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青空文庫の名随筆(無頼派)

文豪の随筆 エッセイを読め。

『こころ』『人間失格』みたいな長編は読まずともよい。数分で読了できるエッセイにこそ真実がある。

青空文庫で読める随筆のうち、面白かった随筆のみ貼っていきます。小説は紹介しません。題をクリックすれば青空文庫の原文に飛べます。どれも5分〜30分程度で読了できるボリュームです。私が読書時につけた簡単なメモも併記しました。

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坂口安吾

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◆活動期間:1906年〜1955年(48歳没)
◆推理小説や歴史小説を中心に発表。
◆随筆は力強く、怠惰や享楽を肯定していく作品が多い。

安吾巷談 麻薬・自殺・宗教

ヒロポンの打ち方はじめ、当時の薬物事情について詳しく語っている随筆。時代の証言として貴重なもの。誰にでも、薬物使用のルーティンがあり、安吾の薬物ルーティンを窺い知れる。致死量の眠剤をとり、気つけにヒロポンを飲み、最後はウイスキーで落とす。こうした生活でよくも50代まで生き延びたものだと思う。

反スタイルの記

「とにかく、きく。これを飲めば十時間は必ず眠れぬ。その代り、心臓がドキドキし、汗がでる、手がふるえる、色々とにぎやかな副産物があって、病的だが、仕事のためには確かによいから、自然、濫用してしまう。」坂口安吾による素晴らしきヒロポン評。あらゆる無駄を排除した力強い筆致がメタンフェタミンの特性を示しているかのよう。陰翳礼讃ならぬ、ヒロポン礼賛。まったく支離滅裂な人格から、これほど整理された文章が出力されるのは不思議だ。

酒のあとさき

坂口安吾は酔うために酒を飲むという。酒の味などどうでもよいとする、酒にまつわるちょっとした随筆。酒飲みは、酔っ払った悦楽の時間より、醒めて苦痛の時間の方が長いのであるが、それは人生自体も同じことだと説明する。中原中也との出会いなどにも触れられる。

ちかごろの酒の話

メチルアルコールという粗悪な酒の話。戦中戦後の粗悪な薬物の話は古来オモロだと確定している。こうした粗悪な物質をドシドシ摂取する強い人間を見ると、ホモサピエンスの耐毒性能を称えたくなる。お前ら思い出せ。サルに樹上を追いやられ、ハイエナと腐肉を奪い合ってた屈辱の先史時代を、お前ら思い出せ。

俗物性と作家

古来、バルザックやドストエフスキー、チェーホフにスタンダールなど、“崇高な文学”にカテゴライズされる作品の大半は雑誌新聞社の俗悪な要求に応じ、また作家自身の金銭の必要に応じて作られたものだろうという考察。われわれが「教養文学」と無批判に捉えている古典作品の半分くらいは、俗的な現世利益のために書かれたものだろうという鋭い指摘がひかる。

太宰治情死考

太宰治の自殺についての所感。太宰の自殺は、自殺というより、芸道人の身もだえの一様相であり、今回たまたま死ぬまで行ってしまったのだからそっとしておいてやるがよろしい、という趣旨の随筆。

不良少年とキリスト

歯痛の話から始まる太宰治考。この時代の文豪はみな虫歯に苦しんでいる印象がある。太宰のピエロっぷりを腐すと同時に、偉大な才能の喪失を嘆く。死ぬのはアカン、と自己暗示的に連呼するのは、安吾もそうした“死”に魅入られてしまう傾向を持つからだろうか。我々も注意しなくてはならない。

デカダン文学論

健全なる美徳、清貧だの倹約精神だの、困苦欠乏に耐える美徳などというものは美徳ではなく、悪徳であるという主張。困苦欠乏に耐える日本の兵隊がアメリカの兵隊に負けたのは当然で、耐乏の美徳という日本精神自体が敗北したのだ、という、今でいう体育会系マッチョイズム批判の論。

教祖の文学 ――小林秀雄論――

坂口安吾による小林秀雄批判。愛憎入り混じる複雑な視線がそこにはある。安吾は観念的な言葉遊びを嫌い、次のように主張する。「詩人を解すには、詩を読むだけで沢山だ。こんなこともした、こんな一面もあった、と詮索して同類発見を喜んだところで詩人を解したわけでもなく、まさしく詩を読むことだけが詩人を解す方法なのだ」

