炎症とブレインフォグの関係
近年、炎症とブレインフォグの関係の理解が進み、診断や治療の新たな可能性が開かれつつある。
「多様な疾患で起こっているブレインフォグの要因を指摘する説の中でも、特に有力なのは神経炎症です」とベッカー氏は言う。
新型コロナ感染症が過剰あるいは的はずれな免疫反応を引き起こし、それが急性期の症状が治まったあとも患者に影響を与え続ける可能性が、数多くの証拠によって示されている。(参考記事:「コロナ後遺症、2年で6割が大きく改善、免疫の異常が落ち着く」)
たとえば、研究からは、新型コロナ感染症は脳の免疫細胞の長期にわたる活性化を引き起こし、神経細胞の成長を妨げることがわかっている。また一部の患者では、自己抗体が作られ始め、それが免疫系に対して脳細胞を含む健康な組織を攻撃するよう信号を送ることがある。
さらには、新型コロナ感染症による炎症が脳の灰白質と白質を長期的に縮小させ、それによって認知機能障害が引き起こされる可能性を示唆する研究もある。
科学者らは、このように脳内にウイルスが残ることにより、免疫系がウイルス退治を続け、新型コロナ後遺症患者の脳内で持続的な炎症を引き起こしている可能性を指摘している。研究では、慢性疲労症候群、体位性頻脈症候群(POTS)、化学療法に起因するブレインフォグでも、同様の炎症のパターンが確認されている。(参考記事:「立ち上がると動悸、めまい…コロナ後に増えた病POTSの「誤謬」」)
ブレインフォグと血液脳関門の漏れ
2024年2月に学術誌「Nature」に掲載された論文は、ブレインフォグに関する新たな知見を示している。この研究でアイルランド、ダブリン大学トリニティカレッジ医学部の神経科医コリン・ドハティ氏のチームは、新型コロナ後遺症患者の脳をスキャンした。
その結果、ブレインフォグの患者には全身性炎症に加えて、血液脳関門の漏れが見られることがわかった。血液脳関門とは、脳に毒素やウイルスなどの有害な物質が入らないようにする仕組みのことだ。
ドハティ氏らは、血液脳関門の漏れにより、これらの物質が脳内に入り込み、神経炎症を引き起こして、脳の正常な代謝プロセスを妨げているという仮説を立てている。
ほかの研究でも、全身性エリテマトーデスや慢性疲労症候群などの自己免疫疾患の患者で、同様の血液脳関門の機能障害が確認されている。
ただし、「Nature」の研究が小規模なものであることから、あまり多くの結論を導き出すことはできないと警告する専門家もいる。
デノ氏はまた、2024年3月に発表された別の研究では、ブレインフォグと血液脳関門の機能障害との間に相関は見られなかったと指摘している。その原因についてデノ氏は、ドハティ氏の研究には、客観的に認知機能の低下が見られる患者が含まれていた可能性があると述べている。
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