仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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ああ、ついに来てしまいました…。
どーも竜尾です。
戦闘回です。
出しているソードスキルとか敵の説明は後々まとめます。



死を恐れない者

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第十層ボス部屋前。

この場に居る全てにプレイヤーが顔を強張らせていた。

もう九回は見た巨大な扉が、俺達の前に佇んでいた。

俺達の先頭には三人の人影。

二人はギルド《ドラゴンナイツ》のリーダーであるリンドとギルド《アインクラッド開放隊》のキバオウ。

そしてもう一人が笑みを浮かべているジャックの姿だった。

「じゃあ、オレは自由にやらせてもらうぜ。くれぐれも俺に気を取られるなんてことはねぇようになぁ」

ジャックの言葉にリンドは黙ったまま、キバオウは顔を背けて「わかっとるんや、そんな事は」と呟く。

恐らく、まだ二人も昨日の会議での動揺が抜けていないのだろう。

未だに怪訝な視線をジャックに向ける者もいる。

これで本当に気を取られるなんてコトが起こらなければいいが。

「みんな!この際ジャックのことは一度忘れよう、ボス攻略にいらない感情を持っていくと危険だ!」

リンドが声を上げる。

そう言われても、それを止められないのが俺にも良く分かった。

形だけそれに頷く。

不安に駆られながらもリンドは拳を高く上げた。

「みんな!行くぞ!!」

キバオウが扉を押し開ける。

 

――ここに、ジャックの運命を決める第十層ボス攻略が始まった。

 

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扉の先には円形の広い空間が広がっていた。

周りには有名な神殿で見たような真っ白な柱が立っている。

俺達が入ると、天井につけられた半球の硝子が光り、部屋全体を照らす。

第十一層へ続く扉の前には煉瓦のような茶色のブロックで作られた簡素な椅子に座っている西洋騎士の姿がある。

膝に両手が置いてあり、その手には遠くから見ても解る程とても長い斧がある。

俺達が部屋の中央で陣形を整えると、その甲冑は動き出した。

ゆっくりとその体を起こす。

片手で巨大な斧を持ち、ゆっくりとこちらに向かって歩を進めるその姿に、遅いという安堵感と、一撃も食らってはいけない緊張が走る。

俺達は陣形を保ちながら後方へ下がる。

騎士を中央まで誘き寄せるのだ。

一歩ずつ歩くたびに、ガシャという音が聞こえる。

見ると、口を開けてその姿を見守る者もいた。

そして甲冑騎士は部屋の中心部へと入った。

まず壁役のプレイヤーたちが前に出る。

とにかく俺達は彼らが壁役を務めているときに相手の攻撃をしっかりと見て、こちらが攻撃をする隙を窺わなければならない。

静かな戦いだ。

壁役の集団と、甲冑騎士の距離が狭まる。

あの長身と巨大な斧から繰り出される攻撃は、どれほどのリーチがあるのだろう。

そう思ったとたんにボスは斧を片手で高く振り上げた。

壁役のプレイヤーたちは自身の盾を構える。

振り下ろされた斧は、その重量も作用したのか、とんでもない速さだった。

瞬間。

轟音と共に、二人の壁役のプレイヤーが吹き飛ばされる。

ニ、三メートルはその場から飛ばされていた。

HPゲージは真正面から守ったというのに半分以上も削れたいた。

 

《The Turt Tesseras》

 

ジャックはこんな奴相手に、どう自分の実力を見せつけるというのだろうか。

後ろからその表情は見えないが、彼はまたいつものように笑っているのだろう。

 

==========

 

この場で戦って一時間の時が経った。

陣形が少し崩れ、《タート・テセラス》はヘイトを取ったプレイヤーへと歩き、攻撃をしている。

そのHPゲージは、未だに一本しか削れていない。

攻撃後の隙を狙って背中を攻撃しても、すぐに両手で斧を振り回してくる。

一度背中に攻撃を加えたときに横に斧が薙ぎ払われたのを見て、すぐにしゃがんだがその真上を斧が通った時には肝を冷やした。

通常は片手で攻撃して、隙を作るが、両手で持つことによりすぐに反撃をする。

それにあの破壊力だ、ヘイトを取る者、回復する者、隙を狙って攻撃する者と俺達は完全に分けられた。

みんなこの緊張状態で疲れているのだろう、だんだんと攻撃の手が薄くなる。

 