精神病覚え書

安吾がアドルム中毒で東大精神病院に入ったときの記録。薬物療法の詳細が書かれいる。ズルフォナールという催眠薬はものすごくエロになるという。そのほか、聖書のパウロやゴッホはテンカンではなかったか、などのトピックを小林秀雄と討論しあい、精神病院の外の世界の方がよほど奇怪なのではないかと考察して終わる。ちなみに本文で触れられるA級戦犯のO氏というのは大川周明(東京裁判で東条英機のハゲ頭を叩いたハゲメガネ)のこと。

ヒンセザレバドンス

安吾の金銭感覚についての随筆。安吾と貧乏は切っても切れぬ縁にある。一カ月分の給料を一晩で使い切り無一文と化して三日間ぐらい水だけ飲んで過ごすこともあるが、身から出た錆なので我が身を呪うことなどありえないと言う。これには共感せざるをえない。

悪妻論

悪妻に一般的な型はない。良妻というものは、知性なき存在で、知性あるところ女は必ず悪妻となる、という強烈な思想が述べられる。多情淫奔な妻は亭主を困らせるが、そこに魅力がありうるのだとする、フランスかぶれの感もあるファムファタル論。

青春論

「今が自分の青春だというようなことを僕はまったく自覚した覚えがなくて過してしまった。」という冒頭の文に惹かれる。青春についての論かと思いきや、話題はさまざまで”エッセイまとめ”的なつれづれ書き。ちょっとした短編集になるくらいにはボリュームがある。

堕落論

戦後すぐに発表された坂口安吾の出世作。それまで軍国マッチョイズム一色だった世の中にこれが出される衝撃たるや。安吾いわく、人間というのは本来だらしない動物で怠惰なのが自然、特攻隊だ聖女だ何だのの方が不自然で、無理が生ずる。「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない。」という有名な一文があるけれど、冷静になって読むと”生き、堕ちただけで何が救われるんだ?(堕ちる→救われる、が繋がらない)”という印象を抱くのだが、強い筆致により疑問が生ずる間もなく説得されてしまう。

後半の「けれども私は偉大な破壊を愛していた。運命に従順な人間の姿は奇妙に美しいものである。」の部分に思うのは、地震や台風の最中になぜかワクワクして笑ってしまう日本人の姿(いまでは不謹慎と非難されるが)、それに近い人間の動物的たくましさをこの随筆から感じ取った。


太宰治

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◆活動期間:1909年〜1948年(38歳没)
◆ウジウジとした人間心理に踏み込んだ小説の書き手で、自殺未遂や薬物ODを繰り返すなど、今でいうメンヘラ的特性をもつ。
◆自己愛と自己嫌悪のはざまで葛藤する様子が弱者の共感を得て、熱心なファンをあまた生んできた。

我が半生を語る

太宰治の自伝。自らの経歴や考えていることなどを簡潔に述べていく。自己愛と自己嫌悪を行ったり来たり、さまざまな煩悶の様子が見て取れる。読者が太宰に求めるものの多くが記された、根暗ジメジメ文学の金字塔。

作家の像

随筆を書こうとする太宰。書いては破り、書いては破りを繰り返すも、一向に進まず煩悶する。絵に描いたような文豪のすがた。太宰の生々しくナイーブな文章はインターネット向きだと思う。

一日の労苦

舞台のない役者は存在しない。この頃、じぶんの苦悩について自惚れを持ってきた。私は私自身のぶざまさに花を咲かせ得る。太宰治の“咲きっぷり”を刮目せよ。

鬱屈禍

芸術を生み、育て、昇華させるのは、ある種の鬱屈であり、そうした障害を踏切台とするべきだ、と言いつつも、そんな上手いこと昇華できてたまるかという不平もある、苦悶の随筆。

織田君の死

死ぬ気でものを書き飛ばしている男、織田作之助。こいつは死ぬ気だ、しかし、太宰にはどうしようも出来ない。いやらしい忠告なんて偽善だ。織田君、よくやった!

