仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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こっからオリジナル回が始まります!!
文体が酷くなるかもしれませんが悪しからず。



迷走する真実

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結局のところ、俺の心配は杞憂に終わった。

フレンドリストに刻まれている《Jack=Gundora》にそのプレイヤーの死亡を意味する横線が引かれていなかったことから安堵はしていたが。

第三層のボス攻略会議になると、彼は何事もなかったように現れた。

第一章のボス攻略後にあれだけのことを言っておきながら第二層のボス攻略には現れず、なぜ急に姿を見せたのかと思う者もいただろう。

ジャックに対して怪訝な顔をするプレイヤーもちらほらいたが、口に出すことはなかった。

壁に凭れかかっている俺のところまで来ると、いつもの笑った顔を向けて「久しぶりだな」といった。

「ああ……第二層のボス攻略にはなんで参加しなかったんだ?」

率直に言えば、特に顔色を変えることもなくジャックは口を開いた。

「……野暮用だ」

その内容は分からなかったが、会議開始の合図で、俺の思考はかき消された。

会議翌日に行われた第三層のボス攻略。

ジャックは確実に強くなっていた。

攻撃の手際も、良くなっているし、何よりも《剣技》の質が上がった。

ジャックの成長は、俺の予想を遥かに超え、その事実に俺は心の中で歓喜していた。

もしかしたら、彼は俺よりももっと強くなるかもしれない。

だが、同時に生まれる違和感。

あの第一層ボス攻略の時にも感じた《何か》を、ジャックにも感じていた。

 

――俺の疑問は解消されることはないまま、第三層のボス攻略は幕を閉じた。

 

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そして攻略は進み、現在俺達がいるのは第十層だ。

この頃になると、だんだんと《ビーター》である俺へのあたりも小さくなってきていた。

ただ、まだ嫌悪感を抱く者がいないとは言えないが。

ジャックも相変わらず楽しそうな笑みを浮かべて、あの斧使いのプレイヤー《エギル》と話をしている。

順調だ。何もかも。

攻略は滞りなく進行している。

このまま行けば百層に到達は決して不可能ではないと、この攻略組の各面々が思い始めていた。

だが俺はやはり思い知らされることになる。

 

――この世界において思い通りに行くことなど、何一つないのだと。

 

それは、第十層のボス攻略会議が始まってすぐのことだった。

「みんな!聞いてくれ!!大変な事が発覚した!!」

会議中に突然入ってきた男のプレイヤー、確か攻略組の一人だった筈だ。

とても動揺した様子で、彼の必死さに会議に居るプレイヤーの視線は、全て彼に集まった。

大変な事とは?偵察戦で得たボスの情報に間違いがあったのか?それともまた別の理由か?

会議が緊迫した空気に包まれる。

男は小さく息を吐くと、ゆっくりと腕を上げ、人差し指を立てる。

それは誰かを指差しているような――

「コイツ……コイツはPKプレイヤーだ……う、裏切り者だ!!」

俺はその言葉に戦慄した。

いや、違う。

俺が本当に戦慄したのは……。

 

―――男が指を差した先に居たのが、ジャックであった事に。

 

「……どういうことだ」

ジャックの隣に居るエギルが真っ先に声を上げる。

「ジャックがそんな事をするようには、俺は思えないんだが」

恐らくその言葉はこの攻略組の誰もが思っていることだろう。

第十層まで登ってくるまでに攻略組の中でジャックの気さくな性格は、周りの人間に希望を与えていた。

それを、俺達は身を以て知っているのだ。

簡単にその認識を覆すことなど、容易に出来るわけがない。

しかし、俺は違った。

ことは、第四層に遡る。

 

