未来視持ちの聖女にギャン泣きされた


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作:みょん侍@次章作成中
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第19話


 

 ドラゴンフォートは異変に気づいていなかった。

 

 リリウムはクインスを伝手にドラゴンフォートの町長に会い、今発生している問題について援助を求めたが、どうやらすぐに動くというのも難しいらしい。

 大規模な結界魔法による精神干渉。それに対応できる人材は限られており、さらに運の悪いことに別の案件に当たっていてドラゴンフォートの外にいる。

 近くの都市にも応援を呼んではみるが、それでもすぐさま対応できるわけではないだろう――とのことだった。

 

「こればっかりはしょうがないよ。精神干渉を使った犯罪の解決法は、基本的には術者をどうにかすることだからね。結界魔法にも対処しなきゃとなると、途端に厳しくなるのさ」

 

 とはクインスの談。

 冒険者ギルドに依頼を出して術者を探し出すというのはどうだろうか、と提案されたらしいんだが、リリウムはそれを断った。

 何より結界魔法というのが質が悪いんだ。

 一人一人にわざわざ魔法をかける必要はなく、ただその境界を通り過ぎた者に機械的に作用する。

 偶然リリウムは精神干渉を跳ねのけたが、耐性というのは数字で表せるものじゃない。

 ミイラ取りがミイラになるのは避けたいからな。

 今のところ魔法の効果を受けていないリリウムが、個人として問題の対処に当たってみる――という結論になった。

 

 ……別れた次の日に顔を合わせるというのも気まずいよな、とリリウムはげっそりしていた。かわいそうに。

 

「ただ――気になることがあった。オレたちは気づかなかったけどさ、ここに続く道、丁度結界魔法の境界付近に看板が立てられてたんだよ。『引き返せ』ってさ」

 

 おかしな話だった。

 この異変に気付くには、一度村まで辿り着かなければならない。

 そしてなおかつ、精神干渉を受けてはならない。

 さもなくば、俺みたいに意識を失って……たぶん、あの村の一部になるのかもしれない。先生が俺をアルと思い込んだように、俺もまた然り、という風に。

 

 結界自体に外から気づいた可能性もなくは無い。

 とはいえ、リリウムですら気付かなかったほど巧妙に隠蔽されていたんだ。

 一度踏み入って、多少違和感に気づけたならばもしかしたら、ってレベルらしい。

 

 俺たち以外に異常に気付いていた奴がいたんだ。

 それで、看板で注意喚起して。

 ただ、近くの都市には情報が伝わってなくて。

 ……まあ、看板で分かればあとは誰かが報告するだろう、ってことで立ち去ったのかもだが。

 

 その看板を立てたのは誰なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 今度はリリウムも伴って、俺と先生は宿屋までやってきた。

 昨日の続きだ。

 

「どもー、アルの彼女でーす」

 

 昨日のことはリリウムにも伝えてある。

 彼ならば何かヒントが得られるのではないかと思ったが、リリウムからしてもやっぱりわけのわからない事態ではあるみたいだ。

 術者を見つけ出せれば解決できるから、意図を知るのは後回しで良いだろう。

 とりあえず今はその幻覚通りの関係性を演じることにした。

 

「はぁー、これを2人で……? というか私じゃ力添えも出来ないと思うんですけど」

 

 物置部屋となっていた部屋を3人で覗く。

 かなり運び出せたとは思うんだが、それでもまだまだ人が生活できるだけのスペースは無い。

 何も考えずリリウムを連れ出してしまったが、非力なこいつでも運べるんだろうか?

 

「無理無理無理」

「無理だったか……」

 

 まあそんな気はした。

 木箱一つも持ち上げられず、大げさなため息をついて箱に手をついた。

 

「あはは……ごめんよリリウムさん。家に戻って休む?」

「いえ、それもちょっと申し訳ないので……うーん、涼しくしておきますね!」

 

 リリウムの手のひらから冷たい風が流れてくる。

 クーラーだ。今日も蒸し暑いからありがたい。誘われるまま近づいていくと、むんずと頬を挟まれた。

 

(……魔力の流れを逆探知して術者を探り当てられないか試してみるよ。お前はそのまま周りに合わせ続けていてくれ)

(それなら家に戻ってても良いんだぞ?)

(暇!)

(ああそう……)

 

 リリウムから離れると、人懐っこい笑顔が戻ってくる。

 肩をすくめながら隣を見ると、カレン先生が口を手で押さえて目を丸めていた。

 

「び、びっくりした……キスするかと思った」

「……こんな人前ではしないよ」

「でも、昨日はしたいときにするって! 好きが抑えられなくなったらするもんだって!」

「あ、いや、それは……!」

 

 リリウムの笑みが深くなった。

 クソ、こいつ、俺が先生に一丁前に語ったことを一瞬で察しやがったな!

