アイズ・クラネルになるのは間違っているだろうか


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作:Roots〆ルーツ
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【剣姫】に酒、飲ますべからず


「わぁ〜〜!」

 通りいっぱいに広がる煌びやかな品々に、僕は思わず感嘆の声を上げてしまう。

 いい年して子供みたいだと言われればそれまでだけど、視界を埋め尽くす沢山の『未知』に、生粋の冒険者である僕は好奇心を抑えることができなかった。ちらと横を窺えば、アイズさんもそわそわとあちこちを見渡している。

 今日は、『青春祭(アオハルフィリア)前夜祭(イヴ)』。北西のメインストリートをバベルに向かって進む僕達の目の前に広がるのは、常設店舗の隙間を埋めるように店を構えている露店の数々だった。

 何でも、祭典の開催を耳聡く聞きつけた世界各地の商人達が、書き入れどきだと珍しい商品を運び込んで売りに出しているらしい。

 青春祭(アオハルフィリア)は今年初めて開催される催しだとはいえ、『世界の中心』たるオラリオで行われるものとなれば必然、凄まじい経済効果をもたらすことになるのだそうだ。

 きっと今日は、似たような光景がオラリオ中で広がっているんだろう。

 砂漠地帯や東方の特徴的な民族衣装に、大小様々の宝石類。さらには装飾品(アクセサリー)まで。

 見たこともない鮮やかな商品群に目を輝かせてしまう僕だけど、今日はこれから他にやらなくちゃいけないことがあるので、おちおち買い物(ショッピング)もしていられない。そう思っていたのだけれど。

「アイズさん?」

 少し目を離していた隙に、アイズさんと逸れてしまったみたいだ。

 慌てて辺りを見渡すと、アイズさんは一際目立っている露店の前で佇んでいた。簡易的ではあるけれど立派な屋台が組み立てられていて、陳列棚(ショーケース)まで置かれている。よほどの商人が出店しているんだろうなと思いながら、僕はアイズさんの下へ向かった。

「何か、気になるものがあったんですか?」

「ん、ベル。えっと、これ……綺麗」

 僕の声に振り返ったアイズさんが見せてくれたのは、手のひらにちょこんと載った装飾品(アクセサリー)陳列棚(ショーケース)から出してもらったんだろう。商品名を見るに、桃金剛石(ピンクダイヤモンド)の指輪だそうだ。アイズさんが剣以外に興味を示すなんて、と何だか失礼な驚き方をしつつも、僕はそれをまじまじと眺める。

 きらきらと輝く美しい宝石を纏った指輪(リング)は、ちょうど女性の薬指くらいの……って。

「もしかしてこれって……」

 婚約指輪(エンゲージリング)、という言葉は飲み込んだ。お互いの顔が真っ赤になることが目に見えてるからだ。

 恐らくというか十中八九、アイズさんの天然が炸裂しただけに違いない。

「?」

 予想通り可愛らしく小首を傾げるアイズさんに、僕は羞恥を押し隠して無理やり笑顔を作った。か、顔が熱い……

「な、何でもないです。その、アイズさんがこういうものを見るのって珍しいですね」

 そう伝えると、なぜかアイズさんは途端にもじもじと体を揺らし始める。いつもは白い肌も心なしか赤らんでいるような。

「……しいから」

「え?」

「ベルには、私を綺麗って思っていて欲しいから」

 ボンっ。という音が聞こえた気がした。僕とアイズさんが同時に破裂した音だ。他ならぬ、羞恥心で。

(かっ、可愛いすぎる……)

 往来で茹蛸と化して固まる僕たちに好奇の視線が集まるけど、動けない。

「こ、この指輪、いくらですか?」

 思わず、お店の人に値段を尋ねてしまった。

「一○○○万ヴァリス」

 ガーン。

 予想だにしない金額に、二人して衝撃(ショック)を受ける。

(買えない金額じゃないけど、思いつきで買うには……)

 ──あまりにも、高すぎる。

 アイズさんも同じように思ったのか、慎重に指輪を返却してしまった。

「い、行こう……」

「はい……」

 どこかしゅんとしつつも切り替えて歩き始めたアイズさんに、僕はとぼとぼと付いて行った。

   

