Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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Interlude -Christmas Eve, a little break-

「疲れてんだな。送ってくれてありがとよ。部屋は階段上った先だ、鍵だけよろしく頼む」

 

 蓮を背負った僕を見ると、それだけを言い残して早々に佐倉さんはルブランを後にしてしまった。冴さんも佐倉さんも、僕のことをいささか信用し過ぎではなかろうか。

 とはいえ、背中で依然として寝息を立てている蓮をどこかに転がしていくわけにもいかず、僕は蓮を背負ったまま階段を上った。

 

「ここが蓮の部屋か」

 

 階段を上がった先は部屋というよりも屋根裏と言って良い場所だった。佐倉さんだったら蓮をこんなところに住まわせたりしないだろうに、と思ったけれど。

 

「意外と居心地よく感じてたりするのかな、蓮?」

 

 僕はそう言って背中に乗せた蓮を微かに揺する。そうすれば、背中からはクスクスと悪戯がバレたときのような笑い。

 

「いつから気付いていたの?」

 

「店に入る少し前かな、寝息が嫌に素直だったからね」

 

 本当のところは背中から聞こえる蓮の呼吸が意識的なものに変わったと思ったから鎌を掛けてみただけというもの。蓮もどこかでネタバラシをするつもりだったのだろうとは思う。出来れば佐倉さんがいるところでネタバラシをして欲しかったけれど。まあ起きたことだし、と思って蓮を下ろそうとすると彼女は逆に僕の首にしっかりと腕を回して徹底抗戦の構えを見せる。

 

「……あの、蓮?」

 

「…………もう少し堪能」

 

 そう言って蓮は僕の肩に顔を埋める。屋根裏部屋の真ん中に立ち、女の子をおんぶして立ち尽くす男子学生というあまりにもシュールな絵面だ。まあ大変な戦いの後だったのだから、もう少しくらいは甘えてもらっても構わないだろう、なんて思いながら僕は部屋に備え付けられたストーブのスイッチを入れる。独特な灯油の匂いが鼻を擽り、まもなくストーブの周りがじんわりと暖まり始めた。それを見計らって僕は蓮を支えていた両手を離せば、蓮はズルズルと僕の背中を滑り落ちることになった。

 

「いじわる」

 

「ここまできちんと送り届けたのにいじわるとは」

 

 何故か蓮からジト目で睨まれる。人を背負い続けると言うのは意外に疲れることなのだけど、僕としては結構頑張ったつもりだ。

 何はともあれ、蓮も起きたことだし僕もそろそろ帰ろうかと踵を返したところで、蓮が両手で僕の腕を掴まえてそれを制止する。

 

「ん、どうかした?」

 

「あ、えと……」

 

 何か用事でもあったかと思ったけれど、引き留めた張本人の蓮自身もどうしたものかと視線を宙に彷徨わせていた。

 

「……少しだけ話しても良いかな?」

 

「っ! うん」

 

 怪盗団としてあれだけの大立ち回りをした後だ。身体の方はともかく、精神的にも疲弊している。人恋しい気持ちになるのも仕方ないだろう。そう思った僕は、壁際に置かれたソファに腰掛ける。蓮が僕の隣に腰掛けようと近づいて来て……何故かピタリと止まった。

 

「うん、どうかした?」

 

「いや……、こ、コーヒーでも淹れてくる。座って待ってて欲しい……!」

 

 それだけ言うと、蓮はバタバタと慌てたように階段を駆け下りて行ってしまった。そして屋根裏とはいえ女の子の部屋に一人取り残された僕はどうすれば良いのだろう。座って待っていろと言われたので、手持ち無沙汰にソファに腰掛けたままぼうっとしていると、コーヒーを淹れに行ったにしてはかなりの時間を掛けた後に蓮がカップを二つ持って階段を上がってくるのが見えた。

 

「お、お待たせ……!」

 

「ああ、大丈夫だけど。息切れてない?」

 

 戻ってきた蓮は何故か肩で息をしていた。と、そこで気付く。蓮の髪が先ほどよりも水分を含んでいる。もしかして、お風呂に行っていたのだろうか? 