 

「ん」

 

 俺の傍まで駆け寄ってきたリリウムは、自分の唇に人差し指を当て、

 

「――」

 

 その人差し指の腹を、俺の口に当ててきた。

 思わず後ずさりをすると、部屋の壁に背中が当たる。

 

「おま、お前な!」

「えー? したいときにするんでしょー?」

 

 にやにやと楽し気なまま、俺と密着して囁いた。

 

(ほら、演技演技)

 

 演技……まあ、演技なら仕方ないか。

 仕方ない、のか?

 

「うわ、うわわ……! い、今時の男女の形とはこういうものなのか……! 私もいつか、あんな……!?」

 

 カレン先生の顔は真っ赤だった。

 どう考えても普通のカップルの形ではないと思うが。

 まあいいか。

 術者が見つかるまでの辛抱だ。それまでに先生の中の理想のカップル像が歪むことは……ない、といいなあ。

 

 

 

 さて、とっとと木箱を運び出さなければな。

 結局俺と先生だけが働くことになったが、リリウムが回復魔法で疲れをいやしつつ涼ませてくれるので、それなりに効率よく片付けは進んでいた。

 

「アル坊にこんなかわいらしい彼女さんがねえ……!」

「いやいや、アルはモテて当然じゃったろ。この村でもワシについで男前で」

「ボケてんじゃないよジジイ」

 

 リリウムはと言えば、木箱に腰かけて老夫婦と談笑していた。

 どうやらこの宿の名物らしいガレットをほおばりながら、にこにことご満悦だ。

 

「ふふふ、ガレットのお礼にエルフに伝わる昔話でもしてあげましょう!」

 

 ああやって楽しそうにしていても、裏でしっかり術者を探してるんだからな。

 逆探知って、そう簡単に出来るものでもないだろうに。

 それを片手間に。

 さすがだな。

 魔法に関してあいつの右に出る奴はいないだろう。

 

「昔々、とあるエルフの女の子と、人間の吟遊詩人が出会いました」

 

 部屋の全景も見えつつある。

 どうにか今日か明日には終わらせられそうだ。

 

「森に迷い込んだ吟遊詩人を女の子が拾ったのが始まりでした」

 

 先生も納屋から戻ってきたので、何個か木箱を渡す。

 あの小さな身体のどこから力が出てきているのかわからんが、先生はものともせずそれを外に持ち出す。

 

「やがて2人は恋に落ちることになるのですが、当時の王はそれを許しませんでした」

 

 俺も負けてられない。

 木箱を積み上げて、それを下から持ち上げる。

 

「2人の猛抗議に、王はとある条件を出します。吟遊詩人よ、納得のできる演奏をしてみせたなら、そなたらが結ばれることを許そう、と」

 

 いややっぱ重たいな!

 1個……いや2個くらい下ろそう。

 

「吟遊詩人には技術がありませんでした。それでも、女の子のためには何もかも擲ってでも王を納得させる演奏をしなければいけませんでした」

 

 おっと。

 木箱の中から何かが落ちた。

 軽い音だ。陶器じゃない。手帳か何かか?

 

「そして、一つの大魔法を完成させました。文字通り、自分の全てを擲ち、自らを完成させるための魔法を」

 

 木箱を退けて、それを拾う。

 ほこりをかぶった古い革の装丁で、手のひらサイズだった。

 どこから落ちたのかと箱の中を見ると、古ぼけた剣とガントレットが入れられていた。

 

「それを使い、ついには吟遊詩人は王を納得させました。その晩に2人は結婚を果たすのですが、しかし、魔法の代償のせいで吟遊詩人はもう長くないことを自覚していたのです」

 

 ホワイトクラウン騎士団のものだった。

 

「ならせめてと、2人は月夜の下、2つ絡み合った大木の下で契りを交わしました。終わりを悟ってなお、愛を誓い合ったのです。……しかし何の数奇な運命か、吟遊詩人は――」

 

 手帳は途中までしか書き込まれていない。

 その最後のページには、こう書かれていた。

 

 

 ――ドワーフ族との戦争、その先遣隊となった。奴らの扱う武具は逸品ばかりで、武具の扱いも並大抵のものじゃない。全員無事にとはいかないんだろうな。こんな時にアレだが、爺ちゃん婆ちゃんのガレットが食いたくなった。もし無事に帰ることができたなら、ブランチリバーに帰省しよう。そう同僚に話したら、縁起でもないことを言うなと怒られた。いいじゃないか、こういう時くらい!

