Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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本話も捏造設定マシマシとなっております


The serpent

 ヤルダバオトを名乗った長鼻の老人の背後、その独房の闇の中から現れ、鉄格子など無いかのようにすり抜けて現れたのは秀尽学園の制服に身を包んだ徹。

 

「少なくとも、僕は君にその名乗りを許した覚えは無いけれど」

 

「貴様……!」

 

 背後から現れた徹を目にしたヤルダバオトの声が、驚きと怒りを孕む。その驚きは、蓮も同様に抱いたもの。

 

「俺をここまで案内しておいて、自分はようやくお出ましかい?」

 

 ただ、明智だけは彼に挑発的な言葉を投げかける。そして横目で蓮を見ると、彼女を鼻で笑った。

 

「君はまさか、あれが徹だと思ってるのかい?」

 

「む……」

 

 なら自分の方が徹のことを分かっている。そう言いたげな明智の様子に、蓮はそんな場合じゃないと分かっていながらも顔を顰めた。

 目の前の徹はどこから見ても現実世界の彼にしか見えない。けれど、彼の纏う気配は蓮がパレスで何度も目にしてきた徹のものだった。

 

「最初は君だけで十分だと思っていたんだよ、もう一人のトリックスター。だけど、ゲームマスターが強権でゲームを終わらせるのはルール違反だろう?」

 

「認知世界にいた不可解な気配、よくも目の前に現れたものだ」

 

 徹の方へと向き直ったヤルダバオトは蓮に対してしたように彼に指を向けるが、それは徹に何の影響も及ぼさなかった。

 

「偽神の本体に戻らないと、ただの端末に過ぎない今じゃ力を十分に発揮出来ないよ」

 

 もはやヤルダバオトの目に映るのは蓮達では無かった。目の前に現れた得体の知れない存在に対する警戒は、虫の息であるトリックスターを上回って有り余る。どこへなりとも行ってしまえとでも言うようなその態度は、自らを神と名乗るヤルダバオトの神経を逆撫でするもの。

 

「……それを見逃すと言うのか。傲慢な」

 

「僕はゲームの参加者じゃない。君が仕掛けた理不尽な盤面を正すためのバランサー。世界の行く末を決めるのがトリックスターのゲームなんだろう?」

 

「……良いだろう。ならば今度こそ用済みとなったトリックスターを排除し、この世界を怠惰に沈めよう」

 

 その言葉と共にヤルダバオトは蓮のベルベットルームから姿を消した。後に残されたのは、怪訝な顔をした蓮とラヴェンツァ、そして明智と徹だけ。

 

「それで、あなたは一体誰なのです?」

 

 最初に口を開いたのはラヴェンツァだった。トリックスターを導く者としての使命がそうさせるのか、目の前の存在に向かって警戒をしようとしているが、その一方で徹が敵ではないと本能が叫んでいるようだった。

 

「君は、イゴールが生み出した此度の案内人だね? 古い友人から聞いているよ」

 

「あなたは主を知っているのですか……?」

 

「知っている、というには一方的過ぎるけれどね」

 

「ちょ、ちょっと待って欲しい」

 

 ラヴェンツァと徹の会話に割って入る蓮。眉間を押さえて唐突に叩き込まれた情報を整理するのに必死だった。

 

「あなたがベルベットルームの存在を知ってるのは何故? それに、どうして徹の姿になっているの?」

 

「……君はもう偽りの牢獄から解き放たれた。以前言っていた約束を果たすのなら今なんだろうね」

 

 まだ膝を着いていた蓮に手を貸して立ち上がらせた徹は、じっとその顔を穴が開きそうなほどに見つめる蓮に苦笑しながら一歩下がると芝居がかった動作で腰を折る。

 

「二つ目の質問だけれど。徹はとても稀有な魂をしている来訪者だからね、少し間借りさせてもらっているんだ」

 

「間借り……?」

 

「だから認知世界のどこにも徹がいなかったのかい?」

 

「そうだね。僕がその姿を借りていた」

 

「……俺がどこを探しても見つからなかったわけだ」

 

 徹の言葉に、明智がどこか納得したように頷いた。一方で、蓮はまだ解せないという表情を崩さなかった。というのも、彼女はパレスで何度も徹に会っているからだ。特に蓮は現実の世界でも、現実の徹を介して目の前の存在が話しかけてきた経験がある。

 

「でも、あなたはパレスで私達の前に現れたこともある。それも全てあなただったの?」

 

「その通り。徹が認知世界に現れる条件を満たしたとき、代わりに出てきたのが自分だ。君が気になっていたように、現実世界でも少しだけ徹を介して話もしたね」

 

 蓮が疑問に感じていたことを見透かしたように彼は言葉を紡ぐ。しかし皮肉なことに、言葉を重ねるごとに彼を見る目は胡散臭いものを見るものに変わる。

 

「……一応、正直に全て話しているつもりなんだけどね」

 

