未来視持ちの聖女にギャン泣きされた


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作:みょん侍@次章作成中
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第17話


 

 この国の外のことは良く知らないが、ホワイトクラウンの国民は基本的にきれい好きだ。

 その中でもカレン先生は特に清潔感を大事にしていた。身だしなみをしっかりしろと何度も怒られた覚えがある。

 

 カレン先生の家には、立派な風呂場が付いていた。

 この村にも、川の近くに風呂屋があるみたいだが、先生のは自前だ。

 とは言っても現代日本のような見た目ではなく、浴槽は大きな木の桶のようなもので、シャワーなんてものは無い。

 排水ができるというだけでもすごいとは思うんだがな。

 魔法があればそういう痒い所に手が届くので、なんだかんだ日本人でも満足できるとは思う。

 

「――おいおい、背中が甘いぞロータス? オレはカメリアさんにその辺叩き直すように言われたんだからな~?」

「うるせえな」

 

 そして俺は、リリウムとともに風呂に入っていた。

 先生は俺たちの関係をカップルかなんかだと思っているからなんだろうけど、それにしたってやけに2人で入るよう勧められた気がする。

 いや――まさかな。

 先生が、あの凛々しくて優しいカレン先生が気ぶりじじいみたいなことをするはずがない。

 したとして、それは魔法のせいだ。

 先生相手に精神干渉なんて、まったく許せんな。

 

「身体かったいなー、お前! 仕方ないからオレが背中流してやるよ!」

「は、おい、良いって……!」

「んー? 甘えん坊のロータスちゃんが強がっちゃって、もー」

 

 こいつはこいつで楽しそうだな、おい!

 

 リリウムが俺の背中に触れる。

 

「しかし、本当にすごい数の傷だよな……沁みないか、これ」

「平気だよ。痕が残ってるだけで、もう随分と昔の傷だ」

「……回復魔法とか使わなかったんだもんな」

「そんな都合よく使い手がいるわけでもなかったからな」

 

 その小さな手を、俺の背中の傷に沿わせる。

 背中だけじゃなく、全身が傷だらけだった。回復魔法を使えば痕も残らず治るんだが、自然治癒に頼っていると、こんな風に痛々しい身体になってしまう。

 リリウムにそんな姿を見せたのは初めてではない。

 彼は気にせず石鹸を手に取って泡立たせていく。

 

「ところで――カレン先生は、その、治るのか? 俺と同じ方法じゃ正気には戻らないって話だったが……」

「ん、ああ。心配すんな。あれぐらいしっかり幻覚が出てると、下手に治そうとすると何があるかわからないってだけだ。術者をどうにかすればこの村は元に戻ると思う」

 

 なるほど、俺はかけられてすぐだったからどうにかなったわけだ。

 

「……そうか。治るのなら、良かった」

 

 一生あのままなんて言われたらさすがに立ち直れなかった。

 ここに来た目的は、先生に昔の礼を言うことなんだ。

 俺を俺として認識してくれなきゃ始まらない。

 

「本当はオレがちゃちゃっと精神干渉をレジストして治すのが手っ取り早いんだけど、オレにはそういう魔法が使えなくてな。手持ちのは気付け程度の効果しかないし」

「お前でも使えない魔法なんてのがあるのか」

「あるさ、こうもピンポイントにね。おかげで知識面は誰にも負けないくらいにはなったから、まあ悪いことばかりじゃないけれど」

 

 誰にも苦手なことはあるだろう。

 リリウムは申し訳なさそうに言っていたが、その知識に今は助けられているんだ。

 感謝こそすれど、文句なんて出やしない。

 

「そういえば、俺ってそういう魔法に対する耐性が無いけど、またおかしくなる可能性ってないのか?」

「気づくのがおせーよ。……まあ大丈夫だけどな。ロータスは結界魔法がどういう魔法か知ってる?」

 

 名前だけならどうにかといったところ。

 リリウムは近くにあった手桶を取り、床に指で丸を書いてそこに桶を被せた。

 

「お前が思う結界魔法ってさ、こうやってボンってお椀を被せるみたいに発生する、って感じじゃないか?」

「違うのか?」

「そう、それが違うんだよ」

 

 もう一度石鹸を手に取り、こすり合わせる。

 リリウムは指でわっかをつくり、それを俺に見せつけてきた。石鹸の膜が出来ているのが分かる。

 

「結界魔法の始まりはゼロの状態。発動と同時に、魔法の中心から徐々に広がっていくんだ」

 

