タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
映画は自宅で寛ぎながら見たい派(トイレが心配になる)なので初投稿です。
なんか変なのが出てきた→仲間のひとりが瞬殺。
この流れを前にしてシャドウレッド(彼方)を場違いな芸人だと侮り続けるような間抜けではストーリー終盤の敵役としてあまりにも三流というもの。
内包するエーテルの量から、放たれる霊気の量から、彼方のステータスが低いことは一目瞭然。なれど霊気の質と纏う気迫は間違いなく一流の中の一流。己らの眼が節穴だったことを認め、旧い時代でもなかなか巡り会えなかった強敵の出現に鬼たちが奮い立つッ!
「先ほどは仲間が失礼した。ひとつ、お手合わせ願おう」
鬼のひとりが薙刀を構える。
「応、受けて立つ。恒河沙流忍法・フレイムナックルの術ッ!」
彼方の両腕が炎で包まれる。
忍法と言いながら思いっきりカタカナなのは気にしてはいけない。中学生や高校生も読む少年漫画なら漢字ばかりでもアリだろうが、小学生などが映像で楽しむ作品なのだから優先すべきはわかりやすさなのだッ!
「キャオラァァァァッ!!」
鬼が放つは嵐の如き滅多突きッ!!
「雄ォォォォォォォォッ!!」
それを彼方が真っ向から全て捌くッ!!
常に不利な状況で己を鍛え続けた、というか原作知識を頼りすぎたせいで無茶ばかりして不利な状況以外での戦闘経験が少ない彼方にしてみれば、如何に疾い攻撃だろうと、如何に重い攻撃だろうと、正直に正面から襲い来るのであれば脅威に非ずッ!! 離れた場所からピンポイントで空間ごと斬ってくるとかそんな鬼に比べれば全然マシなのだッ!!
(この程度であれば持久戦など……だがそれはヒーローの戦い方じゃないんだよなぁ。チャンスを待つために耐え忍ぶのは忍者的には正解のはずなんだが、それじゃあ恐怖は拭えないだろう。いま、俺に求められているのは立ち向かう姿勢……前にッ! 踏みだすッ! 心意気ッ! 男は度胸、なんぼのもんじゃいッ!!)
一歩、前に踏み込む。
それだけで流れは変わる。一方的に薙刀の突きを打ち込まれているはずのシャドウレッドが前に出て、一方的に薙刀の突きを打ち込んでいる側の鬼を後ろに押し込んだのだ。これは防戦一方の苦しい状況などではない、シャドウレッドは敵の猛攻を押し返すつもりだと民衆は理解したッ!
それを喜んだのは人間側だけではない。薙刀を操る鬼もまた、シャドウレッドの攻めの気迫を受けてより闘志を燃え上がらせた。これほどの技量があるならいくらでも手札はあるだろうに、あえて正面から打ち破ってみせようと挑まれた。ならば鬼もまた薙刀による連撃以外の選択肢は全て捨てて、正面から斬り伏せねば無作法というものッ!
猛るままに鬼の斬突が威力を増すが、それこそ彼方にとっては好都合。どのみち一撃でも許してしまえば致命傷となるのだから、速度よりも威力を重視してくれるのであれば捌く手数を減らしてより一手一手に集中できるからだ。
これを好機と見て、彼方が霊気をより攻撃的に高め鬼を押し込まんと前に踏みだす。初めは火花が散る程度だったが彼方の気概に呼応するように徐々に膨れ上がり、やがてそれは炸裂する炎となり、ついには本人も無自覚なまま荒れ狂う爆風の嵐となるッ!!
種明かしをすればリアルタイムでエーテル結晶を握り潰して火力を補っているだけ……というのは半分ほど彼方の思い込み。エーテルの力は心の力、逃げることも負けることも死ぬことも全て拒絶して生命を燃やす侍の魂の色に呼応するのは当然のこと。肌も喉も焼けそうなほどの熱風が広がるが、むしろそれはヒーローの活躍をより印象付けるスパイスとなる。これにはチビっ子たちも偶然居合わせたシャドーマンのスタッフたちも大興奮であるッ!!
一歩。
さらに一歩。
気合と根性を推進力として前に進み続けるッ!
そしてその時はやってきたッ!
