とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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おまたせ、待った?(アンカト風)

ちょうど三ヶ月振りですか。こんなに間が空くのは初めてですね。
いや、ほんとすみませんでした。リアルが忙しかったのもありますが、この話は構成が難しかったんです(汗)


106.脳内会議

 吹寄を病院に付き添いで訪れた俺は、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)から安静にしていればすぐによくなると聞き、安心して病院から出て上条達のもとへと向かう。

 

「(今頃、上条と土御門でオリアナとバトってるんだろうなぁ。上手い具合で抜けれたことは幸いだった)」

 

 あの場でしゃしゃり出たのは吹寄を救うためだけではなく、オリ主なりの打算があった。

 

「(オリアナ戦まで深く関わると最悪、オリアナが負けることになりかねない。俺としても吹寄に連れ添う事で自然に離脱することができたというわけだ)」

 

 土御門はあれで甘いところがあるし、魔術師の戦いに素人、しかも学校の同級生を巻き込んだ事に罪悪感を抱いているはず。そこに付け込み脱出することに成功したという訳だ。

 

「(まあ、回復できるかどうかは一発勝負ってところではあったけど)」

 

 オリ主としても今回の回復能力の使い方は初めてだった。とはいえ、計算上ではできる可能性が高かったから実行したのだが。

 これも、優秀なサポーターが居たからに他ならない。

 

「(今回は助かったよエルキドゥ。今回はエルキドゥが居なかったら間違いなく実現しなかった)」

 

 そう、今回の立役者はオリ主ではなくエルキドゥなのだ。その最高のサーヴァントは功績を誇るでもなく、淡々とマスターを立てる完璧な振る舞いをする。

 

 

『いや、僕じゃ思い付くことさえできなかったよ。まさか、あんな方法で回復させるとはね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは遡ること約二〇分前。

 空間移動(テレポート)で土御門を運んでいたときのことだ。移動しながら俺はずっと考えていた。

 

「(今回、俺にできることは少ない……。少なくともあの状態の吹寄を劣化模倣(デッドコピー)で救うことができないのは言うまでも無いし、魔術を人前で使っちゃいけない以上、魔術を土御門から教えてもらいながら吹寄を回復させることもできないか……)」

 

 その思考回路は『原作知識』あってのものだ。小萌先生が自動書記モードのインデックスから魔術を教えてもらい、回復魔術を使用したようにする方法。

 当然、拒絶反応が起こるが土御門と同じ様に、回復能力を持つ俺ならば激痛を我慢すれば不可能じゃない。衆人環視という状況でなければ。

 

 これは隣に居る土御門もその土御門と話している上条も知らない、吹寄制理に起こる未来の悲劇。原作知識からそれを俺は知っている。だからこそ、考える時間だけは誰よりもあった。

 とはいえ、そんなすぐに思い付くものでもない。思い付くのは空間移動で吹寄を病院に運ぶくらいだ。

 

 だから、そもそもの前提を変えてみた。

 

 

「(エルキドゥ、力を貸してくれ)」

 

『もちろんだとも。それで僕は何をすればいいんだい?』

 

 

 一人でできないのなら優秀なサーヴァントに頼ればいいじゃない、と。

 カッコつけたって解決しないのなら、エルキドゥに頼ってみよう。だって今までの傾向からしてエルキドゥって頼ったときの方が生き生きしてるし。

 あの暴君の友達っていうから安易に頼ると、失望されて縁を切られそうだと思ってたから、今まで会話くらいしかしかして来なかったけど、そうじゃなかったらそりゃあバンバン頼りますとも。

 

「(まず相談。エルキドゥって自分以外を回復する能力とかある?)」

 

『該当するのは【完全なる形】だね。でも、残念だけどマスターの身体と一体となったことで、【完全なる形】はこの機体にしか作用しなくなってしまったみたいだ。

 今の僕に他者の身体を治す機能は備わっていないよ。可能にするにはスキルの【変容】を使って、僕本来の姿へとならないといけないだろうね。

 だけど、間違いなくマスターの魂を圧迫してしまうから、何かしら影響が出てしまうだろう。僕としては止めておいた方がいいと思うよ』

 

 これも身体を共有することになった影響の一つなのだろう。本来のスペックよりもグレードダウンしてしまい、今のエルキドゥには他者にまで回復をかける力は備わっていないようだ。

