仮想世界に棚引く霧   作:海銅竜尾

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プロローグを終え、いよいよ序章の開始です。
序章の物語りは全てキリト視点で進んでいきます。
よってオリ主の言動をキリト君がどんなことを感じながら、アインクラッドを攻略していくのか!?
というのを序章では楽しんでもらえたらいいなと思っております。
それでは!


驚嘆する勇者

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『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

黄昏の空に浮かぶ悪魔の宣告と同時に、俺の頭にはある考えが浮かんでいた。

一万、いや、茅場の話を信じれば現在このゲーム内には九千七百八十七人しか残っていないだろう。

その中に、自分と同じベータテスターが何人いるのか……。

そんなことを想像することもできないが、このゲームの異常と特性を理解したベータテスターやビギナーたちは必ず存在する。

彼らも早々にこの町を出ていくだろう。

そうなれば、リソースの奪い合いは必至、一歩の遅れが自分の死に直結する死活問題だ。

ベータテスト時代に最前線で狩りを続けていた頃を思い出す。

あの頃とは何もかもが違うんだ。

俺は、こんな所で死ぬわけにはいかない……。

剣士《キリト》として、偽り続けた体はもう無い。

虚弱でちっぽけな現実の姿のままの自分なのだ。

だから、強くならなければならない、この世界の誰よりも。

偽りの強さと自己満足の鎧で自分を護るために。

でも、孤独になるのが嫌だった我儘な俺は今日出会ったばかりの友人《クライン》を連れだそうとした。

しかし、クラインにはクラインの仲間がいる。

弱い俺にはクラインとその仲間たちを安全に連れて行くだけの力はない。

もし、彼らの中に死者が出たときの責任だって取れはしないのだ。

逃げ続けた果てに、俺は……。

 

――唯一、この世界で出来た初めての友人であるクラインを自己保身のために見捨てたんだ。

 

==========

 

《はじまりの街》を出ようとした俺は突然後ろから声をかけられた。

「なあ、あんたこの町を出るのか?」

鋭く、若い男の声。振り返れば街影に隠れた男が姿を見せた。

すらっとした背丈に、尖った金髪、鋭い眼、髪の毛と同じ色で輝く金色の瞳。

傍から見れば犯罪者のそれと変わりない容姿に、これがこの人の現実での姿だと思うと、仮想世界であるにも関わらず冷や汗が出るような感覚に襲われる。

いや、ここはまだ《アンチクリミナルコード有効圏内》だ、例え今攻撃されても俺のHPバーは削れることはない。

俺に対しての攻撃なら、《圏外》に出た瞬間に不意打ちを仕掛けてくるはずだ。

そんな思考を巡らせていると、目の前の男はその姿に似合わぬ一言を発した。

「すまねぇが、俺も一緒に連れてってくれねぇか」

「…えっ!?えっと……」

元々他人と話すことが苦手な俺が慌てていると、男は先ほどと変わらず、真剣な声で――

「時間はとらせない、走りながらでいい、武器とこの剣技の使い方だけ教えてくれ」

そう言いながら右手を前に突き出す、手に握られているのは一本の短剣。

夕陽を反射し刀身は一層光り輝く。まるで、使用者の心を表すように……。

 

――この人は、間違いなく強い。

 

「わかった、時間も無いから手短にやるぞ」

短く言い放ち、俺は走り出した。

「サンキュー、オレはジャック…《ジャック=ガンドーラ》だ」

言葉には少し嬉しさが混じっていた。止めてくれ、俺はほんの少し前に君と同じビギナーの一人を見捨てた最低な奴なんだ……。

思わずこみ上げた言葉を飲み込んだ。前を向き、足を動かしたまま、聞こえるか聞こえないかの小さな声を出した。

「……キリトだ」

「ん、よろしくな、キリト」

パーティー申請をジャックに流すと「なるほど。これでOKを押せばいいってわけか」と言いながら左手を動かしOKボタンを押した。

それと同時の視界のは時に現れるジャックの名前とHPバー。

(《Jack=Gundora》か……)

