その他の潜在的な要因
科学者らは、ブレインフォグのその他の潜在的な要因についても調査を進めている。研究では、ホルモンレベルの変化もまた、脳内に重大な変化をもたらす可能性が示されている。
たとえば、更年期を迎えた患者では、エストロゲン(女性ホルモンの一つ)レベルの低下が一部の脳の領域を縮小させ、それが認知機能低下の一因になっていると考えられている。
一方、甲状腺機能低下症の患者の場合、甲状腺ホルモンの不足により、主に海馬など、特定の脳領域が減る可能性が指摘されている。また、外傷性脳損傷の患者では、ブレインフォグのような症状は、成長ホルモンのレベルが低いことと関連していると指摘されている。
一部の科学者は、腸内微生物叢(そう)の機能不全がブレインフォグを引き起こす場合があると推測している。たとえば2024年10月に医学誌「Journal of Clinical Gastroenterology」に発表された小規模な研究では、炎症性腸疾患などの胃腸疾患を持つ参加者の半数以上にブレインフォグの症状が見られたという。
研究者らは、腸内微生物叢の変化が、新型コロナ後遺症に関連するブレインフォグでも何らかの役割を果たしているのではないかと考えており、一部の研究では、腸内の微生物バランスの乱れが神経炎症の一因となる可能性が示唆されている。
一方で、ほかの多くの疾患では、ブレインフォグの生物学的な仕組みの解明はさほど進んでいない。その理由は、ブレインフォグに関する質の高い研究が、まだ全体的に非常に少ないためだと、デノ氏は述べている。
また、質の高い研究であっても、結果や研究手法に一貫性がない例が多く見られる。たとえば、ブレインフォグと慢性痛との関係性についても、こうした理由からまだ明確な理解には至っていないと、研究者らは指摘する。
脳の「霧」を晴らせるのか
ブレインフォグに単一の原因はないかもしれない。それでも、対処するためにできることはあると、専門家は言う。症状を自覚している場合、まずは運動、健康的な食事、十分な睡眠といった生活習慣を見直すことを、ベッカー氏は勧めている。
しかし、強いブレインフォグがある場合や、症状が数週間以上続いている場合は医師に相談すべきだと、氏は付け加えている。(参考記事:「コロナ後遺症の「倦怠感」、運動していい人とダメな人の違いとは」)
医師がブレインフォグの患者を診察する際には、睡眠時無呼吸症候群やビタミンB欠乏症、ホルモンや甲状腺の問題など、回復が可能な要因があるかどうかを評価したり、炎症の兆候や神経変性のマーカーを調べたりといった対応が考えられると、ナス氏は言う。(参考記事:「誰でもなりうる睡眠時無呼吸症候群、悪循環を治療で止めよう」)
より重度で測定可能な認知機能障害のある患者の場合は、認知リハビリテーション療法が有効だと、ベッカー氏は述べている。「これは患者に負担の少ない治療法であり、多くのすばらしい効果が期待できます」。ナス氏は、「この療法はいわば、認知機能に問題がある脳の領域を運動させるようなものです」とたとえる。
ただし、ブレインフォグによりよく対処するには、まずはこの症状への理解を深める必要があるという点で、専門家の意見は一致している。
「医学の世界には、症状を詳細に分析してラテン語風の医学用語で表すことができないのであれば、それは『失敗』だという考え方があります」とドハティ氏は言う。失敗とはつまり、さらなる研究を進める理由になるとも言えるだろう。
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