――こんなとき、自然と皆の視線はジャックに集まっていた。

 

まだ目立った行動は何もしていない。

背中に何発か攻撃を加えていたが、それではいつものジャックの姿と同じだ。

その視線に気付いたのか、ジャックは攻撃のための前傾姿勢を止め、背筋を伸ばす。

「そうだな、昨日あれだけの啖呵を切ったんだから、そろそろ動くか」

周りを見渡しながら言うと、ジャックは短剣を左手で握って、右手に数本のピックを持つ。

(このタイミングでピック?甲冑相手じゃあ何も通用しないと思うけど……。鎧の間にも鎖が敷き詰められてるし)

その行動にここに居る全員が俺と同じ疑問を持っただろう。

そのまま《タート・テセラス》へと向かって歩いていく。

《タート・テセラス》も、ジャックを迎え撃つと言わんばかりにジャックの方を向く。

ジャックが少し横に動くと、甲冑騎士は斧を高く振り上げた。

あのモーションから見て取るに、斜め下への振り下ろしだろう。

それをジャンプしてかわしたジャックは振り下ろされた斧を握る手を蹴り、更に跳んだ。

同時に右手に光が生まれる。

《投剣》スキルの基本技《シングルシュート》だ。

空中で放たれたそれは、強固な甲冑に弾かれると思ったが、代わりに聞こえたのはピックが刺さる音。

そう、ジャックが狙ったのは甲冑に開けられた小さな穴。

 

――眼の位置にある穴だった。

 

空中で、《剣技》を使いながらあんなに小さな穴を狙えるのだろうか。

《タート・テセラス》は、その攻撃に怯んだ。

恐らく、弱点部位を攻撃されたことによって数秒間膝を突く仕様なのだろう。

その隙を逃さず、俺とジャックが背中を《剣技》で攻撃する。

ジャックは、俺の方に「昨日言っただろ?」と言わんばかりの顔を向けて来た。

俺はその返事にとジャックの背中を叩く。

《タート・テセラス》の方を見ると今の攻撃だけでHPゲージの一本の三分の一が削れていた。

その光景を見た他のプレイヤーが続々と立ち上がる。

皆、この戦いの希望を見い出したのだ。

 

――ここから、俺達の戦いは始まった。

 

==========

 

続く十分でHPゲージの二本目を削ることが出来た。

まだ、死者は出ていない。

そして三本目を削りにかかるときに、《タート・テセラス》の動きが変わった。

常に両手で斧を持つようになったのだ。

こうなると、攻撃の出がとても速かった。

それに、リーチが短くなったと言っても、結局は接近しないと攻撃できないのだ。

俺達が手を拱いていると、またジャックが前に出た。

《タート・テセラス》も斧を正面で構える。

恐らく、さっきのような攻撃は、AIプログラムにインプットされもう一度あの攻撃をするのは難しいだろう。

それならばジャックは何をするのか。

手を見ると、そこにはピックが握られていた。

つまり、もう一度《タート・テセラス》の眼の位置にある小さな穴を狙うということだ。

俺達は動けず、ただ固唾を呑んで見守るだけだった。

二度目の直接対決。

先に動くのはやはり甲冑騎士の方。

両手で斧を素早く横に薙ぎ払う。

それをジャックはしゃがんで回避する。

しかし、《タート・テセラス》は斧を横に薙ぎ払ったのではなく、そのまま縦に斧を振り回すための予備動作だったのだ。

斧が赤い光を帯びる。

あの光は《剣技》だ。

単発重縦斬撃技《キャプタティオ》が放たれる。

 

――速い!!