せめてこの人だけでも俺が守らなければ……。

クラインを連れて行けなかった罪悪感からか、それとも自分が頼られたが故の甘さか。

(この名前にだけは横線がつかないように…)

一抹の不安を感じながら、俺は後ろの男と共に夕陽の中の一本道を駆けて行った。

 

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その強さを一言で表すなら……『異常』いや『天性』とでも言うべきか。

俺はジャックが足手纏いにさえならなければいいと高を括っていたが、それをいとも簡単にこの男は覆した。

驚異的な集中力と戦闘センス、ジャックはその事を自覚しているのだろうか。

いや、そうでなければこんな早い段階でたった一人、この《ソードアート・オンライン》というデスゲームにおける戦闘のいろはもわかっていなかった状況で最前線に繰り出すなんて無謀な行動は出来もしないのだ。

一つのミスが自分の死に直結する世界では、いくら真っ先に駆けだした俺とパーティーを組んでいた所で、自分の命の保証はされないのだから。

ベータテスト時代の記憶を掘り起こし《短剣》の基本技《ラップサム》の出し方のコツを走りながら身振り手振りでジャックに説明する。

ジャックはそれを聴きながら軽く自身の短剣《ショート・ダガー》を振るった。

小さく風を切る音が聞こえ、ジャックは確かめるように短剣を握りしめた。

直後、広い草原に青イノシシ、正式名《フレンジーボア》がPOPする。

俺は片手剣を抜くと、軽く後ろを向いた。

「俺がアイツを打ち上げるから、ジャックは落ちてくるタイミングを合わせて《剣技》を発動させてくれ」

自分でも判るほど無茶なオーダーだと内心溜息が出る。

初めての戦闘で、どんな《剣技》かも解らないのに、落ちてくる標的めがけて攻撃を当てろと言われたのだ、俺だったらそのむちゃぶりに腹を立てるだろう。

だが、ジャックは手のひらで短剣をくるりと滑らかに一回転させ、切っ先を青イノシシに向け「了解」と狙いを定めたかのように敵を睨みつけて言い放った。

こいつは俺の言ったことがかなり無茶なことが分かっているのか、引き攣りそうになる口元を見られないように前を向き、

「行くぞっ!」

《フレンジーボア》に向けて走り出す、(ノン)攻撃的(アクティブ)モンスター故か、十分に接近しても攻撃態勢に入らず、奴が突進攻撃のモーションに入った時にはもう遅いと言わんばかりに片手剣による攻撃をお見舞いしてやった。

前足の間に滑り込ませた片手剣を自身の筋力を限界まで使って真上に青イノシシを打ち上げる。

十メートル位は飛んだだろうか、《剣技》を使わない攻撃でHPバーは三割程しか削れていないが、ジャックがしっかりと《剣技》を当てられれば十分倒せるだろう。

弱点も《剣技》の出し方を教えてある、後はタイミング良く当てるだけだ。

(俺は《剣技》を初めて出すことにすら、かなりの時間を要した。発動は出来なくても攻撃を当てる事さえできれば十分か)

