あの娘をペットにしたくって…。小林旭の「自動車ショー歌」(1964年)はユニークな曲だった。コロナ、スバルの国産車からパッカード、シボレーなど外車まで30種は出てくる。映画『投げたダイスが明日を呼ぶ』の挿入歌になりヒットした。当時NHKでは放送禁止だったが、近年は緩和されたようだ。
同年の「恋の山手線」は「上野のオフィスのかわいい娘」と上野から山手線駅名が出てくる。背景には東京オリンピックとモータリゼーションの発達があった。
75年、TBS「寺内貫太郎一家2」の中で、カンカン帽をかぶり、腹巻にギターを抱え「北へ帰ろう~思い出~抱いて」と流す男がいた。小林旭かと思いよく見ると、この曲でデビューした徳久広司だった。
歌手でデビューするも1年後には作曲家になり、増位山の「そんな女のひとりごと」、新沼謙治「ヘッドライト」、美空ひばり「おまえに惚れた」といったヒット曲を生んでいた。
82年の秋の気配が漂う六本木。友人の音楽制作会社社長と防衛庁前の屋台のおでん屋に入った。
当時カラオケブームが右肩上がりで、面白い企画がないかと雑談していた。屋台から行き交う人達を眺めていると、ありふれた風景だが、ふと流しの徳久が歩いてくるような錯覚を覚えた。
ちょうどプロ野球談議をしていたせいか、野球選手版「自動車ショー歌」を作ろうとひらめいた。「恋の山手線」「自動車ショー歌」の3部作で、後に編集物もできるとまで考えていた。