    

 

    *

 

 

 

「ベルの好きにさせてやればいいだろう……」

 アルフィアから事の詳細を伝えられたザルドは、げんなりとした顔で言い放った。

「【(ゴス)……」「待て待て!」

 理不尽な詠唱を咄嗟の超反応で中断させたザルドに、アルフィアは酷く不機嫌な顔で嘆息する。

 一拍置いて、瞑目しながらも表情に苛立ちを滲ませた女は問うた。

「別に、今回ダメだったからと言って永遠に認めないというわけでもないんだ。次の時機を待てばいい。私のしようとしていることはそんなにおかしいか?」

「ああ、おかしいぞ。そもそも、お前より強い女などいるものか。前時代的だと言っているんだ」

「前時代的で、何が悪い」

「…………」

 手の施しようが無い親バカ具合に呆れを隠さず諭したザルドだったが、腕組みをしたアルフィアはそれを歯牙にもかけない。

 魔女(アルフィア)が開き直った──それ即ち、何を言っても全く聞く耳を持たないも同然である。

 つまり、イエスかノーか、【福音(ゴスペル)】か。

 割と無遠慮に物事を言う自覚のあるザルドといえど、口を閉ざすしかなかった。

 【静寂】によって響き渡る沈黙。『魔女』の瞼が開かれ、その緑と灰の瞳が『覇者』の目と合う。珍しく、彼女の口元には小さな笑みが──

「【(ゴス)……」「サーセンしたッッ‼︎‼︎」

 即決だった。

 ──次は無いぞ、と異色双眼(オッドアイ)が告げていたからだ。

 満足げに頷いた暴力の化身(アルフィア)は「行くぞ」とザルドの背中を叩いて、歩いていく。

「何処へだ?祭りは明日だろ?」

「前夜祭だ。予選があるらしい」

「予選?」

 そこでアルフィアは立ち止まり、肩越しに振り向く。

「『ダンジョン・デート』とやらだ。なかなか面白そうだろう?」

 微笑みながら答えるアルフィアに、ザルド、本日二度目のげんなり。

「いい年こいて、デートなどと……」

「【福音(ゴスペル)】」

「ぐはぁッ⁉︎」

 

 【静寂】のアルフィア、【暴喰】のザルド──青春祭(アオハルフィリア)参戦決定。

   

    

 

    *

 

 

 

「これで、最後だね……」

「はい!」

 愛剣(デスぺレート)を鞘に納めたアイズの確認に、ベルもまた《ヘスティア・ナイフ》を鞘にしまいつつ、喜びを全面に出して答える。

 中央広場(セントラルパーク)で受け付けを終えたベル達は、そのままダンジョンに潜っていた。

 何故なら、青春祭(アオハルフィリア)の予選は『ダンジョン・デート』──(カップル)でダンジョンに潜って特定のドロップアイテムを集めるという、何とも物騒なものだったからだ。

「そんなに難しくなかったね……」

「僕達はそうですけど、二人だけでここまで潜るとなると最低でもLv.3は必要ですよね……」

 現在、ダンジョン24階層。第二級冒険者でもたった二人で潜るのは多少躊躇するレベルと言える。

 ダンジョンでは、何が起こるか分からない。足手纏いが居なければ、パーティーを構成する人数が多ければ多い程──手数が多ければ多い程──安定するのが迷宮探索であり、それはたとえ【ランクアップ】を果たした冒険者達とて例外ではない。

 今回のドロップアイテム採集にあたって、明確に安全だと言い切れるのはそれこそ第一級冒険者同士の(つがい)くらいなものだ。大半は恐らく、『デート』どころではない。

 こんなことで命を落としでもしたらたまったものじゃないと、ドロップアイテムのリストを見て諦める者達も多いだろう。ベルは最初、そう思っていたのだが。

「でも、随分と参加人数が多いみたい……」

 目の前の光景にベルと同じ違和感を抱いたのか、アイズがそう呟いた。

「この地帯(エリア)だけでも四パーティー……ええと、四(カップル)はいますもんね」

 探索できる者が限られている24階層において、それは異様なことのように思えた。

 ましてや、この階層に来るまでに数十組の(カップル)と出くわしている。

 果たして、第二級冒険者以上同士の(カップル)が、こんなにいるだろうか?