 

「(……そうなるとエルキドゥのスキルっていうのは、今回に限って言えば使えないってことか。そして、それは俺の劣化模倣に関しても同様。……やっぱりこれは一筋縄じゃいかないな)」

 

 エルキドゥが他者への回復ができないのなら、エルキドゥの力を当てにすることも難しいだろう。それこそ無理を通して本来のエルキドゥの姿となってしまっても、アレイスターに感知されてしまう可能性が高い。

 

「(エルキドゥだと分からなかったとしても、少なくとも大天使クラスの存在だということは間違いなくバレる)」

 

 アレイスターにバレてしまえば全てが台無しになる。あくまでも劣化模倣で治したという事実が必要なのだ。

 

「(つまり、必要事項をまとめると……)」

 

 

 

『エルキドゥではなく天野倶佐利の状態+劣化模倣での回復能力を使ったように見せる』

 

 

 

 という事実が必要になってくるのだが、

 

「(…………無理じゃね?)」

 

 思ったよりかなり難しい条件だった。一瞬で諦めようかと思ってしまうほどに。

 

「(えぇ……。エルキドゥの力が使えず俺の劣化模倣も使えないとか、無理ゲーもいいとこなのでは?どうやってやんの?これ?)」

 

 ここで出来ませんでしたと諦めたいところではあるが、ここで諦めては別の問題が出てくる。

 

「(いやでも、このままだと今の流れに乗ってオリアナと戦うことになるからなー……。そうなると間違いなくボロが出るじゃんよー)」

 

 オリアナは強力な魔術師ではあるが、それは多様な魔術と身体能力の高さにある。だが、それを俺が相手では相性が悪すぎる。

 速記原典(ショートハンド)と同じ様に、違う能力を複数使うことができることに加え、警備員(アンチスキル)の捕縛術にエルキドゥの身体のスペック。

 そして、さらに原作知識の知識チートによる行動パターンの把握などという、もはや嫌がらせなのではないかと思うレベルでマウントを取れるのである。

 その上、原作通り上条まで居ることで幻想殺し(イマジンブレイカー)という異能チートまで、オリアナに襲い掛かることになる。

 さらにさらにどうしようがないのが、手加減などしようものならばプロの魔術師である土御門と、直感が鋭い上条のコンビに見破られる可能性があるため、必然的にコピーした超能力のバーゲンセールをしなければならないということになるのだ。

 

 はっきり言って勝っちゃうのである。

 

 逆に負け筋が見当たらない困った展開になってしまう。ここで上条の幻想殺しに倒されなければ、後で出てくるグレムリンによってオリアナは殺されてしまうだろう。

 俺が居るなら土御門は上条を不意をつくための切り札として使うだろうから、主に戦うのは俺となるはず。つまり、上条はオリアナの渾身の一撃を防ぐポジションに収まってしまうのだ。

 もし、それで事件が解決してしまったら、オリアナが幻想殺しに対策を原作程に練るとは思えない。何かしらの魔術による相殺だと考えるのではないだろうか。

 そうなればグレムリンの魔術師に敗北することが確定する。

 

 そしてここまではオリアナの話だが上条にもマイナスなことばかりだ。オリアナとの単純な戦いの経験値もそうだが、幻想殺しでの打ち消し後にラグが起こるのを、しっかりと認識したのは多分ここなのだと思う。

 ここで幻想殺しの弱点の一つを認識していないために、あとでとんでもないことになるという可能性がある。そして、それが起こるとするなら魔術サイドの事件のはずだ。

 今回で俺は魔術サイドの問題と関わることにはなったが、おそらく上条ほどに自由に介入できるわけではないだろう。上条は無能力者(レベル0)にして、禁書目録のパートナーだからこそ許されているのである。

 多くの魔術サイドの人間にとっては、友達の友達くらいの距離感の人間が自分達の領域に入られていい気はしないはず。

 それこそ、エルキドゥを世間に知られていない俺は、外から見れば学園都市製の能力者でしかないだから。

 

「(……それにしても、熱中症かぁ……)」

 

 たかが熱中症。

 しかし、超能力と神代の神造兵器の力を以てしても、治す手立ては無いのが現状だ。八方塞がりの中で思い出したようにエルキドゥが問い掛けてきた。

 

