タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 全滅プレイって死に戻りに通じるものがあるかもしれないので初投稿です。



経験値泥棒ではない。

 武功庁発表ッ! 

 

 先日、玄武の加護を受け継ぐ喜多家が管理する水の伽藍洞に強力な妖気を持つ鬼が出現したッ! 

 鬼が迷宮から我々の住む世界に侵攻してくるという未曾有の危機に、今代の玄武の侍である喜多静流が勇敢に立ち向かい、激しい一騎打ちの末に見事撃退することに成功したのだッ! 

 

 この功績を讃えて政府関係者は以下略ッ!! 

 

 

 

 喜多静流は激怒した、とまではいかないが納得なんてするはずがない。なにせ実際には一方的に力の差を見せ付けられただけなのだから。静流の放った一矢は涼蘭姫の頬を掠るも傷ひとつ望めず、涼蘭姫の放った一矢は静流の肩を貫いた。それが一騎打ちの結果であった。

 

 初代ではそこまで設定が作り込まれていなかったが、後の作品にて迷宮を支配するだけの格を持つ鬼についてアレもコレもと設定が盛られた結果、鬼神となった涼蘭姫も特別な巫女の加護により強化された状態でなければ妖気の守りを突破できなくなった。

 全ては主人公に選ばれた少女たちが活躍するための舞台装置のようなもの。初代の黄龍の巫女についてはもちろん、義塾で活躍する予定の2作目の主人公は母親が鬼神という生い立ちからして特別な存在である。そして3作目の主人公は学園、義塾の新たなライバルとして近年設立された『スクール』にて、学費免除という報酬に釣られて怪しい実験に参加した結果、日本で最初にしょうもない姉弟喧嘩をしたことで有名な弟のほうの神霊と縁ができる。

 

 

 だがそんな事情など知りようがない静流にしてみれば実力不足による完全敗北でしかない。より強く、より鋭く、那由多の果てに届くまで弓の業を磨かねば涼蘭姫には勝てない……ッ! と己を高めなければという方向に怒りを切り替えるところは実に見事な人間性だろう。

 

 

 ちなみに今回の結果については無銘兄妹も納得していなかったりする。ラスダン前の4つの迷宮のボスが強いのは当然だとして、まさかフレーバーテキストがそこまで仕事をしているとは思っていなかったからだ。

 もちろんボスが想定外に強いからといって慌てたところでなにも解決しないことはよ〜く知っている。負けるにしても、全くダメージを与えられなかったとなれば最初に疑うのはボスを倒すための下準備、なにかしら整えなければいけない条件があるのだろうと仮定した。

 

 そこから黄龍の巫女によるパーティー強化の効果じゃないかと閃くまでわずか数分、このあたりは原作知識を持つ転生者らしい頭の回転の速さだろう。

 後付の設定が牙を剥いてくるとかアリかよッ! と頭を抱えつつも、それなら真白に頑張ってもらえば万事解決じゃんッ! と都合良くはならないのがゲームとは違うところ。

 

 これで武功庁や霊験庁の人間が学生に丸投げするような無責任な大人の集まりならそうなったかもしれない。

 しかしこの世界の大人たちはそんな連中ばかりではなかった。特別な加護を持っていようと子どもは子ども、大人が危険を引き受けなくてどうすると迷宮を封印する用意を始めたのだ。

 

 表向きの名目としては再発防止のための調査ということにしてある。一般人に被害が出なかったことから人々の反応も呑気なもので、この発表に対して一部のマスコミが騒ぎはしたものの、偉い人が頭を下げて謝罪する様子さえ報道できれば満足らしく次の話題を探し始めた。

 もっとも、市民の皆さんの理解を得たことと封印が成功する確率にはなんの因果関係も無い。学園が保管している資料から涼蘭姫が文曲の迷宮を支配する上位の鬼であると突き止めたところで、真白の協力が無ければ倒すことは不可能なのだから。なまじプロの侍や巫女の能力がちゃんと高いぶん、そこに気付くのはかなり難しいだろう。

 

 

 実は鬼の現世侵攻が非常に危険であることを誤魔化すことには成功した────と、大人たちが安心したところでこの世界が主人公たちの活躍を望んでいる事実は変えられない。

 

