JA史上稀にみる巨額赤字、支払われない賠償金…JA秋田おばこの「不正会計の闇」
組合員のための組織であるはずのJAで、「不正販売」や「自爆営業」が蔓延っている。 元「日本農業新聞」記者である著者の徹底取材により明らかになったのは、共済(保険)事業と信用(銀行)事業への依存と、職員に課された過大なノルマの結果もたらされた「不都合な真実」だった。 【写真】JAのヒドすぎる「不正」と「組織ぐるみの隠蔽」を暴く衝撃の一冊 JAは本当に農家の味方なのか?「農業協同組合」本来の理念や目的を忘れてしまったのではないか? 全国津々浦々に拠点を持ち、1000万人以上の組合員を抱える巨大組織の腐敗を暴いた一冊『農協の闇』より、一部抜粋・再編集してお届けする。 『農協の闇』連載第17回
支払われない賠償金
では、歴代の役員たちは、そうやって減額させた賠償金をきちんと払ったのか。同JAがまったく取材に応じないので、代わりに複数の組合員に確かめると、2022年3月末までに支払われた金額は、全体の4割に満たない約9000万円にとどまるということで一致した。 残るは約1億6000万円。だが、これは今後もほとんど支払われることはないだろうというのが大方の組合員の見方だ。なぜなら、この約1億6000万円のうち1億円を超える賠償責任を負った藤村氏が、事件が発覚した直後に亡くなってしまったからである。残りの5000万円強の賠償責任を負ったのは、副組合長だった大友忠氏だが、こちらもほぼ弁済していない。 他方、組合員に取材する限り、同JAは巨額の損失の弁済については、当初の予定通り2022年度中に片を付けられる見込みだ。さらに、第三者調査委員会が不祥事を招いた要因として指摘した「ガバナンス機能の不全」や「コンプライアンス意識の欠如」についても、とりあえず改善する態度を示すことで、幕引きを図ろうとしている。 だが、じつは肝心な疑惑が解き明かされぬまま放置されている。誰もそれを指摘しないのをいいことに、いまもほくそ笑んでいる連中がいるのではないか。前置きが長くなったが、本節ではその疑惑の所在を明らかにすることで、JA秋田おばこの経営陣が招いたこの事件が、まだ終わっていないことを伝えたい。 ここからしばらくは、今回の不祥事の経緯を振り返っていく。その際に最も参考になるのは、第三者調査委員会の調査報告書である。新聞・テレビ各社の報道も、この調査報告書に依拠するところが大きい。だから、いまから私がつづっていく事件のあらましは、世間一般の認識と同じである、と思ってもらっていい。 ただし、私は取材を終えたいま、この調査報告書の内容を全面的に受け入れる気はない。むしろ肝心なことが抜け落ちているとさえ考えている。とくに76億円という巨額の赤字が発生した原因については疑問がある。まずは、不正会計が発覚した当時の出来事から振り返っていこう。