日テレ「月曜から夜ふかし」街頭インタビュー発言捏造事件
これほど露骨な捏造は久しぶりに見た。日テレ「月曜から夜ふかし」街頭インタビューの件である。
「中国ではカラスを食べる」のミスリード
2025年3月24日放送回の街頭インタビューで、中国出身の女性が語るエピソードが紹介された。この部分の映像は現在、公式/非公式を問わず削除されていて見ることはできないが、おおよそ以下のような内容である(注1)。
日本に来て驚いたことは何かという質問に、カラスが多いことだと女性は答え、ベランダにあるハンガーをカラスに持っていかれたので、それ以降洗濯物を外で乾かしていないと話した。問題となったのはそれに続く発言である。
発言1「あんまり中国にカラス飛んでるのがいないですね」
↓
発言2「みんな食べてるから少ないです」
↓
発言3「とにかく煮込んで食べて終わり」
放送されたVTRでは発言1、2、3の場面がつなげられているので、
「中国にカラスが少ないのは食べられてしまうからで、煮込んで食べる」
という因果関係をもった文脈になる。実際には、中国ではカラスは不吉な鳥とされており、食用ではないという(注2)。だが日本人の間では、中国人の食習慣にまつわるイメージ——食のタブーが少なくてなんでも食べる——が沁みついている。このようなVTRを見せられれば視聴者の多くは「カラスも食べるのか……やっぱり中国人は何でも食べるんだな」と信じこむだろう。こうして固定観念が強化され、差別感情につながっていく。今回の捏造事件はそういう意味で非常に罪深い。
「編集」から「捏造」へ
「中国ではカラスを食べる」というのが真っ赤な嘘であり、制作側の「編集」による捏造であったことを、日テレは番組公式サイトの「お詫び」で明かしている(注3)。
実際には女性が、「中国ではカラスを食べる」という趣旨の発言をした事実は一切なく、別の話題について話した内容を制作スタッフが意図的に編集し、女性の発言の趣旨とは全くことなる内容になっていました。
VTRを切り貼りし、本人が言ってもいないことを言ったかのように見せかけて、印象操作をする……テレビ業界では常套手段である。
「夜ふかし」のインタビューでの発言はいずれも当該女性が口にした言葉であることに違いないが、出来上がった映像は本人の意図とはかけ離れたものだった。いったいどこをどうやって「編集」したのだろうか? 再び発言部分を挙げる。
発言1「あんまり中国にカラス飛んでるのがいないですね」
↓
発言2「みんな食べてるから少ないです」
↓
発言3「とにかく煮込んで食べて終わり」
ここで着目すべきは、発言2と発言3に目的語がないことで、「何を」食べるのかが明らかではない。この「何を」の空白部分に視聴者が無意識のうちに「カラス」を当てはめるように、誘導的な編集がなされている。発言2と発言3にあった「何を」の部分をカットして発言1の理由が発言2であるかのようにし、発言3で発言2をより詳しく説明するという形になっているのである。
カットされた部分にはどんな言葉が入っていたのかといえば、発言2のくだりは「ハト」、発言3は「火鍋」だとする情報もあるが、真偽のほどは定かではない(注4)。いずれにせよ、別の話題について話した内容の一部をカットし、発言1のカラスの話題につなげることで、あたかも中国ではカラスを煮込んで食べるかのようにミスリードさせたのである。「とにかく煮込んで食べて終わり」という発言の後に、スタジオでどっと笑いが巻き起こった。制作担当者は日テレの聞き取りで「とにかく面白くしたかった」と語っているらしいから、そういう意味ではこの「編集」は成功したのだ。
捏造のもたらす影響
問題なのは、本人の意図とは異なる内容に捻じ曲げられていたことである。それによってどのような影響がもたらされたのか、想像しただけでぞっとする。中国人への偏見とも受け取られかねないような発言を、中国出身の人間が口にしたかのような作りになっているからだ。
オンエアから1週間後の3月31日に日テレ社長の定例会見があり、「夜ふかし」の件について謝罪と説明がなされた。
