政治

2025.04.04 08:00

トランプの関税計算式に「経済的合理性なし」「信じがたいほど愚か」と専門家酷評

米ホワイトハウスで2025年4月2日、相互関税の表を手に演説するドナルド・トランプ大統領(Chip Somodevilla/Getty Images)

米ホワイトハウスで2025年4月2日、相互関税の表を手に演説するドナルド・トランプ大統領(Chip Somodevilla/Getty Images)

ドナルド・トランプ米大統領が2日に発表した関税率は、相手国との貿易不均衡に基づく単純な計算式に基づいており、ホワイトハウスが当初主張していたような、相手国が「為替操作と貿易障壁」を伴って米国に課している関税率に基づいたものではない。

トランプは、中国に54%、欧州連合(EU)に20%、インドに26%といった関税率を発表し、この数字は「関税、非金融障壁、その他の不正行為を合算した税率」を「親切心」から半分に割ったものだと説明した。

しかし、SNS投稿や報道各社の分析によると、これらの数字はその国の対米貿易黒字額を対米総輸出額で割ったものに0.5を掛けるという、はるかに単純な計算に基づいていることが判明した。

世界的な政治学者で、地政学リスクを専門に扱うコンサルティング会社ユーラシア・グループの創設者であるイアン・ブレマーは、この計算式はトランプが中国、EU、インドネシア、インド、ベトナムに対して発表した関税率と一致したとX(旧ツイッター)に投稿。「信じがたいほど愚かだ」とつづった。

たとえば中国は2024年、対米貿易黒字が2950億ドル(約43兆円)で、4380億ドル(約64兆円)相当の商品を米国に輸出している。2950億を4380億で割ると67%となり、これを半分に割るとトランプが発表した関税率34%が導き出される。

関税率の算出方法が物議を醸す中、米通商代表部(USTR)は複雑な計算式とおぼしきものを公表した。しかし、この計算式からギリシャ文字を取り除くと、基本的には各国の対米貿易黒字を輸出額で割って半分にしたものであることがわかる。

このアプローチは、各国がより多くの米国製品を輸入すれば関税を引き下げられることを示唆している。だが、仏投資銀行ナティクシスのシニアエコノミスト、トリン・グエンはCNBCに対し「アジア諸国、特に貧しいアジア諸国にとって、米国の要求をのむのは非常に難しい」「米国製品ははるかに高価であり、最も高い関税を課せられた国の購買力は低い」と指摘する。

次ページ > 「逆算された計算式」「経済的合理性なし」

翻訳・編集=荻原藤緒

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2025.03.28 16:00

ふるさと納税は“モノ”ではなく“ヒト”のために──11年間続く『ふるさとチョイスAWARD』が示す未来

地域経済の発展に貢献し、地方の税収格差を是正するために設立された「ふるさと納税」。全国受入寄付額が1兆円を超え(2023年度)、国民の5人に1人が活用する制度へと成長した。ただ、税控除が受けられる制度の特性上、「お得」とセットで語られることが多く、その価値が見えにくい面もある。同制度の重要な視点の一つに、モノだけが重要なのではなく、その背後にいるヒトを想像することがある。地域を支えるヒトの存在が、モノの価値を生んでいるからだ。


ふるさと納税の“EC化”が進むなかで、ヒトにフォーカスする象徴的な存在がある。ポータルサイトの先駆け「ふるさとチョイス」が14年から開催する「ふるさとチョイスAWARD」だ。自治体職員や事業者を称賛し、その情熱を広める役割を果たす取り組みとは──。


「寄付者は地域と絆を深められているか」のジレンマ

ふるさと納税が進化し続ける中で、その「本来の目的」に反する現象も起きている。過去には、換金性が高い返礼品や、他地域の特産品、返礼率10割以上の割高な返礼品を提供することで、一部自治体に寄付が集中し問題になった。また、25年10月からは、ふるさと納税のルール変更が決まっている。ポータルサイトの寄付に伴うポイント付与が禁止になるのだ。寄付者を獲得したいポータルサイトによるポイント還元が過熱したため、今回の対応となった。

「近年、ふるさと納税のEC化がますます進んでいます。『何をもらうか』に、焦点がより当たる状況です。当社・トラストバンクが運営するような独立系ではなく、誰もが知る大手ECプラットフォーム企業が参画したことで、制度の利用者が急増しました。ただ、『どこに寄付するか』ではなく『何をもらうか』という視点での選択が増えてしまうと、まさに返礼品競争を激化させることになります。EC化で便利になった一方で、寄付者と地域の絆が薄まることを望んでいません。

返礼品の選びやすさなどサイトとしての機能強化は重要で否定はしません。そんな中で、我々は、自治体に寄付を届けるという責任を持ちながらも、ただの“ECサイト”にならないよう、もがいている状況です。ふるさと納税の本来の目的である『地域創生』『地域貢献』の価値をどう感じられるか、ジレンマを感じながらも模索しています」(トラストバンク執行役員・宗形深。以下、宗形)

 返礼品の背後にある物語や機微を感じられるか?