 

 

「――」

 

 俺は飛びのいていた。

 後ろに積まれた木箱に気づかず。

 大きな音を立てて木箱の山が崩れ、陶器が割れる音が宿の中に響いた。

 

「ロータス!?」

 

 俺はバランスを崩してそんな木箱の山に倒れ込んでいた。

 血相を変えてリリウムが駆け寄ってくる。

 

「ロー……?」

「ああいえ、聞き間違いです聞き間違い!」

 

 リリウムに助け起こされ、すぐに怪我がないかを確認される。

 

「な、何してんだよ、おっちょこちょい! 痛いところは無いか、頭とか打ってないか?」

「いや……」

「……顔色悪いぞ? 気持ち悪いか? 水、飲むか?」

 

 彼に顔を寄せる。

 

「リリウム」

「……どうした?」

 

 心配そうに顔を出す老夫婦には聞こえないように、囁いた。

 

「あの二人のお孫さんは、たぶん、もう死んでる」

「――は」

 

 床に膝をついて、力が入らない。

 自分でも驚くくらい、身体が震えている。

 

「それに、きっと」

「――アル! どうしたんだ、大丈夫か!」

 

 嫌な予感はしていた。

 誰もが誰かを待っている状況に。

 それに、いくら帰ってこないからって孫の部屋を物置部屋にするか、という疑問もあった。

 木箱の中身はどれも陶器の残骸だったが、ここ数年で溜まるような量でもないし、そもそも納屋があるのにわざわざこの部屋に置いていたというのも謎だった。

 

「カレンお姉さん、その、急に体調を崩しちゃったみたいで……!」

「熱中症か……!? アル、自分で歩けるか? 今日のところはもう帰って休もう、な?」

 

 いつの間に先生に支えられていた。

 何の話をしているのかが全く分からない。言葉の意味を脳みそが理解していなかった。

 ただ、先生とリリウムに支えられて宿を出る時、俺は、老夫婦の目を見ることが出来なかった。

 

 ガントレットと剣、そして手帳。

 6年前に終わった戦争では、戦死者の遺族にこうして遺品が届けられた。

 ただ、勇敢に戦ったのだと。死体すら届くことは無いが、一言それだけ伝えられて、遺したものを託される。

 死んだのだ。

 あの老夫婦の孫は、戦死したのだ。

 

 ドワーフ族との戦い。

 俺も知っている。この戦争では、ホワイトクラウン騎士団の先遣隊として2千人余りが『剣の一族』と呼ばれるドワーフの一族が住まう山へと攻め入り、そして全滅したという。

 

 なら。

 あの老夫婦が待ちわびていた孫が死んでしまっているというのなら。

 この村の住民の待ち人も――

 

 先生の、弟も――

 

「……」

 

 気づけば家に帰ってきていた。

 リリウムとカレン先生が何かを言っているが、やはり頭に入ってこない。

 彼らに見えないように、いつの間にか持って帰ってきてしまっていた手帳を、震える手で開いた。

 最後のページの前のページには、

 

 

 ――アルセアが巨人族との戦争に参戦することになった! ヒビスクス伯爵の部隊に編入されるらしい。俺も近いうちに実戦に投入されるだろう。同僚からはおそらくドワーフ族との戦争だと言われた。俺だって負けやしない。だからアルセアも負けてくれるなよ! お互いカレンデュラさんに憧れて騎士団に入団したんだからな。ここで武勲を立てて、近衛騎士へ一歩近づいてやる!

 

 

「お、え」

 

 手で口を押える。

 床に蹲り、胃からこみ上げてくるのを必死に抑えた。

 リリウムと先生が駆け寄って俺の背中をさすりながら回復魔法を唱えていた。

 

「すみません、すみません――」

 

 俺は謝らずにはいられなかった。

 先生に、ただひたすら頭を下げ続けた。

 

 巨人族との戦い。

 死者は、敵味方合わせて1万6千。

 ヒビスクス伯爵旗下の対巨人族部隊は全滅した。

 不運にも。

 味方によって、皆殺しにされたという。

 

 誰だ。

 味方殺しの大罪人は。

 いったい、誰なんだろうか?

 

 ……俺だ。

 

 ああ。

 俺は。

 大切な、先生の家族を、殺したのだ。

 そして今、その仇が、肉親のフリをして先生に愛されているのだ。

 

 意識を失いたくても、2人の回復魔法で意識は回復してしまう。

 ただただ、俺は謝り続けた。

 リリウムが俺を部屋に運んでくれるまで、ずっと。

 

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