあ、重心をあれだけ傾けた上に少ない時間で体全体を動かしまくり、無駄に長い片手剣の重量が加わったらバランスなんて簡単に崩れるな」
「だから言っただろ?『人間相手に、負ける気はしねぇな』ってよ」
切断面から鮮紅色の光点が出るのを押さえているユースティティアに、高笑いを上げジャックは背を向ける。
「そんじゃ、この戦いはこれで終わりってことか」
その言葉に、ジャック以外の全プレイヤーが驚愕した。
「……なんだと?」
「別に『リザイン』無しなんて口約束を守る必要なんかねぇだろ」
「貴様ふざけているのか!!」
ユースティティアが声を荒げる。
それもそうだ、自分から言い出したことなのにそれを破ることはつまり――。
「オレに負かされた屈辱を徹底的に知るんだな。それともオレに殺されることが本望か?」
「クソッ……」
悪態をつくが、彼だって自分の命は何よりも惜しいものだろう。
ジャックは完全に背を向けて興味が無くなったように伸びをしていた。
その光景に、「結局いつもと同じか」と何人かプレイヤーは帰ろうとする。
――しかし、ユースティティアは「リザイン」と言うはずの口を閉じ、左手だけで剣を握り、右足だけでジャックの無防備な背中に向かって跳んだ。
残った一本の足での跳躍は、その片手剣のリーチをもってすればジャックを十分に切り裂ける距離までユースティティアを近づけていた。
「誰が降参なんてするかよ!!死――」
「それを待ってたんだよ」
ジャックが裂けそうに口を広げて笑いながらピックを隠し持っていた右手を動かす。
そして、後ろを向きながら剣を持った左手へと命中させ、見事に剣を落とさせる。
剣を落とし、ただ自分に向かってくるユースティティアに、ジャックは再び《シーティ・ビーティア》を打ち込んだ。
残った左腕と右足は根元からなくなっていた。
突然のことに俺達は動きもせず、ただ目に映る物だけを立ち尽くしながら見ていた。
「があああぁぁあああああぁああああ――ぐっ」
四肢が無くなり、全身に痛みが奔り悲鳴を上げるユースティティアの顔面を掴んで黙らせた後でジャックはその体を右手で持ち上げた。
「やっぱり両手足がなくなると体重は大体半分に落ちるんだな。筋力値もそこそこあるから片手で何とか持ち上がるな」
呑気な声で恐ろしい事を言うジャックに恐怖しか感じられなかった。
「あの時見逃すって言えば、必ずテメェが飛び込んでくると思ってたぜ」
四肢から血液のような赤い光を流しているユースティティアが、なにかを言っている。
ジャックに口を押さえられていて聞き取りにくいが、「リザイン」と言っているようだった。
「ほら、周りに居る奴らもこいつの眼を見てみろよ」
そういってジャックはユースティティアを見世物のようにゆっくりと回していく。
あまりの光景に、口元を押さえる者や、目を背ける者もいた。
「今、リザインなんて言葉をほざいてやがるが、死にたくねぇからじゃねぇな」
俺が見た彼の眼には、非常に強い憎悪を感じた。
「取りあえず体勢を立て直してオレを闇討ちしようとでも考えてんだろぉな。……よほどオレを殺したいらしいな」
ユースティティアは、何とか逃れようともがくが、その顔からジャックの手が離れることはない。
「こりゃあ単純に攻略組に入るよりも、オレを倒して《英雄》にでもなるつもりだったってことかぁ?」
その言葉を聴いて、ユースティティアが一瞬黙る。
「図星か」
小さく言い、ユースティティアを掴んでいる手を高く上げ、左手の短剣を一回転させる。
「さーてと、この顔が死ぬときは一体どんな顔に変わるのかねぇ!」
目をいっぱいに開き、真っ白で鋭い歯がむき出しになる。
制止の言葉一つ出なかった。
「ここに興味本位でいる奴らも見ておくんだなぁ!!この世界の『死』ってヤツを!」
――止めろ。
「人間が本当に『死』を目の当たりにしたときに見せる顔を!」
――止めるんだ。
「オレの邪魔をした奴がどうなるのか!」
――俺が止めなくてどうする。
「殺すってことがどういう行為かをなぁ!!」
――動けよ!動け!
「――死ね」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
何とか絞り出した声も空しく、ジャックの左手に握られた《ワイトダガー》はユースティティアの首を切断した。
ジャックはそれでも満面の笑みを崩すことはなかった。
地面に落ちた二つの塊は青い硝子片へと姿を変えていく。
突然、彼の顔が目に入った。
自分に差し迫る『死』を感じているのだろう。
そのときの彼の顔は――。
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今回初めて登場したNo Side。
ここまでジャックにとっての序章ですね。
なんかよりキリト君が絶望してきたような…。
ああ、続きを書くのが楽しい!
それでは。