会見の模様を伝えるデイリースポーツの記事には、問題発覚の経緯について「オンエアの当日に、中国においてSNSで話題になっていることに番組のスタッフが気がついた」とある。これが「炎上」のたぐいであることは想像にかたくない。
会見とほぼ同時期に番組公式サイトの「お詫び」は書き換えられた。修正後の後半部分には以下のような記述があり、女性に対するバッシングがあったことがうかがえる。
女性は、一日も早く元の生活に戻りたいと強く希望されていて、これ以上インタビュー内容の詳細や映像・画像が広がっていくことを危惧されています。
SNSを含め、女性に対する誹謗中傷を行ったり、番組映像・画像等を使用したりしないよう切にお願い申し上げます。
オンエアから間もない頃には、当該部分の動画がSNS上にアップされているのを見かけたが、月末にはそれらは消されていた。「著作権者からの要請による」という趣旨の説明が付されているが、取材協力者本人からテレビ局に削除要請があったのかもしれない。このように自分の発言意図を捻じ曲げられてネガティブな形で番組に取り上げられた場合、誰に何をされるかわからないという身の危険をリアルに感じるものだ。人気のある番組に出た場合はなおさらである(注5)。だから、身元が特定されることのないよう、すみやかに映像や画像を消去する必要がある。
そこで一つジレンマが生じる。バッシング等から身を守るために自分が写っている映像その他の情報を消してほしいという本人の希望は、なるべく早く捏造コンテンツを消して世間の人々の記憶からも消してしまいたいという放送局の思惑と一致し、それを利することになってしまう。被害者の保護と放送局に対する責任追及を両立することの難しさはそこにある。
理想を言えば、本人の身の安全とプライバシーを守りつつ、放送局の虚偽や捏造によってもたらされた被害の解明と告発、そして補償を行うことが望ましい。今のところテレビ局による報道被害を訴える機関はBPOの放送人権委員会くらいしかなく、ここに申し立てても必ず審理されるとは限らない。テレビ局を相手取って民事訴訟を起こすという選択肢もあるが、名誉権侵害などは日本では賠償金が低く見積もられる傾向があり、たいていの場合は割に合わない。そういうわけで、捏造されても泣き寝入りするケースが大半を占めている。
オンエア後の動き
SNSの発達によって、昔に比べればこのような問題は可視化しやすくなっている。「夜ふかし」の件では、3月24日の放送後まもなくTwitterやYoutubeなどで話題になっていた。先述したように日本だけでなく中国でも「炎上」が起こった。被害者本人がSNSで捏造被害について発信していたとする情報もある(注6)。
日テレ社長会見の模様を伝える記事によれば、24日の当日夜に中国のSNSで話題になっていることに制作スタッフが気づき、被害女性側からも連絡があり、捏造が発覚したという。翌日25日には被害女性と制作側が面会。その後毎日コンタクトをとっていると書かれている。
オンエアから3日後の27日には番組公式サイトにお詫びが掲載され、「意図的な編集」があったことを日テレは公式に認めた。一週間後の31日に開かれた定例社長会見では、福田博之社長が経緯の説明と謝罪をしている。さらにこの会見で、街頭インタビュー取材を当面のあいだ中止することを明らかにした。
素早い火消しのわけ
オンエアから社長による謝罪までわずか1週間と、日テレが短期間で事態の収束に動いたのは驚きである。もっと意外だったのは、編集が意図的に行われたことをあっさり認めたことである。このようなケースでは頑として非を認めず、真相を隠蔽しようとすることが多い。NHKのニュースウオッチ9「コロナ報道」に見るように、BPOで審議入りした事案ですらそうなのだ。
日テレの対応が比較的スムーズであったことの背景として、以下の要因が考えられる。
・オンエア直後からSNSで情報が拡散し、本人もSNSで被害を訴えていた