 そこに息を吹きかけると、石鹸の膜が徐々に膨らんでいってシャボン玉が出来上がった。手で取って空中に飛ばすと、ふよふよと漂ってからはじけた。

 

「この魔法が効力を発揮するのは、対象が外側から内側に侵入したとき。元々はこのゼロの状態から始まるから、村の住民たちも外から内、っていう風に状態が変化して、魔法にかけられてしまった。だからオレたちは――」

「……すでに内側に存在しているから、もう一度おかしくなるなんてことが起こらない?」

「確証はないけどな。今のままであるなら、それで間違いない」

 

 リリウムは泡立てた手を俺の背中に合わせる。

 俺だとあんな泡立たないんだが、手が違うのだろうか。

 

「だが、俺のことをアルと認識してたのは先生だけだったよな?」

「うーん、宿屋の人も雑貨屋の人も、確かにただの旅人って認識ではあったよな……カレンデュラさんが特別なのか、とはいえオレのことはリリウムとして認識してくれていたわけだし」

「……俺のことを知っているから?」

「かもしれない。関係性によって性質を変える魔法なのか、あるいは、別の効果の副作用なのか」

 

 結論は、わからない。

 だが、当面の目的は定まった。

 

「とにもかくにも、術者を見つけないことにはな」

「その通り。おそらくはこの近隣に潜んでいるだろうし、もうちょっと天気が落ち着いたら、ドラゴンフォートにこの村のことを伝えて……ま、余裕があればオレも探ってみるよ」

「悪いな、魔法方面のことはてんでダメで」

「知ってるっつの。任せとけ。……ほら、流すぞ」

 

 リリウムの魔法で作られたお湯が心地よい。

 外は相変わらず豪雨でうるさいが、風呂は心安らぐ瞬間だ。

 おかげで大分リラックスできた。

 先生に会えた。

 今はそれを喜ぼう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――改めて、お久しぶりで……久しぶり、お姉ちゃん」

「ああ、久しぶり、アル! 会いたかったぞ、ずっと!」

 

 風呂上り、俺は先生と抱き合っていた。

 どうやら先生からすれば、俺は長年音信不通でいた弟という認識みたいだから、これが感動の再会ということになる。

 

 先生の小さな身体はすっぽりと俺に隠れてしまうくらいで、柔らかな肌が懐かしさを感じさせた。彼女の長い銀髪はふわふわとしていて、ちゃんと手入れされている肌触りだった。

 ……なんか催眠モノっぽくて罪悪感があるな。

 リリウムが「認識改変ってエロ漫画じゃ割と王道だよな」とか抜かすから。

 

 俺は変わったんだ。

 昔のようなエロガキじゃあない。

 今や健全のロータスなのだ。

 優しく慈しむように。

 目の前にいるこの人は俺の恩人なのだから……!

 

「こらこら、アル、んっ……ちょっと力が強いぞ? そんなに私に会いたかったのか? しょうがない子だな、お前は……」

 

 俺の身体さん?

 指示に反して力を入れないでくれます?

 

「勝手に姉離れしたかと思えばこれだ。お前はずっとかわいい弟だよ……ふふ」

 

 ……つい昔のノリで接してしまいそうになる。

 あのころとは違って身体も出来上がっているし、体格だってずっと俺の方が大きいのに。

 

「よしよし」

 

 カレン先生の小さな手が俺の頭を撫でる。

 その優しい笑みは昔のままだ。

 変わらない、と言うと先生は少し怒るかもしれない。

 背が小さいこととか常に気にしていたからな。

 俺にとってはあの頃のままってのが何よりも嬉しいんだけれど。

 

「――はっ! ご、ごめんリリウムさん! 彼氏さんを独り占めしてしまって……!」

「いえいえ、こちらこそ申し訳ないです。姉弟水入らずのところを邪魔してしまったみたいで」

「そんなことはない! アルの彼女さんなら、私にとっても家族みたいなものだ」

「あははっ、ありがとうございます!」

 

 俺から急いで離れたカレン先生が、照れたように髪を撫でつける。

 褐色の肌と銀髪のコントラストが美しかった。

 

「何見てるんだよ、アルっ」

 

 こういう気安さは、昔はそこまで感じなかったかな。

 俺が弟だと思い込んでいるからこその油断とも言える。

 

