仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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やっとここまで来ました!
どーも竜尾です。
アスナとジャックの絡みに非常に困ってますね。
キリトだけって言うのもジャックが空気になってしまう…。
ええいもどかしい!



消息不明

==========

 

命の割れる音がした。

この世界ならではと思わせる演出。

俺たちにその『死』を認識させるには十分だった。

「……後は頼む、キリトさん。ボスを、倒」

彼、騎士ディアベルの最後の遺言は、最後まで続くことはなかった。

人の死をこんなに間近で体験したのは二回目だ。

一回目は、俺達を殺そうとしたコペルというプレイヤー。

彼の死は直接目にしたわけではない。

そう考えれば、これが俺が初めて直面した『死』というものなのだろう。

「おい、キリト」

肩に手が置かれる、ジャックだ。

冷静な声だった、動揺の色が全く見えていない。

覚悟の差というものなのだろうか、ジャックの視線の先にはきっとディアベルを葬った奴しか映っていないのだろう。

 

==========

 

獣人の王《イルファング・ザ・コボルドロード》

俺達が初めて相対した第一層のフロアボスだ。

青灰色の毛皮をまとった、二メートルを軽く超える逞しい体躯。

血に飢えた赤金色に爛々と輝く隻眼。

ベータテストと変わらない姿を一瞥し、俺達は零れてきた取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》の相手をしていた。

それにしても意外だったのはフーデッドケープのプレイヤー《アスナ》だ。

彼女が使っていた武器は《細剣(レイピア)》だが、その《剣技》の一つである《リニアー》を見せた彼女に、俺はジャックの時と同じくらい驚いていた。

剣先は、正確に衛兵コボルドの喉元に唯一存在する弱点を貫く。

驚くべきはその速度、剣先がブレてほとんど見えないのだ。

これにはジャックも感嘆の声をあげていたが、すぐに視線を戻すとコボルドを切り裂く。

初心者二人がこれほどの強さを持っているのを見ると、思わず笑みが零れそうになるが、今は戦闘中だ。

ジャックの「スイッチ!」の声と共に顔を引き締める。

前に踏み出し、《スラント》で《ルインコボルド・センチネル》を吹き飛ばす。

順調だ。

俺達は大したダメージも負っていない。

ボスの長大なHPゲージが、ついに最後の一本に突入している。

このまま、このまま行かせてくれ。

「………違ぇな……」

ジャックの呟きに、後ろを振り向くことはなかった。

その違和感に、気付いてしまった。

「……どうしたの?」

俺達の様子に不信感を覚えたのか、アスナが声をかけてくる。

「確か、アイツの武器はタルワールだった筈だ。見てみろ、剣が細すぎる」

ジャックに言われアスナがボスの方を向く、俺達の位置からはシルエットしか見えないが、タルワールではないことは判るだろう。

あれは……野太刀だ。

「あ……ああ………!!」

喉から、引き攣れたような音が漏れた。

アスナは声すら出ていなかった。

「だ……だめだ、下がれ!!全力で後ろに跳べーーーっ!!」

 

――もう、遅ぇよ。

 

そんな声が聞こえた気がした。

俺の声も虚しく発動される《カタナ》専用《剣技》、重範囲攻撃《旋車》。

ディアベル率いるC隊が、見るも無残に吹き飛ばされる。

本来なら、この後すぐにカバーに入らなければいけないが、動ける者は、一人としていなかった。

『死』という者に俺達とは別の価値観を抱くジャックでさえも……。

ようやく皆が我に返ってきたときにはもう遅かった。

《剣技》《浮舟》。

狙われたのは、正面に倒れる騎士ディアベルだった。

その体が宙を浮く、誰もがその先を予想することが出来た。

三連撃技、《緋扇》。

瞬間、ディアベルのHPゲージは真っ赤に染まった。

 

==========

 