昨今では大企業もSNSの影響力を無視することはできず、「炎上」による企業イメージの低下を恐れている。SNSで被害を訴えることによって事態が一足飛びに進展することはよくある。とはいえ、SNSを紛争解決の手段に用いることの是非については、議論の余地が残されている(注7)。
・同時期に「フジテレビ問題」の報告書公開を控えていた
テレビ業界が抱える問題に対して注目が集まるとともに、世間の目が厳しさを増していた。総務大臣も「夜ふかし」について苦言を呈している(注8)。これらの圧力が働いていたことは間違いない。
・特定の国と人々に対する差別的ニュアンスを含む内容の発言を捏造した
昨年8月のNHKラジオ国際放送の事案と絡めて論じている記事もあるように、大手メディアによるこのような報道は他国との関係悪化を招きかねない。「夜ふかし」は中国で人気の番組であるため注目度は高く、悪評が広まりやすいだろう。
これらの事情があったために、日テレはすみやかに非を認めて「火消し」に走ったと思われる。ただし、事後対応はこれで十分とはいえない。番組公式サイトには「お詫び」が掲載されているが、日テレ公式サイトのトップページには記載はない(日テレHDは2025年3月28日に番組公式サイトと同内容のプレスリリースを出している)。捏造発覚後にオンエアされた3月31日放送回では捏造についての言及はなく、お詫びのテロップが出されることもなかった。この日の放送に先立って、同日の定例社長会見で通常通りオンエアすることは発表されており、「1本1本VTRを見て確認しました。不適切なものはありませんでした」とあるように、街頭インタビューの場面も流された。
番組内での謝罪と訂正は?
まるで何事もなかったかのように、いつも通りに番組がオンエアされたが、このような事案が発生した場合には同じ番組内で謝罪と訂正をするのが筋というものだ。
謝罪と訂正を放送したからといって、被害者の名誉が回復することは決してない。いったんテレビで流れてしまった内容を完全に打ち消すことはできないし、視聴者の記憶から消すこともできない。放送後に訂正をしてもその効果は限定的なのだ。3月24日の「夜ふかし」を見た人たちの多くは「中国ではカラスを食べる」と今でも信じているだろう。
それでも同じ番組の次の回で訂正・謝罪を流せば、問題の放送回を見た視聴者の目に留まりやすい。番組での訂正と謝罪は、被害者だけでなく視聴者に誠意を示すためにも必要な措置である。
責任追及はトカゲのしっぽ切り
インタビュー取材と編集を担当したのはフリーランスのディレクターで、番組に1年半関わっているという。「外部スタッフ」とする報道もあるように、日テレの社員ではなくフリーランスであるから、立場が弱いのは明らかである。トラブルが発生したら真っ先に責任を押し付けられ、クビにされてしまう。社長会見によれば「月曜から夜ふかしで再び仕事をすることはない」とのこと。典型的な「トカゲのしっぽ切り」である。
社長会見の説明では「「ディレクター本人が『撮ったものをより面白くしたい』と自分の判断で編集した。そこに他の人間の意思は介在しておりません」とあり、ディレクターの独断であることを強調しているような印象を受ける。
さらに、番組オンエア前の試写についても、プロデューサーはじめ複数名でチェックしたが、「不適切な編集」があったことには気付かなかったとしている。たとえ気づいていたとしても責任を問われるのを恐れて知らぬふりを決め込むだろう。
そもそもVTRを編集前と編集後で見比べない限り、試写を何度繰り返しても捏造には気づかない。試写の人数を増やしたり他部署の人間を加えたりしても同じことだ。再発防止策として試写の回数や人数を増やすことはよくあるが、試写に不正防止の効果はない。それはNHKによる虚偽捏造報道が何度もBPO案件化したのにやむことがないという事実が証明している。NHKは捏造発覚のたびに試写を強化しているが、まったく効果が見られない。日テレの再発防止策にも試写の強化が盛り込まれるだろうが、「不適切な編集」を検知する効果はほとんど期待できない。