「────くぁッ!?」
確実に、着実に押し込んでくるシャドウレッドの気迫に釣られて大振りとなった一撃はパリィを狙うには格好の餌食。大きく姿勢を崩された鬼は、一呼吸ほどの間も置かず胸倉を掴まれて、そのまま空中へと蹴り上げられた。
ごぅ、と炎が舞いシャドウレッドが姿を消す。
現れたのは空へ飛ばした鬼の背後。
「受けてみよッ! 恒河沙流忍法、奥義ッ!」
「「「「イズナ・バスターッ!!!!」」」」
「ぐぁぁぁぁッ!?」
子どもたちと一部の大きなお友達が必殺技の名を叫び、燃え盛る弾丸と化したシャドウレッドと鬼が地面に激しく衝突したッ!!
「……がふっ。シャドウ、レッド……見事、だ……だ、が……次は、負け……ん……ぞ……ッ!!」
薙刀の鬼武者がシャドウレッドの武勇を讃え、そのまま仰向けに倒れエーテル粒子化が始まったッ!!
「……ふはッ! なかなかやりおるわ、あの餓鬼めが。いいだろう、ここはワシが直々に相手をしてやろうッ!」
「炎翁様……ズルくないッスか?」
「やかましい。貴様らはまだ鬼の中でも若いだろうが。ここは老い先短い先達に譲るのが気遣いというものでだな」
「炎翁様は私たちよりしぶとく生きそあだぁッ!?」
さすがは鬼神の拳骨、鉄球をコンクリートに叩き付けたかのような音である。
「どぉれ、真っ向勝負はずいぶんと久方振りじゃからなあ。シャドウレッドとやら、ワシを失望させてくれるなよ?」
ぬるり、と刀が鞘から外れる。
力任せにモノを斬るための拵えは、刀ではなく段平と呼ぶべき面構えであった。作中で『
(……いつもとあんまり変わんねぇなぁ)
学園管轄の迷宮ならばともかく、日本全国の未発見の迷宮でスキルを鍛え続けた彼方にしてみればそんなものである。雑魚鬼の攻撃でさえもほぼ確定10割で体力を持っていかれるのだから、相手が鬼神だからといって昔懐かしオワタ式なのはいつも通りでしかない。
だがいつもと違って今回ばかりは死に戻り前提の立ち回りをするワケにはいかないのだ。そして死にゲープレイヤーの彼方は身に沁みて知っている。負けてもいいやと気楽に挑んだときほど上手く戦えるが、今回で倒そうと意気込んでボスに挑むと高確率でヘマをやらかすと。
魂揺蛍が見守ってくれているので死の恐怖はどうとでもなる。
しかし敗北が許されない責任という名の恐怖が心を蝕む。
ならばどうする?
そう、逃げるしかない。
どうせ勝てないなら逃げてしまえば良い。
開き直った彼方は迷わず逃げた。
────炎翁が段平を構える、正面に向けてッ!!
「むぅッ! そうきたかッ! やるではないかッ!」
(ボス戦の心得、ピンチのときは前に逃げるッ!)
半端な見切りでは掠めただけでも火の妖気に焼かれて即死となるかもしれない。ならば、いっそのこと相手の間合いに身を置いてしまえばいい。相手の攻撃のタイミングに合わせて懐深く踏み込めば、結果的に間合いから外れて斬撃の威力も弱まるというもの。
これで炎翁の得物が刃物以外であったなら、それでも彼方のステータスでは受け切れなかったかもしれない。咎人とアテルイ、ふたりの達人により鍛えられた斬撃系の防御スキルがあるからこその選択肢。なによりただの捨て身ではない、全力で超攻撃的に時間を稼がねばならぬという心構えがあってこその前進であるッ!
(この霊気、この感触ッ! アテルイの小僧と打ち合いをしていたのはこの餓鬼で間違いなかろうッ! 民草に混じって腰を抜かしている精液の薄いボンクラとは違うようだな、時代が移ろうてもまことの侍の在り方は変わらぬかッ! 良いぞ、そうこなくてはッ!!)
そんなことはない。時代の変化で侍も巫女も価値観も役目もいろいろと違っている。
しかし炎翁にそんなことがわかるはずもなく、ただ死中に活を求めんと狂ったように踏み込んでくるシャドウレッドの益荒男ぶりを喜ぶのみ。
あらゆる手を尽くして己を封印するために奮闘した侍や巫女たちのことを認めてはいるが、やはり武を嗜む者としてこうした死合に飢えていたのも事実だからだ。
「このままでは埒が明かんか。ならば、こういう手はどうだッ!!」
先の先を取られて段平の動きを牽制されていた炎翁が、シャドウレッドの接近を無視してギリギリと軋む音が聞こえそうなほど力強く両手に力を込めるッ!
