Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Interlude -Christmas Day, declaration of war-

 一夜明けた今日、街は赤と緑で飾られてクリスマス一色だった。

 獅童議員の告白も、それから連なる一連の異常な状況も、何もかも人々の日常の一コマとなるかあるいは消えていく。そうしてお祝い事のムードだけがことさらに強調された日を皆が祝う。

 僕といえば、昨夜は遅くまで蓮に付き合って終電を逃し、家まで歩いて帰ったことと今日の準備もあって朝から少し頭がボーっとしていた。それでも何とかベッドから抜け出すと、身支度を整えて家を出る。何日も不在にした挙句、ようやく帰って来たと思ったらこうして連日外に繰り出す僕を見て、両親から怒られるかもしれないなんて思っていたけれど、クリスマスに予定があると聞いた両親の反応は至極あっさりとしたものだった。正直成績に関しては信用しているから何も心配していない、ただ、それ以外のことで心配を掛け過ぎだとは言われたものの、否定できる要素が一つも無いのでバツが悪く頭を下げるしかなかった。

 

 そんな一幕がありつつ、街を見て回って目当てのものを手に入れた後、僕が訪れたのは警察署だった。クリスマス会の為にルブランに寄る前に、ここに来たいと思っていた。

 目的の人物は、僕が顔を出すことを連絡したこともあってか警察署の前で待っていた。それに呼びかけながら近寄って行けば、少し疲れているものの、充実感に溢れた表情の冴さんが僕に顔を向ける。

 

「すみません、お待たせしてしまって」

 

「大丈夫よ、今出てきたところだから」

 

 僕が頭を下げれば、気にしないでと言って冴さんが柔らかく微笑む。

 昨日、明智君はあの後冴さんと共に再び警察に出頭した。世論が獅童議員を追及する方向へと傾いている中、司法も再び彼を立件するために重い腰を上げたとのこと。

 その為、明智君は連日事情聴取でかなりの時間拘束されているはずだ。もちろん、それを主導している冴さん自身も。彼女らを少しでも労えたらと思ったのが今日の目的の一つだった。

 

「少しだけお時間、大丈夫ですか?」

 

「ええ、私も事情聴取に協力してくれている人たちも休憩しているから。それにしても、大荷物ね」

 

 冴さんがそう言って僕の姿を上から下までじいっと眺める。

 

「まあ、今日はクリスマスですからね」

 

 今の僕は、右手に大きな白い袋をぶら下げている。街を見て回って今日の為に色々と買い揃えてきたものだ。

 僕は左手でゴソゴソと袋を漁ると、中から包みを一つ取り出して冴さんに手渡す。

 

「ということで、どうぞ」

 

「え、私に?」

 

 受け取った冴さんは驚きに目を丸くしているけれど、クリスマスにわざわざこうして荷物を見せびらかす為だけに時間を取らせるつもりは僕としては当然無かった。

 今朝から色々と見て回っていて、持っていても困らないもので冴さんに似合いそうなものが無いかと思って見つけたものだ。むしろ受け取ってもらわないと困ってしまう。

 それを伝えれば、何故か戸惑い半分、嬉しさ半分といった表情で冴さんはそれを受け取ってくれる。

 

「こういう時にお返しも用意していない自分が情けなくなるわね……」

 

「構いませんよ、僕が贈りたいと思ったから贈るんです。見返りを求めて贈るのはプレゼントじゃないでしょう?」

 

「ふふ、そうね。でも、贈られてばかりじゃ私の気が済まないわ。必ずお礼はする。だからその時はちゃんと受け取ってね?」

 

「ええ。楽しみにしてます」

 

 プレゼントを贈って喜んでもらえれば僕としては十分嬉しいけれど、それはそれとして人からプレゼントを贈ってもらうのも当然嬉しい。

 冴さんが中を見ても良いかと聞くので、僕はどうぞと返す。包装をガサガサと開いて取り出されたのは、黒と灰色の二色が配色されたマフラーだった。

 

「マフラー……」

 

「今の季節に良いかと思いまして。落ち着いた色とデザインなので普段使いでも仕事の行き帰りでも気にせず使えますし、冴さんの髪色に映えると思いました」

 