 

「……髪はきちんと乾かさないと風邪をひくよ?」

 

「っ!?」

 

 そう言えば、蓮がびくりと肩を跳ねさせる。気付かれたくなかっただろうか。とはいえ、疲れているところに身体を冷やしてしまっては本当に風邪をひいてしまうだろう。

 

「待たせたら悪いと思った……」

 

 コーヒーをテーブルに置いた蓮は、ごめんと呟くと僕の隣に腰掛ける。待たされたことを怒るつもりは最初から無いのだけど、シュンとした様子の蓮を見ていると僕の方が申し訳ない気持ちになる。

 

「気にしなくても良いよ。ゆっくり温まってきたら良かったのに」

 

「それはあまりにも申し訳ない……」

 

 湯気の立つカップを両手で包むように持ち、チビチビとコーヒーを口に含む蓮。僕もそれに倣ってテーブルに置かれたカップを手に取ると、冷めないうちにとコーヒーを頂くことにする。口に含めば、ほのかに酸味を感じるふくよかな香りが広がる。相変わらずルブランのコーヒーは美味しい。しかもこれは蓮が淹れてくれたものだとすると、彼女は佐倉さんから淹れ方を教えてもらっているのだろう。

 

「美味しい。ありがとうね、蓮」

 

「ん、それはこっちの台詞」

 

「そうかな?」

 

「そう。徹には助けられてばかり。現実でも、認知世界でも」

 

「認知世界でも?」

 

 あいにくと僕は認知世界に関しては何ら力を持たない人間だ。もしかすると、僕の行動によって誰かが僕を認知世界に登場させることもあったかもしれないけれど。

 そう口にすれば、蓮はフルフルと首を横に振って違うと言う。

 

「徹は自分で思っている以上に人に影響を与えてる。あなたがいなければ、もしかしたら私達はどこかで致命的な失敗をしていたかもしれない。それによって、取り返しのつかないことを起こしていたかもしれない」

 

「……どうだろうね。怪盗団の皆なら困難に直面しても立ち上がったと思うよ」

 

「むぅ……、やっぱり徹は変なところで強情」

 

 思ったことをそのまま口にしただけのつもりなのだけど、蓮は不満そうに口を尖らせる。そしてカップをテーブルに置いたかと思うと、身体を傾けて僕の膝に頭を乗せてきた。

 

「眠たいのならベッドに行った方が良いんじゃない?」

 

「そういうことじゃない。今日私達は頑張った。だから、ささやかなご褒美」

 

「男の膝枕がご褒美になるのかな……」

 

 自分だったら別にそこまで嬉しくもないな、なんて思ってしまうけれど蓮はご機嫌な様子だ。蓮が膝を占領してしまった以上、彼女にコーヒーを掛けるわけにもいかないので僕もテーブルにカップを置くことにする。少し前屈みになったとき、蓮の身体が強張ったようだったけれど、僕がカップを置いただけだと分かるとまた肩から力を抜いた。

 

「モルガナ」

 

「ん?」

 

 蓮がポツリと呟いた言葉をうまく拾えず、聞き返す。

 

「怪盗団の大切な仲間、猫だけど、誰よりも人間らしい仲間」

 

「猫、蓮のバッグに入っていたあの黒猫のことかな」

 

 そう聞けば、蓮はコクリと頷いた。確かに言われてみれば、いつも蓮のバッグの中からこちらをじっと覗いていた黒猫の姿が見えない。寂しそうな彼女の表情を見るに、どこかに散歩に行っているという訳でも無さそうだ。

 

「頼れる仲間だったけど、今は居ない」

 

「そっか、皆をたくさん助けてくれたんだね」

 

 何が起きたかを深く聞く必要は無かった。蓮が話したいと思ったことを取り留めも無く話してもらうだけで良い。蓮が妙に僕を引き留めようとするわけだと合点が行った。お風呂に入った後にあまりするべきことじゃないかとも思ったけれど、僕の手は蓮の頭に乗せられていて、慰めるでもなくすっかり乾いた彼女の髪を梳いていた。

 

「徹、警察に連れて行かれたとき、怖かった?」

 

「……怖かった、というよりは申し訳なかったかな。皆との、真との約束を守れなくなったから」

 

「そうなんだ……。私は、怖かった」

 

 僕も蓮も警察に捕まった。想像でしかないけれど、彼女も苛烈な取り調べを受けたのだろう。容疑者でしかなかった僕とは違って半ば現行犯で捕まった彼女の取り調べは、僕よりも酷いものになったのかもしれない。

 

「うん、蓮はよく頑張ったと思う。本当にね」

 