 よしんば関係性を偽って参加している者達もいるとして、ジャガ丸くんのために命を賭けるだろうか──?

 そんな疑念が、ベルの頭をもたげる。

 ダンジョン内での暗黙の了解(ルール)に従って話しかけることこそしないが、少年は深紅(ルベライト)の瞳をあちこち動かして、三々五々に散らばっている冒険者達をよくよく観察する。

 何か裏があるのかと勘繰っていて落ち着きのないベルを見兼ねたのか、アイズはむんと胸を張って言った。

「きっとみんな、ジャガ丸くんが、好きなんだと思う……」

 ──ジャガ丸くんは、世界を救う。そう信じてやまない彼女にとって、何らおかしな点などないのだった。

「そ、そうなんでしょうか。そりゃあ、僕も好きですけど……」 

 が、少年はいまいち腑に落ちない様子。どうにか彼に安心して欲しいアイズは、内に秘めるお姉さん力の解放を決意する。

 

「リヴィラの街に行って、訊いてみようか」

 

 迷宮の楽園(アンダーリゾート)で聞き込みを行うことを、さりげなく提案したのだった。

 

     

 

    *

 

 

 

 「バベルの居住権⁉︎」

 ならず者の街に、少年の驚愕の声が響き渡る。

 このときばかりはアイズも目を見開いて、驚きを露わにした。

 「おうよ、【最後の英雄(ラスト・ヒーロー)】!まさか、知らないで参加してたのか?」

 「え、えっ?でも、優勝賞品はジャガ丸くん一年分って……?」

 「ばあか、それは副賞だ」

 「そ、そうなんですか⁉︎」

 大柄(おおがら)な体躯の割に気持ちのいい笑顔を浮かべる冒険者──リヴィラの街の顔役ボールスの言葉に、ベルはまたまた驚愕してしまう。

 ──バベル最上階の居住権。

 いざ聞き込みを始めようとしたところに時機(タイミング)よく現れたボールスがもたらした情報によれば、青春祭(アオハルフィリア)の優勝賞品はそんなとんでもない代物らしい。

「でも、あのバベルですよ⁉︎上位派閥の神様達の住居なんじゃあ……」

「その神様達がいいって言ってるんだから、いいんだろうが」

「た、確かに」

 未だに衝撃は抜けきらないものの、ボールスのもっともな言葉にベルは一定の納得を示してしまう。

 ジャガ丸くん一年分ならともかく、バベル最上階となればなるほど、高難易度の予選に冒険者達がこぞって参加しているのにも頷けるからだ。

 あまりの規模の大きさに汗を流しつつも、ベルは青春祭(アオハルフィリア)の開催を宣伝する張り紙を見た時のことを思い出していた。

(そういえばあの時、アイズさん喜ぶだろうなぁってことしか考えてなかったけど、確かに優勝賞品はいくつかあったような……って⁉︎)

 『ジャガ丸くん一年分』という文字を見るなり走り出してしまった自身の視野の狭さを一度は嘆いたベルだったが、それが恋人(アイズ)に対する想いが強すぎるゆえの盲目であることに気がつき、途端に果てしない羞恥心に襲われる。

 身を小さくして震える少年を、件の少女が不思議そうに眺めていることには気がつかない。

(ていうか、バベルの最上階って……フレイヤ様──シルさんが住んでた場所⁉︎そんなところ、恐れ多いっていうか……⁉︎)

 その瞬間──白髪の少年の背筋を、凄まじい嫌な予感が駆け抜ける。

 端的に言えば、悪寒。

 ベルの潜在意識が、今すぐ自分達が置かれている状況を整理しろと訴えていた。

(えっと……シルさんは当然、僕達が青春祭(アオハルフィリア)に参加してることを遅からず知ることになるわけで──⁉︎)