 俺の前ではいつもかっこよくあろうとしていたからな。

 夜もずっと起きて、俺のために出来ることをし続けてくれていた。

 剣術指南も子供に合わせるように努力はしていたし、クソほどきつかったトレーニングも決して俺から目を離すことは無かった。

 おかげで、同時に鍛錬を監督していたホワイトクラウン騎士団の人たちが構ってくるようになり、そんな彼らが俺に悪いことを吹き込もうとしてきて、それを先生が鬼の形相で叱って――なんてのが日常の一幕になっていた。

 たまに見かけるメイドさんの口説き方とか、気苦労の絶えない宮廷魔術師のこじれまくった性癖の話とか。

 まあ、バカみたいなことばかりしていた。

 

「なんでもない」

 

 そういう、先生としての一面が見れないのは寂しいが。

 これはこれで貴重な時間だ。

 

「なんでも――」

 

 ふと。

 部屋の隅にある棚の上を見た。

 

「――」

 

 擦り切れた青色のぬいぐるみだ。

 クマのような見た目をしていて、立派な盾と剣を手に持って、そこに鎮座している。

 ボタンで出来た目が部屋中を見渡していた。

 

「ん――なんだ、このクマさんのぬいぐるみが気になるのか?」

 

 よく覚えている。

 俺の10歳の誕生日だったか。

 親もいない、同年代の友達なんていない、祝われたこともなかった俺にとっての、初めて誰かと過ごした誕生日。

 カレン先生が、手作りのぬいぐるみを俺にプレゼントしてくれたのだ。

 あのクマっぽい剣士のぬいぐるみを。

 なかなか勇ましいふと眉がチャーミングだった。

 

「ふふふ、懐かしいな。王都から越してくるとき、大抵の物は捨ててきてしまったが……こればっかりは捨てられなくてな」

 

 カレン先生に笑いかけられて、ぬいぐるみも誇らしげだ。

 

「も、もしかして、カレンお姉さんの手作り……?」

「あはは、分かっちゃうか! 我ながら不慣れなことをして、随分と不出来になってしまったからなあ」

「そんな、全然かわいいですよ!」

「目指していたのはかっこいいだったんだよ……」

 

 カレン先生は台を持ってきて、背伸びをしてぬいぐるみを手に取る。

 ところどころ色が落ちたり、ほつれてきてしまっていた。先生はそんなぬいぐるみを撫でて――

 

「――元気してるかな、ロータス」

 

「……」

「……」

 

 リリウムと目を合わせる。

 今、確かに――

 

「……カレンお姉さん、ロータスさんって?」

「あ、声に出ていたか……」

 

 ぬいぐるみを抱き寄せて、カレン先生は遠い目をした。

 ここではないどこかを見つめるように。

 

「まあ、その、もう一人の手のかかる弟みたいなものさ。昔身寄りもないところを私が拾い上げてね、勉強を教えて、剣術を教えて、まあ大変だった」

「へぇ、生徒さんみたいな感じですか!」

「とても我がままで、自由で、それでいて私にはずっと敬語で、幼いながら色々と気を遣ってくれる子だったよ。私もそれに何度も助けられた……んだが、ちょっぴりエッチなのが玉に瑕で」

「ん?」

「私が着替えていると覗いてきたり、お風呂に突撃してきたり、毎日がてんやわんやだったかな」

「……へー」

 

 俺も遠い目をした。

 ここではないどこかを見つめるように。

 

「このぬいぐるみは、そんなロータスのために贈ったものでな。ふふふ、今にして思えば、凄く幼稚な贈り物だったかもなあ」

「そんなことはないですよ! カレンお姉さんみたいな人からこんな素敵なプレゼントされたら、絶対喜んでくれます!」

「どうかなあ、あの子は他の人に合わせるのが上手だったから……」

 

 ……うれしかったですよ、本当に。

 魔法が解けたら、そのことも伝えよう。

 

「そのロータスさんは、今は……」

「ん、今は冒険者をやっていると聞いているよ。もうしばらくしたらこっちに来てくれるみたいだからさ、年甲斐もなく楽しみにしてたりもするんだ」

「…………」

 

 リリウムが問いかけるように俺を見た。

 俺は首を横に振る。カレン先生にそのことを伝えたことは無いし、会いに来ることを知っているはずがないんだ。

 だから、これはカレン先生の幻覚。

 

「ふふふ、やっぱり嬉しいなあ! 私が教えた剣術を使って、今や冒険者となって大活躍! あの子に戦い方を教えた者としてこれほど喜ばしいことは無いよ!」

「……そう、ですか。ふふっ、愛してるんですね、ロータスさんのこと」

「ああ、大好きだよ」

 