落ちてくる《フレンジーボア》を一瞥し、視線をジャックへと向ける、もうすぐちょうどいい位置に《フレンジーボア》が来るだろう。

歩幅を合わせまっすぐ一点だけを見つめている。

刀身が仄かな水色に発光し、鋭い効果音と共に仮想体(アバター)が半ば勝手に動くのが見える。

《剣技》特有のシステムアシストが斬撃モーションを強力に補正し、ジャックの体が強制的に動いていく。

ここで、俺はその目に映る光景に驚愕せざるを得なかった。

強制的に動いていく足や腕にジャックの体の動きがシンクロしていく。動きのモーメントに逆らわず《剣技》が形になっていくのだ。

あれは、技に威力を上乗せしている行為だ。

ベータテスト時代に十日近く練習して習得した技術を、こうも簡単に彼はやってのけたのだ。

そうして短剣は《フレンジーボア》の弱点に吸い込まれていく。

「ギイイィィィィッ!」

悲鳴を上げつつ地面にバウンドし、空中で不自然に停止する。

バシャァッ!と激しいサウンド及びライトエフェクトが発生した。

イノシシは、青い光の中、幾千ものポリゴン片となって爆散する。

加算される経験値、ドロップした素材アイテム名の表示に目を向ける事も出来なかった。

短剣に付着した赤いポリゴン片を振り払い、腰についている鞘に短剣を収めて、

「こんなもんでいいか?結構難しいな……」

少し頭を掻くと、俺と共に迷宮区である森に向かって再び歩を進める。

「いや、これくらい出来なきゃ駄目か」

ジャックの言っていることは正しい、もしソロで戦っていくなら一人で戦えるだけの技量と才能と知識が必要だ。

だが、ジャックはその吸収が早過ぎる、同時にそれを下に高度な戦闘を可能にする力がある。

これ以上ない金の卵は今まで組んだ仲間よりも心強い仲間ではないかと思えた。

(違う、俺はただクラインを見捨てた罪悪感から逃げようとしているだけだ。仲間だなんて言葉は、俺が絶対には使ってはいけない)

「んで、こっからどうするんだ?」

迷宮区である森もまだ黄昏に染まっている。速度を落とすとジャックも雰囲気が変わった事に気づいたようだ。

「森の中でモンスターと戦闘するのは時間を食うだけだ。慎重にモンスターとの戦闘を避けつつ、可能な限りの速度で駆け抜けるぞ」

ジャックは頷き《ショート・ダガー》を取り出す。

先程のニ、三度の戦闘で、短剣の扱いには十分慣れたようで、その成長ぶりには一種の嫉妬を覚えたが、最初の戦闘であれほどの才能を見せつけられては、俺が教えていなくても何れはこの強さを持って俺の目の前に現れるだろうと思うと、ジャックのことを妬む気持ちは無くなっていた。

それにもう誰かが俺達よりも先に行っていると思うと、無駄な事を考えている余裕はなかった。

「それじゃ、行こうぜ」

ジャックの言葉に小さく相槌を打ち、俺は《索敵》スキルを発動し、駆けだした。

 

==========

 

夕陽が消え去る直前に目的地《ホルンカの村》に辿り着いた。

「へぇ…ここを拠点にする訳か」

「ああ、まずはそこの武器屋で装備を揃えるぞ。」

狭い広場に面した武器屋に向かう。

ジャックは周りをきょろきょろと見渡し、感嘆の声を上げた。

こういう行動が本当にこの男はベータテスターではなく、一ビギナーであることが裏付けている。

(無事に、ここまで連れて来られたな)

俺は心の中で胸を撫でおろした、直後。

「とりあえず《はじまりの街》からは完全に出たな。サンキュー、キリト」

まるで、心を読まれたかのような一言に、「あっ、ああ……」としか返せず、ずんずんと前を歩く。

 

――嗚呼神よ、何故俺には対人会話スキルの熟練度がこんなに低いのか……。

 

きっと奴は後ろでほくそ笑んでるに違いない、俺は苛立ちを隠さず武器屋の扉を力強く開けた。

NPC故に俺の取った行動にいちいち反応も示さず、店主は無機質な声で「いらっしゃい」と告げる。

「で、さっき戦闘で手に入れたアイテムを売り捌いて、装備を変える」

ジャックも俺も右手を動かし売却を素早く行い、ジャックに防具の特性を教えて購入、即時装備ボタンに躊躇わずタッチ。

装備が変更されると、武器屋の壁に設置された大きな姿見の前に立った。

「………俺……だなあ……」

現実世界で幾度となく見てきた姿がそこにはあった。

「なるほど、ここで確認ってワケか」

姿見に俺の後ろに映し出されるジャックの姿、肩はがっしりとし、それでいて細くしなやかな体つきに、自分との差が一目瞭然でちょっと落ち込みそうになるのを抑える。

少し笑ってギラギラした歯が見えれば犯罪者予備軍の雰囲気が出ていて、ホントに良い奴なのかと疑ってしまう。

(もしかしたら、自分の力がある程度ついたら俺はこいつに殺されるのではないのか)