『それとマスター。それは「病」でいいのかな?』

 

「(え?急になんで?)」

 

 今更な質問に呆気に取られる。何故急にそんなことを聞くのだろうか。

 

『確かこの国では「日射病」とも言われている病気だったはず。もし病だとするなら僕との相性は最悪だ。余計に力にならないどころか身体を共有しているマスターに、何かしらの影響を与えてしまう可能性がある』

 

「(……ああ、なるほどね。熱中症は気温が高い場所に居続けることで起こる、身体の水分と塩分のバランスが崩れた状態のことだから、細菌やウイルスと直接関係ある症状じゃないんだよ。

 それと、昔は病気は神様から与えられるとか言われてたらしいけど、今じゃ細菌やウイルスって解明されてるから、神様って概念はぶっちゃけ無い。

 だから、そう言う概念的な要素も大分薄れてると思うし、エルキドゥの特性でも多分大丈夫じゃないか?)」

 

 全ての事象が神様によるものだとされていた神話の時代は、病であっても神秘が宿っていたに違いない。だとするならば、神秘が薄れた今の時代ならそこまで重篤な状態にはならないはずだ。

 ……まあ、魔術による攻撃だと効く可能性が高いけど。

 

「(そもそも、劣化模倣でコピーした能力の方は外傷を修復する力だから、水分と塩分のバランスが崩れる原因の、脳が体温調節機能に支障をきたす状態の回復にはとことん向いていない。

 つまりは、デメリットが無くても熱中症には使うことができな…………ん?熱中症?)」

 

 そこで違和感を覚える。

 重度の熱中症。

 それが吹寄の身に起こる症状だ。それは間違いない。だが、何か根本的なことを間違えているような感覚に陥る。本来ならそうなるはずがないのにもかかわらず、何故か辻褄が合ってしまい成立しているようなそんな歪さ。

 そして、ハッとしてその事実に気付く。

 

 

「(──そうだ。『吹寄の熱中症を治すこと』を考えるんじゃなくて、『魔術によって熱中症のような症状になっている吹寄を治すこと』を考えるんだ)」

 

 

『……?それは何が違うんだい?』

 

 エルキドゥが疑問の声を上げる。念話ではない思考をサーヴァントは受け取ることはできない。そのため、エルキドゥは直接尋ねてきたのだ。

 

『どちらにせよ熱中症という結果は変わらないのだから、それを改善する方法を見付けなくてはいけないんじゃないのかな?』

 

「(いや、その前提があるなら、わざわざ熱中症の治し方をする必要が無い。と言うか、そもそもそれが当たり前なんだよ)」

 

 思わず疲れたような声を上げてしまった。当然だがこれは理解できないエルキドゥを叱責するようなものではない。

 ため息を吐くような気だるげな雰囲気を漂わせながら、俺はその名前を言った。

 

 

「(冥土帰し(ヘブンキャンセラー)。あの人が思考を妨げていた特異点だ)」

 

 

 その名前はエルキドゥも中から見ていたため知っている。だからこそ、ここで名前が出てきたことを不思議に感じたのだろう。

 

『彼は彼女を救った医者なのではなかったのかな?マスターの話から考えても何か特別なことをしたとは思えないけど』

 

「(その通り。あの人は別に吹寄を救うために、魔術の領域に足を踏み入れた訳ではないと思う。アレイスターの知人であっても魔術を根絶させたいアレイスターが、魔術を使う人物に容赦するとは思えない。

 それこそ、アニメで見せた親しげな雰囲気にはきっとならないだろうな)」

 

 そもそもの話、科学的な方法で治そうと考えていたのはチートカエル先生の影響が大きい。エルキドゥの能力も俺の劣化模倣(デッドコピー)も、カエル顔の先生と同じように『熱中症を治療する』ことに使おうとしていた。

 あの先生が治した方法が科学医療なのだから、それが正解なのだとオリ主は思っていたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……それはそうだけど。それは今さらな気もしないかい?他に方法があるのならそれを探す方が確実だと思うけど』

 