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「よう、アルゴ」

「キー坊からの呼び出しなんて珍しいネ、何かあったのかい?」

「ジャックについてなんだけど……」

そう、第三層のボス攻略で見たジャックの違和感について、アルゴに調べてもらおうとしたのだ。

「未だにジー君の情報は何もないヨ、ホントジー君はどんな情報規制をしてるのかオネーサン興味津津だヨ」

手を握りながら言うアルゴの珍しい姿に、思わず苦笑いする。

「アルゴ、実はジャックの様子が気になってさ」

「ン?それはどういうことダイ?」

アルゴが首を傾げる。

「いや、大したことじゃないと思うんだけど……。なんかジャックの雰囲気が変わっててさ。まるで第一層のボスみたいに」

その言葉を聴いてアルゴは顔を顰めた。

恐らく、第一層の時にベータテストの頃の情報を公開したことによって死者が出たことを悔やんだのだろう。

「あ、いや、ごめん……」

思わず出た謝罪の言葉。

アルゴはかぶりを振ると俯きながら答えた。

「いいんダ、キー坊。解っタ、ジー君のことを徹底的に調べといてやるヨ!」

自らを奮い立たせるように顔を上げたアルゴに思わず口元が緩んだ。

「じゃあナ!キー坊!!」

元気よく言うと、アルゴは去って行った。

 

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そして第十層の時、俺はアルゴに呼び出された。

「キー坊……」

弱々しい声、声の主はこれを呼びつけたアルゴだった。

「アルゴ?どうした?」

「ジャックのことだヨ」

立ち上がり、服を軽く叩く。

フードでその表情は見えないが、雰囲気は真剣そのものだった。

「何か分かったのか?」

「イヤ、ちまちま情報はあったんダ。タダ、裏付けるものが何もないんだヨ」

思わず息をのむ、《鼠》と称されるアルゴでもジャックの情報は形を成さないのか。

「だから、情報は売れないんダ。ごめんヨ、キー坊」

「あ、ああ」

(ならば、俺をここに呼び出した理由は一体?)

「でも、コレだけは言えるヨ。ジャックにはあまり近づかない方がイイ」

「えっ!?」

突然のことに驚く、情報が手に入らないだけでそんな事をアルゴが言うとは思わなかったのだ。

「オイラから言えるのはここまでダ、スマンキー坊。オイラも動揺してるんダ」

そう告げると、アルゴはそそくさと去ってしまった。

残された俺はただその場に立ち尽くしていた。

 

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口論は今も続いている。

ジャックのことを信じて反論をする者。

ジャックのことを糾弾しようとする者。

どうしていいか判らず事の顛末を見守る者。

 

――ジャックは何も語らない。

 

「だいたいジャックがPKをした証拠がどこにあるというんだ!」

「俺は見たんだよ!そいつが下層の迷宮区でPKをしてんのをよ!」

一瞬、静寂が俺達を包んだ。

「笑ってやがった。口の端を釣り上げて楽しむように笑ってやがったよ、コイツは!!」

男はもう一度力強くジャックを指差す。

「怖かったよ、お前みたいな強くて気さくな奴がPKなんてクソッたれなことをしてるなんてよ……」

その声は震えていた。

「でも、お前が攻略組に残っていたら何時か皆が危険にさらされる!だからお前にはここで制裁を加えなければならないんだ!!」

正論。

全くの正論だった。

それが真か偽かは判らないが、もし俺がジャックと出会わず、その光景を目にしたなら、俺も同じことを言っていただろう。

「それに!いつまで黙っているつもりだ!!」

すぐに視線はジャックに集まる。

「間違ってることがあるなら、なんか言ってみろよ!!」

それはこの男の希望のようにも思えた。

否定して欲しいと言っているようで……。

この場に居る全員の視線が集まる中、ジャックがその口を開けた。

 

「ああ、そうだな。お前の言ってる事は何一つ間違ってねぇよ」

 

静寂。

ジャックはいつものように笑った。

だが、俺にはそれが狂気を含んだ笑みにしか見えなかった。

「お、おい。嘘だろ……ジャック」

彼の隣に居るエギルが言葉を紡いでいく。

しかし――

 

「オレは嘘は吐かねぇよ。紛れもねぇ事実だ」

 