 蓮と明智の視線に込められた感情に気付いたらしく、どう弁明したものかと徹は決まり悪そうに笑みを浮かべた。

 

「私と明智の間で認識が異なるところがある。信用しきれない」

 

「友達の姿を勝手に借りておいて、不愉快にならないとでも……?」

 

 怪しいものを見る目を向ける蓮と、ペルソナを呼び出そうと仮面に手を掛けてすらいる明智。

 

「そう思うのも仕方ないのは分かるさ。……でも」

 

 徹が何かを言おうとした瞬間、彼らが囲む空間の中心に光の球が現れたかと思うとひと際強く輝き、彼らの視界を遮る。その光が収まった頃には、書き物机に突っ伏した長鼻の老人が姿を現していた。

 

「我が主……!」

 

 その姿を認めたラヴェンツァは、そう言って長鼻の老人へと駆け寄る。身体を起こした老人は、キョロキョロと辺りを見回すと蓮と目が合ったところでピタリと視線の動きを止めた。

 

「お客様の多い日ですな。ようこそ、我がベルベットルームへ。(わたくし)の名はイゴール。お初にお目にかかります」

 

 ヤルダバオトとは正反対の甲高い声で自らの名を告げたイゴール。

 

「このベルベットルームの真なる主であり、貴方の旅の本当の手助けを担う方です」

 

「そして、僕の古い友人が生み出した存在でもある」

 

 ラヴェンツァの言葉に続けて、徹がそう告げた。その言葉に、蓮達だけでなく、イゴールの視線も徹へと向かう。イゴールの目が彼の姿を捉えた瞬間、普段からぎょろりと見開かれている目が、より一層開かれた様に蓮には見えた。

 

「これは……、とても懐かしい気配をお持ちの方だ」

 

「この方を知っているのですか、主?」

 

 イゴールの反応から、目の前の存在が少なくとも自らの主と敵対するものではないと感じたラヴェンツァがそう問えば、イゴールはコクリと頷いて彼女の問いを肯定した。

 

「といっても、(わたくし)とて主の気配と同じということくらいしか分かりかねます」

 

「初めまして、イゴール。ニャルラトホテプはともかく、フィレモンも今さら積極的には顔を出すつもりは無いようでね。少し野暮用もあってお邪魔しているよ」

 

 蓮達には分からない名を告げれば、イゴールが顔に浮かべた不気味な笑みを一層深めてくつくつと笑った。

 

「なんとも久しく聞いていない名です」

 

「積もる話もあるけれど、今は此度の客人をもてなす方が先じゃないかい? 怪盗団の皆が集まったなら、蓮の最初の質問にも答えようじゃないか」

 

「!? まだ、皆は生きているの?」

 

 イゴールとの話を打ち切るように告げたその言葉に、蓮は大きな反応を示した。渋谷で黒い灰となって消えた怪盗団の仲間。それがまだ生きているかのように彼は語ったのだから。

 

「ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。あなたがそうであるように、他の方々も息途絶えたわけではありますまい」

 

「絆を深めた貴方なら、きっと彼らを解放できる。私はそう信じています」

 

 その言葉と共にラヴェンツァが指差した先には、真っ暗な闇が続く牢獄の扉。

 

「この牢獄のどこかに、皆はいる?」

 

「どうか貴方の手で見つけ出し、そして救い出してください」

 

「君達が再び集まったとき、真実を話そう」

 

 蓮の言葉に、ラヴェンツァと徹はそう返す。その言葉に背中を押されるようにして、蓮は真っすぐに伸びた牢獄のへと足を踏み入れた。

 

 

 


 

 

「さて、皆集まったようだね」

 

 蓮によって見出され、再び立ち上がることを決意した怪盗団の面々は、慣れた怪盗服姿でベルベットルームに集合していた。それを見た徹が嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「副会長……?」

 

「どうして徹がここに……?」

 

 牢獄が並ぶ奇妙な空間をはじめ、そこに似つかわしくない制服に身を包んだ徹の姿に春と真が頭を疑問符で満たしたまま首を傾げる。

 

(わたくし)の名はイゴール。ベルベットルームの主をしております」

 

「私はラヴェンツァ。同じく住人でございます。皆様をお待ちしておりました」

 

「そして僕は徹の姿を借りているけれど、また別の人格だ。そうだな、元の名前はあまり好きじゃないから、イグとでも呼んで欲しい。これもまた、僕の本質を示す一つの名だ」

 

 イゴール、ラヴェンツァよりも一歩退いた位置で怪盗団と相対する彼は、曖昧な笑みを浮かべて怪盗団にそう名乗った。その隣には、腕を組んで不機嫌そうな空気をこれほどかと言わんばかりに垂れ流している明智も。明智は怪盗団一人一人を順番に見て、何かに気付いたように首を傾げる。

 

「ところで、あの猫はどこに行ったんだよ?」

 

「あ、そうだ。モナの奴だけまだ見つかってねえんだよな!」

 