 だというのに、屈託もなく笑う先生を見て、心がかき乱されそうになる。

 先生が俺に剣術を教えたのは、戦争のためじゃない。

 冒険者として独り立ちできるように教えてくれていたのを、結果として、俺は戦争のために使ってしまったのだ。

 どう思われていたかは分からないが、良い気分ではなかっただろう。

 

 先生の語る俺は、戦争を経験していない俺のように思えた。

 その差異が、先生が正しく俺を認識しない理由なのだろうか。

 先生の見ている世界には、俺が存在する余地はないのだろうか。

 

(――ロータス)

 

 カレン先生に礼を言って、リリウムが俺の方へと駆けよってくる。

 俺の肩に手を置いて、耳元で囁いた。

 

(分かってる。魔法のせいだろ? ……分かってるよ)

 

 理解はしているつもりなんだ。

 ただ現状、先生は幸せそうで。

 俺ではない俺を愛してくれている姿を見て。

 何にも思わないわけではないんだよ。

 

(お前ってカレンデュラさんの着替え覗いたの?)

「――んぐッ!? っげほ、ごほっ!」

 

 むせた。

 こいつ急に何言いやがる!

 

 ささっと俺から離れたリリウムが、意地悪な笑みを浮かべて、

 

「スケベ」

 

 そんな風にからかってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局夜になっても雨は止まなかった。

 どころか雷の音すら聞こえてくる。

 今日のところは、ドラゴンフォートに報告に行くことも出来なさそうだ。

 リリウムは宿を借りると言ったのだが、カレン先生に引き止められて、俺たちは先生の家に泊まることになった。

 

 先生には改めてリリウムを紹介した。

 あっという間に打ち解けて、ありもしない馴れ初めを聞かせたりして、先生のうぶな反応を楽しんだり。それとなく最近変わったことは無かったかと聞いたり。

 そんな会話の中で”アル”という人物についても聞けた。

 どうやら『アルセア』という名前らしい。アルは愛称だったか。

 カレン先生の実弟で、元ホワイトクラウン騎士団所属だという。見かけた覚えが無いんだが、どうやら入って数年ですぐ辞めたらしいから、それも無理は無いのかもな。

 時期的には、ちょうど俺が先生と一緒に暮らしていた頃だった。

 

 さて、それで……突然押しかけて、泊まることになったわけだが。

 この家には寝室が2つある。2つしかない。1つはカレン先生の部屋で、もう1つはアルセアの部屋だ。

 眠るのは3人で、うち2人はカップルと来たら?

 

『……ベッドが1つしかないけど、お2人はこの部屋で良いかな』

 

 当然こうなる。

 なんか期待の込められた視線を向けられていたが気のせいだろう。

 ――そんなの嫌だ!

 なんて言うとリリウムを傷つけてしまうんじゃないかと思ったので、相手が断るのを待っていたら。

 

『…………』

『…………』

 

『ふふ、分かった! それじゃあごゆっくり!』

 

 今こうして――リリウムと並んでベッドに座っている状況が出来上がってしまったのである!

 

「なんで……?」

 

 ろうそくが部屋をほのかに照らす。

 殺風景とまではいかないが、特に物もない部屋なのが分かる。

 人が使っているような感じは全くしないが、ほこり一つ無いのを見るに、カレン先生がこまめに手入れしているのだろうか。

 何かしら情報が無いかと簡単に探っては見るものの、骨折り損に終わる。

 こんな夜にやるものではないな。

 

「部屋があるなら、アルセアって人物が実在しない人物、っていうのも考えづらくなったな」

 

 リリウムはベッドに横たわり、すぐ隣をぽんぽんと叩く。

 そこに寝ると、リリウムが身を寄せてきて、二人して天井を見上げた。

 ろうそくの火が揺れるたびに天井を照らす光も不安げに動く。

 

「でも、お前の話だと弟がいるなんて聞いたことは無いんだろ? ロータスは、どれくらいの間カレンデュラさんと一緒に暮らしてたんだ?」

「拾われたのが9歳の頃だから……5年くらいだよ。……まあ特に俺も聞かなかったし、先生も自分からは自分のことを話さない人だった。先生の言う通り、弟がホワイトクラウン騎士団に所属してたんなら身近な存在だろうし、取り立てて話すようなこともなかったのかもしれないな」

「そういうもんか。確かにオレも、家族構成とかあんまり話題にしねーしな」

 