 色素がやや薄く、グレーにも見える冴さんの髪と、黒基調のスーツ姿にも違和感なく馴染むデザインだと思った。それを伝えれば、冴さんは珍しくはにかんだ様子で、手早くマフラーを首に巻くと鼻から下をすっぽりと覆ってしまった。

 

「……暖かいわ、ありがとう。大切に使わせてもらう」

 

「そうして頂けると嬉しいです」

 

「それと、あなたが高校生だっていうのはやっぱり嘘だと思うわ」

 

「急にどうしたんです?」

 

 確かに精神年齢としては高校生というにはちょっと枯れている自覚はあるけれど、一応世間的には立派な高校生である。まあ、ただの高校生が警察のお世話になったり、探偵と一緒に事件の調査をするかと言われると苦しいのだけど。

 何故か真とよく似た鋭い視線で射貫かれた僕は、忘れないうちにともう一度袋の中を漁る。渡したいものは一つだけじゃないのだ。僕が取り出したのは先に冴さんに渡したものよりも小さな紙袋。

 

「すみません、これは出来ればで構わない頼みごとなんですけど」

 

「分かってるわ。明智君ね?」

 

 紙袋を手渡された冴さんは、僕の言葉に心得たとばかりに頷いてくれた。冴さんの予想通り、もう一つのプレゼントは明智君に向けてのものだ。といっても、事情聴取を受けている彼に差し入れが出来るのかは僕には分からない。余計な疑いを生むとしてこういったものは渡すことが出来ないものなのかもしれない、その可能性の方がむしろ高いことは分かっていたけれど。

 

「中身は何か聞いても良い?」

 

「ええ、もちろんです。その中身はネクタイピンですよ」

 

「ネクタイピン……」

 

「はい、パイプの形をした。探偵と言えば、パイプかなって個人的には思うので」

 

「そう、そうね。これくらいなら何とか彼に渡してあげられると思うわ」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 渡したところで、明智君には中々渡されないことも覚悟していただけに、冴さんがそう言ってくれたことが嬉しかった。

 勢いよく頭を下げた僕を見て、冴さんがようやく年相応の顔を見たわと言って笑った。

 

「ついでに、何か伝言はある?」

 

 そう言ってくれる冴さんの厚意に甘えて彼に伝言をお願いした。

 

「そうですね、じゃあ一言だけ」

 

 それを付けて戻ってくるのを待ってる、と。

 

 


 

 

 冴さんにプレゼントを渡した後は、電車に乗って四軒茶屋駅まで向かう。事前に聞いていた開始時間には間に合わなかったけれど、皆には少し遅れて向かうことを連絡していた。

 ルブランの前まで来ると、扉越しに賑やかな声が聞こえてくる。それに僕の方も顔が緩むのを感じながら扉を開ければ、いつもの軽やかなベルの音が鳴り、皆の視線がこちらに向く。

 

「おう、いらっしゃい」

 

「徹、来てくれたのね!」

 

「お邪魔します。遅れてごめんね」

 

 出迎えてくれた佐倉さんに挨拶をすると、椅子から立ち上がってこちらに歩いてきた真にそう声を掛ける。蓮と高巻さん、奥村さんが囲むテーブルには、クリスマスツリーのように積まれたシュークリームの山、クロカンブッシュが聳えており、その周りにサンドイッチやケーキの箱なんかも置かれている。

 

「これで全員が揃ったな」

 

「モナちゃんも帰って来たし、本当に何の憂いも無くお祝いできるね!」

 

 喜多川君と奥村さんがそう言って嬉しそうに笑う。よく見れば、椅子の上に黒猫がちょこんと座っている。確か、蓮がいつも連れていた猫。昨日の話だと別れてしまったのかと思っていたけれど、どうやら無事に見つかったらしい。蓮の方に視線を移せば、彼女もまた嬉しそうに口元を緩めて小さく頷いていた。

 

「こうしてキチンと顔を合わせるのは初めてかな。今日はよろしくね?」

 

