政治

2025.04.04 08:00

トランプの関税計算式に「経済的合理性なし」「信じがたいほど愚か」と専門家酷評

米ホワイトハウスで2025年4月2日、相互関税の表を手に演説するドナルド・トランプ大統領(Chip Somodevilla/Getty Images)

「逆算された計算式」「経済的合理性なし」

経済ジャーナリストのジェームズ・スロウィッキーはXへの投稿で、この関税率を「フェイク」と一蹴。「もしトランプ政権が、他国が米国に課しているはずの『関税率』を(米国の)貿易赤字を輸入額で割るという計算式で算出していないのだとしたら、どの国の『関税率』も貿易赤字を輸入額で割った数字に等しいというのは、驚くべき偶然だ」と当てこすった

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のトーマス・サンプソン准教授は「この計算式は、米国が貿易赤字を抱えている相手国に関税を課すことを正当化するために逆算されたものだ。このようなやり方に経済的な合理性はなく、世界経済に大きな損失を与える」と非難した

一部の政策アナリストは、ホワイトハウスが貿易相手国との交渉の出発点として、各国の対米貿易障壁の実際のコストを計算する手間を惜しんで性急に関税率を算出したのではないかと指摘している。野村グループのグローバル・マクロ・リサーチ責任者を務めるロブ・サバラマンは「私が言えるのは、関税の数字をめぐるこの不透明さは、取引を行う上でそれなりの柔軟性をもたらすかもしれないが、それは米国の信頼性を犠牲にする可能性があるということだ」とCNBCに語った。

トランプの発表した関税は、ナンセンスだと広く非難されている。最たるものが、オーストラリア領の無人島であるハード島とマクドナルド諸島への10%の関税だ。本土から遠く離れ、人口は0人で、もちろん米国に商品を輸出などしていない。

一方、ロシア、カナダ、メキシコは今回の関税発表では対象から外れた。トランプはすでにカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を課し、その後延期しているため、今回除外されたのはそれほど驚きではない。

ロシアが除外された理由についてキャロライン・レビット米大統領報道官は、米国がこれまでに科した制裁措置が「意味のある貿易を妨げている」ためだとニュースサイトのアクシオスに説明した。ただ、米国の対ロシア貿易は依然として、今回関税が課された一部の離島や領土よりも多いとアクシオスは指摘している。レビット報道官は、キューバ、ベラルーシ、北朝鮮についても、すでに制裁と関税の対象となっているため相互関税の対象とはならないと述べた。

ホワイトハウスのファクトシート(概況報告書)によると、トランプが2日に発表した10%のベースライン関税は5日に発効し、その他の相互関税は9日に発効する。以前発表した輸入車に対する25%の関税は3日に発効した。一部の国では、トランプがかねて示唆していた一律20%よりも大幅に関税率が高くなっており、たとえば中国は、すでに課された20%の関税に加えて、さらに34%の「相互関税」が上乗せされた。これらの発表を受けて3日の米株式市場は急落して寄り付き、ダウ工業株30種平均は3.5%、S&P500種は3.9%、ナスダックは4.9%下落した。

forbes.com原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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2025.03.19 16:00

佐々木裕(NTTデータグループ社長)×宮田拓弥(ScrumVentures)──日本企業がAIを活用してグローバル競争に勝つために

AIを中心にテクノロジーが加速度的に進化するなか、日本企業はグローバルでどのように戦っていけばいいのか。Scrum Ventures創業者兼ジェネラル・パートナーの宮田拓弥とNTTデータグループ代表取締役社長の佐々木裕が提言する。


「AIをはじめとしたテクノロジーの進化などにより、世界が大きく変わろうとしている。これからの時代は、ますます“Foresight(先見力)”が重要になります」

そう断言するのは、NTTデータグループ代表取締役社長の佐々木裕(写真左。以下、佐々木)だ。Foresightを起点として、企業に提言、実装、成果までの価値を提供している同社は、この激動のなかで、日本企業はいかにしてグローバル競争力を高めていくべきと考えているのか。米シリコンバレーと日本に幅広いネットワークをもち、新規事業創出を手がけるScrum Venturesの創業者兼ジェネラル・パートナー宮田拓弥(写真右。以下、宮田)と佐々木が語り合った。

