「卒業五分前 群⦅リンチ⦆姦」(昭和52/製作:日活株式会社/監督:沢田幸弘/脚本:斉藤信幸/プロデューサー:伊地智啓/撮影:仁村秀信/照明:川島晴雄/録音:高橋三郎/美術:林隆/編集:西村豊治/音楽:高田信/助監督:村井良雄/色彩計測:田村輝行/現像:東洋現像所/製作担当者:青木勝彦/出演:小川亜佐美・森川麻美・末宗俊子・福田勝洋・織田俊彦・椎谷建治・信太且久・田島はるか・結城マミ・隈本吉成・小泉郁之助・湯原一昭・星野かずみ・高木レミ・朝比奈睦・松風敏勝・橘田良江・坂巻祥子・横田楊子・谷文太・石渡杉・沙夢孫⦅クラウン・レコード⦆ 村上文雄・中野太一郎・小川隆・本村敏文・木暮光広)。出演者中星野かずみと朝比奈睦、橘田良江に坂巻祥子。そして村上文雄以降、沙夢孫各人の固有名詞は本篇クレジットのみ。逆にポスターには名前の載る伊達弘国が、本クレで脱け落ちる珍出納。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては実質“提供:Xces Film”。
プアーンと電車の警笛一発、山梨県大都美市、山間の町を望む開けたロング。霜に濡れる窓硝子に指で書いた、御存知“to be or not to be”。大都美なる架空の地名は、もしかしてそこ由来?男子100m走の高校記録保持者で、城南大商学部に下駄履き合格した石井英夫(福田)が目を覚ますと、布団の中には酔つて弟のベッドに潜り込んだ、姉の冬子(末宗)がゐた。冬子は三人で暮らす、ヒモ・滝沢(椎谷)の寝床に匍匐前進。特待生の癖に免除されてゐないらしく、顔を洗つた英夫は入学金を振り込みに、冬子が階下で営むライブハウス「マザー」から往来に出る。バスに英夫が乗り損ね、クレジットから先に起動。タイトルバックは卒業式を翌日に控へた、市立大都美高のそこかしこ。銀行の表、ぼんやりしてゐた英夫が危ふく、運転の凄まじく無造作な車に轢かれかけた流れで漸くタイトル・イン。
配役残り、顔がまるで出来上がつてゐないくらゐ若い隈本吉成は、英夫の悪友・南。時代の所為にしていゝものか、矢鱈観念論的な軽口を叩く。伊達弘国と松風敏勝も、同じく木内と中山。三人に揶揄はれる、この二人も級友のカップルがよく判らない。男の方は恐らく、辻なる役名のついてゐる朝比奈睦。女は星野かずみか高木レミ、多分、もう片方は知らん。紫煙で濛々とした、雀荘かと見紛ふ昭和のワイルド職員室。小川亜佐美と湯原一昭は、英語担当で英夫らの担任と思しき松宮和子と、志望校を譲らず浪人の道を選んだ藤田、絵に描いたやうなガリ勉キャラ。こゝで松宮先生の画面左隣、水木京一が黙したまゝ量産型娯楽映画に睨みを利かす。織田俊彦は和子と行動を共にしがちではあれ、関係のほどは一切不明な同僚教師・宇崎、担当科目も不詳。最初に二人登場、のち三人増えて五人揃ふ沙夢孫は、卒業パーティ兼自分等のライブ会場に―周囲の苦情で生演奏出来なくなつた―マザーを貸して呉れるやう、再三再四英夫に粘着するゼムセルフ。沙夢孫て、誰も止めなかつたのか。軽く問題なのが、小川隆(Ba.)と木暮光広(Key.)がググッてみるとフリマサイトの画像が出て来た、ドーナツ盤歌詞カードには小川隆志と小暮光広とあるものの、当サイトはあくまで本篇クレジットに従ふ。普通に考へると、まづレコード会社の出してゐる方が公式なり正解にしても。閑話休題、村上らを撒いた英夫が帰宅すると、家内にまさかの女児。坂巻祥子が、滝沢を連れ戻しに来た配偶者、娘の子役はノンクレ。森川麻美は元々四人でデートならぬダブル駆け落ちする―英夫的には頭ごなしの―予定であつた、とかいふ藪から棒な展開が盛大に木に竹を接ぐ神部蘭子。信太且久が蘭子の彼氏・早野一郎で、田島はるかは交際の有無が判然としないまゝ、兎に角英夫のことが大好きで大好きで仕方のない青村早苗。蘭子と早苗の進路は特に語られず、一郎は医大に浪人。横田楊子は、早苗の密告を受けモーテル「シルク」に娘を連れ戻しに来る、蘭子の母・澄江。連れ戻される人間の、無闇に多い世界。尤も蘭子が実は庶子につき、澄江との間に血縁はない。続けて現れる、小泉郁之助と橘田良江が一郎の両親。ところで今回の小泉郁之助、見た感じ田舎町の単なる開業医にしては、菊の御紋すら自在に動かし得る謎の権力ないし資金力を有する、エクス・マキナな御仁。終盤、強引なシークエンスの潤滑剤として何気に活躍する結城マミは、性教育込みで雇はれた、一郎の新しい家庭教師・渡辺知美。半ば捨て鉢なのか、結局冬子が沙夢孫にマザーを貸し卒パ決行、あるいは強行。強姦、傷害、あと未成年の飲酒喫煙。諸々仕出かした出鱈目な一夜明け、日活のドルフ・ラングレンこと谷文太―何だそれ―は一同に大学も就職もパーだと凄むか脅す、凶悪な強面の刑事。たゞその一幕、どちらかといはずとも被害者の早苗や藤田。特に悪さはしてゐなささうな、辻君(仮)とその彼女も一緒くたにショッ引かれてゐるのは些かちぐはぐ。知美は知美で一人だけ成人―冬子は皆と別扱ひ―してゐるやうな気もするし、その場に見当たらない、沙夢孫は首尾よく逃げ果せた模様。最後に石渡杉も地味に謎、それぽいそれなりの役となると早野医師に懐柔され、全員帰すやう谷刑事に命じる署長辺りか。