でも、それがクラインを見捨て自己保身に走った俺への罰になるかもしれない。

ジャックが自分の姿を確認した所で今度は隣の道具屋に駆け込む。

所持金をありったけつぎ込み、回復ポーションと解毒ポーションを買えるだけ買う。

(よし、後は武器を調達すれば……)

「あっ」と漏れそうになる声を飲み込む。

俺がジャックと違いここで武器を買い換えなかったのには理由がある。

それはこの村の武器屋で売っている唯一の片手直剣である《ブロンズソード》はこの村で受けられるクエスト報酬として手に入れる事が出来る。

だが、それでは防具にそれほどコルを割かず、短剣を《ブロンズナイフ》に変えたジャックに申し訳さを感じていると。

「そういや、キリトは武器変えないんだな」

なんというタイミングの悪い一言、こいつは本当に人の心が読めるのかと再度疑ってしまう。

その的確な指摘に、最早隠すことなど出来なくなった俺は事の顛末を語る。

「……そう言う訳でな、なんか俺だけ悪いって言うか《ブロンズナイフ》の入手できるクエストがあればよかったんだけど」

言い訳がましく答えるとジャックの顔が真剣味を帯びてくる。

思わず身構えるとジャックはふっ、と溜息を吐いた。

「お前、罪悪感を感じ過ぎだ。俺はお前のレクチャーがなければこんなに早くここにだって来れなかったんだから、それくらいのこと協力するに決まってんだろ」

呆然とする俺にジャックは「ほら、クエストってのはどこで受けに行くんだ?」と俺に催促する。

「犯罪者染みた面でそんな励まされてもなぁ……」

「ここって《圏内》だから斬ってもHPバーは減らねぇんだよなぁ……」

俺の一言にすかさずジャックが腰の短剣に手を添える。

「冗談だよ」と言えば「そうか」と短く返される。

全く心強すぎる仲間だと思う、戦闘の才能があるかと思えば、人とのコミュニケーション能力も高いようだ。

こんな奴がいるのなら、この巨大浮遊城《アインクラッド》だっていつか必ず攻略出来るんじゃないかと思えるほどだ。

だから、ジャックがソロでもやっていけるまで俺が強くするんだ。

ジャックも俺についてきたという事は自分がソロでやって行くことも覚悟しているだろうし、将来ギルドを作ろうと目指しているのなら、そのギルドがきっと『最強』と呼ばれるのも夢じゃない。

それがクラインを見捨てた事に対する罪の償いになるとは思っていないが、出来る事をやって行くしかないだろう。

ここまで来た以上、もう後戻りはできない。

他のプレイヤーたちが、今も《はじまりの街》で嘆いているのかと想像することは許されない。

俺はただ前に、前にと突き進んでいくだけだ。

目の前に立つジャックの後ろ姿を見る。

その瞳の先に自分の未来が見えているのか、その輝く髪は俺たちにとって希望の光となりえるのか。

(いや、それは押し付けか)

俺もベータテスターである以上、一人で強くならなければならないのだ。

《勇者》になりたいわけではない、ベータテスターの頃思い描いた《剣士》になりたいわけでもない。

ここは現実だ、仮想の世界とはもう違うんだ。

背中に伝わる片手剣の重み、踏み締めている大地の感覚も本物だ。

 

――これは、ゲームであっても遊びではない

 

茅場晶彦の言葉が脳裏を過ぎる。これが、そういうことなのか……。

やってやろうじゃないか、茅場晶彦。

「よし、行くぞジャック!」

強く言い放つと、ジャックは今まで以上に歯をギラつかせて笑みを向けた。

「行くぜキリト」

その言葉は俺の背中を押すような強さの籠ったものだった。

そして、俺は民家のドアを開けた。

 

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ペース大丈夫かな…。


2015 2/12:内容を変えずに文自体に手直しを加えました。
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