「────ふッ!」
露骨な隙を見せるのは油断したプレイヤーを両断するためのワナ。いくら前に出てるのことが勝つために必要だとしても、それが次に繋がらない愚かな選択となるのであれば話は別。充分に避けるだけの余裕があるのだから、ここは素直に避けるべき。
もちろん、後ろに下がることと攻め手を緩めることは同義ではない。彼方もまた、使いにくいという不満を飲み込んでロールプレイのために背中に背負った刀を抜いてスキルの発動準備を完了させた。
「恒河沙流忍法・影分身の術ッ!」
「ほぅ?」
「この攻撃、躱せるかッ! 剣舞・
分身による包囲網、そこから放たれる無数の斬撃ッ!
オリジナルのシャドウレッドが使用する技ではないが、恒河沙流忍法はその名の通り無限に近い技を持つという設定があるので万が一のときも公式側で適当に辻褄合わせはしてくれるはずッ!
「────甘いわぁぁぁぁッ!!」
並の鬼なら数体まとめてバラバラに分割されるであろうその斬撃をものともせず、炎翁は分身の中からひとりだけ安全圏に避難しているシャドウレッドに向けて突進したッ!
死を恐れぬ分身の中に死を恐れて前に出てこない者がいるとすれば、それが術者なのは明白。同じ様な戦法を幾度となく仕掛けられた炎翁にしてみれば児戯も同然ッ!
そして彼方は
「なにィッ!?」
炎翁の段平がシャドウレッドを薙ぎ払う。
だが。
「残像だ」
霞の如く消える幻体。
背後から聞こえる声。
「風雪即位付けッ!」
「ぐぉッ!?」
吹雪を纏う切り下ろしにて、姿勢を崩しッ!
「月影の太刀ッ!」
「ぐぬぅッ!?」
闇を纏う切り上げにて、妖気のガードを切り裂きッ!
「三花仙ッ!!」
「ぬふぅッ!?」
舞い散る花の払い抜けにて、ついに一撃を叩き込むッ!
「恒河沙忍法、奥義・乱れ雪月花……ッ!!」
その美しい技に、一呼吸だけで死を振りまく恐ろしい鬼を圧倒するかのような力に、ついにはシャドウレッドの存在を疑っていた大人たちからも大歓声が上がるッ!
「変幻自在、千変万化。 初代・赤影様の時代より五百年……我ら恒河沙流は人々を守護るために戦い続けてきた。当然ッ! 妖魔軍団だけではない、鬼との戦い方も委細承知ッ! 我が恒河沙流の真髄は、まだまだこの程度では無いぞッ!!」
転生者たるもの、場の空気を読んでアドリブでの台詞回しだってお手の物。とにかくシャドウレッドとしての印象をビタビタに刻んでおけば、それだけ身バレのリスクを減らすことができるのだ。熱演すれば人々の不安を拭い去ることもできて一石二鳥、いまの彼方は恥じらいなど一欠片も持ち合わせていない。
「……ッ! 見ろ、炎翁様が……ッ!」
「炎翁様が……微笑んでおられる……ッ!」
「炎翁様……ようやく、ッスね……ッ!」
己の腕から血が滲んでいる。
それを確認した炎翁は、先ほどまでの様子とは打って変わって穏やかな笑みを浮かべていた。
人間たちが知略智謀を尽くして挑んでくることを否定せず、守るべき民草のために死力を尽くすその姿を認めていた炎翁。だが、ひとりの武人として正々堂々としたぶつかり合いを渇望していたのも事実。
それが、いま、実現している。叶わぬ故に夢であると諦めていたそれが、突如として叶ったのだ。それも明らかにステータスで圧倒的に劣るはずの相手から、その見事なまでに鍛え抜かれた技で押し切られる形で。
鬼神の力を、人間の技が押し返した。
ちなみに彼方のほうは。
(炎翁の腕にダメージが? ……そうか、龍玉。黄龍の霊気が漏れてんのか。まさか渡しそびれていただけだっていうのに、こんな形で助けられるとはなぁ。日頃の行い、には自信がないけれど……まぁ人々を助けるためってことで、神様が融通を利かせてくれたのかもな)
鬼神に傷をつけたことを喜ぶのではなく、あくまで冷静に状況を分析していた。これで凪菜と一緒に考察したシステムの壁についての答え合わせが完了した、その情報にこそ価値があると思ったからだ。
そう、この情報には値千金の価値がある。
(正直、辛かったんだよなぁ〜。このまま時間稼ぎを続けるにしても、どう考えても俺の体力がもたないし。どうにか朝比奈と暮間さんが間に合ってくれればとは思ってギリギリ踏ん張ってはいたけど、事実上無敵の相手と戦うのは普通にしんどい。けど、そうかそうか。ダメージが入るなら話は変わってくるよな?)