 そこまで考えて、ベルは恐慌(パニック)に陥る。無理もないことだ。

 少年の脳裏では──神をも黙らす街娘の笑みが、だんだんと近づいてきていた。

 よくて調教(マスター)、最悪指パッチンからの猛者猛者(オッタル)なんてことになりかねない。

(ど、どうしよう⁉︎)

 いまやガチ恋距離(超ドアップ)化している街娘の笑顔に射すくめられながら、ベルは何とか思考を巡らせるが──シル、もとい元【フレイヤ・ファミリア】の面々から逃げ仰せる方法などあるはずもなく。

「どうした【最後の英雄(ラスト・ヒーロー)】?」

「なっ、なんでもないです!」

 訝しげなボールスの確認に、あまりの恐怖から震え上がっているベルは引き()った笑みを返す。

「そうか?まあ、てめえが参加するってんなら、もちろん俺はお前らに賭けるぜ!いいか、絶対勝つんだぞ⁉︎」

「は、はい……」

 と、バシバシと背中を叩いてくるボールスの剣幕に気押されながら少年が生返事をしたところで。

「ベル、そろそろ……」

「あ、はいすみませんアイズさん。そろそろ帰りましょうか」

(シルさんのことは……うん、忘れよう)

 自分だけ入れない会話に居たたまれなくなっていたアイズの呼びかけに、思考を放棄した白兎は生気(ハイライト)を消した瞳で応じた。

「じゃあボールスさん、僕達はこれで……」

「ん?なんだ【最後の英雄(ラスト・ヒーロー)】、聞いてねぇのか?」

「え?」

「それがよ、俺らは今日、階層主(ゴライアス)を討伐するつもりだったんだが……運のわりぃことに新人(ルーキー)の野郎どもが先に遭遇(エンカウント)しやがって、洞窟が崩落しちまったんだよ。ありゃ、開通に半日はかかるな」

 不幸中の幸いと言うべきか死傷者は出なかったようだが、現在この迷宮の楽園(アンダーリゾート)は地上へ戻る手段が欠落しているらしい。

 思いがけない報せに、ベルもアイズもぎょっとしてしまった。

「もしかして、私達……青春祭(アオハルフィリア)に、出られない……?」

 正確な時刻は分からないが、恐らくいま地上は夕刻ごろ。今日中に帰還できないようでは、予選で脱落してしまう。必然、そんな考えに至ったアイズが、不安そうにベルを見やる。

「だ、大丈夫!事情を説明すれば、ちゃんと分かってくれますよ!」

「ま、そもそも大半の参加者がお前らと同じ状況なんだ。心配することぁねぇ。地上にも報せがいってるだろうよ」

「そうですよね、えっとその、ボールスさん……」

「あー。悪いんだが、今日の宿はどこもパンパンなんだ」

「やっぱり……」

 

 なんだか既視感(デジャブ)を感じた白兎の落胆の呟きは、やけによく響いた。

 

  

     

    *

 

 

 