 

しかし、ジャックの体は、その斬撃の線上にはもういなかった。

いきなりしゃがみ、そこからすぐに身体を動かしてまた跳んだのだ。

つまり、水平方向への薙ぎ払いをフェイントだと見切ったということか。

そして《剣技》に逆らうことなく斧は振り下ろされる。

そこからは先ほどの展開とまったく同じだった。

斧に置いた手を踏み台にされ、更にジャンプされる。

《シングルシュート》を《タート・テセラス》の眼の穴に向けて放つ。

その後は俺達も加わって総攻撃を数秒間してすぐに退避をする。

眼を押さえながら《タート・テセラス》は片手で斧を振って立ち上がる。

「甘ぇんだよ、ホント」

隣でジャックが呟く。

右手で短剣を握りなおし、俺の方を向く。

「キリト、行けるか?」

「ああ」

ジャックのおかげで《タート・テセラス》の動きも大分見ることができた。

あとは、当たらないようにうまく立ち回ることだ。

俺は確かめるように自身の剣を強く握った後、ジャックと共に走り出した。

 

===========

 

「おらよっと!!」

何度目か分からない金属音が響く。

壁役が《タート・テセラス》の攻撃を跳ね返し、俺達は交代交代に背中を攻撃する。

危険ではあるが、俺やジャックのように俊敏性の高いプレイヤーなら追撃を走って確実に躱わすことができ、そこからはワンパターンな戦法だった。

そして先程のジャックの攻撃で甲冑騎士の三本目のHPゲージが消滅した。

「ラスト一本だ!気合を入れなおせ!!」

リンドの声が響く。

そう、本当に辛いのはここから。

今までのようにワンパターンに倒されるほど甘い相手ではないのだ。

その予想通りに、《タート・テセラス》は斧の端を掴むと俺達から距離を取らせるように地面にその斧をつけると振り被った。

「アカン!全員退避や!」

キバオウの声と同時に《タート・テセラス》はその長身と斧の長さを活かした広範囲にわたる《剣技》《テラーエ》を放つ。

地面をガガガと削りながら巨大な斧は俺たちに襲いかかった。

数秒にも満たなかった攻撃。

被弾した者は誰一人いなかった。

しかし、甲冑騎士は《テラーエ》の反動を使ってそのまま斧を自身の前に振り下ろした。

硬い大地に突き刺さる斧。

刹那。

プシュゥゥウウウウという音が、鎖の間から出る白い煙と共に鎧から発生した。

逸早く動いたのはやはりジャックだった。

左手で握ったピックに《投剣》スキル《ローレム》が発動する。

《シングルシュート》とは段違いの速さで《タート・テセラス》の顔に目掛けて飛んで行ったそれは、騎士の手によって阻まれた。

そこで俺達は気付く。

それはあの高速で飛ぶ《ローレム》をここまで正確に操ったジャックにもだったが、それ以上に――。

 

――あの甲冑騎士が攻撃以外であれほどの速さで動くことが今まであったか。

 

だんだんと、煙が無くなって行く。

それと同時に、金属が強い力をぶつけられた様な野太い音とともに、甲冑騎士からその鎧が外れていく。

地面に落ちた鎧はガラス片に変わって爆散していく。

十数秒それが起こると、最後に兜の部分が破裂し、ごつごつした姿からすらっとした姿に変わる。

鎧はスケイルメイルしかなくなってしまったが、籠手やブーツは相変わらず金属で覆われ、本体への直接攻撃しか攻撃の術はない。

そして鎧を脱いだ騎士は最後に地面に刺さったままの斧を両手で握る。

そのまま大きく引き抜くと、出て来たのは間違いなく《細剣》だった。

「斧はあの細剣に取り付けられてたってことか」

舌打ちついでにジャックがそんな事を言う。

斧のパーツが消滅すると、《タート・テセラス》は細剣を感覚を確かめるように二度振ると、俺達の方へと向かってきた。

その速度は相変わらず早いとは言えないが、鎧を外して細剣を片手に持つその姿には得も言えぬ威圧感があった。

 

「だから言ったろ?ここで真っ先に出てこそ本領発揮ってもんだ。その目ん玉で眼に焼きつけとけよ」

 

ジャックは俺達に吐き捨てると《タート・テセラス》に向かって歩き始めた。

「フシュゥゥゥゥゥ……」

散々ジャックにやられたのがAIの感情プログラムに出ているのか、この戦闘において初めて《タート・テセラス》が声のようなものを口に出した。

俺達は誰も動かない。

ジャックにまだ不信感が残るからか?ジャックに見ていろと言われたからか?

