未来視持ちの聖女にギャン泣きされた


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作:みょん侍@次章作成中
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第15話


 

 激動の数日だったな。

 俺の失言がそもそもの始まりだったようにも思えるが、まあその誤解も何とか解けて。

 聖女の手紙が届いた後はしばらく聖女との関係性を聞かれまくった。

 俺は何にも知らんというに。

 

 そのあとは全員でギルドの依頼を受けたり、その日の夜にまたまた酒を酔いつぶれるまで飲んだり、リリウムがそれでちょっと不機嫌になって、それで2人でデートして仲直りして。

 ドラゴンフォートの町長直々にお礼を言われたりもした。今回の毒龍将討伐と、6年前の竜王山討滅についてだ。

 

 その際、とある鎧を受け取らないかと聞かれたな。

 6年前、俺が赤錆として各国を回っていた時に着込んでいた甲冑だ。返り血を浴びすぎて真っ赤になっていた。捨てたはずだが、拾われていたか。

 俺はもう勇者じゃない。丁重にお断りした。

 

 ドラゴンフォートの町長……酒場に突撃してきた時から思っていたが、中々面白い男だった。

 なんせ、カメリアが竜王になったことを祝って、住民に金をバラまいて祭りを新たに作るなんて、相当ぶっ飛んだことをしたんだからな。

 名前は『竜王祭』。竜人族との交友も目指しているんだそう。

 神輿とか目玉になるものは特になかったが、単純にドラゴンフォート全体がバカ騒ぎしていたので、まあ祭りという括りでいいはずだ。

 毎年恒例にすると言っていたし、今後面白い物が見れるようになるかもしれないな。

 

「楽しかったな」

 

 思い出すだけでにやけてしまいそうだ。

 それほど長い時間滞在していたわけじゃない。

 かつてカメリアたちと一緒にいた時間に比べれば、半分にも満たないだろう。

 こういうのを充実した時間っていうんだろうか。

 一瞬だったしな。

 噛みしめる暇すらなかった。

 でも思い返して、このほっと安堵するような感覚が嫌いじゃなかった。

 

「――」

 

 見上げると、それなりに透き通った空が見える。

 踏みしめる道は、オータムウィートから辿ってきた獣道なんかよりも頼もしい、きちんと整備された道だった。

 路銀の心配はない。町長から報酬としてたんまり貰ったからな。

 

「ロータス」

 

 振り返ると、カメリアたちが立っている。

 

「……なんだ、その。別れの言葉って、全然うまく浮かんでこないもんだよな」

 

 呆れられた。仕方ないだろ、ちゃんとした別れって経験ないんだよ。

 隣にいるリリウムも苦笑していた。相変わらず大きな荷物を背負って、ちょっと新しくなった軽装備に身を包んでいた。

 

 こうしていざ別れるとなると、もうちょっとだけ一緒にいたくなる。

 前回の別れから長い期間会わなかったせいもあるんだろうけど、やっぱりこいつらと一緒にいるのは、居心地が良いんだ。

 わざわざ見送りにドラゴンフォートの外まで来てもらったんだから、格好よく締めたかったものだけど、無茶だった。反省。

 

「アッハッハ! なに、こんな場面でまで着飾った言葉は必要ない。またいつか、僕たちは必ず会える。なら簡単に、でいいのさ。――また会おう、友よ! とね!」

「……そうだな」

「次に会うときには、自慢話を持ってくるよ。君たちのような素晴らしい友たちに聞かせてやれるほどの、特大の自慢話をね!」

「楽しみにしてるぜ、クインス!」

 

 クインスの大きな手をつかむ。輝かしい笑みが、陽の光に照らされていつもより煌めいていた。

 そして握手しながら数秒、目を合わせ続ける。綺麗な金色の瞳には、確固たる決意がみなぎっていた。

 

「それと――」

 

 俺から数歩離れてクインスは声を上げた。

 

「僕たちの力が必要になったら、是非とも頼ってくれ! ダインスレイヴは、君たちのための剣となろう!」

「ああ、頼りにさせてもらう!」

 

 そして、隣のリリウムと話していたロサが、俺の前にやってきた。

 

「ロータス、もう6年も待つのはごめんだぞ!」

「……わかってるよ。また絶対に会いに来る。お前たちと会えないのは……寂しいからな」

「うん! ……約束だ!」

 