返礼品として提供される特産品は確かに魅力的である。しかし、その背景には地域で働くヒトがいることを忘れてはいけない。創設当初から「ふるさとチョイス」では、モノの先にいる“彼ら”にこだわってきたという。彼らとは、事業者・生産者・職人らだ。彼らが情熱をもって作り出したモノで、地域のブランドが高まり、地域経済が強くなる。そして、自治体職員もまた、彼らを支援し、常に並走している。

こういった事業者・自治体職員の「努力や挑戦を可視化する」という目的ではじまったのが、今年3月で11回目の開催となった「ふるさとチョイスAWARD」である。地域のブランド化に本気で取り組む事業者・自治体に徹底的に伴走するという「ふるさとチョイス」の意思の表れの一つだ。

「AWARDでは多くの参加者の声を聞くことができます。壇上に立って『主役は自分ではなく生産者だ』と取り組みについてプレゼンする事業者は、表舞台に立つ自分の背景には多くのヒトがいることを教えてくれます。

また、『大好きな町のヒトのために頑張りたい』と、時折声を詰まらせてプレゼンしてくれたのは、陶磁器の名産地・長崎県波佐見町の事業者である永田亜理沙さん。寄付者をファン化するため、返礼品に加えて町への“招待状”を送っているとのこと。招待状を持参することで、波佐見焼の工場見学などが楽しめるんです。職人と寄付者を繋ぎ、『寄付してくれてありがとう』と、直接、ヒト同士が会話できる機会を創出しています」(宗形)

 AWARDでは、地域の人たちがどのように課題に向き合い、どれだけ創造的に変革を遂げているかを評価する。これにより、寄付者が地域の変化を知り、「モノ」ではなく「ヒト」への応援が感じられ、返礼品の背後にある物語・機微に触れることができるのだ。ふるさと納税の真の価値を広めることに寄与していると言えるだろう。地域のヒトに光を当てる。寄付者と地域の絆を深めるため、「ふるさとチョイス」が貫いている姿勢である。

「物語を感じられる返礼品をチョイス限定で提供し、寄付者には地域が紡ぐ伝統・文化・新たな価値を体験いただきたい」とも、宗形は語る。

「投資としてのふるさと納税」という視点

このようなデータがある。富裕層(3000万ドル以上の資産)が最も多い国はアメリカで、2位は日本(ゲイツ財団)。しかし、両国では寄付の文化に違いがある。アメリカではビジネスでの成功の後、寄付を通じて社会課題に取り組む文化が醸成されている。日本の寄付文化はこれからだ。しかしながら、この国の“投資”についての感度は向上している印象だ。

宗形から、“投資視点でのふるさと納税”を考えてみては、という提言があった。

「寄付時に『子供の未来のため』『第一次産業の事業支援』など、地域でどのように活用するかを決めることもできます。自分が消費するものではなく、未来に向けて投資するんです。地域の発展に投資することで得られる幸福は、決して少なくありません」(宗形)

地域特産品が単なる消費財としての側面だけでなく、その背後にある文化、技術、そして地域で暮らす人々の思いを理解し、“地域の未来”に投資するのだ。金銭的なリターンがあるものではないが、地域の社会課題を意識することで、“意思”をのせることができる。

 

「年間の寄付者の名前を記憶している自治体職員にお会いし、驚いたことがあります。都心の寄付者が思っている以上に、自治体は待ち望んでいるんですよね。

ふるさと納税は、地域で踏ん張る方々へのエール。『ヒトを支えるための投資』へ進化・深化できることを、『ふるさとチョイス』を通して実現していきます」(宗形)

トラストバンク
https://www.furusato-tax.jp/

Promoted by トラストバンク | text by ながのみえ | photographs by 小田駿一

政治

2025.03.27 09:30

トランプの「EU産ワインに200%関税」で米ワイン産業は崩壊する

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

晩餐会で乾杯するドナルド・トランプ米大統領。2018年4月24日撮影(Chris Kleponis-Pool/Getty Images)

商談の席で世界最高峰の白ワイン、ピュリニー・モンラッシェを振舞って相手に気持ちよくなってもらう──こんな手はもう米国では使えなくなるかもしれない。仕事帰りにコート・デュ・ローヌのお値打ちボトルを1本買って晩酌を楽しむのも、おいそれとできなくなるだろう。

欧州連合(EU)から米国に輸入されるワインや蒸留酒すべてに200%の関税を課すというドナルド・トランプ大統領の提案は、愛国心による貿易関係のリセットと位置付けられている。すなわち、米国産ワインを後押しするために競合他社を締め出す方策だ。

「米国のワイン・シャンパン事業にとってすばらしいことだ」とトランプはソーシャルメディアに投稿した。シャンパンという呼称はフランスのシャンパーニュ地方で生産されるスパークリングワインにしか許されていないにもかかわらずだ。それはともかく、トランプの主張は、危険な欠陥のある前提条件に基づいている。米国産ワインを世界市場から隔離すれば、米国のワイン産業がなんだかんだ強化されるだろう、というものだ。