そこから始まったのは、いわば《血戦》だった。

ディアベルがログアウトした直後、俺達三人が一機に突撃する。

呆然する奴らを一括して、無理矢理にでも意識を戦いへと引きもどす。

センチネルと同じ手順で攻撃を重ねていく。

その際、フード付きケープを取ったアスナが、後にこのデスゲームで希少な絶滅危惧種と言われる美少女であることにまた驚かされたが……。

途中、集中力がと切れ、吹き飛ばされるが、あのエギルというプレイヤーに助けられ、その隙をジャックが埋めた。

たった一人で次々と連撃を加えていく、《剣技》後の硬直を、上手く距離を取り、間一髪で回避していた。

その姿に、やはり流石としか言いようがない。

体勢を立て直し、援護に入る。

他のプレイヤーも、だんだんと陣形を組み始めた。

もう一度隙を作り、全員で総攻撃をかける。

「アスナ、ジャック、ラストアタック、一緒に頼む!!」

「了解!!」

「任せろよ!!」

まず、アスナが先に渾身の《リニアー》をボスの左脇腹に打ち込んだ。

続けてジャックが速度を増し《剣技》《セレリテイト》を右脇腹から背中にかけて切り裂く。

わずかに遅れ、青い光芒をまとった俺の剣が、コボルド王の右肩口から腹までを斬り裂いた。

刹那。

その体に無数のひびが入る。

アインクラッド第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》は、その体を幾千幾万の硝子片へと変えて盛大に四散させた。

俺の視界には【You got the Last Attack!!】という紫のシステムメッセージが、音もなく瞬いた。

 

==========

 

「お疲れ様」

静寂の中、アスナの声が聞こえ、俺はようやく確信した。

「終わったな……」

短剣をしまい、ジャックが俺の肩を叩いた。

突如、わっ!!と歓声が弾けた。

その嵐のような騒ぎの中、床から立ち上がってゆっくり近づく大きな人影があった。

両手斧使いエギルだ。

「……見事な指揮だったぞ。そしてそれ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのものだ」

何を返せばいいかわからず「いや……」とだけ呟くと「なに照れてんだよ」とジャックに後頭部を叩かれる。

 

――その時だった。

 

「なんでだよ!!」

この広いボス部屋全体に、その声は響いた。

「何で、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

この男は、C隊……つまりディアベルの、当初からの仲間の一人だ。

残りのメンバー四人も、顔をくしゃくしゃにして立っていた。

「だってあんたは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!!あんたが最初からあの情報を伝えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

その叫びに、残りのレイドメンバーたちがざわめく。

そして彼らに生まれた疑問は、即座に確信へと変わる。

 

――俺が元ベータテスターであること。

 

このことが開かされ、俺の知識とアルゴの攻略本の矛盾点から事態は深刻化する。

(まずい、この流れはまずい)

このままではアルゴをはじめとする他のテスターたちへの敵意が増幅してしまう。

それに、俺についてきてくれたジャックも、その的になりかねない。

喧騒の中、彼の方を振り返ると、彼はまっすぐ俺の方を向いていた。

きっとジャックはこの状況がいつか来ることを覚悟していたのだ。

いや、巻き込むわけにはいかない、どうする!?

刹那。

俺の脳裏に、一つのアイデアが浮かんだ。

もう一度ジャックの方を向く。

ジャックはその金色の瞳を閉じ、頭を少し下げた。

俺の意思を肯定するというのか、自分も危険にさらされるかもしれないのに――。

「おい、お前……」「あなたね……」

口を開いたエギルとアスナの二人を、両手の微妙な動きで制した。

 

――済まない……。

 

一歩前に出ると、意図してふてぶてしい表情を作り、シミター使いの顔を冷ややかに眺める。

肩をすくめ、出せる限りの無表情な声で告げる。

 

「元ベータテスター、だって?俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

――ここからは俺の独壇場だ。

 

==========

 