あっさりと、エギルの言葉をジャックは吐き捨てた。

再び沈黙。

絶句していたのだろう、皆。

これほどまでに自分がPKを行ったことに対しての意識が薄い事に。

「……テメェ!!!」

痺れを切らした一人が、ジャックの胸倉を掴む。

筋力値が高いのか、ジャックの体は宙を浮く。

その顔色は、一切の動揺も見てはいない、手をポケットに突っ込んで自分を持ち上げる男を見下すように見ている。。

彼の様子に、更に手に力を込める。

「それによぉ……」

ここで、ジャックが口を開いた。

「別に、今までだって攻略を続けてたし、攻略組には手を出してねぇ。攻略の意思は俺にもあるんだぜ?それを、PKしただけでメンバーから外されるのは困るなぁ」

あくまでも狂気染みたその笑顔を止めない。

「それで「それでも、俺みたいなPKプレイヤーがいれば自分たちがいつ襲われるか分からないだって?」」

予想していたように次に出る言葉を自分の言葉で被せる。

そして自分の胸倉を掴んでいる手を下ろそうとする。

「大体、オレが攻略組を殺せばすぐ情報なんて回る。そしたら集団リンチだ」

つま先だけ地面に着いたところでジャックはまた口を開く。

誰も、ジャックの行動を止める者がいない。

誰も彼も困惑しているのだろう。

もちろん……この俺も……。

「じゃあ……黒鉄宮の牢獄エリアに行けよ」

最初にジャックを糾弾した者の声だ。

俯いていて表情は読めないが、声は震えていた。

「断る」

その言葉をジャックは一蹴する。

「なんでだよ!!テメェはPKをしたんだぞ!それも今テメェがしてるようなその命を何とも思わない顔でな!!」

怒りの籠った声が響く。

「なら、罪を償え!攻略組として最前線に立つなら当然のことだ!!」

「そうだ!償えよ!!」

胸倉をまだつかんでいる男も声を上げる。

それが火種となったのか、会議はジャックへの糾弾へと走って行った。

「だから、言ってんだろ。断るってよ」

それでもジャックは顔色一つ変えない。

全て自分の予想通り、お前らは俺の手のひらの上で踊っているだけだと言っているようだった。

「まだそんな事をいうのか!!」

男はよりいっそうジャックを掴む手を強くする。

「攻略組として最前線に立つためには罪を償って牢獄に引きこもれって?違ぇなぁ!!」

そこで初めてジャックが大声を上げた。

更に口の端を釣り上げ、眼を大きく開く。

「逆だろ、最前線に立ち続けることが償いってヤツじゃねぇのか?」

そこまで言うと周りを見渡す。

ジャックのその狂気を帯びた顔に「ひっ」と声を上げる者もいた。

 

「テメェらは攻略組という枠組みが善の心に満ち溢れた《英雄》の集団だと勘違いしてんのか」

 

冷たく放たれたその言葉に図星を突かれた者が何人いるのか。

そう、ここは《英雄》候補たちの集いではない。

「ここは、あくまでも攻略の意思と、実力が備わった連中が集まったとこなんじゃねぇのかぁ?」

ジャックは自分を掴んでいる手を無理やり引き剥がした。

そこで、一つの笑い声が聞こえた。

「実力が、お前に備わってる訳ねえだろ」

彼を最初に糾弾した男が言う。

「お前の実力如きなら代えはたくさんいるんだよ!」

「なら、見せりゃいいんだろ。お前の言う実力ってヤツを」

即座にジャックは言葉を返す。

「今回のボス攻略で、見せてやるよ。オレの本当の実力を」

「……は?」

意外な返答だったのだろう、男が素っ頓狂な声を上げる。

「オレが何も考えずにただ攻略がしたい一心でここに居ると思ったか?そんなんだったらPKした日に行方を真っ先に眩ますな」

ジャックは自身の短剣を取り出してクルクルと回す。

 

「ちゃんと考えてこの場所に立ってるに決まってんだろ。ここまで完全にオレの予想通りだ」

 

空中に上げた短剣を掴み取り、ジャックはそう言い放った。

「今回のボス攻略でオレの実力を見せてやる。それがお前らの思う必要のないレベルだったら大人しく黒鉄宮に行ってやるよ」

その言葉に、何も返す者はいなかった。

恐らく……推測にすぎないが、皆はジャックを突き放すことに躊躇っているのだろう。

攻略会議がある度に周りの人間と積極的に話をするタイプで、場の雰囲気をしっかり感じ取れるジャックに、信頼を寄せていたプレイヤーも多い。

PKプレイヤーということへの嫌悪とジャックの信頼が心の中でせめぎ合っているのだろう。

 

――いや、違う。

 

これも予想通りだというのか!?