三月初頭封切り、卒業シーズンに直撃させて来た沢田幸弘ロマポ第四作。所詮、最もよく味はふにはリアルタイムに居合はせるほかない生物(なまもの)にせよ、さういふ一種の季節感ないし旬の風情は、矢張り大切なのかとも思ふ。
一言で片づけると、壮絶にそもそもの嵐吹き荒れる一作。就職組との格差的な空気含め、一般入試に合格してゐない無用の負目。間違つても経営が芳しくはない、のも通り越し姉の店は火の車。本来ならば、南・木内・中山の三馬鹿と英夫が四人で和子を輪姦す話であつたのと、前述したツイン出奔。何時の間にか練られてゐた、二つの謀。大人しく金を振り込んで、新しい未来に走り出すに如くはない英夫が、変に二の足を踏み燻り倒すところの、最終的な所以。滝沢いはく、“俺とお前が姉ちやんの足掬つちまつたんだ”。とは、いふけれど。具体的なエピソードは一欠片も顧みられない、マザーが傾いた顛末。一旦―最初の―犯行現場から英夫が拝借した、和子の下着の返却時。決定的に英夫の運命を狂はせる、遠目に見切れる宇崎の如何にも織田俊彦的な濃い存在感は兎も角、宇崎は和子が乞ふて連れて来てたのか、それとも勝手について来てゐたのか。等々、そもそもな疑問が枚挙に暇のない、大概覚束ない体たらく。埋められない外堀と、詰めきれない勘所ばかりのドラマツルギで、始終の首が据わらう筈もなく。沙夢孫に捕まる形で英夫が早苗ら三人と分離、蘭子と一郎は楽しさうな―盗んだ―車の後部座席。大方の琴線を狂ほしく掻き鳴らしたにさうゐない、英夫不在の寂寥に耐へかねる早苗が独占しかけた観客の感情移入も、親達にダチを売る不義理で無体に断ち切られる。どころか、早苗と英夫の関係性を全く描いてゐない頑なに描かない以上、劇中では途中から出て来た早苗が、英夫に岡惚れでも拗らせてゐるやうにしか映らないのが非主人公最大のそもそも。裸映画的には、絡み自体は案外地道に攻めてゐる印象を受けなくもない反面、いざ女優部に目を向けると意志の強さを感じさせる、ソリッドな容姿で二番手が煌きを放つ一方、綺麗事の範疇から終ぞ半歩たりとて踏み出でない、皮相な造形にビリング頭が足を引かれるきらひは否み難い。一回目、未遂に終つた教室での凌辱。和子が机の脚をもヒッ掴み、結構な運動量で抵抗する姿は濡れ場といふより、寧ろ立ち回りに近い迫力も漲つてゐたとはいへ。ついでに、三番手の口跡は心許ない。数少ない正方向の見所といへば、名人芸の域に達した絶妙さで飛び込んで来る水京の一撃離脱と、しかも素寒貧なヒモの分際で、肩で風切る無頼が闇雲にカッコいゝ椎谷建治の捌け際。一番暴発もとい爆発的に面白かつたのが、英夫が改めて和子を犯し、冬子は三馬鹿を受け容れる。勃つた宇崎を、何を血迷ふたか一郎が手で扱き、知美は藤田を喰ふ。挙句どさくさに紛れ蘭子が木内に抱かれる狂乱に、抑制的なインストが派手に馴染まない、劇伴が水を差すクライマックス。メタ的な立場上喧騒に加はる訳にも行かない沙夢孫の面々が、板の上から呆然と見てゐるだけの間抜けなカットが、攻撃的に可笑しくて可笑しくて大笑必至。全体往時、直截にいふとそんな頓馬ぶりで、このバンドにとつて今作は果たして正方向のプロモーションたり得たのであらうか。何はともあれ根本的に解せないのが、沙夢孫以外外様のビッグネームを招聘―沙夢孫はビッグなのか―してもゐない割に、七十五分弱もある些かでなく過分なランタイム。素気ないのも超え呆気ないラスト込みで、斯くも徒な長尺を費やしておきながら、広大にオッ拡がつたガッバガバの行間は如何なる寸法かといふ、憤懣に限りなく近い疑問が最も強い。要は、とゞのつまり英夫が何処にも行かなければ大して何もしない、腰の重いモラトリアムが物語にとつての致命傷。
大体、アバン以降も数度印象的に抜かれはする“to be or not to be”が、かといつて何某かの含意にさへ実を結びもせず。途中である意味綺麗に忘れ去られる、沙翁激おこ
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