未来視持ちの聖女にギャン泣きされた


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作:みょん侍@次章作成中
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ドラゴンフォート篇
第3話


 

 今でも思い返せば、カメリア・サザンカとの出会いは鮮烈だった。

 竜人族特有の尋常ではない膂力に卓越した魔力。力任せに暴れるだけで太刀打ちするのが難しいと言われるほどの種族チート、その中でもさらに頭一つ抜きんでていたのがカメリアだ。

 

「どうして、誰も分かってくれないの――!!」

 

 出会い頭にそんなことを叫ばれたっけな。

 ドラゴンフォートへ足を運ぶ途中、そこへ行く橋の手前で彼女は暴走していた。あまりにも邪魔くさいのに、近づこうものなら魔力の暴風雨で細切れだ。

 

「竜王の娘だなんだって、でも中途半端だって、そんなの私が一番わかってるのに――!!」

 

 ああいやまったく、本当にどうしようもなかったものだ。

 竜人族についてはかなり学んだ方だと思うんだが、実際目の前にしてみるとこれがまた。手が付けられないというわけではないにせよ、無理やり通ろうとすれば血が流れることは確実だ。

 

「あなたが羨ましい! あなたが妬ましい! 羨望を向けられて、期待を背負って、それでも平気でいられるあなたが、ずっとずっと目障りだった!!」

 

 うん、まあ、正直このあたりから気づいてはいたんだ。

 

「ずっとずっと他人から比べられて、劣っていることを嘲笑われて、でも、気丈に笑っていられるあなたが、ずっと眩しかった!!」

 

 思わず真顔になるのも無理は無かったと思う。

 

「どうして、どうして――私なんかに、構ってくれるの……っ!?」

 

 ――ああ、全く心当たりがない。

 知らない人の慟哭を聞いたところで心に響くものは何もないのだ。

 可哀そうに。すまん、タイミングが悪くて。

 

 多分これは、ちょっと仲違いしたパーティにおける仲直りイベントだったのだろう。

 闇落ちしてしまったヒロインを主人公が颯爽と助け、「俺だってお前が眩しかった!」なんて歯が浮くようなセリフを連発して、円満解決、ってな感じの流れだったんだろう。

 俺はそこに横入りしてしまったわけだ。

 

 結果として、

 

「――え、誰!?」

 

 助けたときのあの困惑の表情が、脳裏に刻まれて離れなくなってしまった。

 

 


 

 

「ん、くくっ……それはまた、滑らないなぁ……っ!」

 

 そんな馴れ初めを聞かせると、リリウムは噴き出していた。

 今でこそ笑い話になるが、当時はどうしたものかと思ったぞ。あの闇落ちしてる時も記憶があるみたいでずっと引きずっていたしな……。

 

「いや良かった。最初の話じゃ気難しそうだと思ってたけど、面白そうなお嬢さんじゃないか」

「まあ、悪い奴ではないのは確かだよ。お前ならすぐ仲良くなれる」

「そりゃ楽しみだ」

 

 リリウムは前に向き直る。

 前には巨大な門。視界を覆うほどの高く堅牢な城壁。見る者を圧倒するこの威圧感は、間違いなく要塞都市ドラゴンフォートのものだ。

 結局丸3日経ってしまったな。旅慣れしていないであろうリリウムが心配だったが、いつも通り新しいものに目を光らせて興奮していたので、大丈夫なのだろう。

 

 門の近くにある店で材料を売りつけると、それなりの金額になった。

 これなら当分はなんとかなりそうだ。

 

「とりあえず宿を取って荷物を置いていかないとな。俺はそのあとギルドに寄るが、リリウムはどうする?」

「んー、オレもお前に合わせるよ。……あ、用事が終わったらさ、買い物いこーよ!」

「食べ歩きしたいだけだろ、お前」

「バーカ、デートだよデート。したくないのか?」

「言ってろ。……用事が済んでからな」

 

 安宿は比較的簡単に見つかった。

 物流の多い街なのもあってか、宿泊費は割高に設定されていたのだが、リリウムがAPPゴリ押しの交渉で値切ってくれたので、普段よりも安めの値段で泊まることができた。眉目秀麗、万歳!

 

 部屋はそこそこ広めの二人部屋だった。

 窓から外を覗くと、行商人と冒険者と通行人とでごった返しているのが見える。

 俺にはわからなかったが、有名な宝石商もその道を通っていたらしい。そういうのに目ざとい辺り、あのコンカフェの経営者って感じするよな。

 

「オータムウィートとは全然違うんだな!」

「あっちはほぼ麦畑だけの田舎だからな。ここが特別栄えているというのもあるだろうけど」

 

 リリウムにとっては目に映るすべてが物珍しいらしい。

 年甲斐もなく窓に張り付いて街の風景を見つめている。こうして見ていると、本当に子供みたいなんだが。

 

「うぉぉお、すげえ、ゲームじゃこんなぎっしりNPCの描写は出来ないからなあ……!」

「現代人め」

 

 ゲーム脳のエルフを引っ張り出し、一路ギルドへと向かった。

 

 

 

 