差別感情への鈍感さ
「夜ふかし」の件はねつ造の他に差別の問題もはらんでいる。他国や他民族の食習慣を揶揄するのは、あまり褒められたふるまいではない。ましてや全国放送のバラエティ番組で、「とにかく面白く」しようと捏造歪曲までして笑いをとろうとする姿勢には、倫理観や人権意識の欠如を感じる。担当ディレクターは日テレの聞き取りで「差別のつもりはさらさらなかった」と答えたらしいが、差別する意図がないからといって責任を免れるわけではない。行為の結果として差別がもたらされたのなら責任を取るべきだろう。
このような“不適切な編集”が差別につながることに思い至らないという、無知と鈍感さこそ問われるべきであり、それは担当ディレクターのみならず試写に参加した関係者全員に言えることだ。
ちなみに「夜ふかし」放送時には「※中国全域ではありません」の但し書きがついていた。試写の際に番組プロデューサーが事実確認の必要を感じて、プロダクションに確認を指示し、その結果を受けて断りを入れたのだという。編集済みのVTRになにがしかの違和感を覚えて確認を指示したのだろうが、差別的な発言だと受け止められる可能性までは考慮しなかったのだろうか。かりにカラスを食用にするのが中国全土ではなく一部地域だとしても、「カラスを食べる」ことを面白おかしく取り上げようという編集の意図に変わりはないのであって、番組の責任者であればそういう本質的な問題点を指摘するべきではないかと思う。
オリジナル軽視の体質
実際に番組で使うよりも長めに収録しておいて、使えそうな部分をピックアップし、つなぎ合わせていく。これは通常の編集作業であり、それ自体に問題はない。とはいえ、このようなやり方が虚偽捏造を生む土壌となっていることに着目しなければならない。素材が豊富にあり、削ったり付け足したり前後を入れ替えたりといった操作が自由自在にできるからだ。しかも、編集作業は取材協力者のあずかり知らぬところで行われるので、口出しされる心配もない。その気になればやりたい放題である。
いったん収録した音声や画像は制作側にとって単なる「素材」であり、いかようにも自由に操作、加工が可能だというのが業界一般の認識であるようだ。撮られる側はたまったものではない。
撮影収録によって「コピー」をとり、それをもとに番組を作るという過程で、「オリジナル軽視」の姿勢が生まれるのではないだろうか。コピーを取ってしまえばオリジナルは用無しで、配慮する必要はないと、制作側は無意識的に考えているのではないか。そうでなければ、人権軽視の捏造事案がテレビ業界でこうも頻発し、何度も繰り返される理由がわからない。話は逸れるが日テレでは昨年、「セクシー田中さん」問題が発生しドラマ原作者を死に追いやった。これは「コピー」の対象が生身の人間ではなく作品であるが、オリジナル軽視の姿勢が招いた悲劇だと見なすことができる(注9)。
オリジナル軽視とそれに伴う虚偽捏造は、テレビ番組の制作上、必然的に生じる弊害なのである。オリジナル(本人)の映像と音声を二次元、三次元で「コピーする」という映像メディアの特性が影響しているのだ。新聞や雑誌や出版などの活字メディアではこうはいかない。活字メディアはオリジナルを描写したり表現したりすることはできても、コピーすることはできない。虚偽捏造が発生することはあるが、文字と画像という二次元の世界にとどまっているために、テレビほど自在な捏造は不可能である。
テレビの場合は文字と画像に加えて映像と音声を使うことができるので、これらの手段を組み合わせればかなり精緻な虚偽捏造番組を作ることができる。「夜ふかし」で行われたように、無関係な場面をつなぎ合わせて因果関係をもたせることや、テロップやナレーションを映像にかぶせて本人の発言や考えであるかのように見せかけるなど、いくつもの手口がある(注10)。技術的に可能であるならばそれを実践してみたくなるのが世の常で、その誘惑に抗うことが難しい場面も多々あるだろう。人はどういう時に捏造という禁じ手を使ってしまうのだろうか?