 そういえば以前は挨拶したけれど蓮の鞄に早々に顔を引っ込めてしまい、あまり仲良くなれてはいなかった。身を屈めてモルガナに手を差し出してみれば、じっと僕の手と顔を交互に眺めた後、にゃあと一声鳴いてから彼は僕の手に前足を乗せてくれた。まだ完全に警戒を解いてくれたわけじゃないかもしれないけど、一歩前進かな。

 

「さて、それじゃパーティーを始めますか!」

 

「さんせ~い!」

 

 僕とモルガナが挨拶を交わしたのを見届けた坂本君と高巻さんがその言葉と共にグラスを掲げる。僕も真から手渡されたグラスを持てば、蓮の乾杯の音頭と共にグラスがぶつかる音が響いた。

 

「よし、今日はこれで腹いっぱいにしなくてはな。今日一日何も食べていない」

 

「なんでオイナリはいつも限界学生してるんだよ」

 

 早速と言わんばかりに喜多川君が料理に手を付け始め、それを呆れたような目で見ている双葉さん。それを皮切りに皆が思い思いに話をしているのを見ながら、僕はカウンターで佐倉さんと向き合っていた。

 

「佐倉さん、今日はありがとうございます」

 

「お前さんがそこまで言う必要無えよ。コーヒー飲むか? ジュースもまだあるが」

 

「コーヒーを頂きたいです」

 

 そう言えば、佐倉さんは仕方ねえな、と呟きつつも少し嬉しそうな様子でカウンターの奥で準備を始める。程なくして出されたコーヒーは、カップから薫り高い湯気を立ち昇らせていた。

 お礼を言ってそれを受け取り、一口含む。昨日の夜、蓮に淹れてもらったコーヒーも美味しかったけれど、やはり佐倉さんの手によって淹れられたそれはまた格別な味わいだと思わされる。

 

「……ありがとよ」

 

「どうしました、いきなり?」

 

 コーヒーを味わっていると、佐倉さんが静かな声でそう呟いた。

 

「お前さんのお陰だろう。蓮が警察に行く必要が無くなったのも、若葉の研究が悪用されなくなったのも」

 

「蓮達が頑張った結果ですよ。少しでも助けになれていたなら、嬉しいとは思いますけどね」

 

「そうかい。ま、俺が勝手に感謝してるだけだ。それより、友達と話さなくても良いのかい?」

 

 そう言って佐倉さんがカウンター越しに顎で示した先は、楽しそうな声で賑わっている蓮達のテーブル。彼らには彼らの積もる話があるだろうし、もうしばらくはここで良いと思う。そう返しながら、僕は佐倉さんに持ってきた袋から取り出した包みを差し出す。

 

「それはそうと、折角のクリスマスなのでどうぞ」

 

「お、俺にか……?」

 

「もちろん蓮達にも用意してますけれど、佐倉さんにもお世話になりましたしね」

 

 驚いたような顔で包みを受け取ってくれた佐倉さん。自分がもらえるとは思いもしていなかったんだろうと思う。確かに佐倉さんは双葉さんもいるし、どちらかというとプレゼントを渡す側だろうしね。でもどうせなら、貰う側に回ったって良いと思うのだ。

 

「ったく、要らねえ気遣いしやがって。……ありがとよ」

 

 佐倉さんはやれやれと呟きながらも嬉しそうに口元を緩めている。それを見るだけでも、プレゼントを用意した甲斐があるというものだ。

 

「あー! 惣治郎が自分だけプレゼント貰ってる!」

 

 そしてそれを目敏く見咎めたのは双葉さん。佐倉さんが持っている包みを指差してそう声を上げれば、全員の注目が僕と佐倉さんに注がれた。

 

「ほう、ということは俺達にもプレゼントがあるということだな。これは楽しみだ」

 

「いやなんで貰えるのが当然だと思ってんだよ……」

 

 いっそ清々しいくらいの態度で喜多川君が僕の隣に腰掛けてプレゼントを催促してくる。それを見て坂本君が呆れ声だった。僕は苦笑しながら袋の中を再度漁ることになる。皆にはもう少し時間が経ってから渡そうと思っていたんだけどなあ。

 