ここにいるプレイヤー全員の元ベータテスターに対する憎悪は全て俺が引き受けた。

これで他のベータテスター達が蔑まれることはない。

元々俺自身最初に一人のプレイヤーを見捨ててるんだ、当然の報いだ。

そんな俺に押された烙印は情報を独占する汚いベータテスター、通称《ビーター》に。

ジャックは何も言わずにポケットに手を突っ込んでいた。

俺がこんな立場にいれば、一緒に居た彼にも迷惑がかかってしまうというのに。

そう考えれば、俺はジャックも見捨てたということなのか……。

他のベータテスターたちを助けるために。

それでも、小さく頭を下げたジャックに、俺はこの選択すら笑って許してくれるという安心感を覚えていた。

自分勝手な判断だろうか。

ありったけの挑発を残し、ついさっきボスからドロップしたばかりのユニーク品《コート・オブ・ミッドナイト》なるアイテムを選択する。

その黒いロングコートをばさりと翻し、俺は背後のボス部屋の奥にある小さな扉へと向き直った。

「二層の転移門は、俺が有効化(アクティベート)しといてやる。この上から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら所見のMobに殺される覚悟しとけよ」

歩きだした俺を、じっと見つめてくるエギルとアスナに少し微笑みかけると、主なき玉座のすぐ後ろに設けられた、第二層へと繋がる扉を押し開けた。

後ろでこちらに向かう足音が聞こえる。

「お……お前もあいつと同じ《ビーター》なのか?」

その声は震えていた。

思わず振り返ると集団から離れたジャックの姿。

松明の光を反射して輝く金色の髪が、ここからでもよく判った。

「違ぇよ、俺はただのビギナーだ。アイツがテメェらの言う《ビーター》なら、俺はその情報量を根こそぎ利用してやるだけだ」

首だけを集団に向け、その鋭い目つきから威圧するように言葉を放つ。

その言葉に、何も言葉を反す者はいなかった。

そしてまた歩みを進め、顔を上げた彼と眼があった。

にやりと笑った口からは鋭い歯が見える。

 

――異質。

 

先程プレイヤーが死亡して、情報の信憑性が薄くなっている今、取るべきは自分の安全。

つまり、他の人間とパーティーを組んで死亡率を減らすことだ。

だが、ジャックはビギナーだ。

このSAOについてはここから先のことは何も知らない。

なのに、彼はたった一人で歩こうとしている。

その姿に、俺は一種の恐怖を覚えた。

それを顔には出さず、再び開けた扉の先を見る。

こうして、波乱の第一層ボス攻略は、死者一名と終わったが。

同時に、《ビーター》というプレイヤーの元ベータテスターに対する憎悪の的を作り出した。

 

==========

 

「やっぱ、あれじゃただのバカに思われたかな、オレ」

俺の隣に並んだジャックが頭を掻きながら言う。

「すまな「謝んなよ、キリト」」

俺の謝罪にジャックが言葉を重ねる。

彼の顔は真剣そのもので、やはりと思ってしまった。

「そもそも、元ベータテスターであるお前が自分の時間を削ってまでオレをここまで連れてきてくれたんだ。これくらいのことがあったくらいで文句なんか言わねぇし、気にも留めねぇよ」

「そ、そうか……」

「な、オレ超優しいだろ」

その言葉に思わず噴き出す。

ジャックには本当に人の心を読む力があるのか、こういった沈んだ時には彼なりのジョークで笑わせてくれる。

 

――本当に、すごいヤツだ。

 

すると、後ろからまた足音が聞こえた。

「………来るな、って言ったのに」

「言ってないわ。死ぬ覚悟があるなら来い、って言ったのよ。それに、そこの彼もついてきてるじゃない」

声の主がジャックの方を指差すと、顎に手を置いて「まあ、そうだな」と苦笑いをしながら答える。

また、面倒だとでも思っているのだろう。

「エギルさんと、キバオウから伝言がある」

「へぇ……あのサボテンもか」

興味が湧いたのか、ジャックが声を上げる。

「エギルさんは、『二層のボス攻略も一緒にやろう』って。キバオウは……『今日は助けてもろたけど、ジブンのことはやっぱり認められん。わいは、わいのやり方でクリアを目指す』だって」