AIの進化で「バウンダリー」が消失

宮田:2025年の大きなテーマは「バウンダリーの消失」だと考えています。エヌビディアのジェンスン・ファンCEOが「これからの時代はフィジカルAIだ」と語っているように、いよいよリアルとバーチャルの境がなくなってきています。その一例が、ヒューマノイドの実用化です。米スタートアップアプトロニクは、自家用車よりも安い価格で人と同等以上の作業が可能なヒューマノイドアポロの量産を始めており、物流倉庫などでの利用が想定されています。また、テスラがハンドルやペダルがないロボタクシーを27年に量産すると発表しましたし、グーグルはAIと会話しながら生活できるスマートグラスの概念実証の動画を公開しました。

佐々木:バウンダリーにはふたつの意味があると思います。リアルとデジタルの世界がつながるだけでなく、産業構造が少しずつ壊れていく可能性もあるのではないでしょうか。

佐々木裕 NTTデータグループ 代表取締役社長
佐々木裕 NTTデータグループ 代表取締役社長

宮田:おっしゃる通りです。アルファベット傘下で自動運転を開発するウェイモのロボタクシーは、サンフランシスコ市内でのシェアが25年中にもウーバーを超えるかもしれないといわれており、自動運転はすでに現実のものとなっています。運転手が必要ないということは、ずっと走り続けることができるということです。そうすると、物流トラックが長距離バスのように客を乗せた移動や、これまでと異なるものを運べる可能性も出てきます。まったく新しい業態が生まれるかもしれないし、自動車や鉄道などの産業がAI系の企業に大きく侵食されるかもしれない。産業構造が大きく変わるでしょう。

佐々木:24年は生成AIが進化し、マイクロソフトのCopilotのようなAIツールが個人のタスクを補佐することで、一人ひとりの生産性を向上させました。一方で25年は、業務を自律的に実行する「AIエージェント」の年になると考えています。単に個人の生産性を改善するだけでなく、企業のなかにあるファンクションをAIに代替できるので、生産性を一気に改善できるでしょう。昨年当社は「SmartAgent™」というコンセプトを発表しました。(詳細はこちら

AIエージェントが世の中に普及すると、それをコントロールする存在も必要なのではないかという発想です。企業が扱う課題は複雑なケースが多いので、複数のAIエージェントが会話をしつつ、SmartAgentが業務全体をオーケストレーションする世界がやってくるのではないかと考えています。

宮田:“IT屋”としてワクワクするお話ですが、データをどう使っていくかが課題です。会社の機密をAIに与えるのはリスクだという考えは根強い。私たちもAIツールを業務にどう使っていくかを議論していますが、会社でポリシーを設定し、積極的に使っていくことが基本的な方針になるでしょう。

佐々木:トランプ政権になってITの規制が緩和されましたし、米国では若干、リスクに対して寛容になっているのでしょうか。

宮田:今の米国は、中国の状況とまったく正反対なのが興味深いです。米国では民間がいろいろなデータをAIに自由に活用している。一方で中国は、政府がデータを管理しています。日本での議論はまだまだこれからですが、国として、クリティカルにならないレベルでデータを使っていくことが重要です。

佐々木:データのマネジメントが必要です。さらに人間に近い能力をもつ「汎用人工知能(AGI)」が登場したら、暴走するリスクがあるともいわれています。

宮田:会社の経理部や人事部などがごそっとAGIに代わることになると思うので、ルールから見直さなければならないことが多々出てきます。早ければ来年にはAGIが導入されるので、仕組みから変えていく必要があります。「スマホネイティブ」という言葉がありますが、今後はAIありきで生活する「AIネイティブ」の時代に対応していかなければなりません。

宮田拓弥 Scrum Ventures 創業者兼ジェネラル・パートナー
宮田拓弥 Scrum Ventures 創業者兼ジェネラル・パートナー

リアルの世界でのデータ取得がカギ

佐々木:チャットGPTのようなパブリックなAIは、インターネットのナレッジによって進化していきますが、データ漏えいの懸念があるので、プライベートのAIも進化させていく必要があります。この領域は今まさに競争が始まったところで、プライベートAIをいかに低コストで学習させてリターンを得られるようにするかが、25年以降のチャレンジだと考えています。