周りの自分に対する信頼を上げてどっちつかずの状況を作り出す。

きっと、あの時のアルゴもこんな気持ちだったんだ。

「沈黙は肯定と受け取っていいんだな、じゃあ会議を始めてくれ。時間を食っちまったからな」

その言葉にも、反論する者はいなかった。

人間というのは誰しも心の中に甘さを持っている。

それを、ジャックにうまく利用されたんだ。

人々の作り出す輪の中心から抜けだし、俺の方へと向かって歩いてくる。

すれ違う瞬間にジャックは「気付いたか」とでも言いたげな顔をしていた。

そして始まった第十層ボス攻略会議。

先程の騒ぎもあり、覚束ない会議ではあったが、内容はきっちりとしていた。

 

ボスの名前は《ザ・タート・テセラス》

西洋風の騎士のような姿をしているらしい、鎧の継ぎ目にはチェーンが敷き詰められており、動きは遅いが《(アーマー)通し(ピアース)》などが通用しないらしい。

それ故に甲冑の部分を攻撃してもHPゲージはほとんど減らなかったらしいが、背中への攻撃をしたところ、他の部位よりはダメージを与えられたそうだ。

しかし、三メートルの背丈の鎧騎士が持つ武器も巨大なモノで、背丈よりも少し小さな斧らしい。

それを片手で振り回してくるというのだ。

その分隙も十分大きいのだが、当たれば(タンク)役のプレイヤーでもふっ飛ばされる程の威力を持っているらしい。

よって攻撃できたとしても反撃を受ける可能性が高いのだ。

 

ジャックは、どうやってそんな敵相手にどう実力を見せるのだろうか。

俺と同じでジャックも俊敏性を持たせるために防具は軽いモノだ。

下手をすれば一撃でHPゲージを持っていかれるだろう。

気がつけば会議は終わっていた。

それに気がつかなかったのは、全員が会議が終わった時に黙り込んで立ち尽くしていたからか。

沈黙を破るようにジャックは歩き出す。

視線はただ一点に集まっていた。

「じゃあ、明日が楽しみだな」

それだけを残し、ジャックは会議を後にした。

それに気付いて意識が覚醒する。

俺は急いでジャックの後を追った。

 

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ここ、第十層の主街区《コーム・サンクテュル》は西に斜めに地形が傾いているので会議が終わったこの夕方には夕日が良く当たるのだ。

その中で、夕陽を反射させた金髪が眼に映る。

振り向いたその顔には、先程の会議で見せたような狂気は無かった。

「よう、キリトか」

「ジャック……」

何も言えずに黙ってしまう、追いかけて来たのになんて様だ。

「悪かったな」

意外な言葉に「えっ」と声が漏れる。

「お前に教えてもらった剣だが、オレにはどうも使いこなせないらしい」

それは、自分がPKをしてしまったことに対する謝罪だろうか。

「なんでPKなんてことをしたんだ」

「それは言えねぇな」

「俺にはジャックがPKをするなんて想像もつかなかったよ」

「人のこと犯罪者面とか言っときながらよく言うぜ」

ジャックが小さく笑いながらそう告げる。

「利用……したのか」

何を、とは言わない。

恐らくそれを一番わかっているのは目の前のこの男なのだから。

「オレは最前線に残り続けなきゃならねぇ。向こうの世界にどうしても戻らなきゃならねぇって言ったろ」

真剣な顔でジャックは俺に言う。

「でも、明日のボス攻略はどうするんだ。ボスの攻撃を食らえば一撃で死ぬかもしれないんだぞ」

そう、死んでしまうのだ。

いつか見たあの青い騎士のように――

「キリト」

顔を上げると眼前に短剣を突きつけられる。

思わず飛び退きそうになったが、ジャックの真剣な顔を見て足を止めた。

「見せてやるよ、あいつらにも。オレの手のひらの上で転がされてただけということ。オレがお前らの甘さを全部利用してやるってことをよ」

短剣をしまい、俺に背を向けて歩き始める。

 

黄昏に吹く風が、彼の金色の髪を揺らす。

 

その姿は《英雄》か《殺人鬼》か。

 

俺は立ち尽くし、空の色が変わるまで動けずにいた。

 

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キャラの口調がまだつかめてません……。
集団心理や情をジャックはうまく使っていますが、思い切り僕の想像です。
ま、まあ大丈夫ですよね?
次は戦闘描写が入ってきます。
それでは!
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