捏造の背景にある業界事情
先述した通り、テレビという映像メディアは比較的容易に虚偽・捏造ができる上に、試写などを通じて見抜くことが難しい。これらの前提条件に何らかの要因が加わると、捏造が生じる。捏造に駆り立てる状況的要因を、テレビプロデューサーの鎮目博道氏は次のように推測している。
「夜ふかし」ほどの人気番組では、多くのディレクターが厳しい競争状態にあったと思われる。意図的な編集の背景として、「スタッフ間の競争に負けたくなかった」という可能性もあるのではないかと推察する。
取材で得たネタを上司に採用してもらうために、街頭インタビューの内容を意図的に改ざんしたのではないかというのだ。そして、疲労とプレッシャーによって追い込まれたスタッフは、思いがけない行動をとることがあるとも指摘している。そう言われると納得するところが大いにある。
取材内容に手を加えて巧妙なでっちあげをし、試写でのチェックをすり抜け、制作側の人間を全員だましおおせたとしても、番組が放送されれば取材相手には必ずごまかしがバレてしまう。嘘をつきとおすことができないのは初めからわかっているのに、なぜそんなことをするのか疑問だったが、追い込まれて判断力が正常に働いていないと考えると腑に落ちる。「夜ふかし」は中国で人気がある番組なのに、なぜわざわざ評判を台無しにするような暴挙に出るのかと思うが、担当ディレクターはそういうことに配慮する余裕を失っていたのかもしれない。
鎮目氏は再発防止策として、「スタッフに過大なプレッシャーを与えない」ことを提言している。現場では制作費も人員も余裕がないとも述べている。
街頭ロケのしんどさを「夜ふかし」のプロデューサーが仔細に語った記録がある。BPO青少年委員会が開催した高校生モニターとの意見交換会でのことだ。「夜ふかし」の街頭収録は「打率が低くて」、10人に声をかけて答えてくれるのは1人くらい。10人答えてくれたうちにオンエアされるのは1,2人しかいないという。番組を1回作るのに街頭で1000人くらいに声をかけ、「こつこつ数で勝負」しているとのこと。ディレクターが15~20人関わっているとあり、この中で競争するのはしんどそうではある。
善意の協力者が犠牲に
業界事情の厳しさには同情するものの、一般の市民、視聴者としては、番組内容の捏造や虚偽や改ざんを受け入れるわけにはいかない。捏造があるということは、末端のスタッフが受けるプレッシャーのしわ寄せを、取材に協力する一般の人々が被っているということだ。業界内での事情がいかに悲惨であろうと、外部の人間をそのような形で巻き込むべきではない。
街頭インタビューの撮影現場にたまたま通りかかって、善意で無償奉仕したにも関わらず、自分が言ってもいない内容を言ったことにされ、マイナスの自己イメージをでっちあげられ、見知らぬ人々からいわれのない誹謗中傷を受ける……取材協力者にとってこんなに理不尽な仕打ちがあるだろうか。番組スタッフが上司に取り入り保身を図るのを助けるために、取材を承諾したわけでは決してなく、自ら犠牲になって捏造に加担することを同意したわけでもないのに。
末端のスタッフへの過大なプレッシャーがあるとしたらそれは労働問題であり人権問題であるから、そういった文脈で解決を図るべきである。虚偽捏造という形で問題を外部化するのは問題の解決から遠ざかるばかりか、問題をよりいっそう深刻化してしまう。捏造を行ったスタッフ自身の立場が危うくなるのはもちろんのこと、テレビ局も視聴者からの信頼を失うし、業界全体の社会的な信頼も低下する。その場しのぎの嘘偽りに払う代償はとても大きい。
おわりに
ちょうど同じ時期にフジテレビの報告書が公表され、記者会見が開かれたために、日テレの捏造問題は影が薄くなってしまったが、見過ごすことはできない。どちらの問題も人権軽視という共通の病根をもっている。これはテレビ業界に根深い体質であり、今まで数々の問題を引き起こし、多くの人を不幸にしてきた。そんな理不尽なことは終わりにするべきだ。