 明智の言葉に竜司がそう言ってキョロキョロと周囲を見回すが、空っぽの独房以外は目に入らない。

 

「ワガハイならここだ」

 

 しかし、それに答えるように怪盗団の背後から声が響く。蓮達が振り返れば、二足で歩く猫の姿となったモルガナが彼女らの前に立っていた。

 

「どこに隠れてたのよ!?」

 

「……ワガハイはここで生まれたんだ」

 

 杏が驚いたように聞けば、モルガナは少し俯いて訥々と話し始める。

 

「本当に、全部思い出したんだよ。ワガハイの役割は悪神に対抗するトリックスターを見出すこと。このベルベットルームが悪神に乗っ取られそうになったとき、主が最後の力を振り絞ってワガハイを創ったこと」

 

「聖杯、今は『神』を名乗るあの存在は、人間に永遠の隷属を強いる悪神です。思考が停止した人間成らざる者で現実を満たし、自身の永遠の繁栄を実現する。それこそが悪神が目論む人間の破滅」

 

「いや、あの……、言ってる意味がぜんっぜん分かんねんですけど……」

 

 モルガナとラヴェンツァから立て続けにぶつけられる濃い情報に、竜司の頭から煙が吹いている様子が幻視出来るほどに混乱しているのが見て取れた。

 

「馬鹿な奴らが支配されたいと皆して考えたから、ただの欲望の塊が意思を持ったんだよ」

 

 それが見ていられないとばかりにため息を吐きながら、明智が補足した。その説明に合点がいったように頷いたのは怪盗団でも頭脳役を務めることの多かった真と祐介だった。

 

「悪神は素養ある二人の人間を選び、争わせました。世界を『残す』か、『壊して創り直すか』決める為に」

 

「片方が俺、『明智吾郎』。俺が勝てば人間の世界を『壊して創り直す』」

 

 ラヴェンツァの説明を引き継ぐ様に明智が一歩前に出て蓮へと指を突き付けた。

 

「そしてもう一人が君だ、『雨宮連』。君が勝てば人間の世界を『残す』。そういうゲームだったわけだ。だけど君は、その悪神本人に良いように誘導されてたわけだけどね」

 

「それが、最初にベルベットルームにいたイゴール」

 

 今、自身の目の前にいるイゴールとは正反対の、地の底から響くような低い声で唸るように喋るイゴール。その存在は、最初から蓮が失敗する様を間近で観察するために真実の姿を偽って近づいた悪神。

 

「大衆の『変わりたくない』という願いから生まれた悪神は、大衆が最後の最後でトリックスターを自ら拒むと知っていた。喩えあなたが抗ったとしても、最後はここで果てさせるために、周到にあなたの勝ち目を潰していたのです。……私も、引き裂かれ、記憶を奪われて悪神の言いなりにされていました」

 

「それじゃゲームにならないと送り込まれたのが海藤徹という存在だよ」

 

 そこでイグの口から突如として現れた徹の名に、怪盗団全員が頭に疑問符を浮かべた。

 

「もちろん徹自身にその自覚は無い。けれど、彼が自らの信念を貫くことが、あの偽神の理不尽なゲームに勝ち目を作り出す糸口になった。大衆が怪盗団を拒んでも、徹はそうじゃない。その縁こそが、蓮だけじゃなく怪盗団全員をこのベルベットルームに繫ぎ止める楔になった」

 

「本来なら、大衆らの怪盗団を拒む認知に満ちた今の現実に、貴方がたの居場所はありません。ですが、まだ希望はあります」

 

 そう言ってラヴェンツァの目が蓮を捉えた。

 

「モルガナが導いたトリックスターたる若人よ。あなたの現実の居場所を取り戻すため、悪神に立ち向かう覚悟はありますか?」

 

 そのラヴェンツァの質問に、蓮はたった一度、力強く頷く。その姿を見て、怪盗団の他の面々も続いて頷いた。

 

「あのムカつくキンキラ野郎、今度こそぶっ潰すぞ!」

 

「このままやられっぱなしじゃ終われないもんね!」

 

 威勢よく言葉を発した竜司と、それに続く杏。再び立ち上がる気力に満ちた怪盗団をイゴールは満足げに頷いて見ていた。そして、怪盗団が口々に賛同の声を上げている中、イグが蓮に向かって歩み寄って行く。

 

「それじゃあ、偽神に立ち向かわんとする君達に、僕から最後の贈り物だ」

 

 その言葉と共に蓮の手に乗せられたのは、キラキラと輝く鱗のようなもの。それを見た蓮が、一体これは何なのかと問いたげにイグを見上げる。

 

「徹が予想以上に上手くやり過ぎた結果、君達が最後に盗り損ねたものさ。これもまた僕の本質の一部なら、こうして君達にその欠片を与えることも出来る。大丈夫、使い方はその時が来れば分かるから。それじゃ、現実の徹によろしくね。後、メメントスにいるジョゼにも」

 





九十話越えてようやくオリ主の設定の一つを開示することになりました。
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