 人々が黄龍の巫女に期待するように、そして真白に続く主人公たちが表舞台に立てるように、鬼たちの脅威と恐怖は世間に広まっていくことになる。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「……やっぱり、刻印って時間が必要というか、ゲームみたいにポンポンとは完成しないんだな。まさか仕上げのために朝比奈の協力が必要だ、なんて言われるとはねぇ。ま、ついでに暮間さんにも西浪先生を紹介できたから丁度いいっちゃそうなんだけど」

 

 

 真白の用事に付き合う形で棗を西浪女史に紹介した彼方は、アトリエの外で携帯端末をポチポチといじってステータスの確認作業をしていた。

 

 本来ならもっと簡単に終わっていたお試しの刻印も、彼方が差し出した短剣により西浪女史の職人魂と危機感が刺激されたことで本気も本気の刻印へと切り替えられたことで受け渡しが滞っているのだ。

 学園で錬成された武器が戦いの果てに霊刀としての格を得た、そんな大業物に触れる喜びはあるにはあった。が、そこに至るまでの過程が本来ならあり得ない。DLCエリアの存在を知らない西浪女史にしてみれば、自分の知るプロの侍や巫女でも勝ち目が想像できないレベルの鬼が学園管轄の迷宮に紛れ込んだ可能性を考えることになる。

 

 しかしそれについて根掘り葉掘り聞くよりも先に、真白の武器を完成させなければならない。何故ならそういう依頼だから。黄龍の巫女であることなど関係ない、職人として私情で注文の優劣を入れ替えるような真似はできない。そんなことをしてしまえば2度と最高の仕事ができなくなる。

 そこに連れてこられた鵺の巫女、棗もまた錫杖ではなく二刀を扱うと聞けば西浪女史はさらに考えることが増える。現代では珍しいがいないこともない接近戦を得意とする巫女、しかしそれが魔法スキルの適性が高い黄龍と鵺の巫女が侍の真似事をしなければならないのであれば異常事態と言っていい。

 

 実に悩ましい。悩ましいが、職人としての優先順位を履き違えることはしない。見学を希望する棗に許可を出しつつも、これ以上雑念に振り回されてはたまらないと彼方だけは追い出した。今日は工房にほかの職人がいるということで、余計な勘繰りで巫女ふたりが機嫌を損ねるのを心配していた彼方にしても渡りに船であったが。

 

 

「しかし、加護、増えたな。相変わらず表示はバグってるけど、追加されたのは黄泉戦と魂揺蛍だよなぁ状況からして。負ける戦いばっかりやってる俺としては助かるし、これでエーテルの使い方の幅も広がるのは本当に嬉しいことだけど……じゃあ、一番上の加護は誰なん?」

 

 それは肩越しに端末の画面を眺めてニヤニヤしているメスガキです。死に戻り回数には自信のある彼方の予測では、文字化け加護の正体は黄泉戦の可能性が高いと考えていた。

 しかし神社を掃除したあとで、お供え物のみたらし団子が消えていたことも含めて推測するなら黄泉戦と魂揺蛍から加護を貰えたタイミングは間違いなくそこである。嬉しい誤算ではあるものの、じゃあ最初に加護を与えてくれた神霊だか精霊だかは誰なんだと振り出しに戻された気分であった。

 

「ん〜、誰なんだろうな〜? ま、今度からはステータスに割り振る余裕もあるし。スキルはそれなりに揃ってきたもんな。こう、レベル上げで隠れていたトコが明かされるようなそわそわした感じも嫌いじゃないわ! ……さて、連絡が来るまで適当に古本屋で立ち読みでも────わぁお」

 

 

 前世でも今世でも経験したことはないが、もしも隕石の落下を近くで感じたのならこんな気分かもしれない。爆風のように広がる妖気の波動を受けて最初に考えたのはそんなどうでもいい感想だった。

 

 

「妖気ッ!? こんな街中でかッ!! 伽藍洞に現れたのが第一次防衛戦のイベントじゃなかったのか……?」

 

 

 妖気の発生源に向かって走る。

 

 ゲームと違い戦っているのは主人公だけではない、これだけ派手な襲撃なら誰かしら応戦している侍や巫女もいるはず。もしかしたら急ぐだけ無駄足になるかもしれない、そんな期待をしていたが。

 

 

「あれは……破軍の主、炎翁(えんおう)? なんでだよ……涼蘭姫といい、迷宮の支配者レベルの鬼神がわざわざ御出ますなよ貴人を歓迎する側だって準備が必要だろ常識的に考えて……食事時ならお箸足りねぇだろってキレられても文句言えないからな……? あー、もう。妖気に当てられて逃げるどころじゃなくなってるし……」