再発防止策と銘打って小手先のルール作りでお茶を濁すのはやめて、体質改善に本気で取り組まなければ、業界の未来はない。取材協力者の恩を仇で返すことも、視聴者を失望させることも、そろそろ終わりにしてほしい。
(注1)「週間女性PRIME」のサイトにはインタビュー画像が掲載されており、発言部分のテロップを見ることもできる。
(注2)古代中国では神聖視されていたカラスも、近代では不吉なイメージが付されている。https://chubun.fpark.tmu.ac.jp/Kiyou-PDF/448Nohara.pdf
(注3)番組公式サイトのお詫び文は、公開から数日後に内容が書き換えられた。これら2パターンのお詫びにはいずれも日付が記されていない。他社の関連記事から、1回目のお詫びは3月27日に出されたと考えられる。
以下のサイトなどで変更前のお詫び文(インタビュー発言部分を含む)を見ることができる。
変更後のお詫びは番組公式サイトに掲載されている。
(注4)「これを受け、女性は中国のネットユーザーから激しいバッシングを受ける事態に。しかし女性は「インタビューで『中国人がカラスを食べる』とはひと言も言っていない。中国ではハトを食べる文化があるため、道端でハトを見かけることが少ないと話しただけ」と説明。「煮込む」の部分については「最近、火鍋をよく食べているという話題で出た発言で、番組側に悪意を持って編集された」と訴えた。」
(注5)「夜ふかし」は13年続く長寿番組で、日本国内のみならず中国でも人気がある。「夜ふかし」を見て日本語を勉強しているとか、この番組がきっかけで日本に留学したなどという人たちもいるくらいだ。同番組のプロデューサーにもそんな中国出身の女性がいる。
(注6)インタビューを受けた本人がSNSに投稿したとされる内容。
https://imgur.com/J9deJQi
(注7)SNSの注意喚起力と拡散力を「てこ」のように用いて個人が企業を動かすことには有効性があり、戦略としては優れている。その反面、危うさもある。諸々の手続きを踏まず、時には相手方へクレームを入れることすらしないまま、いきなりSNSでの告発という手段に訴えるケースも散見されるからだ。しかるべき手順の踏襲が軽視されることに道義的な問題はないか、議論の余地があるだろう。また、SNSの特性上、このような形での被害の訴えはキャンセルカルチャーに通じる可能性もあるため、注意が必要である。だからこそ企業はSNS炎上を恐れるのだ。
(注8)村上総務大臣は3月28日の閣議後記者会見における質疑応答で、以下のように述べた。
「 御指摘の日本テレビの放送番組については、同社が意図的に編集して謝罪した旨を発表したと聞いております。
放送法は、放送事業者の自主自律を基本とする枠組みとなっておりまして、その放送番組は放送法に定められた番組準則や放送事業者自らが定める番組基準に則り、放送事業者の責任の下で編集すべきものと考えています。
日本テレビは、正確な情報発信を行い、国民の知る権利を満たす等の放送事業者の社会的役割を自覚していただいて、適切に対応していただければと考えております。」
(注9)「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子氏が亡くなって間もなく、ライターのトイアンナ氏によって書かれた記事。原作者の意向を無視する「原作軽視」はテレビ局の慣習であることが指摘されている。
(注10)捏造と歪曲の手口の数々を知りたい方は、NHKクロ現で私が被った捏造被害の体験談をぜひお読みください。
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コメント
1長谷川良品さんの動画で、女性がマスクをしていて口元が見えず、発言と唇の動きの比較ができないことも「捏造」を誘発しやすい状況(悪用しやすい)だったと指摘されてましたね。