 それから、クリスマスパーティーはテーブルの上の食べ物が無くなり、皆が満足するまで続いた。夜もすっかり更けた頃、双葉さんが欠伸をしたのを皮切りに皆が片づけを始め、帰り支度を進める。

「皿洗いは任せろ」そう言った喜多川君が恐ろしい程の手際で食器を洗っていくのは中々面白い光景だった。

 そうして片付けも済ませれば、坂本君と喜多川君が満足気にお腹をさすりながら店を出て行き、双葉さんが佐倉さんと連れ立って続いて帰る。そして僕と真を交互に見ては何故かニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべる高巻さんと奥村さんが、真に何かを囁いて帰って行った。

 

「……それじゃ、僕もそろそろお暇しようかな」

 

「うん、今日は来てくれてありがとう。あとは真をよろしく」

 

 蓮に帰ることを告げれば、彼女はそう言って真の背を押す。真はと言えば、高巻さんと奥村さんに何を言われたのか、耳まで真っ赤になっていた。

 

「この前は私が堪能した。だから今日は真の番。家まで送ってあげて」

 

「お、おやすみなさい、蓮」

 

「うん、そのつもりだよ。それじゃ、蓮もおやすみ」

 

 元々送って帰るつもりだったからそれ自体は何の問題も無いのだけど、蓮と真が意味ありげに視線を交わしたのだけは気になった。

 ルブランを出た僕と真は、今日のクリスマスパーティーであったことなんかを互いに話しながら駅へ向かう。

 そうして真の家の最寄り駅で降りて、すっかり人通りも少なくなった道を二人で並んで歩く。

 

「そういえば、プレゼントありがとう。早速使ってるわ」

 

 真はそう言って両手をひらひらと振った。そこにはベージュの手袋が嵌っている。僕が皆に買ってきたものの中で、真に向けて用意したものだ。

 

「気に入ってくれたなら何よりだよ」

 

「うん、とっても嬉しい。私も何か用意すべきだったわ」

 

「気にしないで。僕は皆が持ち寄ってくれた食べ物を堪能したからね」

 

 特に奥村さんが用意したチーズは強烈な味わいだった。佐倉さんはワインが合いそうだ、なんて楽しんでいたけれど。

 そうやってパーティーのことを思い出していると、真の左手が僕の右手を包んでいた。

 

「い、嫌なら振りほどいても良いから……!」

 

「そんなこと無いよ。真の手は温かいね」

 

 薄暗がりの中でも分かるくらいに顔を赤くした真を見て微笑ましくなる。それを横目で見た真が、じとりとした目で僕を睨みつけた。

 

「いつも徹は余裕そうでズルいわ」

 

「そうかな? これでも結構ドキドキしてるんだけど……」

 

「ホントかしら」

 

「余裕ぶってるだけだよ」

 

 口を尖らせる真に、そう弁明するけれど自分で言っていても言い訳みたいだと思う程度には白々しいなと思ってしまった。むしろ真が照れている姿を見ているから、僕は冷静になれているところもあるのだろうけど。

 そんな僕の態度が気に入らなかったのか、真は立ち止まって僕と向かい合うと、じいっと見つめてくる。ほんの僅かな沈黙、その後にはどちらからともなく笑い声が生まれた。

 

「なんだか徹と話すときはいっつもこんなこと言ってる気がする」

 

「奇遇だね、僕もそう思ってたところ」

 

 そう言ってお互いクスクスと笑う。静かな道に、僕と真の押し殺したような笑い声が妙に大きく響いて聞こえた。

 しばらくそうして笑っていたけれど、真は急に真剣な表情に変わったかと思うと、何かを決意したように頷いた。

 

「ねえ徹、以前言ったこと覚えてる?」

 

 真にそう問われ、僕はこくりと一度頷いた。

 

「全部終わったら言いたいことがある、だったよね?」

 

「ええ、そうよ……。皆にも散々背中を押されたんだし、きちんと言うわ」

 

 真はその言葉と共に何度か深呼吸をする。そうして真は一歩踏み出すと、緊張で震える瞳で僕を見上げた。

 

「好きよ、徹。私は、貴方が好き」

 

 





Interludeになると書きやすくなりがち

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