 ロサが抱き着いてくるので、撫でてやる。

 よしよし。

 

 ……ロサはこの世界的には成人だが、もしかしたら急成長するかもしれないのか。

 そしたらもう頭を撫でることもなくなるのかな。

 なら今だけでも、思う存分楽しんでやるか。乙女のしちゃいけない髪型にしてやるぜ。

 

「……」

「カメリア」

 

 ロサの頭で遊んでいると、カメリアが近づいてくる。

 少し寂しそうで、気まずそうで、髪を指先でくるくると弄んでいた。

 

「旅が終わったら、ちゃんと会いに来てくれる?」

「……もちろん」

「…………」

「…………」

「カメリア、あのな――」

「い、いい! 言わなくていい!」

 

 俺の前まで駆け寄ってきて、その手で俺の口を塞ぐ。

 

「会いに来てくれるなら、その時に聞く」

「……」

「……忘れてないからね、私は。ロータスが言った言葉――あんな言葉、二度と言えないくらいに、立派な女の子になるから。また会ったら、答えを聞かせてもらうから!」

 

 俺に頭を撫でられ続けたロサも、顔を上げて俺を見据える。

 

「ロサも! ロサだって、ロータスが目を離せないようなレディになるからな!」

 

 ……お前たちは十分魅力的だよ。

 

「アッハッハ! 僕もそんな2人以上に美しく――」

 

「クインス!」

「兄様!」

 

「…………」

 

 あ、黙った。お前でも黙れるんだな……。

 うなだれるクインスをしり目に、カメリアたちに向き直る。

 

「本当はついていきたかったけど」

「竜王として、やらなきゃいけないことがいっぱいあるんだろ? それはたぶん、今しか出来ないことなんだから、それを優先させるべきだ」

「そう、そうね。……リリウムちゃん!」

「あ、はい!」

 

 カメリアはリリウムと視線を合わせ、彼の手を握った。

 

「良い? ロータスってば結構ずぼらで、昔は鎧をずっと洗ってないままでいたのよ? 生きるのに必要ない、とか言って入浴も必要最低限だったりして! ……彼そういうところあるから、リリウムちゃん、ロータスのことちゃんと見てあげてね」

「おいカメリア! 昔の話だろ、それ!」

「他にもあるわよ、あなたのちょっと油断したところとか! 気をつけなきゃいけないこと、結構私見てきたんだからね!」

 

 ロータスはこういうところがダメで、ああいうところも抜けてたりして、目を離すとすぐ危ない目に遭って――と、カメリアはリリウムにいくつも俺のことを説いた。

 おかんかお前は。

 

「あははっ、大丈夫ですよ。ちゃんとこいつのことは見てるので」

「……そっか」

 

 それを聞くと、カメリアはロサの手を引いて数歩下がる。クインスと並び、俺たちを改めて見つめてきた。

 

「――短い間だったけど、本当に楽しかったよ」

 

 リリウムと一緒に、そんな彼らに手を振り、

 

「また会おう!」

「またいつか!」

 

 カメリアたちは各々の反応を返し、しばし見つめあうと、俺たちは踵を返し、歩き始めた。

 出会いは色々騒がしかったが、別れはあっけなかった。

 また会おう。

 心の中で反芻する。

 

 また、会いに来よう。

 ……絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでカメリアさんとロサちゃんに約束したんだよ、いつかオレのコンカフェの1日店長に任命するってな」

「いつの間に……」

 

 しばらく歩いていると、ドラゴンフォートが見えなくなってくる。

 まだ時間的には昼前くらいだろうが、辺りは薄暗い。朝は晴天だったんだがな。雲行きが怪しくなってきていた。

 

「それで、ロータス。オレたちはどこへ向かっているんだ?」

「『ブランチリバー』……この道を進んだ先にある小さな村にな。そこに俺の……えっと、難しいな。恩師というか、先生というか、とにかく世話になった人が住んでるんだ」

「ズバリ、女の人!」

「……よく分かったな、その通りだよ」

「異世界ハーレム適正ありすぎだよお前」

「あのなあ、俺とあの人はそんな関係じゃないっての」

「……信用ならねー」

 

 なんでだ。

 リリウムは微妙な顔をして俺を見てくる。何を訴えかけているのかは全く分からなかった。

 