否――。

たった一人でどうこの騎士を相手取るか。

身長もパワーも差がある相手に、どうジャックが勝利を収めるのか期待しているのだ。

「来いよ、また痛めつけてやるからな」

腰を落として真っすぐと《タート・テセラス》に向き合う。

そろそろヤツの間合いに入ると知っての行動だろう。

金属製のブーツの音が静寂の部屋に響く。

 

――その時は来た。

 

《タート・テセラス》が踏み出した足の方向を変え、レイピアで突くような体制へとシフトする。

そこで《剣技》《プロ・エリウム》が発動し、肘から先だけが凄まじい速度で動く。

そのまま腕と足を伸ばして《テラーエ》の時に見せた間合いよりも長い距離にわたる攻撃を仕掛けた。

ジャックは真っすぐ構えた短剣の位置は変えずに首を傾け、短剣を握った右手を突き出すと――。

 

――少し擦れた音がした後。細剣は、ジャックが先程まで顔を置いていたところを通り過ぎて行った。

 

「やっぱ、甘ぇなぁ!!!」

《テラーエ》のため、姿勢の下がっていた《タート・テセラス》の兜を掴むと《セレリテイト》を発動して兜の形状が変わったことにより横に広がった穴に短剣を突き刺す。

「アアアアァァァァアア!!!!」

野太い声を上げて顔を押さえながら騎士が後退する。

HPゲージは八分の一ほど減少していた。

「最後ってことで弱点をついてもそんなにHPは減らねぇのか。まあ、関係ねぇな」

次に攻めたのはジャック。

持ち前の速さで《タート・テセラス》に接近する。

騎士が体勢を立て直したのはちょうどジャックが騎士の射程距離に入った時だった。

細剣ですぐさま縦にジャックを切り裂こうとする。

その剣に《剣技》は発動していない。

彼は立ち止り、剣が振り下ろされるのを見ていた。

そして、逸らす。

細剣は短剣によって軌道を逸らされ地面へと、虚しい音を響かせるだけ。

ジャックの五連斬撃技《クイン・トプリカタム》は四発が弱点部位に、一発は籠手の金属のない部分を狙って放たれた。

もちろん最後の一撃は防がれたが、その隙にジャックは《タート・テセラス》から距離を取った。

HPゲージはあっという間にイエローゾーンまで落ちていた。

 

――圧倒的。

 

たった一人であれほどの敵に対して余裕を持って戦っているとしか思えない。

ジャックはこの戦いで一度もダメージを受けていないのだ。

誰よりもボスと戦っているのに、その武器が彼を捕えることはない。

俺の片手剣と比べれば随分小さな短剣で正確に攻撃を逸らしている。

短剣を真っすぐ細剣に滑り込ませて、芯の部分を柄と刃で流れに逆らうことなく自分から逸らしている。

ジャックには《タート・テセラス》ですらも自分の手の上で踊る道化に過ぎないのだ。

いったいジャックは、この男は何者だろう。

《殺人鬼》でありながら最前線に立って戦い続けている。

なら、なぜジャックはPKを行ったのか?

いくら襲われたからといっても、俺も殺すまでは手はでないはずだ。

仮想の方でも犯罪を犯した《オレンジプレイヤー》が出ているとは聞いたことがある。

しかし、PKにまで手をつけた者は聞いたことがなかった。

第一層のボス攻略の前日に、現実にやり残したことがあると彼から聞いた。

そのために、今こうして戦っているのだろうか。

ぐるぐると廻っていた思考を、爆音がかき消した。

 

――耳に入ってきたのは、大きな破裂音。

 

顔を向けると、そこにはあの金髪の剣士が立っていた。

そのHPゲージはその全てを緑色が占めている。

狂気染みた笑顔を浮かべて、彼は俺達を見渡していた。

 

「The end」

 

妙に発音の良いその言葉が、歓声の一つも上がらないボス部屋に響いていた。

 

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さてジャックの踏み台になってもらいました《タート・テセラス》。
元になったのが何か分かる人はいますかね?
背中の部分に攻撃するとか鎧が取れるとか結構使いやすいし好きなんで。
これから出てくるオリジナルの敵はタート・テセラスと同じ所からネタをとってくるので、分かる人は「ああ、こいつか…」となるのを楽しみにしながら作っています。
それでは!
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