「野営具に食料となると、結構な出費ですね……」

「うん。でも、二人で野営するのに森だと大変だから、仕方ないよ……」

 ボールスと別れた二人は、モンスターが跋扈する大森林の方ではなく、リヴィラの街の下にある湖へ向かっていた。

「そ、それにしても、本当に天幕一つで良かったんですか……?」

「私は、ベルと一緒に寝たい……だめ?」

 耳まで赤くして、それでも決して視線を逸らさず──ねだるように訊くアイズに、ベルは慌てて両手を振る。

「だ、だめなんてことはないですけど!その、僕も一応男ですし……」

「でも、私達は、恋人……だよ?」

「そうですよね……わ、わかりました」

 双方が控えめな性格がゆえに手を繋ぐところまでが限界の二人だが、関係の進展を期待していないわけではない。これでもお互いに一生懸命なのだ。

 と、瞬間。

「うわぁっ⁉︎」

 突如上がった、白兎の絶叫。

 微笑ましい会話に耐えかねた冒険者が一人、茂みから飛び出してきたのだ。

「何これ何これ⁉︎青春(アオハル)が過ぎるわお二人さん!……って、ベルとアイズじゃない⁉︎」

 滑らかな赤髪に葉っぱを載せた、なんだか間抜けな格好で登場したのは、快活な人間(ヒューマン)。【アストレア・ファミリア】団長、アリーゼ・ローヴェルその人だった。

「あ、アリーゼさん⁉︎」

「ええそうよ、この私こそ、名にし負う完璧美しょ……美女ことアリーゼ・ローヴェル!二人とも、元気そうで何よりね!」

 手を腰の横に当て、緑眼の少女は元気いっぱいに笑顔を浮かべる。

「アリーゼさんも、野営……ですか、?」

「大当たりよ、アイズ!あなた達もなのね。もう。連絡路がおじゃんになるなんて、困っちゃうわよね」

「あ、あははは……」

 全開のアリーゼ節についていけない少年は、なんとか空笑いをする。

 ベルは、この底なしに明朗な女性冒険者──アリーゼに、彼女の所属する【アストレア・ファミリア】が都市の秩序を守る正義の派閥ということもあって、厄介事を手伝ってもらったりと何かとお世話になっているし、尊敬もしている。それはアイズも同様だ。

 ただ、いかんせんテンションが高い。無理に彼女に合わせようとすると、疲れてしまうこと請け合いである。

「でも丁度良かったわ!二人だと見張りも大変じゃないかしら?良かったら、私達と一緒に野営しない?」

「えっと、それはありがたいですけど……()()?」

 アイズと顔を見合わせたベルの疑問にアリーゼが答えようとしたところで、二人目の闖入者が現れる。

 

「アリーゼ、どうかしたのですか?」

 

 鈴の音のような、研ぎ澄まされた声音。ベルは、その声に聞き覚えがあった。

 

「この声……もしかして、リューさん?って、えええっっ──⁉︎」

 

 声のする方向を見やったベルが目にしたのは、想像とかけ離れた姿をした人物だった。

 普段のThe女性妖精(エルフ)といった装いは見る影もなく、長い金髪を帽子で隠している彼女はさらに男性物の冒険者装備を身につけており、なんと左目には眼帯までしている。どう見ても、変装。いや、男装だ。

「な、何やってるんですかリューさん⁉︎」

「く、クラネルさん……?いや、ちっ、違う!私は、アリュード・ローヴェル……だ!」

「リオン、もうバレてるわ……」

 明らかなボロを出しても尚取り繕おうとするポンコツっぷりに、さすがのアリーゼも呆れた眼差しを向ける。

「ふ、不覚……流石です、クラネルさん。貴方の目は誤魔化せないようだ」

「あ、あの……どういう?」

「アリーゼがどうしても青春祭(アオハルフィリア)に参加したいと言うので、仕方なく男装を……だ、断じて私にこのような趣味嗜好があるというわけではない!か、勘違いしないでください」

「わ、わかってますって!」

 弁明しようと近づいてくるリューに、ベルは一歩後ずさる。

(リュー、さん……?あの、男の人が……?)

 名前が分かってもピンときていない天然少女が、小首を傾げていた。

 

 

「私とリオンは、夫婦っていう設定なの!ア()()()ド・ローヴェル。いい名前でしょう?」

 アリーゼの言葉に、ベル達は曖昧に頷く。名字からして、リューがお婿さんの設定であることには突っ込まない。

 各々天幕を設置して野営の準備を済ませた四人は、湖のほとりで火を囲んでいた。

「それで、貴方がたも青春祭(アオハルフィリア)に……?」

「はい……」

 神妙な面持ちで訊いてきたリューに、ベルとアイズはこれまでの成り行きを説明した。

「何よ、その燃える展開っ!決めたわ!私、二人を応援する!」

「あの【静寂】が姑とは……【剣姫】も大変ですね……」

 目を輝かせて拳を高らかに突き上げる派閥首領と、同じ女性として、炎を挟んで向かい合う少女に同情する妖精(エルフ)

 反応はそれぞれだったが、両者ともベル達を応援してくれるようだ。

「あれ?アリーゼさん、それは……?」 

「ああ、これ?森の方へ行って、食べ物を集めてきたのよ。ほら、貴方達も食べる?どれも美味しいわよ!」

 少年の目に留まったのは、アリーゼのバックパックの中から見え隠れしている種々様々な木の実や、果実(フルーツ)