「先生っても、学校の、とかじゃないんだろ?」

「ああ。まあなんていうか、この世界の生き方だったり、戦い方だったりを教えてくれた人だよ」

「うわ、おっかない人……?」

「鬼教官ではあったかな」

 

 今でも覚えてる。戦争に参加する前、あの人の元で俺は鍛え上げられた。

 ホワイトクラウンでも名うての傑物らしいということはうわさで聞いていたが、俺が会った時には既に戦線を退いていたので、実力がどれほどかはわからない。

 でもよくボコボコにされてたので、たぶん敵わないんじゃないかな。

 つうか戦う想像すらしたくない。

 見た目は全然強そうじゃないのに、気付いたら地面に転ばされてるんだよなあ。

 

『カレンデュラ・オフィシナリス』。

 俺はカレン先生と呼んでいた。

 

 東の国に住んでいるという魔族の血を引く女性で、褐色肌で角が生えている。

 ふわふわした銀髪を腰まで伸ばしており、その少女と見紛うくらいに低い背からは、威圧感というのはこれっぽっちも感じない。

 俺は一睨みされただけで動けなくなるんだけどな!

 

 怖い人ではあるんだが、それでもカレン先生の教えが無ければどこかで俺は死んでいたと思う。

 俺もまあ随分と生意気なガキだったから、いきなり押しかけて歓迎してもらえるかはわからないけれど、会わないよりはな。

 たとえ門前払いを食らっても、礼だけは伝えよう。

 そう思った。

 

「……やっぱ、なんだかんだ楽しみかも」

 

 しばらく怖がっていたリリウムだったが、あっけらかんと笑う。

 

「オレの知らないお前のことがたくさん知れるんだ。思ってたよりも楽しいよ、この旅!」

「なんだそりゃ」

 

 お前も色々振り回されていただろうに。

 

「長い旅になるのは間違いないぞ。それでもついてくるのか?」

「……ああ。たぶん、この旅の終着点は、オレの考えてる通りだからさ」

「……」

「最後まで一緒にいるよ」

 

 そうか。まあ、今更お前と別れたいとも思わないさ。

 リリウムの青い瞳を見つめて、それから空を見上げる。

 

「ん?」

 

 すると、頬に冷たい感覚があった。

 空は曇天模様。ただの曇りじゃない。黒い色の曇り空だった。これは――

 

「やっべ、雨じゃん!」

「うわ、マジか! ブランチリバーってこっからどんくらい!?」

「10分20分走ればたぶん着くと思う!」

「びみょー!」

 

 すぐに大きめのマントのような雨具を取り出し、荷物が濡れるのを防ぐ。

 この空は土砂降りになりそうだな……やっぱあと1日くらい出発を遅らせた方が良かったか!?

 いやもう今更だ! 出戻りなんてしない!

 

「リリウム、荷物貸せ! 走るぞ!」

「ちょ、ま、魔法使っていい!?」

「俺にもかけてくれ!」

 

 うおおお、走れ走れ!

 なんだかんだ、濡れるのは好きじゃないんだ!

 

「あっはっはっは! 幸先わりー!」

「全くだ、ちくしょー!」

 

 俺たちは笑いながらブランチリバーへ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いだ。

 だから、気付かなかったんだ。

 道の隣にぽつりと立てられた看板に。

 

 

 

 

 

 

『この先魔力異常地帯。

 帰還者ゼロ。

 引き返せ。』

 

 

 

 

 

 

ドラゴンフォート篇 完


 

 

 

 

 

 

 ――『ブロッサムムーン』。

 ホワイトクラウンと『百獣連合』の国境を跨ぐような位置にある大きな街。

 その街の郊外にある、小さな酒場。

 サルビア・スプレンデンスは大きなジョッキを机に叩きつけると、これ見よがしにため息をついた。

 

「はぁぁぁぁあああああああ……うまいぃぃ……」

 

 桃色の髪をボブカットにして、頭には大きな狐耳。特徴的な糸目の下には、大きな隈が見える。

 机にしだれかかるサルビアに、近くにいた男は苦笑を漏らした。

 

「サルビアさん、今日はこのくらいにした方が……」

「なぁに言ってるんですか、この誰も来ない酒場で、仮面を外して飲む酒が一番うまいんですぅぅ」

「あ、あはは」

 

