ブロックしてもすり抜ける性的な広告 プラットフォーマーの責任は
スマホやパソコンの画面に突然、性的な広告が表示されることは珍しくありません。子どもと一緒に見るゲームの攻略サイトや、料理のレシピサイトで目にすることも。なぜここまで広がっているのか、インターネット広告の仕組みに詳しい元電通の長沢秀行・クオリティメディアコンソーシアム事務局長に聞きました。
インターネット広告の質は、特にここ数年は落ちていると言わざるを得ません。
詐欺まがいの広告に闇バイト広告、スマホやパソコンの画面に表示される露骨で性的な表現の広告に悩む人も多いと思います。
なぜか。原因の一つとして、ネット広告の仕組みがあります。
ネット広告には大きく分けて「予約型」と「運用型」の二つがあります。
予約型は従来の新聞や雑誌の広告と同じ。特定の枠を広告主が購入し、表示回数や配信期間などを元にお金を払います。広告表現について事前にチェックが入ります。
一方、いまやネット広告の大部分を占めるようになったのが運用型です。ユーザーがサイトを訪れた際に、どんな広告を表示するか、多くの広告主の間で瞬時に入札されます。広告主と媒体がリアルタイムで条件をすりあわせる方法で、配信技術の効率化で可能になりました。
運用型の場合、予約型のようにいちいち掲載前に広告表現のチェックはされません。運用型がネット広告の主流になったこの10年、広告の質は急激に落ちました。
プラットフォーム企業の「緩い審査」
更に、日本の運用型の課金方式はほとんどが「クリック課金式」。広告が表示される度に広告費が発生するのでなく、広告がクリックされれば広告費を支払います。
すると、広告主が大量の広告をネット上にばらまくようになります。SNSの発達で掲載場所がどんどん広がっていることもあり、近年は「広告在庫」も膨大になっています。すると、アダルト広告なども紛れ込みやすくなります。
多数存在するアダルト広告専門の配信業者は、クリック課金のような「成果報酬型」の広告を幅広くばらまきます。ターゲットを厳密に絞らずに配信するので、幅広いユーザー層の目に触れてしまいます。
グーグルやフェイスブック、ヤフーなどのプラットフォーム企業は、建前としては「広告内容はチェックしている」と言います。ただ、どのようなチェックをしているのかはブラックボックスで、非常に緩いのが実情です。厳しくチェックして広告が減れば、プラットフォームの収入も減るわけですから。
「ゾーニング」の難しさ
アダルト広告などを見たくない人や子どもには見せないという「ゾーニング」はどうなっているのかというと、媒体側の自主努力に頼っているんです。
たとえば、報道機関のニュースサイトにはアダルト広告が出てきませんね。これは、メディア側が「アドベリフィケーション」というネット広告を検証する仕組みを導入し、グーグルなどのプラットフォームから送られてくる広告内容や広告主の業態、サービスなどを設定して、不適切と見なした広告をブロックしているからです。月数十万円というコストがかかっています。
それでも、ブロックをすり抜ける問題広告は少なくない。広告に設定されている「タブ」の種類を偽ったり、ドメインを変えたり、あの手この手で突破してきます。最終的にはそうした広告を、人間が目視で排除しなければいけません。
お金も人手もかかるゾーニングをする余裕は、中小サイトにはありません。元々、手間のかからない運用型広告を受け入れているわけで、広告の質には目をつぶっているのが現実です。
アダルト広告、海外では?
ネット広告は広告費全体の半分近くにまで膨れあがっています。一方で、日本インタラクティブ広告協会の2022年の調査では、ネット広告を「信頼できる」と答えた人は2割ほどしかいません。
不快な広告、不適切な広告ばかりの状況に、ユーザーの「広告離れ」が起きている。それにとどまらず、日本最大の広告費マーケットがモラル破壊や犯罪の温床になってしまった。重大な社会問題だと思います。
ヨーロッパなどに行くと分かりますが、日常的にスマホを使っていてもアダルト広告などは出て来ません。それは、プラットフォーム企業に法規制がかかっているからです。違反すれば高額な罰金が科せられる。
日本はあくまで自主規制でやってきましたが、もうけ偏重で質の悪化に目をつぶる傾向は止まりません。そろそろ襟を正さないと健全なマーケットにならないのですが、自主規制だけではもはや限界なのかもしれません。
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- 【視点】
日本におけるネット上のアダルト広告の氾濫は異常だ。なぜこのようなことが起きるのかの仕組みがわかりやすく解説された記事である。 法規制をしなくて済むならそのほうがいいだろうが、プラットフォーム企業の倫理観や自主規制に委ねていては、ここまでの異常な事態が止まらないことは既に明らかだ。自主規制を越えた法規制を検討すべき局面にきてしまっていると思う。 利益のためにアダルト広告を氾濫させる、しかもその「アダルト広告」には、性暴力をエロコンテンツとして描くようなものが多くみられるというのは、今の日本社会の倫理観の底が抜けていることや、女性差別に鈍感すぎることなどの問題が凝縮しているように感じる。
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