 だから僕から言えることといえばこれくらいだった。彼女がどれほど怖い思いをしたのか、その中で自分を見失わず、冴さんと協力することが出来たことの凄さを、僕は恐らく他の誰よりも実感できるだろう。気付けば、彼女の頭に置いた手とは逆の手は、蓮の両手に拘束されていた。手のひらや指を握ったり、指で押しながら、最後にはラヴェンツァがしていたように手を繋ぐ。

 

「徹は、もう真と話した?」

 

「真と? いや、生憎とまだだよ」

 

 全てが片付いたら話すことがあると真に言われていたけれど、今日は流石に彼女も疲れていただろうと声を掛けたりはしなかった。真の方からも連絡は無いから、多分家で休んでいるのだと思う。それを伝えれば、蓮は少し気まずそうに視線をまたどこかに泳がせる。

 

「そう……、しまった。早まったかもしれない」

 

「早まった?」

 

「ううん、何でも無い。最後のオタカラ争奪戦の話」

 

 そう言って意味ありげな視線を僕に投げかけてくる蓮だけど、あいにく言葉の意味がいまいち掴めない。

 その上、真の話が何か関係があるのかと首を傾げていると、蓮の目が徐々に鋭いものに変わっていく。

 

「…………それはわざとやっているのかと聞きたくなる」

 

「一体何について僕は責められてるんだろうか……」

 

 何故か機嫌を傾けてしまった蓮が、ぐりぐりと頭を僕の膝に押し付ける。まるで猫が構ってもらおうとすり寄ってきているみたいだ、なんて思って微笑ましく思っていると、目が据わった蓮が僕を下から見上げる。

 

「徹は明日、予定ある?」

 

「明日? ……特には無いかな」

 

 幸いにしてバイトは店長の気遣いかシフトもあまり頻繁に入っていない。クリスマスになるとファミレスといえどそれなり以上に忙しくなることは予想できたので、自分はシフトに入ることが出来ると伝えたのだけど、店長からは「夏には青春っぽいこと出来なかったんだし、クリスマスくらいは青春を謳歌しなよ」なんて言われてしまったのだ。駄目なところもある人だけど、ああいうところは素直に尊敬できる人だと思う。

 何はともあれ、こうして得た何の予定も入っていないクリスマスだったわけだけど、生憎と誰かと遊ぶ予定なんかは無かった。というより、ここ最近は忙しくて意識の隅に追いやられていたけれど、この時期は僕のような高校三年生にとっては受験前の追い込みだ。切羽詰まっているわけではないけれど、だからといって勉強を無視し続けて良いわけでもなかった。

 そう思っていたのだけど、蓮の顔を見て流石に勉強するから明日は外出するつもりは無い、なんて言うことは出来なかった。

 

「それなら、明日は私達に付き合ってもらう」

 

「私達?」

 

「そう、怪盗団の皆とクリスマスパーティー。徹も参加して」

 

 夏は無理だったんだし。そう言われて、確かに夏はバイトと被っていたことで折角の誘いをふいにしてしまっていたっけと思う。

 

「皆が良いと言うなら、参加させてもらおうかな。プレゼントを用意しないとね」

 

「うん、期待している」

 

 友人たちのお誘いだから参加することは全く問題無いけれど、クリスマスパーティーまでにプレゼントを用意しようとなると明日は少し忙しくなりそうだ。

 こうして明日の約束もしたし、そろそろ時間も遅くなっている。少し心細かったのだろう蓮も、今はそこまで暗い表情にもなっていないから大丈夫だろう。僕も明日に備えて帰ろうかと思って蓮の手を解こうとしたけれど、何故か蓮はキョトンとした顔で僕の手を拘束したままだった。

 

「どこか行くの?」

 

「いや、そろそろ帰ろうかと思ってね」

 

「……泊まっていかないの?」

 

「流石にそれはね」

 

 上目遣いでそう言う蓮に向けて、僕は苦笑を返す。蓮の冗談を真に受けてしまえば、待っているのは佐倉さんと冴さんからのお説教なのは想像に難くない。僕としても疲れているであろう蓮をこれ以上起こしているのも忍びない。

 

「クリスマスパーティーはルブランでやる予定。泊まっていけば遅刻することもない」

 

「佐倉さんにどんな顔で挨拶すれば良いのさ……」

 

 それを伝えても尚僕が帰るのを渋る蓮。

 結局、蓮が満足するまで話に付き合い、ウトウトとし始めた彼女をベッドに寝かし付けてから、僕は歩いて帰路につくことになった。

 

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