そうはならない。生産者にとっても、飲食店にとっても、小売業者にとっても。もちろん、消費者にとってもだ。

なぜか? この関税が米国のワイン生産者に利益をもたらすという仮定から検証してみよう。表向きには、典型的な保護主義だ。欧州産ワインを手の届かない代物にしてしまえば、買い手は米国産ワインに切り替えるだろう。しかし、米ワイン業界は世界から隔絶した状態で活動しているわけではない。輸入業者、流通業者、レストランのワインディレクターは、持続可能なビジネスを行うために多様なボトルのポートフォリオを組んでいる。一夜にしてEU産ワインをすべて排除してしまったら、国内生産者のための余地が増えるどころか、安定性が失われるだけだ。

たとえばイリノイ州の中規模流通業者が、自然派ワインショップ向けにボジョレー、カリフォルニア州のピノ、そしてオレゴン州の小さなワイン農園が生産しているペットナット(ナチュラルワイン)を仕入れているとしよう。米国のワイン流通網の大部分はこうした中規模流通業者が占めており、幅広い商品を取り扱うことで経営が成り立っている。仕入れるワインの半分に突然200%の関税が課されれば、彼らの利益率は崩壊する。その流通業者が廃業に追い込まれれば、米国の生産者にとっても重要な取引先が失われることになる。

次ページ > ひずみはワイン業界全体に広がる

翻訳・編集=荻原藤緒

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2025.04.01 11:30

S&P500、3月は「2022年以来最悪」に 経済の不確実性高まる

Michael M. Santiago/Getty Images

Michael M. Santiago/Getty Images

3月31日、ドナルド・トランプ米大統領による関税引き上げに対する悲観論と、それに関連する景気後退への懸念が株価を圧迫し、ひと月と四半期を締めくくる日としては残酷なものとなった。

31日の朝、米国の主要株価指数は揃って下落した。午前半ばまでに、ダウ平均株価とS&P500種株価指数は1%以上下落し、ハイテク株比率の高いナスダック総合指数も午前中に2%以上下落した。その後、各指数は日中に回復し、ダウとS&P500は前日比プラスに、ナスダックは前日比小幅のマイナスまで持ち直した。

3月と2025年第1四半期の最終日であったこの日が終わって見ると、直近の下落率は驚くべき数字となった。 ダウは3月に5%、今四半期で2%下落した。そして、S&P500は3月に6%、今四半期に5%の下落、ナスダックは3月に8%、今四半期に10%の下落となった。

S&P500とナスダックの3月の月間下落率は2022年12月以降で最大となり、四半期としても2022年以降で最悪となった。

S&P500は3月31日、2月19日につけた史上最高値を10%以上下回り、9月初旬以来の日中最安値を更新した。

この日の下落は、またしてもトランプ大統領のコメントが引き金となった。トランプは公表日が迫る相互関税について「すべての国」が対象だと述べ、ゴールドマン・サックスは、このことがインフレを悪化させ、景気後退を招くと予測した。ゴールドマンのストラテジストは、S&P500の今後3カ月間における目標株価を5300ポイントに引き下げ、6月末までにさらに4%の下落を予想した。

テスラとエヌビディアの株価は3月31日の取引でそれぞれ1%と2%下落し、この日の下落株の筆頭となった。テスラ株は3月に15%、年初来で38%下落しており、エヌビディア株の3月の下落率である16%、今四半期の下落率である22%にほぼ匹敵する。アマゾン、ブロードコム、パランティアなど他のAI関連株もこの日の取引で少なくとも1%下落した。

ファクトセットのデータによると、S&P500に上場する企業は3月に3兆ドル(約450兆円)もの時価総額を失った。この数字は、世界最大の企業であるアップルの時価総額に匹敵する。

投資家はリスクの高い株式を現金化し、安全な逃避先である貴金属に投資している。金の価格は3月31日、トロイオンスあたり3100ドル以上となり、またもや史上最高値を更新した。ファクトセットによると、金は2025年第1四半期に20%近く上昇し、1986年以来最高の四半期となるペースだ。

11月にトランプ大統領が2期目の任期を獲得した当初、規制緩和や法人税引き下げへの期待により株価は急騰し、S&P500は翌月に5%上昇した。しかし、就任以来トランプが固執する関税の引き上げと、しばしば変更される貿易政策をめぐる不確実性は、投資家の反感を買った。関税の引き上げにより、企業は輸入価格の上昇に直面し、関税コストを吸収するか、消費者に転嫁するかを迫られており、幅広い銘柄に打撃を与えることとなった。トランプ大統領は今月初め、「市場は上がったり、下がったりするものだ。我々はこの国を作り直さなければならない」とコメントしており、市場の動向に関する関心の低さを見せた。

forbes.com原文

翻訳=江津拓哉

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