 ……。

 ドラゴンフォートは冒険者ギルドも他とは一線を画していた。

 

「ひっろ……え、何階建てなのこれ……」

 

 リリウムが愕然と上を見上げる。そこにある開放的な空間は、オータムウィートのギルドとは比較にならないほどの規模を感じさせた。

 実際、まるっきり格が違う。まず人手が多い。事務員も受付も倍以上違うし、ここに集う冒険者の数も類を見ないほどだ。王都まで行くとなるとわからないが、このあたりじゃ一番のギルドなのは間違いない。

 

「……そしてなにより報酬額が段違い! しかも見てみろ、ゴブリン討伐薬草採集なんでもござれだ! クソ、都会だからって!」

「地域格差か、これが……」

 

 昔はここまで大きなギルドではなかった。

 ギルドだけじゃない。ドラゴンフォート自体がそこまで活気立っていなかったのだ。

 それが、数年前に戦争が終結したことに伴って、この街の復興支援とともに行商人が来るようになり、次第に人の流れが作られ始め、今やこうして賑やかな街へと再興を成し遂げたのである。

 

 住む人の数が違えば、依頼の数も違うだろうけど。

 物価が高くなれば、ギルドの報酬額も増えるのだろうけど。

 こうして目の当たりにするとちょっと落ち込むな。こっちの薬草採集の依頼の報酬額だけで、オータムウィートじゃ3日は生きていけるぞ。

 

「オレもちょっと興味出てきたかも……」

 

 リリウムは遠目から依頼の張り出されている掲示板を見つめていた。

 やっぱり、数だけじゃなく難易度の幅もすごいな。オータムウィート周辺じゃ滅多にお目にかかれないような魔獣の討伐依頼なんかもある。

 

 と、2人して突っ立っていると、

 

「――ロータス?」

 

 背後から懐かしい声が聞こえた。

 

「おー! ロータスではないか!」

「これはまた、すごいタイミングで懐かしい顔を……! アッハッハ! 僕のことを覚えてるかい、クインスだよ!」

 

 振り返ってみれば、声をかけてきたのは2人組。

 片方は金色の鎧に身を包んだ、金髪ロングで金色の瞳をした全身金ぴか男。もう片方は、小さい背でありながら身の丈以上の大槌を背負った金髪ツインテールの少女。

 クインスと、ロサ。カメリア・サザンカの仲間であり、ダインスレイヴのパーティメンバーだった。

 

 ――お、おい、あれダインスレイヴの……!

 ――間違いねえ、金ぴか王子と馬鹿力姫だ!

 

「あん?」

 

 ――ヒィィ!

 

「こらおよしなさいロサ。……と、それより。久しぶりだねえ、ロータス! いったい何年ぶりだい!? 少し背が伸びたかな? 髭が生えた? アッハッハ、さっぱりわからん!」

「……相変わらずだな、クインス」

 

 バシバシと肩を叩かれる。くそ痛い。白金等級の自覚ある? 君。

 

「寂しかったぞ、ロータス! お前手紙の一つも寄こさんのだから!」

「ロサも変わらないな……ああ、久しぶり。その、まあ、なんだ……元気してるよ」

 

 ひとしきり身体を撫でまわされた後、彼らの興味はリリウムに向かう。

 

「うぇ!? な、なに……?」

「ふーーーーーーーーーーーーーん」

 

 え、な、なんだ? その冷たい視線は何の意味があるんだ?

 今度はロサに足を踏みつけられた。死ぬほど痛い。俺何かした?

 

「……あれ」

 

 そこでふと気づく。

 もう一人、ここにいるべき人物がいない。

 

「なあ2人とも……カメリアは今、どこにいる?」

「「――――」」

 

 そう尋ねた瞬間、2人の顔から感情が抜け落ちた。

 そういえばクインスがさっき、「すごいタイミングで」って言ってたが、あれは一体――

 

「ロータス」

「え、あ、ああ、なんだ?」

「カメリアは……その、カメリアはね」

 

 

 

 

 ――闇落ち、しちゃったんだ。

 

 

「――またぁ!?」

「そう、またなんだ!!」

 

 切羽詰まったようにクインスが俺に掴みかかる。

 また、またあいつ暴走してんのかよ! 定期イベントじゃねえんだから!

 

「僕たちだけじゃ対処が難しくてね、ギルドに依頼しようかと思っていたところだったんだ」

「ああ、なるほど……しっかし、あいつもまあ不安定だよなあ……またお前ら同士のいざこざが原因か? あいつのためにもさ、やっぱり常に気を遣ってやらないと――ぐぇ!?」

 

 もう一度強く肩を叩かれ、ロサにはすねに蹴りを入れられた。

 

「君にだけは言われたくない!」

「お前にだけは言われたくない!」

 

「う、ぐえ……な、にがぁ……?」

 

 上下の激痛に思わず悶絶しそうになるのを堪えながら下手人を睨みつける。

 しかし、向こうも負けじとこちらを見つめ返してきた。クインスは視線だけで訴えかけるように、ロサは出来の悪い子供を叱りつけるように。

 

「あっ」

 

 リリウムの漏らした、何かを察したような声だけが耳に残った。

 

 

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