 男は自分のあごひげを撫でて、嘆息する。これはダメだ、潰れるまで飲むパターンだ、と。

 諦めたようにビールをあおるこの男は、商人。

 ホワイトクラウンと百獣連合を行き来する、それなりに有名な商家の長男坊だ。

 そしてサルビアは、ここブロッサムムーンの町長である。

 商談も兼ねて、今後のためにと酒を飲みに来るのだが……基本的にサルビアが腐って終わる。

 決して声に出さないが、まずい酒だとしか男は思ってなかった。

 

 ある程度重要な話をするので酒場を貸切状態にしたのも良くなかったんだろう。

 このサルビア・スプレンデンスという女性は、日中は良きリーダーとしてこのブロッサムムーンを良くしようと動いている。

 それは素ではなく、その使命も彼女が望んだものではない。

 故に、男が来ると決まって愚痴の相手をさせられるのだった。

 

「もうおかしいんですよ! 毎日毎日毎日この書類の決裁をーこの案件についての会議をー王都からの使節に対応してー百獣連合の各種族の長にも接待してー……」

「……そ、そっすね」

「おがしぃぃぃいいいいいいいい!! 私はねえ! そんな仕事ができるわけじゃないし、のんべんだらりと出来たらそれでいいんですよぉ!! 何が、なんで! こんな激務に追われなきゃいけないんですかぁ!?」

 

 じたばたと暴れだす。町長の姿ではない。

 

「あれもこれも」

 

 そしてぴたりと停止した。

 

「あいつの……ロータスのせいですよ!! あの男、自分の功績を私に丸投げしやがって! おかげで英雄なんて呼ばれて!? ホワイトクラウンと百獣連合の架け橋たるブロッサムムーンの町長に任命! ふざけんな!!」

「お、落ち着いて……」

「なぁにが架け橋じゃ! この街が出来て数年はただの板挟みだったでしょうが!! それで死ぬ気で信頼勝ち取ったら今度は良い駒として使いやがって国王この野郎!」

「その発言はアウトですよ!?」

「知るか! 滅びろホワイトクラウン!!」

 

 何より彼女の愚痴は心臓に悪い。誰かに聞かれたらマズいなんてもんじゃない。

 どうにかなだめようと話題を探して、男はとある話を思い出した。

 

「あ、ああ、その、ええっと、ロータスさん? なんですが……」

「はっ、ロータスがなんですか? もう6年くらいは顔を見てませんね! 死んだんでしょうか! あっはっは、そうだとしたらせいせいするんですけどねぇー!」

「い、いえ、知り合いの商人からとあるうわさを聞きましてね」

「……うわさ?」

 

 ロータスという人物を敵視しまくる割には興味津々なんですね、とは言わない理性が男にはあった。

 

「いえね、その人、今はオータムウィートにいるみたいで。あの、知ってます? リリウムっていうエルフが手広くやってる中で、コンカフェっていう種類の店があるんですけど」

「ん、知ってます。確かうちにも系列店がありましたよね? ええっと、『ちゃいなどれす』? みたいなのを着て接客するっていう……」

「そうそう、それです。オータムウィートはメイドがテーマでしてね、その知り合いがそこで飲んでたら、ロータスさんがその店でこーんな顔して酒飲んでたって言うんですよ!」

 

 賭博で有り金全部スったおっさんみたいな顔をする。

 

「あっはっは! なんですかそれ女に色目を使ってたんですかあの人が?」

「い、いえ! そ、そうではなく!」

 

 途端に顔から表情が抜けたサルビアにビビりつつも、男は続けた。

 

「だーいぶショックなことがあったみたいでですねぇ」

「……ショック? へー、あいつにもそういうところがあるんですねえ! 何があったんですか? 仕事で失敗したとか、ああ、女に振られたとか!」

「いやあ、それがその……私みたいな、国の外の人間からすれば、なにをそんなって感じなんですがねえ」

 

 そして男は一字一句、聞いたままをサルビアに伝えた。

 

 

 

 

 

「――ロータス正教会の聖女に泣かれたって言うんですよ」

 

 

 

 

 

「――は?」

 

 

 

 

 

 

 

 勘違いは、爪痕となって波及する。

 

 

 

 

 この日を境に、ブロッサムムーンの町長、サルビア・スプレンデンスは行方をくらませた。

 

 そんな事態になっているということに、ロータスが気づくのは――約1か月後のことである。

 

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