「(いや、きっとここが問題打破の糸口だ。熱中症が治せないなら別の方法。つまり、生命力に干渉して吹寄を治すことができればこれは解決するはずだ。

 元はと言えば、生命力が空転してしまい吹寄は熱中症のような状態になっているのだから、その生命力に正しい流れで力を注ぎ込めば改善する可能性は高い。…………まあ、それを実現するのが難しいんだけど)」

 

 科学サイドの熱中症の治癒ではなく、生命力そのものの干渉。

 

 熱中症を治す術がないならば、生命力を(なら)すことで回復させようとする考え方。おそらくこれが原因に対して直接的に治す方法である。

 そもそも、冥土帰しと同じ方法では絶対に無理だ。それは熱中症を治す能力が無いという事実だけではなく、おそらく熱中症を治すセオリーだけではない医療技術を、あの先生は使っている。

 これは予測でしかないが、魔術によって発症する症状が医療で認知されている症状と、全く同じなどということがあるのだろうか。

 実際に土御門も熱中症に近い症状と言っただけで、熱中症そのものと言ったわけではないのだ。それなのに、熱中症の治し方で対処する方がどうかしている。

 

 え?でも、カエル顔の医者は医術でどうにかしているじゃないかって?

 ……いや、ほら。あの人は回復チートだから(汗)

 

 そんなわけで、吹寄を助けるなら生命力に干渉すること一択なのだが、エルキドゥの能力が他者に使えないため俺だけの力。つまり、天野(あまの)倶佐利(くさり)が持つ力でどうにかしなくてはならないのである。となると、必然的に劣化模倣(デッドコピー)に頼ることに……。

 そこまで考えているとエルキドゥが話しかけてきた。

 

『マスターの勘違いを一つ正しておくよ』

 

「(ん?何?何か間違ったこと言ったっけ?)」

 

『僕の【完全なる形】を使えば魔術による拒絶反応はすぐに修復する。あの魔術師の少年から専用の魔術を聞いて、それを行使すればいいだけだから、魔術が全て使えないというわけではないと思うよ』

 

「(あー、なるほど。エルキドゥの力に頼らなくても、魔術という手段はなくならないという訳か)」

 

 中継に魔術の使用するところを見られる訳にはいかないが、吹寄が倒れたのだからずっと映しておくことはないだろう。それならば魔術の使用も問題はない。

 しかし、だとするなら一つ疑問が生まれる。

 

「(なんで土御門はあのときなんの処置もしなかった?オリアナが居るから体力温存を兼ねて?

 ……これはまああり得る。土御門が発動できる魔術には弾数があるらしいから、吹寄を見捨てる算段を立てたのかもしれない。

 だが、もう一つのパターンが有力だと俺は思ってる。そう、つまり、生命力へ干渉し調整する魔術など存在しないのではないのか、と)」

 

 オリアナの迎撃魔術は生命力に対して反応しているが、それに対して土御門がステイルに何も魔術を行使していないのだ。土御門本人がダメでもそれをステイルが使えばいいのにだ。

 もし、仮に宗教の違いでステイルが使用することができないのだとしたら、なおさら魔術を使ったことがない俺にできる訳がない。

 これは、つまりどういうことかというと、

 

「(俺に魔術を使うことは現時点で不可能。うーん、やっぱダメかあ?)」

 

 とはいえ、無意識の内につい、天野倶佐利=科学サイドの人間なんだっていう式が出来上がっていた。土御門やステイルに科学サイドの人間であると言われたり、学園都市では超能力しか使えないから、エルキドゥの力が使えないと分かると、すぐに科学サイドの力に頼ろうとするのは俺の悪い癖だな。

 俺の真価は特典とエルキドゥの力を合わせることで生まれる、科学、魔術問わないハイブリッドなんだから。

 今回はダメだったけどエルキドゥみたいな科学サイドも魔術サイドも同じくらい柔軟な…………──あ。

 

 その瞬間天啓のようなものが頭に降って湧いた。曇っていた視界が丸ごと晴れたのだ。

 

「(分かったかもしんない……)」

 

『何がだい?』

 

 エルキドゥから疑問の声が上がる。エルキドゥからすればただ単に俺が勘違いしていることに関して、訂正をするために話しかけたに過ぎないだろうが、それが最後のピースになったのだ。

 それを伝えるために力強くエルキドゥに告げた。

 

 

 

「救うその方法が分かったんだ」

 

 




申し訳ない。次話まで続きます。
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