JA史上稀にみる巨額赤字、支払われない賠償金…JA秋田おばこの「不正会計の闇」
杜撰極まりない概算金の設定
概算金については、地域のJAが農家に示す生産者概算金とは別に、それより早い段階でJA全農の各県本部が地域のJAに示す「JA概算金」がある。これは、地域のJAがJA全農に出荷したときに払われる一時金である。こちらも収支が黒字となったら、JA全農から地域のJAに追加払いがなされる。このJA概算金は、その年に収穫した産地品種銘柄の基準価格となり、相場に大きく影響する。 JA秋田おばこは直接販売を始めた2004年から、このJA概算金に独自の奨励金を加えた生産者概算金を農家に示してきた。JAにとって、生産者概算金の設定は、収支が赤字にならないよう慎重に決めるべき重要な問題だ。全国一のコメの集荷量を誇るJA秋田おばこであれば、なおさらだ。需給を見誤った生産者概算金を設定すれば、収支の赤字が膨大になるからである。 にもかかわらず、同JAの生産者概算金の設定の仕方は、直接販売を始めた当初から杜撰極まりないものだったという。ひと言でいえば、在庫の販売予測はしていたものの、収支予測はしていなかった。生産者概算金の設定を見誤り続けていたわけである。 さらに、追加払いも収支に基づいていなかった。JA全農に出荷している分のコメについて全農から追加払いがあれば、収支を計算しないまま、直売している分のコメについても、それと同額の追加払いをしてきた。要は農家に払い過ぎてきたわけである。これにより、同JAは直接販売を始めた2004年産から2010年産までの間に、推計として計16億2319万円の収支赤字を出していた。
なぜ「推計」なのか
なぜ「推計」かといえば、同JAが2010年まで、コメの在庫管理や入出庫の数字を管理する、ITを使ったシステムを導入してこなかったからである。ここでは便宜的に「米穀管理システム」と名付けておこう。 では、どうしていたのかといえば、同JAの内部事情に詳しい人物によると、2010年まで、なんと手書きで伝票をつくっていたという。同JAがコメを保管している低温倉庫は、卸売業者に委託している分も含めて50を超える。全国で最も多くコメを取り扱っていたというのに、まったく信じられない話だ。だから、次のようなお粗末な事態も起こる。 「それぞれの倉庫からは、毎日のようにお客さんのもとへ出荷されていきます。ただ、本店にあるコメ業務の本部に各倉庫の在庫データが上がってくるのは月に1回でした。しかもそれを伝票に手書きするので、記載に間違いがあったり、最新のデータに更新されていないことが常態化していました。だから本部から倉庫に発送を依頼しても、在庫がなかったなんてことはざらでしたよ」 この人物によると、職員は伝票の整理にてんやわんやとなり、繁忙期ともなれば土日や祝日も関係なく出勤していた。彼は、手書き伝票を不正会計を招いた要因の一つとして挙げる。 いずれにせよ、JA秋田おばこでは棚卸しができなかった結果、2010年産までは年産ごとの精算ができなかった。このため第三者調査委員会も、同年産までの収支赤字は推計するしかなかったのである。
窪田 新之助(ノンフィクション作家)