宮田:もしかしたら、業界ごとにAIエージェントを共有することもありうるのではないかと思っています。パブリックとプライベートとのハイブリッドや他者との共創など、いろいろなタイプのAIが出てくるのではないでしょうか。

佐々木:日本企業がAIを活用して世界と戦っていくためには、何から始めればいいとお考えですか。

宮田:DXでは日本はなかなか活躍できませんでしたが、AIはチャンスだと思っています。AIはインターネットのなかだけでなく、私たちが使っているデバイスのなかにも組み込まれるので、モノづくりをしてきた日本に一日の長があります。AI活用のカギになるのはデータですが、今日現在、存在していないデータが世の中にはたくさんあります。これらをどうやって取得してAIに共有するかが重要なので、バウンダリーの先にあるリアルの世界に入り込んでデータを取得することが近道だと思っています。

佐々木:私たちもフィジカルデータを取得するための試みとして、昨年、ナインアワーズとの協業で東京・品川にカプセルホテル「ナインアワーズ品川駅スリープラボ」を開業しました。(詳細はこちら

そこでは利用者同意のうえ、睡眠解析センサーで睡眠中のデータを取得し、睡眠レポートを提供しています。新たなデータから生まれた知見を、インターネットのデータと組み合わせることでバウンダリーを消失させる。その先で、これまでにない価値を世界へ届けられると考えています。

一昨年から私たちは「Moving forward in harmony.」をキーワードに掲げています。データの組合せによる新たな価値創出にとどまらず、自然との共生や人間同士のハーモニー、さらには人間とロボットとのハーモニーを大事にし、AIともハーモナイズしながら、皆さまと一緒に未来をつくっていきます。

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ささき・ゆたか◎NTTデータグループ代表取締役社長。製造ITイノベーション事業本部長、常務執行役員コーポレート統括本部長、最高技術責任者(CTO)などを経て2024年より現職。NTTデータ代表取締役社長も兼務する。

みやた・たくや◎Scrum Ventures創業者兼ジェネラル・パートナー。日米でソフトウェア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。事業をmixiに売却し、mixi America CEOを務める。2013年にサンフランシスコでScrum Venturesを設立し現職。

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政治

2025.03.27 09:30

トランプの「EU産ワインに200%関税」で米ワイン産業は崩壊する

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

商談の席で世界最高峰の白ワイン、ピュリニー・モンラッシェを振舞って相手に気持ちよくなってもらう──こんな手はもう米国では使えなくなるかもしれない。仕事帰りにコート・デュ・ローヌのお値打ちボトルを1本買って晩酌を楽しむのも、おいそれとできなくなるだろう。

欧州連合(EU)から米国に輸入されるワインや蒸留酒すべてに200%の関税を課すというドナルド・トランプ大統領の提案は、愛国心による貿易関係のリセットと位置付けられている。すなわち、米国産ワインを後押しするために競合他社を締め出す方策だ。

「米国のワイン・シャンパン事業にとってすばらしいことだ」とトランプはソーシャルメディアに投稿した。シャンパンという呼称はフランスのシャンパーニュ地方で生産されるスパークリングワインにしか許されていないにもかかわらずだ。それはともかく、トランプの主張は、危険な欠陥のある前提条件に基づいている。米国産ワインを世界市場から隔離すれば、米国のワイン産業がなんだかんだ強化されるだろう、というものだ。

そうはならない。生産者にとっても、飲食店にとっても、小売業者にとっても。もちろん、消費者にとってもだ。

なぜか? この関税が米国のワイン生産者に利益をもたらすという仮定から検証してみよう。表向きには、典型的な保護主義だ。欧州産ワインを手の届かない代物にしてしまえば、買い手は米国産ワインに切り替えるだろう。しかし、米ワイン業界は世界から隔絶した状態で活動しているわけではない。輸入業者、流通業者、レストランのワインディレクターは、持続可能なビジネスを行うために多様なボトルのポートフォリオを組んでいる。一夜にしてEU産ワインをすべて排除してしまったら、国内生産者のための余地が増えるどころか、安定性が失われるだけだ。