「……そうか」

その言葉を何度か脳裏で繰り返していると、アスナが小さく咳払いをして、そっぽを向きながら続けた。

「それと……これはわたしからの伝言」

「は……はい?」

「あなた、戦闘中に私の名前呼んだでしょ」

はて、と一瞬考えると、隣でジャックがなるほど、という顔をする。

「目線だけ左端に向けてみろよ、自分の以外に追加でHPゲージが見えるだろ」

「え……」

呟き、アスナが顔を左に向けようとするので、反射的にその頬を指先で支える。

そこでようやく思い出す。

彼女も初心者だ、だから俺達の名前に気付かなかったし名前で呼ぶこともなかったのか。

「き……り……と。キリト?ジャック……ガン……ドラ?」

「ガンドーラ、ジャック=ガンドーラだ」

「ガンドーラ……これが、あなたたちの名前?」

「うん」「ああ」

「なぁんだ……こんなところに、ずっと書いてあったのね」

そこで、俺は反射的に頬に置いていた手を放し、すぐにそっぽを向く。

隣でジャックが口を押さえて笑いを分かりやすくこらえる。

同じようにくすくす、という声も聞こえた。

俺は二人の笑い声を断ち切るように頭を振り、アスナの方を向いた。

「君は強くなれる。剣技だけじゃなく、もっとずっと大きくて貴重な強さを身につけられる。だから……もしいつか、誰か信頼できる人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから」

数秒の沈黙。

アスナ穏やかな顔を俺に向け、ジャックにも視線を向けると彼も小さく頷いた。

「……じゃあ、またね、キリト。ジャック」

きい、と扉を開ける音。足音。ばたん、と締まる音。

また沈黙が俺とジャックを包む。

「なにが、ソロプレイには限界があるだ。現にお前これからソロっでやって行くんだろ」

「ああ、だからジャック。俺の引率もここまでだ」

俺がジャックの方を向くと、彼も真剣な顔をしていた。

これから起こる戦いは、お互いにたった独りだ。

何が起こるか分からない孤独な戦いになるんだ。

「解ってる。ここまで本当にありがとな」

そういって右手を俺の方に差し出す。

その顔は、今まで見たことない程の穏やかな顔だった。

「お前も、そんな顔できるんだな」

「ほっとけ」

俺も差し出された手を右手で握る。

「まあ、次のボス攻略で会おうぜ」

「おう!」

約束をするようにお互いに手を大きく振って手を放す。

「取りあえず、この先にある主街区の《ウルバス》まで行くか」

俺の言葉にいつものように「OK」と返すと短剣を取り出す。

その姿を一瞥して片手剣を取り出す。

 

「いくぞ!」「いくぜぇ!」

 

風切る音と共に、俺達は走り出した。

 

==========

 

それからも様々な事があった。

《忍者》のような格好をした二人組に追われているアルゴを助けたり。

そのお礼にとエクストラスキル《体術》の習得出来るクエストを受けた。

初日でジャックはクリアしてしまい、そこから俺とジャックは完全に別行動となった。

ただ、最後にフレンド登録をしようとジャックに誘われ、また珍しい事に驚いた俺はそれを承諾してしまったが。

ボス戦の前には《強化詐欺》なる行為を突き止めたりもした。

そして再び行われた第二層のボス攻略会議。

だが、異変が起きたのはそこからだった。

 

――ジャックの姿が、どこにも見当たらなかった。

 

ボス戦でも、ジャックの輝く金髪を見ることはなかった。

 

つまり、俺は《体術》スキルの習得クエスト以降、一度もジャックの姿を見ることはなかった。

 

==========




ついにオリジナルへと入って行きます。
文才のない僕ですが、何とかやります。
ここからジャックの動向は変わっていきます。
でも書いてて超楽しいっす。はい。
これ以上調子乗って話すとネタばれを言ってしまうかもしれないんで自重します。
それでは。
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