時間稼ぎを続けるのは実力的に難しい。
だが鬼を放置して逃げることも不可能。
なら、どうする?
簡単な話だ。自分の体力と霊力が不足していて時間を稼ぐことが難しいなら、体力と霊力が尽きる前に鬼を追い返してしまえばいい。
ダメージが通らない相手を倒すのは不可能だが、ダメージが少しでも通る相手なら倒すことができる。何故ならダメージが通るということは、いつかは相手の体力をゼロにできるということだから。
そんな屁理屈で格上の相手に勝てるなら誰も苦労はしないのだが、死にゲープレイヤーで転生者の彼方にしてみればシステムの壁という大問題さえ解決されればそれで御の字である。決して勝てないイベント戦闘では無くなったのだから。
もとより逃げるつもりはない。だがここで彼方の目的は“時間稼ぎ”から“鬼神を斬る”ことに変更された。
だって他に手段がないんだから仕方ないだろ? と、開き直るように彼方は己の霊力を限界まで内側に圧縮して抑え込んだ。
狙うは一撃必殺。霊気のガードに使うことすら惜しみ、全てをカウンターの一瞬のために。黄泉戦の加護を最大限に活かすのであれば、防御など考える必要はない。
気合と根性さえあればエーテル粒子化が始まっても多少は動けることは知っているのだ、炎翁に自分を斬らせてから反撃すれば気兼ね無く最大火力を叩き込める。肉を切らせて骨を断つどころの話ではないが、彼方は至って大真面目にそれを実行するつもりだ。
(うむ、心地良い殺気だ。これが死合というものか。そして……ふむ、ワシの知る限り黄泉戦が誰ぞの後ろに控えている姿など初めて見たな。そうか、まぁそうだろうな。このワシを相手に真っ向から勝とうとするぐらいだ、闘神に気に入られるのも納得だ。……どうにも、疫病神の気配も感じるのが、ちと不憫ではあるが。まぁアレの試練を乗り越えてワシの前に現れてくれたのだから感謝しておくとしよう)
命と引換えにしてでも戦い続けるという覚悟とは何度も向かい合ってきた。
しかし「自分も殺されてやるからテメェも死ね」と笑えるほど真っ直ぐに必殺必倒の視線を向けられたことはない。
紅蓮ルートのストーリーボスということで、炎翁も火属性の魔法スキルは扱える。シャドウレッドが狙っているのは武器弾きからの致命の一撃、ならば間合いの外から火術を使えば簡単に焼き払うことも可能だろう。
もちろん炎翁にそんな勿体無い真似をするつもりはない。瞬間移動やら分身やらと搦め手に優れていながら、決め手として選んだのが単純明快にして乾坤一擲となれば受けて立つしかない。鬼神の暴力と人間の武力、どちらが勝つのか炎翁も興味が尽きないのだ。
沈黙。
周囲の人々も、眷属の鬼武者たちも。
そして。
「────ッ!? ぐ、うぁッ!!」
「な…………にぃッ!?!?」
その静けさは、何処より飛来した鉄串がシャドウレッドの肩を貫いたことで破られたッ!!
「おやおや。いったいなにを手間取っているかと思えば……そんなザコを一匹潰すだけのことに手間取っていたのですか? 現世の偵察すら満足にできないのですか? まったく、これだから時代遅れの連中を使うのには反対だったのですよ。朧様も最初から私に命じて下さればよかったのに」
男同士の勝負の間に挟まるということは、この乱入者(鬼)はきっと相当な実力者に違いない。
たぶん涼蘭姫と炎翁、それからまだ登場してないのこりのふたりの鬼神のあとにラスダンで登場して自分たちがラスボス配下の真の四天王とか言い出すくらい強い(確信)