たとえばイリノイ州の中規模流通業者が、自然派ワインショップ向けにボジョレー、カリフォルニア州のピノ、そしてオレゴン州の小さなワイン農園が生産しているペットナット(ナチュラルワイン)を仕入れているとしよう。米国のワイン流通網の大部分はこうした中規模流通業者が占めており、幅広い商品を取り扱うことで経営が成り立っている。仕入れるワインの半分に突然200%の関税が課されれば、彼らの利益率は崩壊する。その流通業者が廃業に追い込まれれば、米国の生産者にとっても重要な取引先が失われることになる。

次ページ > ひずみはワイン業界全体に広がる

翻訳・編集=荻原藤緒

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2025.04.01 11:30

S&P500、3月は「2022年以来最悪」に 経済の不確実性高まる

Michael M. Santiago/Getty Images

Michael M. Santiago/Getty Images

3月31日、ドナルド・トランプ米大統領による関税引き上げに対する悲観論と、それに関連する景気後退への懸念が株価を圧迫し、ひと月と四半期を締めくくる日としては残酷なものとなった。

31日の朝、米国の主要株価指数は揃って下落した。午前半ばまでに、ダウ平均株価とS&P500種株価指数は1%以上下落し、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数も午前中に2%以上下落した。その後、各指数は日中に回復し、ダウとS&P500は前日比プラスに、ナスダックは前日比小幅のマイナスまで持ち直した。

3月と2025年第1四半期の最終日であったこの日が終わって見ると、直近の下落率は驚くべき数字となった。 ダウは3月に5%、今四半期で2%下落した。そして、S&P500は3月に6%、今四半期に5%の下落、ナスダックは3月に8%、今四半期に10%の下落となった。

S&P500とナスダックの3月の月間下落率は2022年12月以降で最大となり、四半期としても2022年以降で最悪となった。

S&P500は3月31日、2月19日につけた史上最高値を10%以上下回り、9月初旬以来の日中最安値を更新した。

この日の下落は、またしてもトランプ大統領のコメントが引き金となった。トランプは公表日が迫る相互関税について「すべての国」が対象だと述べ、ゴールドマン・サックスは、このことがインフレを悪化させ、景気後退を招くと予測した。ゴールドマンのストラテジストは、S&P500の今後3カ月間における目標株価を5300ポイントに引き下げ、6月末までにさらに4%の下落を予想した。

テスラとエヌビディアの株価は3月31日の取引でそれぞれ1%と2%下落し、この日の下落株の筆頭となった。テスラ株は3月に15%、年初来で38%下落しており、エヌビディア株の3月の下落率である16%、今四半期の下落率である22%にほぼ匹敵する。アマゾン、ブロードコム、パランティアなど他のAI関連株もこの日の取引で少なくとも1%下落した。

ファクトセットのデータによると、S&P500に上場する企業は3月に3兆ドル(約450兆円)もの時価総額を失った。この数字は、世界最大の企業であるアップルの時価総額に匹敵する。

投資家はリスクの高い株式を現金化し、安全な逃避先である貴金属に投資している。金の価格は3月31日、トロイオンスあたり3100ドル以上となり、またもや史上最高値を更新した。ファクトセットによると、金は2025年第1四半期に20%近く上昇し、1986年以来最高の四半期となるペースだ。

11月にトランプ大統領が2期目の任期を獲得した当初、規制緩和や法人税引き下げへの期待により株価は急騰し、S&P500は翌月に5%上昇した。しかし、就任以来トランプが固執する関税の引き上げと、しばしば変更される貿易政策をめぐる不確実性は、投資家の反感を買った。関税の引き上げにより、企業は輸入価格の上昇に直面し、関税コストを吸収するか、消費者に転嫁するかを迫られており、幅広い銘柄に打撃を与えることとなった。トランプ大統領は今月初め、「市場は上がったり、下がったりするものだ。我々はこの国を作り直さなければならない」とコメントしており、市場の動向に関する関心の低さを見せた。

forbes.com原文

翻訳=江津拓哉

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