 

 

 見るからに老齢の剛将といった雰囲気の炎翁と、その側近である顔立ちも整った鬼武者たち。ゲーム画面で見るだけならカッコいいで済む話だが、それらが放つ妖気と闘気を浴びせられたのでは一般人など悲鳴を上げることすらできないらしい。

 そして残念なことに気圧されているのは一般人だけではない。格上ばかりに挑みすぎて感覚がバグっている彼方と違い、勝てる戦い方を丁寧に積み上げてきただけの侍や巫女たちでは鬼神の恐怖に立ち向かうことはできなかった。決して不甲斐無いというワケではない、この転生者の頭がおかしいだけでそれが普通の反応である。

 

 

 一瞬だけ迷う。

 

 が、彼方の性分は自ら矢面に立つことを拒否できない。

 

 

 ここまで知る限り鬼たちの在り方はゲームの物と大きく違わない。ならば、武人気質の炎翁が戦う力のない一般人を、戦う気力のない者たちを嬲るような真似はしないだろう。

 しかし身体的に無事であったとしても精神的に重傷を受けるかもしれないとなれば黙ってはいられない。鬼神の妖気、その恐怖を心の奥底まで刻み込まれてしまえば、最悪出歩くことすらできなくなる。

 

 

 モブキャラの身で鬼神を退けることは難しい。

 

 だが人々に纏わりつく恐怖を、たとえ一時だとしても祓うことはできるかもしれない。

 

 

 それだけで無銘彼方が動く理由としては充分であるッ!! 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 鬼神・炎翁。

 

 身長は150センチほど、見た目こそ細身の老人だが元気に大太刀を振り回す姿は正しく鬼である。

 

 アテルイに敗北して自信喪失となった紅蓮が真白に励まされてなんやかんやイベントを重ねてから戦う相手であり、紅蓮で倒せば紅蓮の、真白で倒せば真白の専用装備を錬成するための素材を手に入れることが可能。

 それ故にシステム的には3人パーティーで挑めるが、最後の一撃だけ同行者がペチンッとやらかす事故を嫌うプレイヤーは必然的にふたりだけで挑むことになるのだ。ターゲットが紅蓮に集中することから3人なら楽勝だがふたりだと苦戦するというなかなか丁寧なバランス調整がされているボスと言える。

 

 

 そしてその性格は見た目通りの武人系。意気地を見せて立ち向かってくるなら子どもであろうと敵と認めて斬り捨てるが、そうでなければ侍だろうと手を出さず捨て置くのが彼の流儀だ。なので。

 

(……むぅ。久方振りの現世だからと気張り過ぎたか。恐怖は眷属どもの糧になると思えば無駄にはならんが、民草を喧嘩に巻き込むのはワシの流儀に合わんぞ。腰抜けどもも、戦えぬならせめて民草を避難させるぐらいの意気地を見せんかッ!!)

 

 普通に困っていた。

 

 人の気配が賑わう場所で啖呵を切れば、そのうち侍でも巫女でも出てくるだろう。現世がどう移り変わったのかは知らないのだから、下手に右往左往するよりもどっしり敵がやってくるのを待ち構えるほうが楽だろうと考えた。

 だから戦う力を持たない一般人を戦いに巻き込んでしまわぬように追い払おうと、適当に妖気と瘴気を周囲に放ったのだ。まさか逃げ出すこともできなくなるほど恐怖に縛られるとは想像もしていなかった。それだけ平和な時代が続いたという証でもあるのだが。

 

 こうなってくると部下の鬼たちもどうしようもない。もっとも格の低い『鬼畜』や、それらよりは多少の知恵がある『鬼兵』ならばともかく、この部下たちのように『鬼士』としての格を持つ鬼たちには人間の負の感情がどうしても必要というワケではない。むしろ、それよりも各々の精神の支柱となるナニかのほうが重要なのだ。

 

 彼らもまた、敬愛する炎翁のように挑んでくる者以外はよほどのことが無ければ斬らない。その気質を逆手に取られて封印されたりもしたが、弱い人間が鬼と戦うために手を尽くすのは当然であると考え素直に敗北を受け入れるぐらいには正々堂々としている。

 

 

「おい、どうする? あまり長居をしてると民衆どもが窒息してしまうかもしれんぞ」

 

「しかしなぁ、せっかく現世まで出向いたんだぜ? これで何事も無くただ帰ったりしたら、俺たちはただの間抜けみたいじゃねぇか」

 

「侍や巫女がいなくなっちまった、ってことも無いだろうしなぁ。────オイッ!! 誰か、我らに挑もうという勇者はおらんのかぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ここにいるぞッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声がした方向に、鬼と群衆の両方が注目するッ! 