「僕達も食料はありますけど……折角ですし、いただきましょうか?」

「うん……」

 そうして、ベルは甘くなさそうな木の実、アイズは瓢箪の形をした赤い果実を選んだ。

「アイズさん、それって……」

「うん、遠征でフィンやガレスが、よく食べてる……」

赤漿果(ゴードベリー)ですね。酔いはしませんが、お酒のような味がします」

「私達冒険者の味方ね!」

「でも、あの……一応やめといたほうがいいんじゃ……」

 アイズ×酒。ベルにとってそれは、とある村での悪夢を呼び覚ますパンドラの箱(タブー)だ。

「平気……リヴェリアも、食べてた……」

 普段酒を飲むことのないハイエルフを例に出して、アイズは漿果を一気に口に含んだ。

(いつも、私が食べようとすると取り上げられちゃうから、いい機会……)

 

──口に含んだ瞬間、アイズの意識が暗転した。

 

 【剣姫】、抜刀。

「えっ、ええ、アイズ⁉︎ちょっとちょっとちょっとぉ⁉︎」

 酒の風味だけで酩酊した超絶下戸が、フラフラと、たまたま目が合ったアリーゼの下へ近づいていく。

「死ぬ⁉︎私死ぬんだわリオン⁉︎あこれ絶対死ぬ」

「アリーゼッ⁉︎逃げてください⁉︎」

 第一級冒険者のアリーゼをしても、【剣姫】を目の前にして圧倒的な階位(レベル)差と実力差から戦意喪失していた。

 千鳥足といえど相も変わらず冴え渡った剣筋が、確実に標的(アリーゼ)の息の根を止める一撃を──

「アイズさんっ!」

 繰り出す前に、素早く背後に回った少年が首筋に手刀を放って気絶させた。

「く、クラネルさん……」

「わーん、ありがとうベル!あのままだと確実に殺されていたわ……」

「いえ、ご迷惑お掛けして、本当にすみません!怪我がなくて良かった……」

 倒れこんできたアイズを支えながら、ベルはほっと一息を吐いた。

 気持ちよさそうに眠っている少女の頭を自分の膝の上に乗せて、膝枕の体勢になる。

 すると、死にかけたことを綺麗さっぱり忘れたようにその様子をニヤニヤと見守っていたアリーゼが、外野から茶化し始めた。

「ベル!チッスよチッス!こういう時はキスで気つけするのが定番だと思うの!」

「いやいやいや⁉︎なに言ってるんですかアリーゼさんっ⁉︎」

「アリーゼッ⁉︎貴方の言っていることは不埒、すごく不埒だ⁉︎」

「やあねぇリオン、そんなことないわよ!」

「そもそもクラネルさん、貴方と【剣姫】は既に月への誓いを済ませたのですか?誰もいない夜に愛を誓い合ったのですか?そうでないなら貴方も不埒だっ⁉︎」

「りゅ、リューさん……?」

「ごめんなさいねベル。こういうときのリオンは無視しても大丈夫よ!この子、拗らせているの!」

「アリーゼッ⁉︎」

「イタイ子なの」

「アリーゼッッ⁉︎⁉︎」

「撤回しなさいアリーゼ私は断じて拗らせてなどいないイタイ子でもない私は拗らせてなどっ……⁉︎」

 

 ブツブツブツブツ。妖精(エルフ)の追及が続く。

『夜』が訪れた迷宮の楽園(アンダーリゾート)は、まるで月夜のような奥ゆかしい静謐さに包まれていた。一箇所を除いて。




二話目にして、後書きです。
自分が書きたいことを詰め込んだ結果なので自業自得なのですが、あまりの執筆カロリーに愕然としています。
まあ、気長にやります。あと、近いうちに幕間をアップする予定です。最短で、明日…?
とある街娘のお話です。これ以上、説明不要ですよね。
とっても励みになるので、感想・評価などよろしくお願いします。
じゃあ最後に、なんとなく次回予告を。
次回、ベルとアイズの朝帰り!ベルくん、死刑宣告(スタンバイ)!お楽しみに!
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