佐渡

太宰が佐渡を旅行した時の紀行文。佐渡のような淋しい場所に何しに来たのだろう、という煩悶が見てとれる。絶妙に退屈で、家にいた方が良かったかな、という感じも一人旅行あるあるで共感できる。そういう記憶の情景は、エイジングされてこそ味が出てくるものだと思う。

酒の追憶

太宰と酒の馴れ初めや、その周辺の思い出などをつらつらと語る。太平洋戦争中、一升瓶を携えてやって来た友人にいたく感動して上機嫌になる。他人の酒の話はなぜこうも面白いのか。日本酒をちびちびやりたくなる。

禁酒の心

この頃の酒は、人間をひどく卑屈にする。酒を飲む時は、近所の連中に羨ましがられないよう、戸を閉め鍵をかけ、一目盛ずつチビチビ飲む。その卑しさときたらたまらず、禁酒を決意するのだが、機が熟さぬとでもいうのか、いまだ断行の運びにならぬ。という具合の酒に関する煩悶。

如是我聞

「ものをいうということは無神経の証拠であって、かつまた、人の神経をも全く問題にしていない状態をさしていうのだ」などと、権威や老大家とされる人々に疑問を投げかけ言う。弱さの美しさを知らぬのだ、と。

悶々日記

「苦悩を売り物にするな、と知人よりの書簡あり」というような世知辛い日記がつらつら続く。増える借金と体調不良。社会不適合の感がすごい。

もの思う藁

200〜400字程度のひとくちエッセイのつらなり。太宰治ツイート集、みたいな感じで読める。作家論や日常おもったこと、とりとめもなく言及していく。まんま太宰のツイート集を読んでいる気になる。

碧眼托鉢

もの思う葦と同じような形式のひとくちエッセイ。こちらの方がボリューム少なめ。


織田作之助

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◆活動期間:1913年〜1947年(33歳没)
◆大阪を舞台にした小説、随筆を数多く発表。
◆自らの健康など気にせず、タバコとヒロポンをやりまくり、結核で死んだ。ヒロポンは静脈注射でキメる本格派。

郷愁

本記事は随筆のみ紹介すると書いたが、これだけは例外として許してほしい。夜の寂しい駅が舞台の短編小説。人のいないプラットフォームに裸電燈がポツンと、ものすごくエモーショナルな気分になる。ヒロポンも登場。読後、余韻が残るのは良い作品の証拠で、織田作はもっと評価されて然るべき作家だと思う。

大阪の憂鬱

戦後の大阪の闇市場のスケッチ。私は闇市というのは、ヤミ米とか密造酒ばかり売ってるものと思い込んでいたのだが、なんと蛍が売られていたらしい。風流ではないか。しかし織田作、こうした美談で感傷を誘うのは気に入らないという。闇市の蛍はとうぜん闇蛍(ヤミホタル)と呼ばれる。美しさの二乗。

中毒

「スタンダールは彼の墓銘として『生きた、書いた、恋した』という言葉を選んだということである。しかし、私の考えるスタンダールはそんなこと言わない。感傷的すぎて、いやなのだ。」というスタンダール信者の織田作による、愛憎まじえた熱烈なスタンダール考察。○○はそんなこと言わない、の源流ここにあり。そのほかタバコへの賛歌のようでもある。

文学的饒舌

織田作がスタンダールについて語ろうとするも、語りたいことがまとまらず苦しみもがく。文壇からの酷評に闘志を燃やし、ヒロポンの量が倍増する。こうした破滅型の作家をみるとなぜかドキドキしてしまう。

僕の読書法

謙遜の美徳を理解していても、結局ひとは自惚れの快感に負けてしまう。人に読ませるつもりで書いたのではないという原稿でも、結局は世に出ている。織田作は寝そべりながら、ただひたすら楽しみのためだけに本を読むという。赤鉛筆を持って抜き書き(読書メモ)するなどもってのほかで、楽しく読めればいいのだ、という無頼派的読書のすすめ。


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ALISON
くすり代をください。

コメント

1
dragon liver
dragon liver

キメねこ先生、坂口安吾、どちらも大好きです。「精神病覚え書」はエッセイですが、同じ内容を書いた「小さな山羊の記録」は散文詩で、とてもいいですよ。それと、将棋や囲碁の観戦記も書かれていますが、臨場感がとってもイイ感じです。将棋の木村義雄名人にゼドリンを勧めてたりして。

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青空文庫の名随筆(無頼派)|ALISON
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