 

 そこにいたのは。

 

 

 

 

 

 

「…………忍者?」

 

 

 

 

 

 

「とぅッ!」

 

 

 クルクルと回転しながらのスーパーヒーロー着地、ならぬ忍び着地。その姿は忍者と言うには少々、いや多少派手な装いではあるがそれにはちゃんと意味がある。

 

 

「闇に生まれ闇に生き闇に死す……全ては力なき無辜の民の平和のために、人々の未来から希望を奪わんとする悪鬼羅刹を滅するためにッ! シノビ戦隊シャドーマンッ! シャドウレッド、見参ッ!!」

 

 

 こちら、中身はもちろん彼方である。素顔をメディアに取り上げられる、あるいは配信者などに無断で利用されることを嫌い、現在放送されているヒーロー戦隊のコスプレでの登場であるッ! こんなこともあろうかと、現世侵攻イベントに鉢合わせたときのために用意していたのだッ! 

 

 

「……なんだぁ、テメェは? 芸人かナニかか? 俺たちは遊びでやってんじゃねぇ、本物の鬼で「怖気付いたか?」アァンッ!?」

 

 

 ピキリ、と。

 

 露骨な挑発に空気が張り詰めるッ! 

 

 

「あれだけの大口を叩いておいて、いざこうして姿を見せればそのザマか。それとも、貴様らの言う戦いというものは無抵抗の相手を嬲る行為をいうのか?」

 

「〜〜〜〜ッ!! 上等だテメェ……そんなに死にてぇなら望み通り、俺が真っ二つにしてやらぁッ!!」

 

 

 駆け引きもなにもない、ただの力任せの振り下ろし。

 

 それも当然だろう、鬼たちから見れば彼方の霊力はとても自分たちの相手が務まるようなレベルではない。堂々と挑んできたところだけは評価してもいいが、完全に実力不足の相手に挑発されれば怒り任せに殴りたくもなるだろう。

 

 だが、そんな隙だらけの大振りなど死にゲープレイヤーにとっては。

 

 

「ふんッ!」

 

「な……にぃッ!?」

 

 

 裏拳で弾くことなど容易いことッ! 

 

 そしてすかさずエーテル結晶を握り潰してスキルを発動させるッ! 才能の壁により保有できるエーテルの量に限界があるのなら、その都度エーテル結晶を利用して補えば良いのだッ! だからいい加減にステータスにもエーテルを割り振れという話だッ! 

 

 

 

 

「恒河沙流忍法・爆炎拳ッ!!」

 

「がハァァッ!?」

 

 

 

 

 一撃必殺ッ!! 

 

 カウンター強化スキルの効果、そして妖花の乳母から獲得した品質やや高めのエーテル結晶による攻撃スキルの底上げ。彼方を雑魚と侮って防御が疎かであったこともあり、炎に包まれた鬼はそのままエーテル粒子となって消えていったッ!! 

 

 

「「「「すげぇ〜〜〜〜ッ!!」」」」

 

 

 子どもたちからの大歓声。

 

 これが彼方の狙いである。

 

 

(恐怖が広がれば瘴気が生まれる。場の支配率を少しでも霊気側に寄せるためにも、まずは子どもたちの希望を引き出す。覚悟を決めろ、腹を括れよ無銘彼方。いまこの瞬間だけはお前はモブキャラじゃない、子どもたちが憧れるヒーローとして戦えッ!!)

 

 

 死を恐れぬ戦いばかりを続けてきた転生者による、次など無い決して死が許されぬ戦いへの挑戦。此度の敗北で失うのは己ではない誰かの心かもしれない、本当の意味での真剣勝負の開幕であるッ!!




涼蘭姫
『よいなぁ、よいなぁ。炎翁め、あの人間の侍を引き当てたか。羨ましいのぉ。玄武の侍もなかなかの面魂を見せてくれたが、それはそれとして妾もこの侍と戯れてみたいぞ』

側近
『姫様、八雲様より食べ歩きのためにまた財を買い取って欲しいとの文が届いておりますが』

涼蘭姫
『妾の名で“贅肉ばかり熱心に育てるな、もげろデブ”とでも返しておけ。……また眷属たちに、休暇ついでに質屋に通わせるか』
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