 窓の外が一瞬光り、轟音が鳴る。雨が屋根を打ち付ける音で静寂は無かったが、ここまで距離が近いとリリウムの息遣いすら聞こえてきそうだ。

 

「ロータスの存在自体は認識してたな。あの話も嘘ではないんだろ?」

「そうだな。確かに俺はあのぬいぐるみをプレゼントされた記憶がある」

「でも、今お前がどこで何をしているのか、って認識に歪みが生まれてた。実際に目の前にお前がいるのに、アルという別人が当てはめられて。今のところ、明確にお前だけ認識がズレてるのか」

 

 そういうことになるな。

 

「だけどもちろん、ロータスという人物に対しての認識だけを歪ませる、なんて意味の分からない精神干渉じゃないはずだ」

「村の住民も探ってみる必要があるな。今日のところはおかしい点は無かったが、先生があの様子なんだ、どこかでおかしくなっていても不思議じゃない」

 

 リリウムが危惧していたようなホラー展開は無さそうではあるが、それはそれとして不気味ではある。

 精神干渉を使う魔法使いなんてのは基本的にろくでもない奴らばかりだ。

 人の心を好きに弄ぼうってんだからな。

 だから、宗教家気取りが自分を神と崇めさせたり、私利私欲のために自分に服従させようとしたり、自分の手を汚さずに人殺しを行ったり。

 ほとんどの場合、魔法は犯罪に利用されている。

 表面上だけでも平和を維持している現状は、術者の意図が全く読めないんだ。

 

「とりあえずは明日だなー。雨が止んだらとっととドラゴンフォートに行って、それですぐ解決すればいいんだけど」

 

 リリウムはそう締めくくると、身体をこちらに向けてきて手に指を絡ませてきた。

 すぐ近くに彼の笑顔が見える。光を反射させて、綺麗な青い瞳が俺を見据えていた。

 

「なあ、それよりさ! なつくね、こういうの! 昔一緒に暮らしてた時以来じゃね!」

「あの時はベッドは別だっただろ……? まあ確かに、ドラゴンフォートじゃカメリアたちとずっと一緒だったからな……こんな風に同じ部屋で寝るのは久しぶりか」

 

 思い出すのは数年前のこと。

 オータムウィートではこいつと一緒に生活していた時期がある。

 あの頃の夜は毎日騒がしかったな。リリウム曰く、修学旅行みたいで興奮するんだと。

 

「そーれーでー……! 聞いちゃったなあ、お前の黒歴史! カレンデュラさんの着替えを覗いて、しかもお風呂に突撃だって? お前もなかなかやるなあ、あはは!」

「俺だって異世界に来てテンションが上がらないわけじゃないんだよ! 先生みたいな人が近くにいたら、誰だって、その、な!?」

「その「な!?」にどれだけの意味が込められてるかは知らんけど。しっかし、へぇ~? ロータスってああいう小柄な女性の方が好みなんだぁ」

 

 ぐっ、まあ好みではあるから否定は出来んが……。

 

「巨乳も……好きだ」

「あっはっは! なんだよその弁解!」

 

 リリウムは涙目になりながらも続けた。

 

「好きだったんだな、カレンデュラさんのこと」

「ん、ま、まあ……この世界における初恋、的なあれなのかもしれないな」

「うわ、恋バナだ! すっげぇ、マジで修学旅行みてえ!」

「うっさ」

 

 耳元で騒ぐんじゃないよ。

 

「……そっか。初恋か」

 

 リリウムは少し寂しげに笑うと、俺の手を握ったままうつぶせになって目を閉じた。

 

「もう寝るか」

「うん。明日には天気も良くなっていると良いなあ」

「おやすみ」

「おやすみ、ロータス」

 

 俺も目を閉じる。雨降る夜は身体が冷えるが、リリウムの体温が心地よかった。

 初恋か。そういうもんなのかな。自分で言っておいて、あまり考えたことは無かったから、いまいち実感が無い。

 先生のことは間違いなく好きだった。

 

 今は、どうなんだろうか。

 考えて、()()

 大切な人だと思う。好きだとも、まあ、思う。だけど、さらにその先にある感情が見つからない。

 そこにあるはずなのに、濃霧に覆われてしまったみたいに見失ってしまう。

 カメリアに対しても、ロサに対しても。

 そしてカレン先生に対しても。

 抱いている感情が何なのかが分からない。

 

 俺には何か大事なものが欠けているんだろうか。

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